軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

466 揉め事

「あ!」

「どうかした? マイル……」

「い、いえ、何でもアリマセン……」

(そういえば、ひとつ、見落としていた……。ナノちゃん!)

【ハイ!】

(ナノちゃん、あの異次元派遣隊の隊長さんが言っていた、帰還待ちの時にこの世界の上空に繋がった、って話! あの話で、向こうの金属ゴーレム……、ロボットがこっちの世界に落下した、って言ってたよね! それを回収して 記憶回路(メモリ) を調べれば……)

【残念ながら、落下の途中で大規模破損を避けられないと判断したらしく、メモリの全消去、その後動力源を暴走させて回路を焼き切った後、自爆。下は海溝部であったため、破片は全て深海へと……。たとえ破片を回収できたとしても、『金属片』以外のものとしての価値はないかと……】

(あ~、やっぱり、そう甘くはないか……)

ベッドの中で浮かんだせっかくの糸口の心当たりも、ナノマシンにあっさりと否定されたマイルであった。

まぁ、これはこの世界の危機に関わることだから、もし解析可能な状態で残されていたなら、ナノマシンがそれとなくマイルを誘導したであろうと思われる。それがなかったという時点で、そっちのルートは閉ざされていたということなのであろう。

【本件に関しましては、規則の許す限りマイル様に便宜を図るという方針ではありますが、我々の自発的、かつ積極的な異次元世界への干渉及びその世界の文明や生物への手出しは禁じられており……。

そのため、魔法行使という形での攻撃や、意思や意図に沿って行動してはいないもの、つまり死体や完全に機能を停止した被造物に対する分析調査等を除き、思うように関与できず……。申し訳ありません】

(いや、そのように神様……造物主さんから指示されているんだから、仕方ないよ。気にしないで!)

【…………】

* *

じとり……。

物陰から注がれる、粘り着くような視線に、うんざりしたような様子の年配の古竜。

その古竜の角は美麗な飾り彫りが 施(ほどこ) され、左手の小指の爪も、同様に芸術的な細工彫りがなされている。

『……仕方ないであろう。そなたが自分で判断し、選んだ結果なのだから……』

『ぐぎぎぎぎ……』

物陰に潜み、顔半分だけを覗かせた一頭の古竜が、若い雌竜を 侍(はべ) らせた古竜に向けて 怨嗟(えんさ) の唸り声を漏らしていた。

実はこの古竜、戦士隊の精鋭達や評議委員の年寄り達が爪や角にカッコいい飾り彫りをしてから急にモテだしたのを見て、是非自分もと考えて、彫り師を教えるよう戦士隊の者達に強要。

しかし長老達から『これ以上、あの者に迷惑をかけてはならぬ』と言われていた戦士隊は、それを拒否したのであった。

勿論、戦士隊の者達に関しては、少し期間を置いてから角を彫ってもらえるよう、長老達に同行したケラゴンが相手方から 言質(げんち) を取ってくれている。

そして、この古竜が考えたのは……。

『彫り師を教えてもらえないなら、自分で彫れば良いのではないか』

ということであった……。

人間如き矮小な下等生物にできることが、偉大なる古竜である自分にできないはずがない。

そう考えて、早速行動を開始したのであるが……。

「……駄目です、歯が立ちません!」

使っているのは 刃(は) であるが、立たないのは『歯』。

まず、魔族や獣人に命じてやらせてみたのであるが、古竜の爪や角を彫るには腕の力が全く足りなかった。数人掛かりでやらせると、道具の刃が折れた。

そもそも、普通の刃物や魔族、獣人達の力で、古竜の爪や角に傷を付けられるはずがなかったのである。大剣による戦士の一撃でさえ、傷付けられることがないというのに……。

これが彫れるというマイルと、その武器が異常なのである。

……そして、魔族や獣人に描かせてみたデザイン画は、ダサかった。

『ええい、もういい! 下等生物などに期待した我が愚かであったわ!』

そして、仕方なく自分でやることにしたのであるが……。

自分で考えたデザインは、もっとダサかった。

しかし、後に退けなくなった古竜は、自分で爪と角を彫った。

その結果……。

『『『『『『ぶわははははは!!』』』』』』

ボロボロでガタガタの爪。

チャチな、しかも歪んだ彫り込みがされた上、彫るときに力加減を誤ったのか、先端部がぽっきりと折れた角。

笑う者、あまりにも気の毒過ぎて笑うこともできずに俯いて肩を震わせる者。

そして、絶望に打ちひしがれた、一頭の古竜……。

その後、自らの身を隠し、マイルに彫りを入れてもらった者達を物陰からじっと見詰め続ける可哀想な古竜の姿が見られるようになったのであるが……。

『……鬱陶しくてかなわんわ! それに、雌といい雰囲気になってきたと思ったら、物陰からじっとこちらを見詰める奴と視線が合うのだぞ、雰囲気なんか消し飛ぶわ! 何度、悲鳴を上げた雌に逃げられたと思うのだ!!』

怒り心頭の、評議員。

既に寿命の8割くらいは過ぎているが、それでもまだ数百年は残っているのである。まだまだ枯れるような 年齢(とし) ではないようであった。

『いや、自業自得じゃろう、あれは……。それに、爪も角も、抜けば生えてくるじゃろう。痛いのが怖くて抜けぬとか、知らぬわ!』

そう、古竜の爪や角は、抜けば新しいのが生えてくるのである。

角は、頭骨と一体化しているのではなく、鹿の角に似たものであるらしい。

勿論、毎年自然に抜けて生え替わるようなことはないのであるが、折れてしまった場合には、根元から抜けば生え替わる。元々そういう作りなのか、根元からなくなればナノマシンが自動的に治癒魔法で再生させてくれるのかは分からないが……。

爪も同じく、抜けば生えてくる。

なのでマイルは、万一のことがあっても大丈夫だと判断して、彫り物をすることを引き受けたのである。もしこれが、爪も角も二度と生え替わらないものであれば、そう安請け合いはしなかったであろう。

なのであの古竜も、抜けば良いのである。爪も、角も。

しかし、角を抜くのも爪を抜くのもかなりの痛みを伴うことと、次の爪や角が生え揃うまではみっともない姿を晒すことになるということから、そうする勇気がない、つまり『ヘタレ』なのであった。

まぁ、普通は古竜が大きな怪我をするとかはあり得ないため、痛みというものに免疫がない個体が多いこと、そして『爪を抜くのは、すごく痛い』という噂が定着しているため、腰が 退(ひ) けるのも仕方ないであろう。

『あまりにも哀れじゃから、特別に、戦士隊が彫ってもらう時に同行させては……』

『駄目じゃ! こんなことで規則を曲げては示しがつかんし、そのような前例を作れば、それ目当てでわざと同じようなことをする馬鹿が続出するぞ。何せ、』

『うむ。効果がありすぎるからのぅ。雌達からの好感度が上がって、モテるようになることの……』

どうやら、爪と角の飾り彫りは、ニコポナデポ並みのチートらしかった。

『それよりも、問題は、あっちの方じゃ』

『うむ……』

『雌共が、自分達にも爪の飾り彫りをさせろ、とうるさいからのぅ……。アレは、言って聞くような状態ではないぞ』

『おぬしの 番(つがい) が先頭に立って騒いでおるのではないか』

『おぬしの娘と孫が、尻馬に乗って騒いでおるではないか!』

『まぁまぁ、そう言葉を荒立てず……』

『何を他人事のように! おぬしの妹が昨日評議委員会に怒鳴り込んできたこと、忘れてはおるまいな!』

『それについては、既に謝罪したであろう! それより、族長の娘がしつこく食い下がって大迷惑だそうではないか!』

……どうやら、哀れな古竜に救済措置が取られることはなさそうであった……。