軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

537 戦い終わって 1

「帰ってきたわね……」

「帰ってきたね……」

「帰ってきましたね……」

「……」

ようやくのことで帰ってきた、ティルス王国の王都。

「「「「疲れた……」」」」

マイル達がぐったりと疲れ果てているのは、別に歩き疲れたとかいうわけではない。

戦場からここへ帰り着くまでの間、会う人会う人みんなに話し掛けられ、握手やサインを求められ、記念にと服の一部を勝手に引き千切られたり、髪の毛を抜こうとされたり……。

もう、みんな、心身共にボロボロである。……そして、衣服も……。

「一番恐ろしい魔物は、人間だったね……」

「誰が、上手いこと言えと……」

「「…………」」

もう、マイルとポーリンには突っ込む元気もなかった。

疲れ果てていてもメーヴィスの言葉に律儀に突っ込むレーナに、感心するふたり。

自分達に絡む人を避けようにも、街道は引き上げる義勇軍や軍隊、傭兵、ハンター達でぎっしりである。

そして、命を懸けて自分達の許へと駆け付けてくれた人達を、無下に扱うわけにもいかなかった。

なので、顔を引き攣らせながらも 強張(こわば) った笑みを浮かべ、必死に耐えた4人であった。

さすがに夜は、街道から大きく外れて森の中に入り夜営したが、跡をつけてくる者が多く、 辟易(へきえき) した。

勿論、テントはバリアと遮音フィールドで包んでおいたが、そのような状態では、いくら完璧な防御力があっても浴室やトイレを使う気になれず、非常に厳しい状況だったのである。

「……ねえ、まさか、帰ってからもずっとこの状況が続く、なんてことはないよね?」

そしてメーヴィスが、尋ねてしまった。

……絶対に尋ねてはならない質問を……。

「「「ぎ……」」」

「ぎ?」

「「「ぎゃあああああ~~!!」」」

「聞くなあぁ!」

「言うなあぁ!」

禁断の質問をしてしまったメーヴィスを怒鳴りつける、レーナとポーリン。

マイルは、蒼白になって凍り付いている。

「と、とにかく、宿へ行きましょう!」

下手にギルド支部になど行けば、宴会が始まって逃がしてもらえなくなりそうである。

さすがに疲れ果てている今は、ゆっくりと休みたかった。

『赤き誓い』の移動速度を知らない者達は、少女四人組、それもポーリンが明らかに体力的にかなり劣っているのが丸分かりのため、『赤き誓い』が王都に帰り着くのはまだ数日先だと思っているはずである。

なので、人目に付かないように宿に辿り着けば、ギルド支部に顔を出すまではひと息 吐(つ) けるはず。

そして、ギルド支部では自分達の活躍については喋らず、全て各国からの軍やハンター、傭兵、古竜や他種族、そして義勇軍のおかげだと説明する。

そう考えた、マイル達であったが……。

* *

「お待ちしておりました、先生! すぐに執筆にはいっていただきます!

まずは今回のことを書いた戦記物を。その後は、日常物の『御使い様日記』、『頑張れ御使いちゃん』、それと『殲滅魔法入門』、『あなたにも使える、光魔法』、『古竜との付き合い方』、等々。

筆耕屋は押さえてあります。皆、先生の作品を筆耕できると、眼を輝かせて待っていますよ!」

「メルサクスさん……」

そう、宿屋の前で待ち構えていたのは、マイル……、いや、ミアマ・サトデイル先生の著書を出版している、オルフィス出版の若き経営者であった。

…… 些(いささ) か、遣り手の……。

メルサクスは、マイルが旅の途中であっても手紙や原稿の遣り取りを行っているため、以前からマイル達の異常な移動速度を把握していた。

……マイルが、次の連絡先として滞在予定の街と滞在期間を知らせているからである。

そしてメルサクスは物知りであり、かつ洞察力に優れた人物であるため、今回の帰路において『赤き誓い』がどのような状況に陥るかを正確に予見し、マイル達が寄り道やどこかに滞在することなく全速で帰還するであろうと考え、そこから帰還予想日を割り出したのであった。

そして、今朝からずっと宿の前で張り込んでいたのである。

また、今のマイルの立場から、筆耕屋達が他の仕事は全て断ってでもマイル、『御使い様』の原稿を待っている、というのは、充分に納得できた。

(こりゃ、1冊分の原稿が脱稿してからじゃなく、書いた分から廻さなきゃ駄目かな……)

1冊書き終えるまで待たせると、その間の筆耕屋の仕事がなく、収入がゼロとなる。

それでは、生活ができない。……特に、家族持ちにとっては厳しいであろう。

いや、勝手に他の仕事を断ってマイル……サトデイル先生からの仕事を待っているというのは向こうの勝手であり、それはマイルが気にするようなことではない。

……しかし、筆耕屋は自分の本の出版にはなくてはならない人達であり、無下に扱うようなことができるマイルではなかった。

「ううう……。とりあえず、最初の1冊については、善処します……」

それ以外の返事のしようがない、マイルであった。

そして宿屋に入ると、レニーちゃんが笑顔で迎えてくれた。

「お姉様方、お務め、御苦労様でした!」

「 刑務所(ムショ) 帰りですかっ!」

「お姉さん達、大活躍でしたねぇ。特に、天上の女神様から送られた神力を受けて敵の本拠地に向けて叩き込んだ、あの最後の必殺技、何て言いましたっけ……、ああ、確か『 死の猛禽類(デス・ラプター) 』でしたっけ!」

「「「「……え?」」」」

どうして、レニーちゃんがそんなに詳しく知っているのか。

まだ、マイル達以外は王都に帰り着いてはいないはずである。

軍の移動速度は遅いし、一般人は遠距離移動には不慣れである。

傭兵やハンター達は、途中の街々で飲んでは潰れ、飲んでは潰れで、移動速度はアリの歩みである。

……決戦参加者達には各街々の酒場が儲け度外視の価格で飲み食いさせてくれる上、女性達にモテモテなので、一生に一度、もう二度とないであろうこの機会を逃すような者などいるはずがなかった。

なのに、なぜレニーちゃんがそんなことを知っているのか。

……しかも、まるで自分の眼と耳で直接見聞きしたかのような言い方で……。

「凄かったですねぇ。私、一生忘れられそうにないですよ、あのお姉さん達の勇姿……」

「え?」

「「えええ?」」

「「「「えええええええ?」」」」

「レ、レニーちゃん、そ、それはいったい、どういう……」

マイルが、恐る恐る尋ねると……。

「勿論、最初から最後まで、 固唾(かたず) を呑んで見守っていましたよ! 何せ、お姉さん達の、一世一代の晴れ姿ですからね! 大空に映った戦いの映像と、流れる音声の全てを、私の魂に刻み込みましたよっ! 世界中の皆さんと同じように!!」

「ぎ……」

「ぎ?」

「「「「ぎゃあああああああ~~っっ!!」」」」

(ナノちゃん! やってくれたなあっ!)

【……】

(コラぁ、返事しろオオォ!!)

* *

そういえば、ワンダースリーであるが……。

怪我人の治癒作業が一段落してひと息入れていたところをモレーナ王女に急襲され、捕まってブランデル王国へと連行されていったらしい。

何だか、女性近衛分隊とかの人達に、今にも斬り掛かって殺しそうな眼で睨み付けられていたそうである。

まあ、王宮内での騎士様ごっこで済むはずであった、貴族のお嬢様達によって編成された女性近衛分隊が、このような危険で命の遣り取りをするような 戦場(ばしょ) に連れて来られる羽目になった原因、その張本人なのであるから、文字通り死にそうな目に遭った彼女達から恨まれるのは、仕方のないことであろう……。