軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

425 合同受注 4

野営は、特に問題はなかった。

昼食の時は、いきなりであったため、少し動転しただけである。落ち着き、そして時間さえあれば、『赤き稲妻』時代も含めればマイル抜きでのハンター活動歴がかなり長いレーナにとって、装備不足での野営など大したことではない。

それも、大雨や強風の日とか、真冬の野営等に較べれば、テントやマントのない野営くらい、大したことはない。食事も、1日や2日くらい、栄養バランスなど気にせずに肉だけで充分である。

そのため、レーナとポーリンが石で超手抜きの簡易かまどを組み、木の枝に刺したホーンラビットの肉を炙る準備をしている間に、メーヴィスが手頃な木を切って、木皿とスープ皿を作ることくらい、簡単であった。

……さすがに、短剣でカップを削り出すのは難しいため、少し深めの皿が精一杯であったが、それで何の支障もなかった。

そして、昼食抜きでぺこぺこのお腹を鎮めるため、肉に 齧(かぶ) りつくレーナ達。

……そう、何の味付けもされていない、ただ焼いただけの肉に……。

まぁ、肉には肉自体の旨味があるし、焼かれ、溶けて 滴(したた) る脂混じりの肉汁には、甘みとコクもある。原始人も食べていた、伝統ある味なので、何の問題もない。

そして、手作りのスープ皿で飲む、味のない白湯。

一方、『ワンダースリー』は、小さな岩塩の塊を超小型のおろし金で 擦(す) ったり、乾燥させたハーブを細かく砕いたものを振りかけたりして、肉の味にアクセントを付けていた。勿論、飲み物はハーブティーである。

乾燥させたハーブの重さや体積など、無きに等しい。多少多めに持ち歩いても、どうということはなかった。

勿論、『赤き誓い』も、常に大量の調味料やハーブの類いを持ち歩いている。

……マイルの、収納魔法の中に入れて……。

寝床については、普通のハンターは別にテントを持ち歩いているわけではない。マントか防水布、ポンチョ(防寒、防風、雨具代わりにもなる貫頭衣)のようなものを持っている程度である。『ワンダースリー』も、身体の冷えやすい部分に軽く巻く程度の薄い防水布くらいしか用意していない。

……そう、普段の『赤き誓い』が異常なだけであり、野営など、草むらに乾いた枯れ草でも敷けば充分なのである。別に、テントや寝具の類いが無くとも、大したことはない。レーナも、そういう寝床で、何百回も……。

「……背中が痛いし、寒い……」

無意識のうちに自分の口から溢れ出た言葉に、愕然とするレーナ。

これが、ポーリンかメーヴィスの口から出たのであれば、苦笑するだけで済む。

しかし、ランクはともかく、経験年数は既にベテランの域に入っているはずの自分の口から、ポーリン達より先にその言葉が溢れ出たという事実は、レーナにとっては衝撃であった。

……堕落。

衰え。

格闘家やスポーツ選手が数カ月間自堕落な生活をすると、 鈍(なま) った身体、衰えた筋肉は、元には戻らなくなる。

そして、ストイックで強靱な、ベテランハンターの精神も、また……。

「ヤバい……」

レーナがぶるぶると震えているのは、決して寒さのせいだけではなかった。

そしてメーヴィスとポーリンは、『マイルがいないと不便だなぁ』という思いはあったものの、大した危機感は抱いていないようであった。そのこと自体が、とんでもない危機だということを認識することなく……。

* *

「今日は、接近戦の腕を見せてあげるわ!」

昨日の夕食時に炙っておいた肉を軽く炙り直したものと白湯、という簡単な朝食……『ワンダースリー』は、勿論白湯ではなくハーブティー……の後、レーナがそんなことを言い出した。

そう、『赤き誓い』には、マイル抜きでも、前衛職のメーヴィスがいる。

そしてメーヴィスだけでなく、ハンター歴の長いレーナのみならず、ポーリンもまた、杖術はみっちりと鍛錬している。自分の命に直結する自衛手段なのだから、当たり前である。

……しかし、マルセラ達は貴族や金持ちの子女が通うお上品な学園を卒業したばかりである。

前衛なしの、13歳の新米魔術師の少女が、3人。

魔法は、まぁ、いくら若くとも『才能』というものがある。

……それと、マイルの『実家の秘伝』。

しかし、ハンターというものは、いくら魔法の腕が優れていようが、近接戦闘の能力なしで生きていけるような世界ではない。

魔物との思わぬ遭遇だけでなく、盗賊による物陰からの襲撃、合同受注したパーティの裏切り、街道ですれ違う馬車の護衛や商人……の振りをした盗賊の、すれ違いざまの奇襲。その他、いくら探索魔法が使えても、至近距離での敵の先制攻撃を許してしまうことはある。

そのあたりを思い知らせて、『ワンダースリー』の力不足と、マイルにそのあたりの負担を全て押し付けることになるのだということを思い知らせる作戦であった。

レーナ、 大人気(おとなげ) ない少女である。マルセラ達はまだ未成年であるが、レーナはもう16歳、立派な成人であるというのに……。

「分かりましたわ。では、私達も同じように……」

マルセラの返事に、レーナとポーリンがにっこりと微笑んだ。

ポーリンも、レーナの魂胆はお見通しのようである。

そして、皆は荷物を纏め、本日の狩りへと出発した。

* *

「……まずは、向こうに先に近接戦闘をさせるわよ。魔物の一撃で大怪我をしないよう、相手はコボルトかゴブリンの群れあたりがいいわね。敏捷な敵が複数だと、いくら詠唱速度が速くても魔法だけじゃ追いつかないでしょうから、危なくなったら私達が介入して助ける、ってことで……。

相手がコボルトかゴブリンなら、攻撃を数発喰らっても大したことはないし、ポーリンとマイルがいるから、多少の怪我は問題ないしね。

それに、あの子達が怪我をしそうになれば、多分マイルが飛んで行くでしょうし……」

マルセラ達には聞こえないよう、小声でメーヴィスとポーリンにそう囁くレーナ。

そう、いくら攻撃魔法が得意であっても、森の中で、いきなり至近距離で魔物に出くわしたら。……前衛のいない、小娘だけのパーティなど、無力である。

それを思い知らせて、お嬢様がハンター生活を続けようなどという甘い考えをさっさと諦めさせてやり、それぞれが本来いるべき世界……貴族の社交界とか、商家の嫁とか……に戻してやるのが、本当の優しさであり、心遣いというものである。レーナは、そう考えていた。

そして、何度かオークやオーガ、ホーンラビット等を狩り、ちょっと高めの値段がつく薬草や夕食用の木の実を採取していた一行は、夕方前に、ゴブリンの集団に出くわした。

「1時半、ゴブリン7~8匹、急速接近中! おそらく、こちらに気付いての襲撃行動です!」

「「了解!」」

先頭を歩いていたモニカの報告に、驚いた様子もなく、平然とそう答えるマルセラとオリアーナ。

しかし、了解の返事をしたものの、呪文を詠唱する様子もなく、普通に歩き続けている。

「では、今回は私達の近接戦闘をお見せいたしますわ」

「「「え……」」」

あまりにも余裕の表情でそういうマルセラに、驚きの様子を隠せないレーナ達。

そう、マルセラ達は接近戦が苦手、と決めつけていたレーナ達は、接近戦とはいえ、マルセラ達は少し近付いたところで攻撃魔法を連打するだろうと思っていたのである。……それを、近接戦闘だと言い張って……。

マルセラ達が危機に陥りかけたら助けてやり、その後、自分達が本当の近接戦闘というものを見せつけてやる。

……そう考えていたのであるが、全く事前詠唱をする様子もなく、平然とした態度の『ワンダースリー』。

時間的余裕があれば、いくら無詠唱魔法を使えても、呪文は予め詠唱しておいた方がいい。しかし、声に出しての通常詠唱どころか、脳内での詠唱すらしている様子がない『ワンダースリー』に少し動揺しながらも、『ワンダースリー』の戦いの邪魔にならないように少し距離を取り、いつでも助けに入れるよう、脳内で単体攻撃魔法の呪文を唱えてホールドしておくレーナとポーリン。

メーヴィスは、魔法による介入はレーナとポーリンに任せ、自分は突入しての剣による介入を行うべく、抜剣して体勢を整えている。

そして数分後に、一行はゴブリンの群れと接触した。