軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

498 魔族の村 9

「まぁ、全ては明日、神子とやらに会ってからですよね」

「また、あの古竜の『指導者』ってガキみたいなのじゃないの?」

「勘弁してよ……」

マイルの締めの台詞に、茶々を入れるレーナと、げんなりしたような顔のメーヴィス。

お金が絡まない場合は常に一歩引いているポーリンは、ただ苦笑するのみである。

「とにかく、明日に期待しましょう」

そう言って、恒例の『にほんフカシ話』を始めるマイルであった……。

* *

「こっちじゃ、ついてきてくれ」

あからさまに嫌そうな顔をした村長と長老、そして今回は顔役達ではなく30代くらいに見える6人の魔族達が同行し、マイル達を案内した。

これは、明らかに『マイル達が神子に手出ししようとした場合、取り押さえるための要員』なのであろう。6人は皆、剣やら槍、短弓等を装備しており、そういうつもりなのを隠す素振りすらないようであった。

……というか、おかしな真似をさせないための威圧効果を狙い、 殊更(ことさら) にそれを強調していると思われる。

(まぁ、仕方ないですよねぇ……)

(向こうにとっちゃあ、武装した見知らぬ連中がいきなり押し掛けてきて、自分達にとって超重要な人物に『会わせろ』って要求したわけですからね)

(護衛もなしで会わせるわけがないわよね)

(ああ、彼らにとっては当然の行為だよね。私達のために大勢の人手を 割(さ) かせて、申し訳ないよ)

小声で、こそこそとそんなことを話している『赤き誓い』の4人。

人間より聴覚が優れている魔族にはひそひそ話も聞こえているかもしれないが、別に聞かれて困るようなことでもないので、マイル達はそう気にすることもなく小声での会話を続けながら、前を歩く村長と長老の後について歩いていた。

6人の男達は、マイル達のやや後ろについている。なので一応、小声であればよく聞こえないくらいの距離は離れている。……相手が人間並みの聴覚の持ち主であったなら、であるが……。

そして、マイル達が案内されたのは、1軒の普通の民家であった。

「ここじゃ」

長老が足を止めたため、マイル達もその民家の前で立ち止まった。

そして村長が、民家の戸を叩いた。

「儂じゃ!」

数秒後に、戸が開けられて30歳前後の女性が姿を現した。

「ど、どうぞ……」

どうやら昨日のうちに説明を受けていたらしく、少し怯えたような様子ではあるものの、村長を始めとする大人数での訪問を不思議に思っている様子はない。

そして、村長に続き、ぞろぞろと家屋の中へ入ってゆく一同。

「よ、ようこそお越しくださいました……」

通された家の中には、女性の夫らしき人物と、その背後に立っている10歳くらいの少女の姿があった。

玄関を入ったところの部屋は居間らしく、食事用のテーブルと4脚の椅子があるが、当然ながらこの人数を全員座らせられる数の椅子はなく、そしてそのためのスペースもない。なので全員立ち話となるが、村長が促して、少女だけは椅子に座らせた。

「この方が、神子じゃ」

長老が、そう言って椅子に座った少女の方へと手を向けた。

どうやら、これから先は村長ではなく長老が担当するらしかった。

……そして、少女のことはただ『神子』と紹介するだけで、名前すら教える気はないらしかった。

(この子に関する情報は、極力教えない、ってことか……)

そう思うマイルであるが、マイルも、別に無理に名前を知りたいとは思っていない。

マイルが知りたいのは、ただ、情報のみ。

……それは、この世界のことや人間に酷似した多くの種族達の謎についてであり、いくら特殊な立場であろうと、どこかの誰かの個人情報が知りたいわけではない。

なので、長老達の態度は気にすることなく、椅子に座っている神子……、少女に向かって話し掛けた。

「こんにちわ。私、ハンターをやっている、マイルっていいます。お嬢ちゃん、神子なんだって?」

「…………」

初対面の、しかも魔族とはあまり仲が良いとは言えない人間に馴れ馴れしく話し掛けられて、恐れも警戒心も抱かないような魔族の子供はいない。しかも、昨夜からずっと、父親や母親から『人間に関する怖い話や、警戒すべきこと』を繰り返し聞かされているであろうこの子は、尚更だ。

なのでマイルは、優しく話し掛けて少女を安心させようとした。

そして……。

「控えおろう、この無礼者めが! 我を何と心得る!!」

神子の少女は、全く、マイル達を恐れている様子はなかった……。

会う前は『祭り上げられていい気になっている、世間知らずの子供』かな、と思わせておいて、実際に会ってみると、実は神子扱いされて 戸惑(とまど) っている、おとなしく気弱な少女……だと思わせて、本当は調子に乗っている傲慢な馬鹿。

「「「「だ、ダブルトリック!!」」」」

あれだけ毎日、マイルの『にほんフカシ話』でネタや伏線、叙述トリック等に慣れているというのに、見事に引っ掛かってしまった4人であった。

やられた、と、素直に敗北を認める『赤き誓い』一同。

「あ~、古竜の『指導者』とやらと同じ、馬鹿ガキタイプかぁ……」

「馬鹿ガキタイプですね……」

「馬鹿ガキタイプだよね……」

「たはは……」

* *

(先史文明の線は、ナシか……)

マイルは、自分が予想していたふたつのことのうち、片方は『可能性なし』として頭の中から破棄した。

そう、少女には可愛い角が生えていたし、どう見ても普通の魔族の少女であった。マイルが予想していたうちのひとつ、『 冷凍睡眠(コールドスリープ) や時間停滞フィールドにより保存されていた、先史文明人の生き残り』というのは、ボツである。

そもそも、数百年とかであればともかく、あのスカベンジャーがいた地下施設にあった『ただの赤錆の粉』とか、『原形すら留めていない、錆の塊』とかから考えて、先史文明が滅びてからは既に『数百年』とは桁がいくつか違う、膨大な年月が過ぎ去っているはずである。あそこの施設にあった機械類が、錆びやすい低品質の鉄とかで作られていたとは到底思えないのであるから……。

たとえ動力源が原子力やそれを上回る超エネルギー源であったり、太陽光発電のような無限のエネルギーを利用していたとしても、それらを支える機械自体がそのような年月を越えて存在し続けることができなかったであろう。

……そう、 冷凍睡眠(コールドスリープ) であろうが時間停滞フィールドであろうが、エネルギージェネレーター、補機、周辺機器、そしてカプセル本体も、数万年、数十万年の時を超えて持ち 堪(こた) えることは不可能であろう。

それに、それだけの年月の間には、地殻変動、火山活動、その他様々な天変地異によって地形が変わるほどの大災害等も起こったであろう。どのような施設であろうが、あまりにも長い時の流れを乗り越えることはできまい。

(……ということは、やっぱり、もうひとつの方か……)

そう考えたマイルは、『神子』と呼ばれる少女に対して、決定的な言葉を口にした。

「……神子さん。あなた、権限レベルはいくつなのですか?」

「え……」

偉そうな態度で、椅子に座ったまま『ふふん!』というような態度であった少女が、眼を見開いた。

(これくらいはいいだろう。他の人達には何のことか全く分からないだろうし、これで私が『知っている』ということは充分伝わったはず……。後は、今夜にでもふたりだけで会って話をするか、ナノちゃんに中継役をお願いして『脳内リモート会議』を開いてもいいし……。

そして、この様子だと、ほぼ間違いないか。この子も、ナノマシンに対する権限レベルが……)

「いったい、何を言っているのじゃ?」

「え?」

思っていたのとは違う『神子』の反応に、驚くマイル。

「じゃから、『けんげんれべる』というのは、何のことじゃ? 一体、何を言っておるのじゃ?」

「え? えええ? えええええ~~っっ!!」

マイル、呆然。

淑女、呆然(レディー・ボーゼン) 。