軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

497 魔族の村 8

普通であれば、怒鳴りつけ……、いや、殴りつけたいくらいの怒り。

しかし、相手がひ弱な人間の、しかも女で、おまけに未成年や成人したばかりの者達とあっては、実力行使など、もっての 外(ほか) 。そんなことをしてそれが他の種族に伝われば、一族の末代までの恥となる。

……尤も、それ以前に、古竜からの警告を無視することなど絶対にできないが……。

古竜に逆らう、ということに対する抵抗感と、それを伝えた時に古竜が言った、『この警告を無視すれば、世界が破滅する……とまでは言わぬが、この集落くらいは破滅するかもしれぬぞ。勿論、我ら古竜は一切手出ししない、という状況下でな……』という言葉を全く気にしないというならば話は別であるが、古竜がその手のことで冗談を言うような連中ではないことは、魔族の皆が知っていた。

「そ……、そ、それはさすがに言い過ぎではないですかな……」

ぷるぷると怒りに身体を震わせ、コメカミに青筋を立てていながらも、言葉遣いはあくまでも丁寧に、礼儀正しい口調でそう問い詰める村長。

((((怒ってる、怒ってる……))))

マイル達も、別にわざわざ魔族を怒らせたり、年寄りを苛めたいと思っているわけではない。

……ただ、あまりにも調子に乗って勝手な言い分を吐き散らし、他種族を馬鹿にしている魔族の言い分を認めたり、それに話を合わせてやる必要を感じなかっただけである。

まぁ、はっきり言うと、『不愉快であった』ということである。

「まぁ、そんなことはどうでもいいです」

「え……」

必死で感情を抑えての抗議を、マイルに『そんなこと』、『どうでもいい』と軽く流され、怒るどころか呆然とする長老。

「ん~……」

マイルは、何やら真剣な顔で考え込んでいる。

どうやら、悪気があったわけではなく、他のことを考えるのに夢中で、本当に『どうでもいい』と思っただけのようであった。

「じゃあ次は、さっき長老さんが言われた『神子』って人にお会いしたいのですが……」

「「「「「…………」」」」」

マイルの要求に、魔族側は黙り込んだまま誰も答えない。

「あの、神子さんと……」

「「「「「…………」」」」」

「神子……」

「聞こえとるわい!」

しつこく繰り返し尋ねるマイルに、怒鳴り返す長老。

どうやら、会わせたくないという気持ちと古竜からの指示には逆らえないという気持ちに挟まれて、返答に困っていたようである。

「ぐぬぬぬぬ……」

聞かれもしていないのに、長老が自分から口にしたのである。

自業自得。

なので、他の魔族達ですら、醒めた眼で黙って長老を見ているだけである。

本当は『神子』とやらの存在は隠しておきたかったであろうことは理解できるが、だからといって遠慮するようなマイルではなかった。

「急に言われても神子さんにも都合があるでしょうから、明日、お願いしますね」

「……」

「お願いしますね?」

「…………」

「お・ね・が・い・し・ま・す・ねっっ!!」

「わ、分かった……」

(勝った……)

前世の海里であった時には到底考えられなかった程の、押しの強さ。

そう、マイルは『遠慮して、言いたいことも言わずに我慢する』という控え目な心は、地球に置いてきたのである。

ガンガン行って目立つのは嫌だけど、今回の人生では、やりたいことは我慢しない。言いたいことは言う。前と同じような生き方をするのでは、せっかく二度目の人生を与えてもらった意味がない。

だから、たまには強気で、図々しくやることにしているのであった。

* *

魔族の上層部との顔合わせは終わり、マイル達は村長からこのまま村長の家に泊まるよう勧められたが、それを辞退し、村のすぐ側の草地にテントを張った。

初対面の、それもあまり友好的とは言い難い者の家に泊めてもらうというのは、緊張して疲れ、心が安まらない。

外からの客は村長の家に泊めてもらう、というのが通例であり、それを断るのは少々非礼であることは承知しているが、仕方あるまい。食べ物や飲み物に何かが入れられているかも、とか、寝首を掻かれるかも、とかいう心配がないわけではない。

襲撃は、マイルの 防護魔法(バリア) や 警報(アラート) 魔法があれば熟睡していても問題ないとはいえ、やはり、敵地のど真ん中で寝るというのは、あまり心安まるものではない。

村の外の草地であれば、 警報(アラート) 魔法を広めに、何重にも掛けられるし、攻撃魔法を連射しても他の者を巻き込む危険性が下がるので、『赤き誓い』にとってはやりやすい。

まぁ、最大の理由は、村長の家に泊まると携帯式浴室も携帯式トイレも使えないから、ということなのであるが……。

「それで、満足のゆく成果だった?」

「はい! 謎が解けたわけじゃないですけど、着実に 欠片(ピース) は揃いつつあります。

それに、たとえ大した成果がなかったとしても、『ここには、大した情報はなかった』ということが確認できて、それはそれで立派な情報ですから。『無い』ということを確認するのも、大事なことですよ」

レーナの問いにそう答えて、微笑むマイル。

「確かに、そこには敵軍はいない、という情報は、そこに敵軍がいる、という情報と同じくらい重要だからね。マイルの言う通りだ」

メーヴィスも、父親や兄達から教わったことを基に、マイルの考えを肯定した。

そして、ポーリンがマイルに尋ねた。

「で、今日魔族から聞いた話から、どういうことが分かったのですか?」

「それなんですよ……」

マイルが、自分の考えを語り始めた。

「まず、他の種族に伝わるものと、大枠では一致した内容でした。そして当事者だけあって、魔族に関する部分は更に詳しい内容が残っていたのですが、その大部分が……」

「「「自慢話!!」」」

レーナ達の声が揃った。

「そうです。他種族下げ、自分達上げ。そして、他者の悪口、デマ等、誹謗中傷を行う者は……」

「負け犬の遠吠え!」

「弱い犬ほどよく吠える!」

「自己紹介、乙!!」

マイルの誘いに、レーナ、メーヴィス、ポーリンが次々と辛辣な言葉を吐いた。

「その通りです。本当に自分に自信がある者は、自分を誇りはしても、他者のことを悪く言ったりはしません。そんなことをすれば、自分の価値が下がるだけだということを知っていますからね。

他者を 貶(おとし) めようとするのは、自分に誇れるものがない者だけですよ。

つまり……」

「マイルは、魔族が本当は自分達が他の種族より劣っているというコンプレックスを持っていると考えているのかい?」

「はい。他の種族の伝承にある、『魔族は我々を真似て造られた、まがい物』という表現。そして魔族に伝わる、『失敗作であった他種族の欠点を見て造られた、完全なる生命体』という表現。

双方に共通していることは……」

「「「魔族は、他の種族より後に造られた……」」」

「そうです。そして……」

マイルは、たっぷりと間を取ってから宣言した。

「魔族を含め、全ての種族は『造られたもの』と表現されていること。そして、なぜかその中には、『人間』は含まれていません。全ての種族の伝承において、共通して。

他の種族の名は全て挙げられているのに、なぜか人間だけが……」

「「「あ……」」」

そして、マイルは考えていた。

(神子……。

この世界には、『神』はいない。そう、この世界で『神』に代わるものといえば、ナノマシン、そして遥か昔に存在し、今は失われた『神の国』に住んでいたと言われる者たち……。

その神々の子、『神子』とは、いったい何を指すのだろうか……)