軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

468 野 望

「まだ、魔族と獣人の村には行っていませんよねぇ……」

宿の部屋で、ベッドに腰掛けてそんなことを言い出したマイル。

「何よ、また唐突に……」

呆れたような顔の、レーナ。そう、いつものパターンである。

「いえ、私達、ドワーフの村とエルフの村には行きましたよね。あと、私だけだし村に行ったわけじゃないですけど、一応妖精のひとつの村の全住人と会ったことがあるし……」

「獣人も、大勢と会ったじゃないの。あの発掘現場で……」

「あ、いえ、あれは『居住地』ではなく、ただの作業現場じゃないですか。あんなの、ノーカンですよ、ノーカン!」

レーナの言葉を全否定するマイル。

「何が駄目なのよ?」

レーナの問いに、マイルが答える前にメーヴィスとポーリンが声を揃えて答えた。

「「ケモミミ幼女がいないから!」」

そして、腕を組んで、こくこくと頷いているマイル。

「知らんわ、ボケェ!!」

「……というわけで、そのどちらかへの訪問に興味があるんですけど……」

「「「…………」」」

まぁ、いつものことである。

「で、私は『美味しいオカズは最後まで取っておく』というタイプなのと、レーナさんとメーヴィスさんが招待されていることから、魔族の村を先にしたいと考えているのですが……」

「「招待なんか、受けてない!!」」

レーナとメーヴィスが、声を揃えて反論した。

「え? あの、魔族の女の子が言ってたじゃないですか」

「「…………」」

確かに、あの少女はそれらしいことを言っていた。レーナの方は女の子が勝手に言っていただけであるが、メーヴィスの方は、対戦相手だった男性から正式に依頼されての招待の伝達である。

「行かないわよ!」

「行かないよっ!」

口を揃えて否定する、レーナとメーヴィス。

「え~……」

不服そうな声を漏らすマイルであるが……。

「大体、あんた、魔族の村がどこにあるか知ってんの?」

「え? どこか、手近にある村を適当に……」

「「「やっぱり……」」」

マイルの返答に、大きくため息を吐くレーナ達。

「あのねぇ、ヒト種である人間、エルフ、ドワーフは住んでる場所が結構入り交じっているけど、あまり仲の良くない獣人と魔族はそうじゃないのよ……。

まぁ、今は同権だし表向きは友好種族ってことになっているから、商売とかで人間の街に来たり、何かの事情で住み着く者もいないわけじゃないけれど、そんなのは極々一部の者だけよ。大半の者は、人間とは距離を取って、離れた場所で自分達だけで暮らしているわ。

ヒト種側は、昔の戦いで被害を受けたのは兵士や傭兵、危険を承知で街の外へ出た商人とかが中心で、それも戦争期間中の、ごく短期間のことだけど、魔族や獣人側は女子供もみんな、奴隷にされたり殺されたりしていたわけだからね、何百年、何千年にも亘って、ずっと……。

だから、ヒト種が抱いている怨みなんか、向こうが抱いている怨みや憎しみとは比較にならないわよ。

……あんた、先祖同士が凄絶な殺し合いをして、今でも自分達を怨み憎んでいる連中の中で、自分ひとりで暮らしたいと思う? そんなところで子供を育てたいと思う?」

レーナにそう言われ、プルプルと首を横に振るマイル。

そんなのを望むのは、真正のドMだけである。

「マイル、今まで私達があまりそういった悪感情をぶつけられなかったのは、相手がそう年配者ではなかったことと、私達が皆、若い女性で、そして強かったからだぞ」

メーヴィスが補足説明をしてくれた。

「魔族や獣人の年配者は特にヒト種に対する負の感情が強いけれど、若い者達は、それより少しはマシだ。暗黒時代を直接味わったわけじゃないからな。

……言っておくが、少しマシ、という程度だぞ?

そして、ヒト種を含め、殆どの動物は種族の別に関わらず、子供を可愛いと感じ、守ろうとするものだ。マイルも、相手が魔物であっても、角ウサギやコボルトの幼体は可愛いと感じ、殺しにくいだろう? 獣人や魔族は、人間よりもその傾向が強いらしいんだ。

そして、彼らは強い者を尊敬する傾向がとても強い。

……だから、彼らから見て幼く見えて、女性で、そして彼らを打ち負かした私達は、彼らの庇護欲と強者に対する尊敬という本能により、悪感情を抱かれにくい。矛盾した言い方になるけど、『最初から揉めて戦ったからこそ、友好的な態度を示してくれた』ってことだ。なので、戦わず、最初から友好的な態度で近付いた場合の方が態度が硬化する。

そういうわけで、私達と戦ったわけでもなく、敵対意識が強い年配者や老人達からは、相当強い悪意をぶつけられると思うよ。

特に、割と単純な性格の者が多い獣人族はまだしも、魔族はねぇ……」

「「「あ~……」」」

「それに……」

今度は、ポーリンが。

「獣人達は、あまり人間が近寄らない地域の森の中とかに、つまりエルフの里みたいな立地条件のところに小規模な村を作って住んでいますから、まぁ、人間が住んでいるところからそう極端に遠く、ってわけじゃないです。自分達で国を作っているわけではなく、人間の国の一部に住んでいるだけですからね。……税とかは納めていませんけど……。

それに対して、魔族はこのあたりから遠く離れた、この大陸の北端あたりを中心に住んでおり、そのあたりは人間の居住地域との間を走る大きな山脈によって隔てられていますからねぇ。

別に絶対に越えられないというようなものではないですけど、馬車が越えるにはかなりの苦労が強いられるから、余程の理由がない限りはそれを越えようとする者はいませんよ。たとえ冒険心溢れる若手商人とかでも……。

それに、違法な奴隷狩りの連中とか魔族殲滅主義者の襲撃とかに備えて、強固な防衛態勢を整えていますからね。武装して近付いた者は、即、捕らえられて武装解除ですよ」

「武装せずに山脈越えなんて、できるはずがないでしょうが! オークやオーガどころか、コボルトやゴブリン、下手すれば角ウサギの群れにでも全滅させられちゃうじゃないの!」

レーナの言葉に、こくりと頷くポーリン。

「……だから、誰も行かないんですよ」

「「「なるほど……」」」

魔族も、ヒト種が作る武器や道具、食材その他が全く欲しくないというわけではないだろう。

しかしそういう場合は、自分達が人間の街へ買い入れに行くらしい。

別にそうあからさまに排斥されるわけではないし、見た目が人間に近い者であれば、髪や帽子等で角を隠せば、買い物くらいは問題なくできるのであるから……。

「……じゃあ、獣人の村が先ですか。どこか、適当な村を見繕って……」

「どうして獣人の村へ行くことが決定してるのよ!」

「「たはは……」」

怒鳴るレーナと、呆れた様子のメーヴィスとポーリン。

いつものことであった。そう、いつもの……。

「……で、調べた獣人の村の場所なんですが……」

「しつこいわよっっ!!」

翌日、地図らしきものを持って話を蒸し返したマイルに、激おこのレーナであった……。

* *

「これを受けましょう!」

2日後。

ギルド支部の依頼ボードから1枚の依頼票をむしり取って、皆に差し出すマイル。いつもは、そっと丁寧に剥がすのに……。

表情は平静を装っているが、態度が少々おかしい。

……眼が泳いでいるし、鼻がヒクヒクしている。

少し怪訝に思いながらも、レーナ達がそれに目を通すと……。

【討伐依頼 討伐対象:違法奴隷狩り一味 依頼主:タリカン村(獣人族の村)】

「「「そんなことだろうと思った……」」」