作品タイトル不明
439 エルフの里 5
「「そこを、何とか!!」」
そう言って頭を下げる長老と村長であるが、そう易々と教えられるわけがない。
「門外不出だから、『秘伝』なんですよ! じゃあ、何ですか、エルフの皆さんの秘伝、全部、ひとつ残らず人間に全面公開してくださいますか?」
「い、いや、それは……」
マイルの反論に、口籠もる長老と村長。
三人組の方は、この件にはノータッチらしい。おそらく、マイルが絶対に了承しないと思っているか、後で自分にだけこっそり教えてもらおうとしているか、そんなところなのであろう。
魔法については人間より遥かに秀でているはずの自分達が知らない魔法を人間が知っているのが我慢できないのか、それともただ単に『面白そうな暇潰しのネタ』として興味があるのかは分からないが、やけにしつこく絡む長老と村長に、 辟易(へきえき) するマイル。
まぁ、クーレレイア博士やエートゥルー、シャラリル達も同様であったのだから、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれないが、だからといって、それに従ってやらねばならない理由はない。
たとえそれが、本当に『実家の秘伝』であろうが、それ以上にヤバい、『地球の(知識による)秘伝』であろうが……。
いきなり 賢人会全員(おおぜい) で取り囲むというのはマズいと考えて、長老と村長のふたりだけで最初の顔合わせを行ったらしいのであるが、そこで 躓(つまず) いては皆に顔向けができぬ、と言われたマイルであるが……。
(知らんがな~……)
そう、それはあくまでも向こう側の勝手な都合であり、マイルの知ったこっちゃなかった。
……マイルは、もう三人組の方には大して怒ってはいなかった。
それは、三人組はそれぞれ報告の手紙に『何だかエルフの気配を感じる子がいる』、『知らない魔法を使う』、『凄い魔力』というようなことは書いても、具体的なこと、つまり探査魔法とか 位相光線(フェイザービーム) とかについては一切言及していなかったからである。
そう、雇ったハンターの秘密や特技を他者に喋るという、ハンターの禁忌を犯すことだけはしていなかったのである。ぎりぎりのグレーゾーンではあったが、具体的な言及は避けていたので……。
もしそれを破っていれば、さすがのマイルも許すことはなかったであろう。
なので、あとは長老達をどうあしらうかということだけなのであるが、別に深く考える必要はなかった。
「自分達は教えないけど、お前は秘密を教えろ、って? お話になりませんよね? ほな、サイナラ~!」
そう、ここから立ち去ればいいだけのことであった。
別に、長老も村長も、そしてここ、村長の家も、今回の依頼には何の関係もない。さっさとここを出て、帰還する日までそのあたりの森で夜営すれば済むことである。
いくら嵌められたとはいえ、依頼そのものには別に文句を付けるところはないので、一応は帰りの護衛も務めるつもりであった。
受注した依頼を『赤き誓い』側からキャンセルして帰路の護衛はしなくとも、ギルドにクレームを付ければ依頼主の落ち度として依頼の失敗とはならず、報酬金も全額支払われるはずであるが、それでも一応はエルフ三人組を護衛なしで帰還させるのも何だか気掛かりなため、受注した仕事は最後まで行うことにしたのである。
実年齢はともかく、エルフ3人組は見た目は若い女性達、それも美人揃いなので、盗賊だけでなく、色々とちょっかいをかけられる確率は普通よりかなり高い。自分達が護衛任務を放り投げたせいでもし何かあったら、後味が悪いので。
……そう、手出しした男達が半殺しにされたり、再起不能になったりした場合……。
引き留めようとする長老と村長を無視して、さっさと村長宅から出た『赤き誓い』と、その後に続くエルフ3人組。
そう、この後行くところがあるため、勿論、クーレレイア博士達は『赤き誓い』と別れるわけにはいかない。……それぞれの実家に、マイルのアイテムボックスに入っているお土産を渡さなければならないのであった。
* *
「ただいま!」
自分の家だからか、ノックもせずに勢いよくドアを開けたエートゥルー。
ドアの向こうは居間だったらしく、驚いたような顔でこちらを見ている、30歳前後くらいに見える両親と、14~15歳くらいに見える弟らしき者の、3人。
「おお、エートゥルー、よく戻った! そちらの方々が、例の?」
「あ、うん……」
どうやら、家族への手紙にも『赤き誓い』のことが書かれていたようであった……。
しかし、マイル達は別に3人組の家族とお近づきになりたいわけではない。なので、さっさと用事を済ませるべく、アイテムボックスに入れてあった預かり物をドンと出すマイル。
「えっと、エートゥルーさんの分は、これだけですよね?」
「あ、うん、ありがとう!」
「「「え……」」」
突然目の前に現れた木箱や鍋、包丁、保存の利く食品やその他色々な物資の山に、目が点状態のエートゥルーの家族達。
「こ、これは……」
勿論、モノがエートゥルーのお土産なのは分かっているだろう。驚いているのは、それを運んだマイルの収納魔法の馬鹿容量についてであろう。
そして、お土産が自分の娘の分だけであるはずがない。
そう、シャラリルとクーレレイアの実家へのお土産も、ほぼ同じ量だけあるに違いない、と考えるのが普通であった。
しかし、そんなことはマイル達には関係ない。
じゃ、と軽く右手を挙げて、エートゥルーを残して次の家へ。
そして、シャラリルの実家でも同じことを繰り返し、最後の場所、クーレレイア博士の実家へ来た一同。
「ただいま~!」
ドアを開けて飛び込み、父親のお腹に頭をくっつけて、ぐりぐりするクーレレイア博士。
ぐりぐり。
ぐりぐり。
ぐりぐりぐりぐりぐり……。
どんどんっ!
いつまでも『ぐりぐり』が続きそうなので、さっさとお土産を出して退散する『赤き誓い』。
父親は、すみませんな、というような顔をして、頭を下げていた。おそらく、いつものことなのであろう……。
「……で、どうするのよ?」
「どうしましょうか?」
「どうしようか?」
「う~ん……」
当初の予定では、帰還する日までの間、エルフの村を見学させてもらい、暮らしぶりを見たり、年配の人に昔の話を聞いたり……数百年前のことを当事者から直接聞けるなどという機会は、マイル以外の者にとっても 垂涎(すいぜん) の 的(まと) である……、ということを考えていたのであるが、どうやら村の上層部はマイルから『自分達にとって、未知の魔法』についての情報を得ようと考えていたらしく、変に関わったり頼み事をしたりするのはマズそうであった。
そう、長老と村長だけでなく、『賢人会』とかいう怪しげな名が出ていたことから、他にも村での発言力がある連中が同じようなことを考えているのは間違いなさそうであった。
「……しかし、アイツら、人間を舐めてんのかしら。全く無関係の、初対面のくせして、マイルに実家の秘伝を教えろ、とか……。しかも、自分達は対価となるものを提供する気はない、って、頭わいてんじゃないの?」
「人間を、というより、若い私達を舐めているのだろうね。彼らにとって私達は、幼児レベルなんじゃないかな。
幼児が手に宝石を握っているのを見た人間は、どれどれ、ちょっと見せてみなさい、って取り上げるだろう? そんな感じなんじゃないかと……」
「「「あ~……」」」
レーナの愚痴に対するメーヴィスの返しに、思わず納得する3人。
そう、その段階では、別に悪気があるかどうかは分からない。
勿論、その後、その宝石を奪って持ち逃げするとか、拾った場所を吐かせようとして拷問するとかいう可能性はあるが……。
「そんなに悪気はなかったのかもしれませんね……」
「ええ、元々エルフの年配者はあまり野望とか欲望とかは持たないそうですからね。若いあの三人組は、何だか野望と欲望ギンギンみたいですけど……」
マイルの意見に賛同する、ポーリン。
そして、クーレレイア博士達への評価が酷い。自分も、人のことは言えないくせに……。
せっかく来たのだからと、とりあえず村の中を歩き廻る『赤き誓い』。
人間が村に来るのは珍しいらしいから警戒されるかもしれないけれど、ただ歩き廻るくらいなら、別に許可が要るというわけでもないだろう。
というか、同盟を結んでいる友好種族なのだから、そこまで警戒されるはずもない。しかも、彼らから見れば幼女レベルの者達に対して。
人口が少ないのか、出歩いている者はあまりいないし、子供の姿もない。
「……って、年齢分布から考えて、実年齢が14歳以下のエルフがそんなに大勢いるわけがないですよね……」
マイルが言うとおりである。
平均寿命が50歳である人間100人の中にいる14歳以下の者の数と、平均寿命が800歳であるエルフ100人の中にいる14歳以下の者の数。そこには、10倍以上の差があってもおかしくない。
「若いエルフって……」
「あ、いた! 何、勝手にいなくなるのよ!」
マイルが何やら喋ろうとした時、クーレレイア博士とエートゥルー、シャラリルの3人がやってきた。
「さ、明日の顔合わせについての対策会議を始めるわよ!」
「「「「え?」」」」
何やら、わけの分からないことを既定事項のように 捲(まく) し立てるクーレレイア博士と、頷いているエートゥルー達。
「顔合わせ、って?」
そういえば、馬車の中でそんなことを言っていた。そして……。
「あ、確かギルドマスターが言っていた……」
「「「「お見合い?」」」」
どうして、それが自分達に関係あるのか。
全く意味が分からない、マイル達であった……。