作品タイトル不明
493 魔族の村 4
「止まれ!」
ケラゴンに降ろしてもらった森から、指示された通りの方角へと進んでいた『赤き誓い』は、予想通り魔族の見張り役らしき者に発見された。
姿は見えないが、木の上にでもいるのであろう。
余計な揉め事を起こしたいわけではないので、言われたとおり、素直に停止する『赤き誓い』。
「何者だ! ここが魔族の国と知っての侵入者か!!」
「……え? このあたりは、魔族が住んではいるけれど、別に国とか領地とか……、うぐぐ!」
余計なことを言いかけたマイルの口を、慌てて塞ぐポーリン。
「いえ、魔族の皆さんが住んでおられる地域なのは承知していますが、別に侵入者というわけでは……」
そして、何とか穏便に進められるようにと、友好的に話そうと努めるメーヴィス。
「どのような目的であろうとも、侵入者は侵入者であろう!」
……しかし、向こうは初めから敵意バリバリであった。
まぁ、今までに『友好的なヒト族』がわざわざこんなところまでやってきたことなどないのであろう。そして政治家や官吏が、自分でこんなところまで来るわけもない。来るのは、甘い汁を吸おうとする悪徳商人か犯罪者だけである。
そして、更に見張り役の魔族を警戒させている大きな理由は、マイル達が『ここまで、何重にも敷かれた警戒網に引っ掛かることなくやってきた』という事実であった。
普通、発見されることなくここ、最終防衛ラインまで来られる者はいない。
とにかく、怪しい者、悪意ある者ではないということを納得させるしかないと考えたメーヴィスは、あまり使いたくはなかったが、やむなく使うことにしたのであった。
……例の件を話す、という手段を……。
「あの、剣士のレルトバードさんに御招待を受けまして……」
「え?」
メーヴィスの言葉に、固まる見張り役。
いくら人口が少ないとはいえ、ひとりひとりが魔族全員の名を覚えているはずがない。なのでこの方法は不発に終わったか、と思ったメーヴィスであったが……。
「あ、あの、剣士レルトバードに招かれた、だと! そしてお前は、お、女、……だよな……?
ま、まさか……」
何と、驚いたことに、レルトバードは結構な有名人であったらしい。
そして、この男の驚きように、何か引っ掛かるものを覚えるメーヴィス。
「あ、いや、別にお前が『女に見えない』って言ってるわけじゃない! 不審に思ったのは、剣士レルトバードは女には興味がないので有名だからだ、決してお前を侮辱する意図はない!!」
メーヴィスの表情に何か気付いたらしく、いくら女性相手とはいえ、警戒すべき人間の侵入者に対して慌てて弁解する見張り役。何だか、そう悪い人物ではなさそうであった。
「あ、いや、それは……」
別に、あの剣士と恋人同士だというわけではない。しかし、ここは余計な事を口にすべきではないと考え、言葉を濁すメーヴィス。
「それと、隊長をやってたザウィンって人とも知り合いなんだけど……」
あの時の、魔族のリーダーの名前を覚えていたレーナが口を添えた。
実はレーナも招待されているのであるが、あの少年の名も妹の名も覚えていなかった。
……いや、そもそも名を聞いていなかったような気がする。
そして、誰にも、全く招待されていない、マイルとポーリン……。
「何、ザウィンも知っているのか! ……となると、本当に知り合いか……」
都合良くあのふたりを知っているのが少し不思議であったが、考えてみれば、そうおかしなことでもない。古竜が調査を依頼しているのが彼らが所属する集落なのだから、ケラゴンが案内する魔族の居住区は、当然その集落になるのが当たり前である。
「……分かった。あのふたりが認めた者であるならば、人間であっても信用するに足る者達なのであろう。
ゴブリンの中にも、良い者がひとりもいないというわけではあるまい。それと同じく、人間の中にも良い者がいる確率は、決してゼロではないであろうからな……」
酷い言われようではあるが、『人間は、ひとり残らず全員が極悪人である』などとは言い出さないところ、魔族としては話が分かる方なのかもしれない。
「『良いゴブリン』なんか、いないわよっ!」
そして、 喩(たと) えの部分に噛み付くレーナ。
そこは、流すべき部分であろう……。
まぁ、見張り役も自分が無礼な物言いをしたという自覚はあったのか、レーナの言葉はスルーしたようである。
「う~む……。では、俺が案内しよう……」
少し考え込むような素振りをした後、そう言って潜んでいた木の陰から姿を現した、見張り役であるひとりの魔族の男性。
誰何(すいか) された時には居場所が分からなかったが、あれだけ会話を交わせば、おおよその位置は分かる。なので、突然姿を現されても、マイル達は驚くようなことはない。
「少し待ってくれ」
見張り役の男は、そう言って何やら顔を 顰(しか) めた。
「えっ? うわわっ!」
そして、なぜか驚いた様子のマイル。
「何、これ……」
「え?」
今度は、魔族の方が驚いたような顔をした。
「な、何ですか、これ……」
「わ、分かるのか!」
驚きに眼を見開いた魔族に、よく分からない様子ながらも、マイルが何とか返事した。
「……は、はい、何か、頭の中に 矩形波(パルス) のようなものが……」
「 矩形波(パルス) ? 何だ、それは……」
魔族には、 矩形波(パルス) という言葉は理解できないらしかったが、それは仕方あるまい。
それに、正しくは、パルスとは『短時間に急峻な変化をする信号』のことであり、別に 矩形波(くけいは) でなければならないというわけではない。
「あ、え~と、脈動する信号のようなものが、頭の中に……」
「……」
マイルの返事に、少し怖い顔で睨み付けてくる魔族。
「…………」
「あ、あの、その、え~と……」
何だか魔族の様子が変わった……あまり良くないらしき方向へ……様子に、少し慌てた様子のマイルであるが……。
「……いや、別に問題はない。そのまま待っていてくれ」
どうやら、別に『マズい事態』というわけではないらしく、ほっとする『赤き誓い』一同。
しかし、魔族の男は、待てと言ったにも拘わらず、何もする様子がない。
それを不思議に思いながらも、言われたとおり素直に待っている4人であるが……。
「どうした、ララーク。『想定外事象の生起』の合図なんか……、って、何だ、コイツらは? に、人間だと!!」
頭の角で明らかに魔族と分かる者が、ふたり現れた。
「あ! 信号か! さっきの、 電気通信(でんしん) ……じゃなくて、魔力通信、『魔信』だっ!!」
「「えっ!!」」
マイルの叫びに、新たにやってきたふたりの魔族が、驚愕の声を上げた。
最初の魔族は既にマイルが魔族の連絡法を受信したらしきことに気付いており、驚いた様子は見せなかったが、後から来たふたりにとっては、それは驚くべきことであったらしい。
「き、貴様、どうしてそれを!」
「捕らえろ、絶対に逃がすな!!」
「いや、ちょっと待て、落ち着け、お前達……」
「「これが、落ち着いていられるかっ!!」」
そして、最初の魔族……ララークという名らしい……が、ふたりの魔族に説明してくれた。
マイル達がレルトバードの招待を受けていること、ザウィンとも知り合いであること、そして『人間達には知られていないはずの、魔族の連絡法』のことが漏れていたわけではなく、この少女が『受信能力者』であったこと、等々を。
「ハーフかっ!」
「いや、人間と魔族のハーフだとしても、角が無ければ送信も受信もできまい。なのに、なぜ受信能力があるのだ?」
「「「…………」」」