軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

518 スロー・ウォーカー 1

出迎えのスカベンジャー達の案内で、入り口を潜るマイル達。マイルの肩には、メカ小鳥が乗ったままである。

狭い入り口とは言っても、それはゴーレムにとっては、である。スカベンジャーやマイル達にとっては、楽々通れる。

そして狭いのは入り口だけであり、中に入るとロックゴーレムが立ったまま2体並んで歩けるくらいの広さがあった。

少し歩くと、最近設置されたらしき発光石によって、あまり明るくはないものの、歩くには支障ないくらいの明かりが確保されていた。なので、マイルは灯火魔法をキャンセルした。

スカベンジャーやゴーレムには僅かな明かりで充分であろうし、マイル達にとっても、ちゃんと整備された洞窟を歩くだけであれば、下り坂や階段であっても問題ない程度には明るかった。

多少暗くても、暗闇からいきなり魔物が、という心配はないので、その点では安心である。

ゴーレムやスカベンジャーが管理している洞窟だし、たとえゴーレムとスカベンジャーがいなくとも、こんなに深い場所には魔物はいない。

魔物といっても餌や水は必要なので、狩りや水場へ行くのに遠くて不便で、何もないこんな場所に住むはずがない。洞窟をねぐらとしても、せいぜい入り口から数十メートルくらいの場所である。風雨を避けるには、それくらいの場所で充分であった。

……そして洞窟を進み、急角度の階段をかなり下り、更に下り坂を歩き続ける一行。

「深いわね……。前のより、かなり……」

「はい。途中で、落盤で埋まったのを掘り返した跡みたいな場所もありましたし……。

まあ、深ければ古い時代のもの、というわけじゃないでしょうけど……」

そう、地下遺跡の深度の違いは、遺跡の新旧ではなく、建造者にとっての重要度を表していると考える方が自然であろう。

建造後の地殻変動でどうこう、ということはあるまい。

そのような大規模な地殻変動があれば、遺跡などぺちゃんこに潰れているはずである。

(地底都市も、こんなに深くはしないよねぇ。国家的大プロジェクトだったタイムトンネルですら、アリゾナ砂漠の地下数千メートルだったし……)

マイルは『地下数千メートル』などと簡単に言っているが、エレベーターで垂直に移動するならばともかく、階段や下り坂でその高度を移動するには、どれだけ歩かねばならないことか……。

何しろ、東京タワーが333メートル、東京スカイツリーが634メートルなのである。『数千メートル下る』など、エレベーターやそれに類する移動手段なしでは、かなり厳しいものとなる。

……そして、下りはまだ良いが、帰り道は『 上(のぼ) り』であるということにまだ気付いていない、レーナ達であった……。

* *

「ま、まだなの……」

「ぜは~、ぜは~……」

弱音を吐き始めたレーナと、既にまともに声を出せなくなっているポーリン。

マイルとメーヴィスはまだまだ平気な様子であるが、さすがに後衛職のふたりにはキツかったようである。

下りは体力の消耗度としては上りより楽であるが、膝にかかる負担は遥かに大きい。そして関節と筋肉の痛みも……。

そして、何度もの休憩を挟み、何時間もかけて歩き続ける『赤き誓い』であった……。

* *

「着いたようですね……」

道が下りではなく 平(たい) らになったため、ゴールに到達したと判断したマイル。

「ハァハァ……」

「ぜは~、ぜは~……」

「こひゅ~、こひゅ~……」

メーヴィスとレーナは、膝が笑い足をガクガクさせ、生まれたての子鹿のような様子ではあるものの、まだ何とか立っている。しかしポーリンは、殆ど死んでいた。

「ポ、ポーリンさん、よく頑張りましたね! ようやく到着しましたよ!」

ポーリンは、移動等においては自分が皆の足を引っ張り、自分の移動速度が『赤き誓い』の移動速度の上限となってしまうことを自覚しており、そのためいつも必死で頑張るのである。

皆もそれはよく分かっており、マイルがポーリンに掛けた労いの言葉に、レーナとメーヴィスも荒い息をつきながらこくこくと頷いたのであるが……。

『今ノ速度デ、アト3時間歩ケバ着ク……』

ぱたり

メカ小鳥の余計な説明に、遂に倒れ伏したポーリンであった……。

* *

「今度こそ、本当に着いたようですね……」

「「「…………」」」

返事がない。ただの 屍(しかばね) のようだ……。

洞窟の終点に辿り着いたマイル達の前にあるのは、ドーム球場のような広大な空間であった。

そしてその中心部付近には、半径数メートルの円内に何やら高度な電子装置のようなものが見える。赤錆の塊や粉末状のものではなく、普通の状態に見えるものが……。

不思議なのは、それを中心として外側に向かって地面にいくつもの円が描かれており、ひとつの円ごとに何やら機械らしきものが置かれていることであった。

それも、内側のものは比較的綺麗な外観をしており、外側になるにつれて錆びてゆき、形が崩れてゆく。そして外縁部付近のものは、ただの赤錆の塊か、錆の粉末のようになっている。今まで、マイル達が何度か目にした遺跡のように……。

「これって……」

「「「「何?」」」」

明らかに規則性がある眼前のこの状況に、首を傾げる『赤き誓い』であるが……。

『スロー・ウォーカー……』

「これが?」

ロボ小鳥の言葉に、疑問の声を漏らすマイル。

「内側程、風化しておらず新しい……。というか、ロボ小鳥の言葉から考えて、中心部の電子装置はまだ壊れておらず、生きているのでしょうね。そして外側になるにつれて、劣化というか、風化が著しい。

……そして、『 ゆっくり歩く者(スロー・ウォーカー) 』……。

う~ん、ゆっくり歩く、ゆっくり歩く……、って、停滞フィールドですかっ!」

もし、整備しなくても100年保つ電子システムがあれば。

そして同じく、100年保つ時間停滞フィールド発生装置があれば。

自分自身も効果範囲内に入るように設置された、時間停滞フィールド発生装置。

そしてその外側にも、更に別の時間停滞フィールド発生装置を設置。その外側にも、その外側にも……。そう、マトリョーシカ人形のように……。

もしその装置が効果範囲内の時間経過速度を100分の1にすることができるなら、1万年経って最外縁の装置が壊れた時、次の装置は1年分しか劣化していない。

そしてその2段目の装置がそれから9900年経って壊れた時、外部では1万9900年が経過しており、更にその次、3段目の装置は0.01年+0.99年で、1年分劣化している。

更にその3段目が9900年後に壊れた時、外部では2万9800年が経過、4段目の装置は0.0001年+0.0099年+0.99年で、1年分の劣化。

それが繰り返されて、かなりの年月を生き延びることが可能に……。

そしておそらく、科学が進んだ文明であったことから、物理的な可動部分が殆どない装置であれば整備なしでも100年以上保つであろうし、スカベンジャーのような整備用の自律機械や修理用の予備パーツとかもあったであろう。

また、時間の停滞比率は500分の1かもしれないし、1000分の1かもしれない。

ならば、マイルの想像を遥かに超えた長い年月を生き延びたのかもしれない。

損耗や資材の枯渇等と戦いながら、来たる日に備え、造物主の命令に従って……。

「あ、ちょっと、待っ……」

レーナの制止の言葉をスルーして、中央にある装置に近付くマイル。

ここまで案内してきたスカベンジャー達は、停止したままである。

ただ、マイルの右肩にとまったメカ小鳥だけは、そのままであった……。