軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

508 チェーン店 1

「チェーン店を開きます!」

「また、藪から棒に、何を……」

「まあ、マイルちゃんですから……」

「マイルだからねえ……」

もはや、マイルが急に何を言い出しても驚くようなことのないレーナ、ポーリン、そしてメーヴィスの3人であった。

「で、あんたのその怪力で鉄の棒を曲げて 鎖(チェーン) を作るわけね。鍛冶屋から色々な太さの短い鉄棒を仕入れれば、加工はあんたが素手で曲げてあっという間に作るから、経費が殆どかからずに丸儲け、ってわけよね? ……チェーンメイルとかも作るの?」

「やりましょう! 材料の鉄棒はマイルちゃんの収納魔法で色々な種類のを常時用意しておけるから、あらゆるニーズに応えられますし、作業は夜にやれば、ハンターとしての仕事にも影響しません。マイルちゃんの『手作業』なら音も臭いも出ませんから、宿でも夜営中でも大丈夫ですよっ!」

ポーリン、大賛成である。

「私だけ日夜ぶっ通しで働くなんて、どんなブラック企業ですかっ! 違いますよ、『チェーン屋』じゃなくて、『チェーン店』ですよっ!」

「……同じじゃないか……」

メーヴィスにも、両者の違いが分からないようであった。

それも仕方ない。この世界には、大きな商家が支店を出すことはあっても、チェーン店とかフランチャイズとかいう概念はないのだから。

「チェーン店というのは、潤沢な資金を持つ大手が統一性を持たせた店をたくさん出す経営形態のことですよ。店の名前や看板、外観とかを同じにして、扱う商品、サービス内容、その他諸々もマニュアル化して、全く同じにするんですよ。

そうすると、全ての店において商品の品質もサービスも同じだから、どこの店に行っても馴染みの店のように安心して利用できるんですよ。

入ってみたら値段が高かった、商品の品質が悪かった、店員の態度が悪かった、なんていう心配がないわけです」

「なる程! おまけに、如何にその店の店舗が多いかがよく分かり、羽振りの良さも強調できるというわけですね!

しかも、商品が共通だと仕入れが大量一括購入になるから強気の値引き交渉ができますし、他の店と在庫の遣り取りをすることによって販売機会の喪失が防げます。従業員教育もやりやすいですし、人手不足になった時のヘルプ派遣もスムーズにできます。

マイルちゃん、いいアイディアですよ! いくつかの問題点を除けば……」

ポーリン、絶賛である。

まあ、お金が儲かる話であれば、大抵は絶賛するのであるが……。

「……で、その『いくつかの問題点』っていうのは、何よ? まあ、だいたい予想は付いてるけどね……」

そう、勿論、レーナがポーリンの含みのある言い方を聞き逃すわけがない。

そして、レーナの言葉を受けて言葉を続けるポーリン。

「まず、マイルちゃんのお話の最初にあった、『潤沢な資金を持つ大手』という言葉。……『 赤き誓い(うち) 』は、それに該当しませんよね。

たくさんの店を作るには、莫大なお金が必要です。私が小さな商会を立ち上げようとして貯めているお金の目標金額より、ずっとたくさんのお金が……。

そして、たくさんの支店を作るためには、大勢の使用人が必要です。それぞれの店を安心して任せられる、有能で信用の置ける支店長候補と、その下で働く大勢の真面目な店員達が。

マイルちゃんがこんなに早く私の商会設立に協力する決心をしてくれたのは嬉しいですけれど、いきなりそれは、ちょっと商売というものを甘く見すぎですよ。最初は本店のみで実績を重ねて顧客の信用を得て、それから徐々に取り引きの範囲と規模を拡大して……」

「ちょっと待ちなさいよ! そりゃ、ポーリンが商会を立ち上げるのにマイルが協力するのはマイルの自由だし、私もその時にはパーティ資産の私の取り分を出資したり、商会の商品輸送の護衛依頼を受けたりして色々と協力するのは 吝(やぶさ) かじゃないけど、……それは私がAランクハンターになった後の話よ! まだBランクにもなっていないっていうのに、マイルを引き抜かれて堪るもんですか!!」

「同じく! 王宮かどこかの上級貴族から騎士としての仕官の話が来る可能性のあるAランクになれるまで、マイルに抜けられるわけにはいかないよっ!」

レーナが、ポーリンの言葉を遮った。

そして、それにメーヴィスも同調。

このふたりは、自分の目的を果たすためにAランクを目指しているのだから、当然であろう。

しかし……。

「マイルちゃんが引き抜かれるのは困る?」

「「あ……」」

虎(ポーリン) の尾を踏んだ。

レーナとメーヴィスはそれに気付いたが、既に遅かった……。

「ほほう……。マイルちゃんが引き抜かれるのは困る、と? そしてその言い方だと、まるで 私が抜けるのは(・・・・・・・) 、 別に構わない(・・・・・・) みたいに聞こえますよねえ……」

((ヤバい!!))

過去の、2度に亘る『ポーリン置き去り事件』の時のことを思い出し、蒼ざめるレーナとメーヴィス。

「そして、他人の力を当てにしての、Aランク成り上がり計画ですか……」

「「ぐはぁ!」」

大ダメージを受けたらしいレーナとメーヴィスであるが、それを聞いたマイルは考えていた。

(いや、それ、私の収納魔法を当てにして商会設立計画を練っているポーリンさんが言いますか……)

立っている者は、クララでも使え。

マイルはそういう考え方をするし、仲間であり友達なのであるから、みんなのために自分が役に立てるのは決して嫌ではない。しかし……。

(みんな、いつまでも私が一緒にいることを前提にして将来設計をしているの? 世の中、いつ何が起こるか分からないというのに……。

私が急にいなくなったらどうするの? やっぱり、ちょっと苦言を呈した方がいいのかなぁ……)

そう考えながらも、とりあえずマイルは……。

「お願い、私のために争わないで!!」

いつか言ってみたい名台詞シリーズを消化することを優先するのであった。

「いえ、そもそも前提が間違っていますよっ! 私、まだ当分はハンターを辞めるつもりはありませんし、ポーリンさんの商会で倉庫兼荷馬車として働くつもりもありませんよ!

……って、そんな顔をしても駄目ですよ、ポーリンさん……」

* *

「……じゃあ、その『チェーン店』というのは、商会じゃなくてただの同じような店の集合体、ってわけ?」

「はい。なので、別に全ての店に遣り手の商人が必要だというわけじゃありません。

今回考えているのは お持ち帰り(テイクアウト) の料理店なので、料理をレシピ通りに作ることさえできればいいので、腕のいい料理人が必要だというわけじゃありませんし……。

普通の、言われたとおりのことができる者なら誰でもいいんです。

それに、店はそれぞれが自前で用意して、食材も自分達で手配してもらいます。私達が資金を提供したり、全ての店の料理をセントラルキッチンで作って配送するというわけではなく……。

なので、正確には『 本社直営型多店舗経営(チェーン店) 』ではなく、フランチャイズ店なんですけど、『フランチャイズ』とか言っても理解してもらえないし説明も面倒なので、比較的意味が分かりやすい『チェーン店』という言い方にしました。

まあ、フランチャイズもチェーン店の一形態ですからね、本社直営ではないというだけで……」

マイルの説明に、まだよく分かっていないらしいレーナ達。

「でも、もしそれが成功して儲かれば、似たようなお店が乱立するんじゃないですか? うちがたとえば『聖女屋』という名前にすれば、『勇者屋』とか『御使い屋』とか、もっと露骨に『大聖女屋』、『本家聖女屋』、『元祖聖女屋』、とか……」

ポーリンが言う通り、特許や登録商標、実用新案等の概念がないこの世界では、力のない者が何か新しいことでひと山当てた場合、大商家から中小商家まで、全ての商売人がパクリ商売を始めてしまう。そして財力と人力、役人への賄賂やゴロツキ達を使った妨害工作で、発案者の店を潰したり乗っ取ったりするのは常套手段である。

「そもそも、どうして私達がそんなことに手を出さなきゃならないのよ! 別にお金には困っていないし、今はBランク、そしてAランクへと駆け上ることが最優先でしょ?」

「ああ。別にそう必要でもないのに、時間を取られたり、面倒事に巻き込まれたりし易いことを始めなければならない理由がないだろう。今はハンター稼業に集中すべきだというレーナの意見に賛成だね」

Aランクになることが当面の目標であるレーナとメーヴィスがそう言うのは、至極当然のことであった。

ハンターとしてのランクにはあまり興味がないポーリンは、将来の自分の商会立ち上げのための予行演習になること、そしてマイルに商売とお金儲けの魅力を教え込める絶好の 機会(チャンス) であることから、マイルの案の問題点を是正して、自分がブレーンとして指導すれば何とかなる、と考えて前向きに考えていた。

しかしそれでも、こんなに早く店を持つつもりではなかったし、レーナとメーヴィスのAランクになるという目標と、ふたりがそれを望む理由を知っているため、あまり声高にマイルの後押しをするつもりもなかった。

「ち、違いますよ! 別に、私がお店をやるってことじゃないです! ただ、経営のノウハウとレシピを教えてあげるだけで、最初の手助け以外では経営には携わりませんし、お金も貰いません。

なので、私達のハンターとしての活動には別に影響はありませんよ。

まあ、料理素材の納品依頼を受けるくらいのことはあるかもしれませんけど……」

「お金を取らない? それじゃ、私達が関わる意味がないじゃないですか!」

当然ながら、そこに噛み付くポーリン。

「……で、勿論、マイルには何かそうすべき理由というか、狙いがあるんだよね?」

「あんたはお人好しだけど、慈善事業家というわけじゃないというのは分かってるわよ。

たまたま出会った相手を助けてやることはあっても、わざわざ自分から親切の押し売りをして廻るようなヤツじゃないってことくらいはね。

……さあ、何を企んでいるのか、さっさと吐きなさい!」

そしてメーヴィスとレーナの突っ込みに、えへへ、と笑うマイルであった……。