軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

500 魔族の村 11

魔族の村の者達が寝静まった頃。

マイルがそっとテントから出て、出撃した。

勿論、テントから出る前に隠蔽魔法により姿を消し、 遮蔽魔法(シールド) により音と匂い、振動も完全に遮断している。

魔族は元々警戒心が高い上、村のすぐ側に怪しい連中がテントを張っているのであるから、人々が寝静まり明かりが消えた後も、見張りがいるのは当然であろう。村の中にも、そして『赤き誓い』のテントの側にも。

なので、マイルはテントから出る前に姿を消しておいたのである。

いくら 遮蔽魔法(シールド) を使っているとはいえ、やはり心情的なものがあるため、そっと忍び足で村へ入るマイル。

探査魔法には、『赤き誓い』のテントを見張っているらしき反応がビンビンである。

村の入り口にも、門番がふたり、物陰に潜んでいた。

堂々と立っているより、隠れてのんびり見張っている方が楽であるし、敵の奇襲で警報を出す暇もなく一瞬で倒される危険性を減らすことができ、更に侵入者の油断を誘えるという、非常に合理的な判断である。

……マイルに対しては、全く役に立たないが……。

おそらく、門番は『赤き誓い』用というわけではなく、常時立てている村の警戒員なのであろう。

マイルは見張り員達をスルーして、神子の少女の家へと向かった。

そして……。

(よしよし、神子ちゃんの家には見張りはいない、と……)

探査魔法で神子の家が重要警戒場所にはなっていないらしいと知り、にんまりと笑うマイル。

昼間堂々と会い、好き勝手な質問をして、アテが外れたと言わんばかりの失望の表情でさっさと引き揚げたのである。ここが重要警戒場所の候補から外されるのは当たり前であった。

(神子ちゃんは、と……、いたいた!)

結構寒いのに、既に神子の少女は戸外に出て待っていた。

まぁ、それだけマイルの話とやらが気になっているのであろう。

(よし、隠蔽魔法を解いて……、と、いや、イカンイカン!)

すぐ側でいきなり隠蔽魔法を解いたりすれば、驚かせ、叫び声を上げられる可能性がある。なのでいったん離れ、家の陰で魔法を解いてから、ゆっくりと近付くことにしたマイル。

そして、遮蔽魔法を少し広めに張り……。

「遅いわよ!」

大声で怒鳴られた。

……まあ、こういう事態に備えたわけである。

神子に近付くと、自分と神子を覆う狭い範囲で隠蔽魔法、遮蔽魔法を掛け直したマイル。

これで、他の者からは姿も見えず声も聞こえず、そして気配すら察知されることはない。なので、このままここで話しても大丈夫である。

オマケとして、空気は少しずつ入れ替わり換気されるものの風は防ぎ、遮蔽魔法内の空気が暖められるという親切仕様である。

「暖かい……」

神子ちゃんにも、御好評のようであった。

「……で、何なのよ、話って……。そもそも、何者よ、アンタ……」

御使い様と同じ方法で自分に意志を伝えることができる存在。

普通であれば、御使い様か自分と同じような存在、つまり『神子仲間』かと思っても不思議ではないであろうが、この少女はマイルがハンター姿であるためにそこに頭が回らず、マイルのことをただの底辺職の少女としてしか見ていないようであった。

「……私ですか? ある時は片目の 御者(うんてんしゅ) ……、いや、今はそれはいいですよっ!」

ワケが分からず、ぽかんとしている神子の少女。

「ええと、あなたは『御使い様』と話ができるんですよね? そして、自分が神子であると思い込んでいる、と……」

「失礼ねっ! 思い込んでるんじゃなくて、事実、神子よっ!」

(あ~、まぁ、本人の主観としては、そうか……)

そこはもう突っ込むまい、と考えるマイル。

「え~と、その『御使い様』の声が聞こえる、ということで、村の皆さんから神子として扱われていると?」

「そんなわけないでしょ! 『御使い様』の声は私にしか聞こえないのに、子供がそんなことを主張したからといって、大人達が素直に信じてくれるとでも?」

「た、確かに……」

普通は、子供の 戯(ざ) れ 言(ごと) としてスルーされるだろう。

「じゃあ、どうして……」

マイルの疑問に、少女はあっさりと答えた。

「頑張ったからよ!」

「が、頑張った……?」

そう言われても、意味が分からないマイル。

「そうよ。魔法の練習中に初めて『御使い様』からお言葉を賜ってから、私にはよく分からないことを何度も何度も何度も何度も繰り返し、根気良く質問を重ねて、少しずつ少しずつ『御使い様』の御説明が理解できるようになったのよ。何年もかかって……。

そうしてようやく得た 叡智(えいち) を村の人達のために役立てようとして、最初は信用してもらえずに馬鹿にされ、嘘吐き呼ばわりされて……。

それに 挫(くじ) けずに何度も提言やアドバイスを続け、病気の人に治療法を勧めようとしたら『子供のお遊びで殺されて堪るか!』って怒鳴られて殴られ、赤ちゃんの防疫について教えようとしたら『赤ん坊は子供の玩具じゃない!』といって蹴り飛ばされ……」

その時のことを思い出したのか、少し涙目の神子。

(あちゃ~……。この子、真面目で良い子だ……)

「そして、徐々に実績を積み重ねて、ようやく私が本当に『御使い様』の声を聞いていると納得してもらえて、やっとのことで神子としての評価を得たというわけよ。

まぁ、提言やアドバイスを真剣に聞いてもらえるというだけで、別に担ぎ上げられたり贅沢をさせてもらったり美味しい食べ物を貢がれたりしているわけじゃないけどね……。いいように使われて、ただ働きさせられているだけよ」

「 世知(せち) 辛(がれ) え~!!」

その不屈の努力に感心して見直すと共に、思っていたのとは違う神子の待遇に、そっと心の中で涙するマイル。

(そうか、私が自分のポリシーで『ナノちゃんに何でもかんでも聞くのはやめよう』と思ったのとは違い、何でもかんでも聞く、という方針にしたわけか……。

確かに、私は状況を知っていたし、この世界の文明は地球よりかなり遅れているから、そんなに知りたいこともなかったし、何より私は『第二の人生を楽しみたい』という考えが強かったから、ネタバレ的なことはやりたくなかった……。

でも、この子にとっては、これは唯一の人生であり、自分と家族、そして村の人達が少しでも安全で幸せに暮らせるためならば、自分の能力は全力全開で発揮するべきものなんだ……。

そして、疑問に思ったこと、村で生起した問題の解決法、その他諸々をその都度、理解できるまで何度も何度も繰り返しナノマシンに質問し続けて、徐々に知識を積み上げてゆき、『論理的な思考法』を身に付けていったんだ……。大人達に馬鹿にされ、嘘吐き呼ばわりされながら……)

それは、幼い少女にとって、どれ程の苦難の 途(みち) であっただろうか……。

「……で、私のことばかり聞いてるけど、アンタは一体何者なのよ! 人間の、しかも底辺層のハンターのくせに古竜様と知り合いらしいし、そして、どうして『御使い様』と同じやり方で私に話し掛けられるのよっ!」

マイルが『御使い様』であるなどという可能性は 端(はな) から考慮していないらしかった。

それはまぁ、無理もないであろう。女神の御使いであり、姿を見せたことのない『何でも知っている、謎の高位存在』が、こんな抜けた顔の底辺層の人間だったなどということは、思考の片隅にすら浮かぶはずがなかった。

そして、考えられる可能性としては……。

「あ、そうか! アンタ、『御使い様』が哀れんで御慈悲を賜られた、人間の神子ね!

何か、御使い様を介して女神様から私に対する使命を授かってきたの? 私の下僕となって尽くすように、とか……」

そう、それであれば、伝言が『御使い様』を介して自分に伝えられたことにも納得がいく。

人間の神子は自分より下位であると信じて疑わない、魔族の少女。

マイルの方から自分のところへ遠路 遥々(はるばる) 表敬訪問にやってきたのであるから、自分達が人間より格上だと思っている魔族の少女がそう考えるのは当然のことであった。

しかし……。

「いえ、確かにナノちゃん……『御使い様』と話はできるけど、私は別に女神様と知り合いだとか関係者だというわけでは……」

神様とは知り合いだけど、という言葉は、心の中で思うだけで、口には出さない。

この少女が思っている『女神様』とか『神様』とかは、あの、自分が会った神様とは全然違うものを指すのだろうと思っていたので……。

「ええっ! それって、どういう……、あ、そうか! 女神様に選ばれた私とは違って、『御使い様』がただの使い走りとして現地調達しただけの、少し『御使い様』のお言葉を聞き取る能力があるだけの小者ね!」

あまりにも調子に乗った少女の言葉に、ぐぬぬ、と少し悔しい思いのマイルであるが、相手は子供だと自分に言い聞かせ、にっこりと微笑んで話を続ける。

そう、今は情報を得るべき時である。子供の戯れ言など、スルーすべきであった。

「まぁ、そういうわけで、私は女神のお言葉を聞くことができる者として、神子をやってるわけよ。

女神様からは宗教的なこととかについての御指示があるわけじゃなく、ただ私からの相談や質問に答えてくださり、その叡智の一端を分け与えてくださるのよ。

禁則事項(それはダメ) とか言って、教えてもらえない時もあるけど……」

『御使い様』の指示で動いている者を警戒する必要はない。なので、正直に色々と教えてくれる神子の少女。

そして少女の説明により、大体のことは分かったな、と納得するマイル。

そう、たまたま『権限レベル3』である魔族の少女が、魔法の練習中に偶然ナノマシンに話し掛けるような言葉を口にして、ナノマシンからの返事を得たのであろう。

アレンジした呪文の中で、『魔法の精霊』に対してのお願いの言葉や思念が追加されることなど、ありそうなことである。

「そして、年に一度の『古竜様の御訪問』の時に、村長の指示で古竜様とお話しする機会があったのよ。

それで、その時に 先史文明(フォア・ランナー) の遺跡のことを古竜様に教えて……」

「ちょ、ちょっと待ったああぁ~~!!」

少女のいきなりの爆弾発言に、思わず叫ぶマイル。

防音結界を張っておいて、幸いであった……。