軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

516 侵略開始 4

「新種の魔物が一気に大量発生。生態系のバランスが崩れて、魔物が生息域から出て人間の居住区域に大量に流入。国軍と領主軍、ハンターギルドと傭兵ギルドに緊急命令が出された、と……。

滅多に出されないという、ギルドの緊急呼集ですね。Cランク以上は強制参加、という……」

マイルの言葉に、無言のレーナ達。

それは、発動されるのは10年に一度、いや、数十年に一度あるかないかと言われている、決して乱用されることのない制度であった。

そう、それこそ、魔物のスタンピードとか、古竜相手に戦わざるを得なくなった場合とかの……。

「どうしましょうか……」

マイルがそう言った時。

「お姉さん、お手紙だそうですよ!」

ノックもなしにドアが開けられて、レニーちゃんがそんなことを言ってきた。

本人がいるならば、当然、手紙の受け取りと受領サインは宿の従業員ではなく本人がすべきである。

「立て続けですねぇ。でも、まぁ、ギルド便の運行次第ですから、そういうこともありますか……」

そう言って、配達人を待たせるのは悪いからと、急いで1階へ下りるマイル。

「御苦労様です、私が受取人の、『赤き誓い』の……」

配達人と覚しき者にそう言いかけて、言葉を途切れさせたマイル。

手紙らしきものを手にしているので、この人物が配達人であることはほぼ間違いないであろう。

ならば、なぜマイルが固まったのか。

それは、その人物が30歳前後のハンターだったからである。

ハンターがギルド支部から 街中(まちなか) の民家や宿屋へ手紙を配達することには、何の不思議もない。

普通は、孤児か貧乏な平民の子供の小遣い銭稼ぎのための仕事であるが、ハンターが受けることもある。

……しかし、それは手元 不如意(ふにょい) な駆け出しハンターが、ということであり、決して20歳以上の中堅で、そしてこの男性のようなしっかりした体格できちんと装備を調えた一人前のハンターが受けるような依頼ではない。

……ということは、この男性ハンターは緊急依頼を受けたハンターだということである。先程レニーちゃんから受け取ったばかりの、オーブラム王国の孤児院からの緊急便と同じく……。

ソロで馬を駆り、魔物に襲われても対処できるだけの能力を持つ、急ぎの手紙や書類の輸送を専門とする、高給取り。そんな者を雇っての、指名依頼。

お金のない孤児院が、そのような手段を選んで送った報告書。

それが意味するものは……。

大急ぎで受け取り証にサインしたマイルは、手紙を受け取り、2階へと駆け上がった。

配達料は、当然ながら孤児院がギルドに預託しているので、マイルが払うことはない。

そして、皆が何事かと見守る中、マイルは手紙の封を開けて中身に目を通す。

勿論、レーナ達が両脇と後ろから覗き込んだ状態で。

「……こっ、これは……」

差出人は、マーレイン王国の孤児院。

内容は、ハンターや商人達から聞いたオーブラム王国の状況と、自国でも新種の魔物が増加しているということであった。

……そして問題なのが、『増加している』とは言っても、徐々に増えているとかいうのではなく、一挙に、爆発的に増加しているという点であった。

そう、まるで何もないところに突然 発生(ポップ) しているかのように……。

当然ながら、オーブラム王国と同じく、国軍と各領主軍、そしてハンターギルドと傭兵ギルドに緊急命令と緊急呼集が発令され、隣接国にも支援要請が出された、と……。

しかし、長い国境を接するオーブラム王国とマーレイン王国は、どちらも互いに支援するどころではあるまい。なので両国に隣接している他の国、トリスト王国と、この国ティルス王国しか支援軍を出すことはできないであろう。

「……もしかして、次元の裂け目が定着した?」

「「「え?」」」

マイルの疑問の呟きに、驚きの声を漏らすレーナ達。

そう、かなりの期間開いたままであったと思われる、ドワーフの村の近くにあった次元の裂け目。

あれ以外は、開いてもすぐに閉じていた。

しかし、また長時間に亘って、……いや、『ずっと開いたまま』の裂け目ができたとしたら。

各地に次々と短時間の裂け目が開いていたのは、あのロボットのような者が『永続的なゲートを開くための、試行錯誤の実験』だったとしたら……。

大昔に、先史文明を築いていた人達がこの惑星を捨てて逃げ出した理由。

そんなに科学が進んでいたのであれば、多少の魔物の流入くらい簡単に対処できたのではないのか。

いくら平和な世界であっても、その気になれば何かを武器に転用することくらいできたのではないのか。

包丁は、料理にしか使えないというわけではない。

宇宙空間用の超長距離用レーザー通信システムをレーザー砲に改造するとか、魔物に対抗するための武器や兵器くらい簡単に作れたはずである。

なのに、なぜ母星を捨てるという苦難の途を選んだのか。

それは、今、異次元から雪崩れ込む魔物達を排除しても、またいつか同じことが繰り返されると知っていたから?

それとも、魔物であっても命を奪うことは、などというお人好しだったから?

ともかく、魔物は来た。

先史文明人が予測した通りに……。

「……行くのかい?」

当然そうであろうと思ったメーヴィスが、マイルにそう尋ねるが……。

「う~ん、どうしましょうかねえ……」

「「「え?」」」

当然、すぐにマーレイン王国に駆け付ける。

マイルがそう言い出すと思っていたレーナ達は、驚いて絶句した。

「いえ、前回のような『国やギルドが危機に気付いていない』という場合であれば、私達が行って特異種を狩りまくって危険をアピール、って方法がありますけれど、今回は国もギルドも特異種……向こうの皆さんは『新種』って言われてますけど……の危険性も爆発的な増加も既にご存じで、国の総力を挙げて対処されているのですから、そこに私達4人が加わったからといって、大して役には立ちませんよね?

それならば、私達は、私達にしかできないことをした方がいいんじゃないかと思って……」

マイルの言葉に、レーナ達も落ち着いて考え始めた。

「……確かに、いくら特異種が強いとは言っても、大勢のハンターや兵士が取り囲めば倒せるわよね。別に竜種だとかいうわけじゃないんだから……。

少人数のパーティが森の中で想定外の魔物に遭遇する、っていうのがヤバいだけであって、充分な準備をした者達が想定通りの魔物と戦うなら、場所とタイミングを選べば勝てないわけじゃないし……」

「そうだね。私達が依頼も受けていないのに駆け付ける必要はない、と言えるかも……。

いや、この国に所属しているという立場から考えれば、この国に被害が出ることに備えた方が妥当かもしれないね。国境を越えて流れ込む魔物の阻止とか、国内に 出現(ポップ) する魔物の対処とか……。

それに、そのうち両国からの支援要請を受けたこの国の上層部とかギルドからの依頼が出るかもしれないし……」

レーナとメーヴィスも、マイルの意見に賛同するようであった。

そう、その存在を知らない者が森の中で急に出会えば、一方的にやられるかもしれない。

しかし、最初からその存在を知っており、充分な戦力を揃えて平野部で待ち構えていれば、優れた武器を持ち戦術を用いて戦う連携の取れた兵士やハンター達は、いくらワンランク上の強さだとはいっても、オークやオーガ如きに後れを取ることはあるまい。

……いや、それでも多くの被害は出るであろう。怪我人も、……そして死者も。

しかしそれは兵士として、傭兵として、そしてハンターとしての、日常の風景に過ぎない。

ひとりの死者も出さずに済む戦争がないのと同じように、ひとりの死者も出さずに済む魔物討伐などない。

なので、既に情報が把握されており国としての対処が取られているところに、たった4人のハンターが無理に駆け付ける必要などないし、その効果など全体から見れば無きに等しい。

ならば、『赤き誓い』が今、為すべきことは……。

「今、このタイミングでわざわざ私達と接触しようとしている新キャラ。……それも、おそらく先史文明の人々が子孫のためにと残した防衛機構の一部。

私達は、そっちに行って話を聞くべきだと思います!」

こくり……

レーナ達は、静かに頷いた。