軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

423 合同受注 2

「……じゃ、そろそろ始めましょうか……」

不機嫌そうな顔で、遭遇戦による討伐開始を宣言するレーナ。

勿論、昼食は抜きである。

あまり無駄な時間はかけられないのに、今から食用の獲物を狩って解体して、というわけにもいかない。 白湯(さゆ) だけでも、と思っても、カップもないのでは、飲みようがない。時間がない今は、断念するしかなかった。

さすがに、水は飲んだものの、カップも水筒もないため魔法で出した水を直接手で受けて飲んだため、大半が溢れてしまい、効率が悪いこと、 甚(はなは) だしい。

魔力が豊富な魔術師がふたりいるから大したことがないが、これが普通の魔術師ひとり、とかであれば、戦闘用に魔力を温存するため喉の渇きを我慢しなければならないところである。

しかし、まだ一日二食の者が多い中、一日三食を採用しており、ちゃんと朝食を摂っていたのは幸いであった。いくら満腹を避けるため少な目ではあっても、朝食を摂っていたならば、昼食を抜くくらいは大したことはない。事実、今までも、任務内容によっては昼食抜きのことも結構あったのである。

そう、『赤き誓い』の3人にとって、この件は、実は肉体的なダメージではなく、精神的なダメージが大きかったのである。

こんな簡単なことに、3人が、揃いも揃ってどうして気付かなかったのか。

マイルがついてこないならば、気付いていたかもしれない。しかし、マイルが一緒に来ると決まった 途端(とたん) 、『あ、いつものままだ』と思い込んでしまったのは、馬鹿にも程がある。

そして、夜には、夕食、そして野営が待っている。

さすがに、夕食まで抜くわけにはいかない。そして、明日の朝食も。

それは、明日の行動を大きく阻害し、下手をすると、思わぬ失敗に繋がりかねない。

そのためには、夜までには何とかしなければならない。

「メーヴィス、ポーリン、途中で食べられそうな野草か木の実があれば採取するわよ……。それと、メーヴィスには夕食前に木を削ってカップ代わりにできそうなものを作って貰うからね。だから、少し早めに野営準備を始めるわよ」

さすがレーナ、すぐに対策を立て、小声でメーヴィスとポーリンにそっとそう囁いた。

こくり。

そして、黙って頷くメーヴィスとポーリン。

自分達から野営の時間を早めたいと言い出すのは 癪(しゃく) であるが、やむを得ない。

マイルがよく言う、アレである。『背に腹はかえられぬ』というやつ……。

* *

「 角ウサギ(ホーンラビット) !」

「スルー!」

「狩るわよ! ポーリン!」

「はいっ!」

モニカが発見報告をした角ウサギを、マルセラはスルーするよう指示し、レーナは狩ると指示した。そのため、『ワンダースリー』は傍観し、『赤き誓い』の3人が即座に動いた。

ポーリンが風魔法で角ウサギの動きを止め、レーナが火災防止のため得意な火魔法ではなく氷魔法で危なげなく仕留め、メーヴィスが 手際(てぎわ) よく血抜きをする。

「「「…………」」」

黙ってそれを見ているマルセラ達であるが、勿論、皆、心の中では色々なことを思っていた。

(そんな、大したお金にならないものを狩っても……、あ、夕食用ですか……)

(その程度の獲物、もっと後で狩ればよろしいのに……。狩りを始めた早々に夕食用のものを狩っては、これから先、大物を探して行動するのに荷物になるだけですのに……)

(あ~、絶対に夕食抜きにはしたくないから、効率的な計画を立てる余裕がないのですね。 夕食(えもの) を目にした途端、絶対それを確保せねば、と思っちゃったわけですね……)

気の毒そうな顔で、黙って『赤き誓い』の行動を見ている『ワンダースリー』。

そして、その様子から、彼女達が何を考えているか、……つまり、焦った自分の判断ミスに気付き、顔を赤らめるレーナ。

そう、その程度のものは後で狩れるし、大物を仕留めれば、その一部を夕食に回してもいい。どうせ、高値で売れる部分しか持ち帰れないのだから。

少女6人で運べる量など、たかが知れている。だから、今日、明日で仕留めた獲物は、解体して、持ち帰れるだけの一番いい部分を氷魔法で冷やし、その他は捨てて帰ることになるのである。

冷却も、完全に凍らせるわけではない。低温で傷みを抑え、少し熟成が進む程度にしておくのである。あまり冷たいと、持ち帰る時に色々と厳しくなってしまう。

実際には、『捨てたことにした部分』はマイルが収納魔法で持ち帰り、その売却金はみんなで分けるつもりであるが……。

結局、もし後で獲物が狩れなければ、と心配した『赤き誓い』のために、余計な時間を潰し、余計な荷物を抱えることになった一行。

まぁ、荷物を抱えることになったのは、元々手ぶらであった『赤き誓い』なので、マルセラ達には別に文句はなかったのであるが、レーナ達は、昼食時に続く自分達の失点に、かなり気落ちしているようであった。

「前方、オーク3! 1時半、130メートル!」

モニカの小さな、しかし鋭い声に、反射的に立ち止まった6人。

「……どうして分かるのよ! マイルじゃあるまい……し……」

文句を言い掛けたレーナの声が、途中で小さくなり、途切れた。

そう、それは、『マイルが自分からはレーナ達に教えようとは言い出さないため、レーナ達から要求することもできず、マイルひとりだけが使える魔法』であった。

そう、そのはずの、魔法であった……。

「「「…………」」」

暗い。

『赤き誓い』の3人の表情が、暗かった……。

「行きますわよ!」

「「おおっ!」」

小さな、しかし元気な声で気勢を上げ、姿勢を低くして、たっ、と素早く移動する『ワンダースリー』と、はっとして、慌ててそれに続く『赤き誓い』。

(しまった……)

そして、マルセラ達に『魔法の真髄』による魔法を秘匿するよう言い忘れたことを後悔する、マイル。

いや、魔法の使い方を教えないように、とは、勿論釘を刺してある。しかし、人前で大っぴらには使わず、この手の魔法の存在そのものを秘匿せよ、という言い方はしていなかった。そして、まさか独自に探査魔法を開発していようなどとは、思ってもいなかった……。

そして、レーナ達はマイルのパーティメンバーである。当然、マイルが使う異常な魔法のことは知っており、そしてそれらを教えられているであろうとマルセラ達が考えるのは当然であった。……ならば隠す必要はない、と。

そう、確かにその通りであり、レーナ達はマイルの探査魔法のことは知っている。何度も目の前で見せられ、そして何度も助けられている。だから、その魔法を目にしても、別に驚くことはない。

……ただ。

自分達が教えてもらえない、マイルの実家の秘伝中の秘伝を、マルセラ達は教えられている。

それは、マイルの想像を遥かに超えて、レーナ達にショックを与えていた。

そして、ショックを受けたレーナ達がちらりとマイルの方に目をやると、マイルが後ろめたそうな顔をしていた。

そのことが、レーナ達を更に傷付けた。

……せめて、いつものように馬鹿面をしてくれていれば。

何も気付かず、ぽかんとした顔をしてくれていれば。

先行する『ワンダースリー』とも、最後尾のマイルとも少し距離があいた瞬間に、レーナが小声でメーヴィスとポーリンに自分の考えを伝えた。

「アイツらは、弱い。だから、強い魔物を回避するために必要だった。なので、マイルがアイツらから離れる時に、あの魔法を教える必要があったのよ。

でも、私達は強いし、マイルは私達から離れない。なので、私達には、本当は絶対に他者に教えることは許されていないはずのあの魔法を教える必要はなかった。ただ、それだけのことよ!」

こくり

こくり

レーナの言葉に、黙って頷くメーヴィスとポーリン。

そう。

きっと、そうに違いない。

そして……。

「ソイル・スピアー!」

「アイス・ネイル!」

「ウォーター・カッター!」

どすっ!

ぶすぶすぶすぶすぶす!

すぱ~ん!

「「「え……」」」

「ソイル・スピアー!」

戦闘力は完全に失ったものの、即死には至っていなかった1頭に、モニカが 土の槍(ソイル・スピアー) でとどめを刺した。最初の攻撃から、殆ど間を空けずに放った2撃目で。

それは、頭の中で高速詠唱したにしても、あまりにも早い2撃目であった……。