軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

434 反 省

「砂袋を出して頂戴」

「え?」

朝、食事を終えて、ギルド支部に依頼の物色に行こうとした時、レーナからそう言われて困惑するマイル。

そう、朝っぱらから宿屋の中で、砂袋にどんな用があるというのか。

マイルだけでなく、メーヴィスとポーリンも頭の上に『?』マークを浮かべていた。

そして、マイルはともかく、メーヴィスとポーリンのその反応に 苛(いら) ついた様子のレーナ。

「あんた達……」

メーヴィスとポーリンに向かって、呆れたような顔をするレーナ。

「いつでも、そしていつまでもマイルの収納魔法があって当然、なんて考えていると、死ぬわよ……」

「「え……」」

レーナが、いつものように怒鳴るのではなく、本当に呆れ果てたというような、そして若干の悲痛な表情を浮かべてため息交じりで言ったその言葉は、メーヴィスとポーリンに大きな衝撃を与えた。そう、その言葉の内容だけでなく、いつもとは違うレーナの様子に……。

今まで、マイルがいて当然、 収納魔法(アイテムボックス) が使えて当然、という考えであった、メーヴィスとポーリン。

マイルが『妖精狩り』のため不在であった時に 行(おこな) った『マイル抜きでの狩りの訓練』では色々と苦労したが、あれは日本の都会の子供がキャンプに行って不便な生活を経験して楽しむ、というようなものであり、大変だったなー、とは思っても、危機感は殆どなかった。

そして今回にしても、マイルがすぐ側にいるのに収納魔法が使えない、ということも、まるでゲームにおける縛りプレイかハンデ戦のようなつもりであり、レーナのような『危機感』というものが全くなかったのである。

……そう、『赤き稲妻』と一緒に過ごしたハンターパーティとしての日々、そしてその後の、ソロハンターとしての苦難の日々を過ごしたレーナとは違い、メーヴィスとポーリンのハンター生活は最初からマイルと一緒であり、それ以外のハンター生活というものを全く知らなかった。

自分達がハンターをやっている間は、強くて便利なマイルが、ずっと一緒にいてくれる。

そんな未来図は砂上の 楼閣(ろうかく) に過ぎないということを知っているのは、レーナと、そしてマイル本人だけであった……。

「マイル、ちょっと、先に 下(お) りてなさい」

「え? ……は、はい、分かりました!」

何時(いつ) にないレーナの様子に、何かを察して素直に1階へと向かうマイル。

そして……。

* *

「待たせたわね」

かなりの時間が経ってから、ようやく階段を下りてきたレーナ達。

そして、メーヴィスとポーリンが、何だか落ち込んでいるというか、ぐったりしているというか……。

「マイル、水筒と砂袋を出してくれ」

「私も、お願いします……」

「え……、あ、わ、分かりました……」

メーヴィスとポーリンにそう言われ、慌てて水筒と砂袋、そしてバッグを出すマイル。

ポーリンは背負い式、メーヴィスは奇襲を受けた時にすぐ荷物を外せるように、肩掛け式のものである。砂袋は、ふたりがそれぞれ好きな量をバッグに入れて、残りは回収する。

本当の荷物ではなく砂袋なのは、本物を背負うと、食品や水は乾いたり傷んだりするし、何かが起こって荷物を捨てることになった場合の損失を防ぐためであった。

砂袋はマイルの手作りなので、材料費とマイルの手間は掛かっているが、他の荷物よりはずっと安い。所詮は、ただの砂袋なので……。

レーナも、そこは妥協したようである。

マイルには、自分を外して、3人でどんな会話が交わされたのか、何となく予想がついていた。だから、別に仲間外れにされたとは思っていないし、それについて尋ねることもない。

そのあたりは、レーナに任せることにしたのである。

色々と苦労したらしいレーナであれば、ちゃんと指導してくれるであろう。

少なくとも、マイルが自分の立場で偉そうに指導することではない。

それは、さすがのマイルにも何となく理解できていたのであった……。

* *

「……出遅れたわね……」

ギルド支部の依頼ボードを眺めながら、そんな言葉を漏らすレーナ。

そう、既にめぼしい依頼は全て他のハンター達に掻っ攫われた後であった。

あれだけ長い時間、『話し合い』をしていたのだから、当たり前である。

「「…………」」

普通であれば、他人事のようなレーナのその言葉に対して『誰のせいですか!』と怒鳴りつけそうなポーリン……普通はそんな言い方はしないが、誰かのせいで儲け損なった時のポーリンは、普通ではないので……であるが、さすがに今回ばかりはそんな言葉を口にする気配がなかった。勿論、メーヴィスも。

「仕方ありませんよ。じゃあ、今日は常時依頼と素材採取にして……」

「あ、『赤き誓い』の皆さん、ちょっと窓口まで来て下さい!」

マイルが今日の仕事を提案しかけた時、受注受付窓口からの、馴染みの受付嬢の声に遮られた。

4人が受付窓口へ行くと、受付嬢が真面目な顔で、小さく囁いた。

「指名依頼です。ギルマスのところへ行ってください」

「「「「…………」」」」

互いに顔を見合わせた後、こくりと頷く4人。

別に指名依頼を告げられるのは初めてではないし、それを受けたことも、断ったこともある。

つい先日の帝国行きにしても、『特別依頼』という言い方ではあったが、あれは殆ど指名依頼同然であった。

なので、今更指名依頼が来たことに緊張するような『赤き誓い』ではないし、問題がある依頼であれば、断れば済む話であった。

なのに、なぜ皆が真剣な顔をしているかというと……。

指名依頼というものは、依頼者が受注者を名指しで指名するというだけのことであり、依頼内容そのものの難易度とは直接の関係はない。金持ちが『有名パーティに指名依頼を受けてもらった』というステータスのために大したことのない依頼を出すこともあれば、財政難のパーティに、懇意にしている商人が指名依頼を出してやることもある。

なので、同じ『指名依頼』とは言っても、非常に困難なものもあれば、全然大したことのないものもある。まぁ、薬草採取やゴブリン討伐を指名依頼で出す者は、普通は存在しないが……。

そのため、指名依頼であっても、普通に窓口で受注するか、せいぜい、個室か仕切りのある半個室のブースで手続きを行う程度である。

……そう、それは決して、いちいちギルドマスターのところへ行くというようなものではなかった。

「……何か、問題のある依頼なんでしょうか?」

「ふざけた依頼なら、断るだけよ」

心配そうなポーリンに、そう答えるレーナであるが……。

「まぁ、話を聞いてみないと何とも言えないからね。とりあえずは、ギルドマスターのところへ行こう」

そう、メーヴィスが言うとおり、話を聞いてみないとどうにもならないのであった……。

* *

「「「「護衛依頼?」」」」

勝手知ったる、ギルドマスターの部屋。

……普通のCランクハンターは、そんなに何度もギルドマスターの部屋に入ることなどないのであるが……。

そう、それは、ただの学生が校長室や学長室の常連であるのと同じであり、そんなのは、余程の優等生か超問題児かの、どちらかであった。

そして、そこで聞かされた依頼内容は、護衛依頼。

魔物や盗賊は、いつ、どんな連中が襲ってくるか分からない。だから普通は、襲ってくる相手に合わせて護衛を選ぶ、というようなことはない。

貴族や王族、大商人等が敵対派閥や敵国の暗殺部隊に狙われて、などという場合には、勿論家臣や軍部、傭兵団等を使うので、少なくともCランク以下の普通のハンターに出番はない。

そう、普通であれば……。

「「「「……行き先は、エルフの里?」」」」

……そう、普通であれば……。