軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

479 潜 入 1

マイルも、前回ハッピーエンド(村人達と、リリア……シェリー……の家族を除く)に終わったとはいえ、本当は『奴隷として苛められているケモミミ幼女を 颯爽(さっそう) と救い出し、歓喜するケモミミ幼女に抱き付かれ、懐かれる』というシーンを何十回も、何百回も繰り返し想像し、そのシーンを小説として執筆するための文章まで考えていたのである。

あの、宿屋の受付をしていたケモミミ幼女、ファリルちゃんを邪神教徒から救出した時には、美味しいところを全て『女神のしもべ』に持って行かれてしまったため、そのリベンジとなるはずであったのだ。

それが。

それが……。

それがががッッ!!

というわけで、マイルとしても、ポーリンと同じく『今度こそ、悪い貴族であってくれ!』という思いが強いのである。

そして勿論、騎士に憧れるメーヴィスもまた、『囚われの幼女を悪党から救い出す、正義の騎士』というのをやりたくて仕方ない。

ポーリンとレーナも似たようなものであり、結局、4人は似た者同士なのであった。

そうでなければ、いくらマイルが『自分が依頼する』とか言い出しても、ふたつ返事でOKするはずがない。

そして……。

「私が、 潜入捜査(スネーク) を行います!」

マイルの宣言に、こくりと頷くレーナ達。

「前回は、伯爵の機嫌が良かったのとマイルと話が合ったから許して貰えたけど、そうそう幸運は続かないだろうし、今回は小悪党の子爵だから、あんな失敗をすると大変なことになっちゃいそうだからね。マイルなら、やることが決まっている任務なら、うまくやるでしょ」

レーナが言う通り、 自由裁量(フリーハンド) を与えた時のマイルは要注意であるが、やるべきことがハッキリと決まっている場合は、マイルは確実にその仕事をこなす、優秀なハンターなのであった。

マイルは、物事を遂行する能力はあるのである。『遂行する能力』は……。

それに、レーナ達はマイルの『不可視フィールド』のことはよく知っているので、全く心配していなかった。

自分達がついていった方が足手纏いになってマイルの邪魔になることを知っているし、潜入任務におけるマイルの能力を欠片も疑っていない、つまり『仲間の力を信用している』からこそ安心して任せることができるのであった。

* *

「では、行ってきます」

こくり

マイルの言葉に頷く、レーナ達3人。

時刻は、少し早めに宿で夕食を摂ったばかりの、 夜1の鐘(午後6時) の少し前である。

盗みに入るならばともかく、情報を収集するのに、皆が寝静まった後では意味がない。なので、使用人の多くが勤務を終えて自由時間となる夕食直後の時間帯に侵入することにしたのであった。

食器洗いと厨房掃除人(スカラリーメイド) や 食品室女中(スティルルームメイド) 、そして警備の者以外の大半の使用人が勤務を終え、自由時間となる頃。そこから就寝までの短い時間が、使用人達の 寛(くつろ) ぎと交流の時間なのである。

マイルは今までに入手しアイテムボックスにストックしてあったメイド服のうち、一番この邸のメイド達の服に似ているものを身に着けていた。

……なぜマイルがそんなにたくさんのメイド服を持っているか?

それは勿論、『淑女の 嗜(たしな) み』だからであった。

そしていつものレオタード風怪盗衣装ではないのは、万一邸の者に姿を見られた時に、『怪しい恰好の不審人物』と『当家のものとは少し違うが、メイド服を身に着けた未成年の少女』では、初期対応が全く違うであろうからである。

前者だと、ひと目見ただけで叫ばれるであろうが、後者だと『他家からのお使いの者かな? それとも、当家で働くために来たばかりで、まだここのお仕着せを支給されていないのかな?』とか考えて、いきなり叫ばれるということはないであろう。

まぁ、それよりも、もし獣人の少女と話せる機会があった場合、怪盗衣装では警戒心バリバリで、まともに話を聞いて貰えないと思ったからであろうが……。

そして、自分の身体を不可視フィールドで包み、領主の邸に忍び込んだマイル。

忍び込んだ、とは言っても、相手からは見えないので普通に歩いて入っただけであるが……。

(さて、ケモミミ幼女はどこかな。誘拐による違法奴隷とは言っても、さすがに表向きはただの『親に給金を前払いした、住み込みの奉公人』という扱いだろうな……。

もし本当に奴隷扱いとかだと、地下牢に閉じ込めっ放しとかでない限り、人目について大事になるからなぁ。違法奴隷、それも獣人とかだと、少しでも良心がある使用人なら官憲に届け出るだろうし、全く良心がない使用人なら敵対している貴族に情報を売るだろうし。

とにかく、そんな致命的なネタを使用人に握らせるわけがない。だから、ケモミミ幼女には『オマエは両親に売られたのだ』とか適当なことを言って丸め込み、もう少し成長するまでは普通の使用人として扱っていると思うんだけど……)

世の中には、『幼女の成長を待たなくていい人達』も存在するが、マイルはそのあたりのことはあまり詳しくなかった。

(幼女だから、給仕や皿洗いとかはやらないよね……)

別に大事にされているというわけではなく、身体が、そして掌が小さ過ぎるために、料理が載ったお皿を運ぶのは危険過ぎるし、洗い物をするにも効率が悪く、他の者の邪魔になったりお皿を割ったりするのが目に見えているからである。

料理を台無しにされて叱られるのは大人の使用人達であるし、貴族家で使われている食器類は高価である。その責任を取らされては堪らないであろう。

なので、食事時に幼女が配置される仕事場は、というと……。

(いた! 狐獣人の幼女!!)

マイルが幼女を見つけたのは、比較的年少の者達が割り当てられている使用人部屋であった。

年少の者達とはいっても、さすがに、獣人の幼女ほどの年齢の者はいない。せいぜいが、12~13歳くらいまでである。それ以下の年齢となると、労働力としても、外聞的にもよろしくない。

(なのに、わざわざ大金を払って獣人の幼女を手に入れたがるのは、やはりアレですよね。私の同志だから! ……しかし、リリアちゃんのように大切にしてもらうというのはともかく、普通の使用人程度の待遇ならば良いのですが、もし虐待でもされていたら……)

……許さん。

マイルの目が、そう語っていた。

他の者達はまだ主人一家の夕食関連で働いているのか、 同室の者(ルームメイト) 達はおらず、幼女ひとりだけである。主人達の食事が終わりお茶の時間になれば使用人達の食事が始まり、その時にはおそらくこの幼女もそこに呼ばれるのであろう。

(……もし呼ばれずに、この子だけ粗末な堅パンのみとか夕食抜きとかだったら……)

……許さん!

天知る、地知る、チルチルミチル!

そんなフレーズを頭に思い浮かべる、マイルであった……。

今、アプローチしても、時間がない。すぐに使用人達の食事の時間になるであろうし、同室の者がいつ戻ってくるかも分からない。

食事も、おそらくみんな一緒というわけではなく、交替で、ちゃちゃっと済ませるのであろう。そしてこの子の順番が早いのか遅いのかも分からない。

役立たずだから後回しなのか、子供だから先に食べさせてさっさと休ませてやろうとか、はたまた逆に、最後にしてやってゆっくりと、そして残り物を好きなだけ食べさせてやろうという温情もあり得る。

今は、まだ情報収集に努めるのが妥当であろう。

そう判断して、マイルは様子見を継続することにした。

* *

(……情報が全く手に入らない……)

マイルが頭を抱えているが、当たり前である。

もう獣人幼女がここに来てから何カ月も経っているというのに、そうそうマイルの都合に合わせて、唐突に『そういえば、あの獣人の子の待遇なんだけどね……』とか、『あの子の雇用形態なんだけどね……』とかいう会話が使用人の間で始まるわけもない。

そして主人一家も、今更そんなことを話題に出すとも思えなかった。せいぜい、来客があった時に、珍しい獣人の子供を抱えていることを自慢する程度であり、それも本当の事情ではなく、表向きの、『設定』を喋るだけであろうから、何の意味もない。

(やっぱり、本人に聞くしかないか……)

そう、どんな待遇であったとしても、本人が『あの村で暮らすよりはずっとマシ』と判断したならば、手を出す必要はない。

これが、子供を攫われた両親からの依頼であれば、また話も違う。

しかし、今回はそういう者達からの依頼ではなく、マイルが自分で『臨時編成の無登録パーティ、「赤き血がイイ!」』に出した自由依頼である。なので、本人が嫌がるのに無理矢理連れ去れば、それはただの人攫いであり、犯罪行為、……それも重罪犯である。

また、ハンターギルドを通さない『自由依頼』である上、そもそも『赤き血がイイ!』は登録されたハンターパーティではなく、何の資格もないただの集まり、『仲良しパーティ』に過ぎないため、ギルドからは何の支援も受けられない。普段の、正規のCランクパーティ『赤き誓い』が正式にギルドを通して受注した依頼を遂行している場合とは、全く状況が違うのである。

正体を隠して行動するには、その 利点(メリット) に対応するだけの 不利益な点(デメリット) が存在するのであった……。