軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

471 獣人の村 3

「どうやら、来たようです……」

『赤き誓い』は獣人の村に腰を落ち着けて、子供達と遊んだり、探索魔法を使ったり、子供達と遊んだり、村の周辺でお金になりそうな上位ランクの魔物を狩ったり、子供達と遊んだりしながら、のんびりと休暇のような日々を過ごしていたのであるが、遂に 目標(ターゲット) が現れたようである。

……ちなみに、薬草や高価な食材等の採取は行っていない。マイルの探索魔法でそれらを根こそぎ掻っ攫われたのでは大迷惑であろうから、ポーリンの猛反対を押し切って、レーナとメーヴィスがそれらの採取禁止を決定したのである。マイルも、勿論その判断には異議はなく、膨れるポーリンのことはスルーされた。

「……私の至福の 刻(とき) を邪魔するとは、不届き 千万(せんばん) ! 成敗してくれます!!」

そしてマイルは、既に当初の目的を完全に忘れ果てていた。

仕方ない。マイルが子供達の相手をするのを大人達が(政治的な配慮により)止めなかったため、調子に乗ったマイルが『ここはロリ天国ですかっ!』、『ショタ天国ですよっっ!!』などと意味不明な叫び声を上げ、やりたい放題だったのである。

なので、今のマイルは相手が『誘拐犯だから』ではなく、『自分のもふもふ天国の邪魔をした』という理由で怒り狂っていた。

……誘拐犯達にとっては、いい迷惑であった。

「よし、明らかに狩りや採取とは異なる動きで、周りを警戒しながら真っ直ぐこの村に向かってきます。間違いありませんね。村の皆さんの警戒網にも引っ掛かるでしょうけど、戦いになれば村の人にも被害が出ますから、発見しても手出ししないよう念押しをしておきましょう」

「分かった!」

勿論、事前に村長や村議会の人達を通じて根回しはしてあるけれど、 如何(いかん) せん、獣人は短気で直情型の者が多い。事前に説明されたことを忘れ果て、警戒員達が誘拐犯に襲い掛かることは充分に考えられる。

なので、メーヴィスが即座に村長の家へと向かった。

使い走りというわけではなく、この村の最上位者にひとりで話をしに行くのであるから、ここは当然、『赤き誓い』で最年長、かつ見た目が一番立派な、パーティリーダーであるメーヴィスの役目である。

……というか、この役目をレーナとかに奪われれば、さすがにメーヴィスも少しヘコむであろう。

時間は、まだ充分余裕がある。

というか、ありすぎた。

今から警戒員達のところへ連絡員を派出するには、充分すぎるほどの時間があった。そして、『赤き誓い』の出番までも……。

* *

「……ん? これは……」

森を歩いていた8人の男達のうち、先頭にいたリーダーらしき者が立ち止まった。そして、それに続いて、他の者達も立ち止まる。

え~ん、え~ん……

「子供の……、泣き声? しかも、ふたり……、いや、二匹か?」

少し怪訝な顔をしていたリーダーは、その声が幼い少女達の泣き声だと判ると、にやりと笑みを浮かべた。

「迷子か何かか? はは、これから村の大人達にバレないように、いかにして子供を確保するかという最大の難関を迎えようとしていたっていうのに、こんなに簡単にいっていいのかよ……。

ツイてるぜ、今回は!

労なくして 牝(めす) を二匹確保できれば、後は、気付かれる前にさっさと逃げ出すだけだ。うまくすりゃ、戦うことなく逃げ切れるかもしれないぞ。こんな幸運、そうそうあるもんじゃねぇぜ。女神の御加護、我にあり、ってとこだぜ!!」

上機嫌のリーダーと、その言葉を聞いて笑みを浮かべる男達。

皆、腕に覚えのある者達ではあるが、戦いは時の運。それも、相手が身体能力に優れた獣人達、しかも怒り狂って自分の命も惜しまず襲い掛かってくる者達とあっては、お荷物の子供達を抱えて、無事、無傷で逃げ切れるとは限らない。

それが、誘拐してから気付かれるまでにかなりの逃走時間が稼げるとなれば、笑みのひとつも浮かぼうというものである。

リーダーが獲物の少女達を『牝』だとか『二匹』だとか言っているのは、勿論、『獲物達は人間ではなく、ただの野生の獣に過ぎない』ということを 殊更(ことさら) に強調するためである。

そう、相手はヒト種ではなく、ただの動物。なので、自分達は何も悪いことはしていない。ゴブリンやコボルトを狩るのと同じこと。……そういう理論なのであった。

勿論、昔の協定に基づいて、獣人に手出しすることはヒト種全ての法で厳しく禁じられている。なので、法とは関係なく、少しでも自分達を正当化して罪悪感を減らそうとしているだけなのであろう。元々、罪悪感など欠片も抱きそうにない連中であるが、さすがに幼い子供を誘拐するというのは気が咎めるのであろうか。

そしてその理論による自己正当化の説明が、官憲、そして『赤き誓い』に対して通じるかどうかは、女神のみぞ知る……。

「いいか、俺達は、『たまたま迷子の子供達を見つけた、優しいハンターのおじさん達』だ。獲物が自分の足で歩いてくれるなら、こんなに楽なことはないからな。そして怪しまれて自分で歩かなくなったら、ふん 縛(じば) って担いでいく。それまでは、うまく話を合わせろよ!」

誰が『優しいおじさん』だよ、と噴き出す者もいたが、皆、概ね作戦は理解したようであった。何しろ、自分達の命と以後の労力の 多寡(たか) が懸かっているのだから、悪党達なりに、結構真剣なのである。

「……よし、いたぞ! って、あれ? 少しデカくないか? あれって、12~13歳くらいなんじゃあ……」

「大型の動物系なら、幼くても結構デカい場合があるだろうが! 迷子になって泣いてるくらいだから、かなり幼いはずだ。いいから、とりあえず確保しろ!」

小声で遣り取りした後、怪しまれないように、堂々と正面から姿を見せる男達。

「おや、迷子かな? あ、怖がらなくていいよ、俺達はハンターだ。珍しい獲物を求めて森の奥へ行くのを専門にしている高ランクハンターなんだよ。

村への帰り道が分からなくなっちゃったのかな?」

この連中は悪党ではあるが、悪党がみんなヒャッハー 面(ヅラ) をしているというわけではない。このパーティのリーダーは、一応は普通っぽい顔をしていた。……メンバーのうち3人は、かなりの悪党面であったが……。

(ネコミミ? 猫獣人にしては身体が……、いや、虎か豹の系統か?)

その少女達は、猫獣人ならば12歳前後であろうが、虎獣人か豹獣人であれば10歳未満ということもあり得る。それならば、許容範囲内である。

そして、ふたりの獣人少女の胸のあたりを見る男達。

「「「「「「「「よし、10歳未満だ!」」」」」」」」

ぴしっ!

どこかで、何かにヒビが入った。

そう、今、この男達はサインしてしまったのである。

……自らの、死刑執行命令書に……。

「お、おおお、おじさん達は、ハ、ハンターなの?」

「む、むむむ、村に連れていってくれるの?」

怒りを抑えるのに必死のふたり、レーナとマイルは、男達には『怖がって震えている少女』にしか見えなかった。

……そう、村の少女から借りた服を着たふたりが頭に着けているのは、マイルが心を込めて作った『人工ネコミミ』である。モデルにしたのは、勿論、宿屋の看板娘、ファリルちゃんである。

マイルは、ファリルちゃんのネコミミならば寸分 違(たが) わず再現することができるのであった。

「ああ、勿論、村まで連れていってあげるよ。こっちだ、さぁ、ついて来なさい!」

そう言って男が招く方向は、勿論村の正反対である。

しかし、ふたりは素直に男達についていった。

そして、しばらく歩いた後……。

「あれ? こっち、村の方角じゃないよ?」

「本当だ! ここ、森の外側へ向かう 小径(こみち) だよ。ほら、あの大木が並んでいるところが……」

少女達が立ち止まって騒ぎ始めたのを見て、大笑いする男達。

「ははは、気付くのが 遅(おせ) ぇよ!」

「ここまで 来(く) りゃ、ひと安心だな。心配するな、お前達にはお金持ちの御主人様の許での結構いい暮らしが待ってるんだからよ。あんなド田舎での生活や、俺達みたいな危険と背中合わせのヤクザな生活よりはずっとマシな生活ができるんだから、幸せなもんよ。……いや、皮肉とかじゃなくて、マジの話な!」

確かに、この男が言うことにも一理ある。

……しかし、だからと言って、奴隷狩りが許されるわけではない。

「……ねが~……」

「ん? 何だ?」

少女のひとりが口にした言葉が聞き取れず、そう聞き返したリーダー。

そして、ふたりの少女が両眼をくわっと見開き、不気味な顔で呟いた。

「悪い子はいねが~……」

「ワインはビネガー……」