軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

465 刻 印 4

「それで、伝承以外の、長老さんが若い頃の魔物の様子とかは……」

『忘れた』

「え……」

『大きく印象に残ったことならばともかく、そんな大昔の日常的なことなど、覚えておるものか。ありふれたことは、いつ頃のことだったか、どんなことだったか、色々な記憶がごっちゃになってわけが分からなくなっとるわい。

お前、3歳の誕生日の夕食が何だったか覚えておるか。今までに食ったパンの個数を覚えておるか。我らは、お前達の数十倍の寿命があるのじゃぞ。昔のことは次々と忘れなければ、やっていけんわい!』

「確かに……」

それに、恐竜とかの脳はとても小さかったはずである。古竜の脳も同じように小さいのだとすれば。そしてそれで人間以上の知能を絞り出しているのだとすれば、脳は全力稼働中であり、あまり容量に余裕がないのかもしれない。

(あまり脳に負担を掛けさせないよう、労らなくちゃ……)

『お前、今、何かとんでもなく失礼なことを考えているじゃろう!』

「え? どうしてそれが……」

『やっぱりかっっ!!』

「あ……」

そして、何とか長老を宥め、覚えているうちで話しても構わないことを色々と聞かせてもらったマイル達であった。

但し、『絶対に忘れないように』と韻を踏んで覚えやすい文章にしてある『伝承』を除き、その他の話の信憑性はかなり疑わしいものであったが……。

いや、古竜達が嘘を吐いているというわけでも、悪気があったわけでもない。

膨大な記憶の中で摩耗し、他の記憶と混合し、そして長い年月を経て次第に記憶内容が変化してゆくのは、仕方のないことである。……特に、文字というものを持たない者達にとっては……。

古竜は、知能的には文字を持っていて然るべき種族である。

事実、自分という個体を表すシンボルマークのようなものを持っており、それならば文字を持っていてもおかしくはない。

……しかし、彼らには文字を操るには致命的な問題点があった。その、身体のサイズである。

手や指の形も筆記具を持つには適していないが、そもそもそのサイズでは、羽根ペンを握り文字を書くことはできまい。

……手の大きさに合わせた、大きな筆記具を作る?

そんなサイズの羽根ペンを作れるような鳥はいないし、丸太を削っても、それを浸すだけのインクも、そして紙もない。

羊1匹丸々を使った羊皮紙とかも、生産性は勿論、そんなものを作れるだけの器用さは古竜にはない。……所詮は、魔力も肉弾戦も馬鹿威力頼りのがさつな種族なのである。

精神面ではなく、その大きさのために、作業面ではそうならざるを得ないのはどうしようもなかった。

やはり、詳細で正確な情報を後世に残すためには、文字というものは必須なのであった……。

* *

「こんな感じで、いかがでしょうか……」

『う、うむ、なかなか……』

礼として彫ってみた左手小指の爪に、満足そうな古竜。

彼は、この一団の中で序列的に最下位の個体である。

まずは下位の者から彫って、それに対する皆の感想や要望を取り入れて、次の作業にかかる。なので、上位者が後になるのは当然であった。

そして、古竜達は自分で芸術的なデザインを考え出す能力はないが……ただ単に、今までそういう習慣がなかっただけで、将来的には身に着けるかもしれない……、『良いものを見て感心する』という能力は十分にあるらしく、そしてそれを批評し感想を述べることもできるようであった。

『次は我であるな! 我は、もう少し落ち着いた感じで、威厳を強調したものを希望する。詳細は任せる、出来上がりに文句は言わん』

「分かりました、善処します」

あまり細かい注文は付けず、大まかな方向を示してくれて、文句は言わない。……ありがたい客である。マイルとしては、とてもやりやすい。さすが大雑把な古竜である。

そして、再び仕事にかかるマイル。

さすがのマイルも、8頭の古竜の爪1本ずつと角を、それも注文を聞きながら前回よりも手の込んだ彫り込みを入れるにはかなりの時間を要し、結局、食事や睡眠を挟んでの長丁場となってしまった。さすがに、戦士隊のみんなに彫ったものより簡単な図柄や手抜きに見えるものを彫るわけにはいかないので……。

どうしても、あれより重厚に見えるものでないとマズいだろう。戦士隊のみんなの立場というものもあるし。

古竜達は多少の時間など気にもしないし、獣人はマイルが出した材料でポーリンが作った料理をがっつき、『いくら長引いてもいいぞ』とか言っていたので、問題ない。

また、彫りながらの古竜との世間話で、更に色々な情報を手に入れる『赤き誓い』であった。

そして……。

『『『『『『『『おおおおおおおおお!!』』』』』』』』

喜びに打ち震える、8頭の古竜達。

『大儀であった。では、褒美として、これを遣わす』

そう言って長老が差し出してきたのは、ソフトボール大の、水晶のようなものであった。

『竜の宝玉、と呼ばれておるものじゃ。我らにとっては大した価値はないのだが、人間共は昔からこれを珍重しておると聞く。そこそこの値は付くことであろう』

そして勿論、マイルは考えていた。

(8頭の古竜を集めると、『 竜の宝玉(ドラゴンボール) 』が貰える……、って、逆ですよ、反対ですよっっ!!)

一方レーナは、ふらついたポーリンを支えるのに必死であった。

……どうやら竜の宝玉、相当な値打ち物らしい。あのポーリンをふらつかせるぐらいの……。

『色々と余計なことも喋らされてしまったが、「敵」の侵攻の予兆のことを聞けたのは、我らにとっても益になることであった。互いに得るところのある、良き出会いであったことを幸いとしようぞ。

ああ、あの子供は、しっかりと叩き直す 故(ゆえ) 、心配するな。では、さらばじゃ、面白き下等生ぶ……娘達よ!』

「……行ったわね」

「……行きましたね」

「……行ったようだね」

「……行きましたねぇ……」

ポーリンも、先程の衝撃から何とか立ち直ったようである。

「これで、古竜関連で知りたかったことは、だいたい聞けましたね。遺跡を調べて回っている理由とかは教えてくれなかったけど、まぁ、それも大体の予想は付くし……」

だいたい聞いたとはいえ、実際には、大した収穫があったわけではない。

そもそも、元々古竜が知っていることはあまりなく、古竜の間に伝わる『表の伝承』……エルフやドワーフ、妖精達の間に伝わっている伝承や神話と大差ないもの……と、『秘匿伝承』のごく一部を聞かせてくれただけである。それも、元々マイル達が知っていたことに、少し訂正や補完をしてくれた程度に過ぎない。

まぁ、人間にとっては大昔のことを、『ああ、それなら面白そうだから見物に行ったぞ』とか言って世間話として話してくれたことは、かなり興味深く、皆、結構楽しんだのであるが……。

そう、マイルが爪や角を彫っている時、美容院の人が客に色々と話し掛けるように、マイルがずっと長老以外の古竜とも話していたのである。正直、伝承とかの話より、そっちの方がずっと面白かった。

特に、作家『ミアマ・サトデイル』としてのマイルには、貴重なネタの宝庫であった。

他の3人も、何やら熱心にメモを取っていたので、将来英雄やらAランクハンターやら伝説の大商人やらになった後に書く予定である、自伝のネタにするつもりなのであろう。

「帰るわよ」

「「「おお!」」」

ハンターとしての仕事ではなかったが、爪と角の削りカス、そして竜の宝玉によって、充分な、いや、一泊二日の稼ぎとしてはあり得ない程の稼ぎとなった『赤き誓い』。

しかし、別にお金には困っていないし、Cランクパーティなのにあまり騒がれるのも嫌なので、爪と角の削りカスも竜の宝玉も、当分はマイルのアイテムボックスの肥やしとなるのであった……。