軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

421 争奪戦 5

「ここが、お風呂です!」

「「「おおお……」」」

感激に、声を震わせるマルセラ達。

前回この町に滞在したのはほんの数日間だったため、途中でマイルを捜すために宿替えをしたりしたものの、この宿屋には泊まっていなかったらしい。

「ここが、更衣室……、あ!」

マルセラ達に説明しようとして、何やら思い付いたらしいマイル。

「あの~、皆さんに、『清浄魔法』をお教えしようかと思うのですが……」

「『清浄魔法』? 何ですの、それは?」

「えと、衣服や身体を綺麗にして、清潔を保つ魔法です。これを使えば、洗濯したりお風呂に入ったりしなくても……、ひいっ!」

「……」

「「…………」」

「「「………………」」」

「「「どうして、その魔法を教えてくれなかったのですかああああああぁっっ!!」」」

「あわわ、すっ、すみませんでしたああああぁっっ!!」

いくら心を許した親友であっても、世の中、許せないことはある。

ハンターなのだからと割切って、涙を飲んで捨て去り、ドブに叩き込んだ『乙女の尊厳と恥じらい』。

……それが。それが、捨てる必要のないものだったと?

マイルが、その便利な魔法を自分達に教えるのを忘れてさえいなければ……。

「モニカさん、オリアーナさん、『くすぐりの刑』ですわ!」

「「はい!」」

がしっ!

がしっ!

マイルの両腕を掴み、肩を押さえるモニカとオリアーナ。

そしてマイルの脳裏に、2年前のことが甦る。地獄の折檻、罰ゲームの記憶が……。

「や、やめ、やめ……、嫌ああああぁ~~っっ!!」

「「「「ぜぇぜぇぜぇ……」」」」

息も荒く、疲れ果てた様子の4人。

ボロボロで汗だくである。

「……まぁ、今からお風呂に入るのですから、よかったですわね……」

そう、風呂上がりであれば大惨事であるが、入浴前であれば、どうということはない。

「加害者が言いますかあああぁっっ!」

そして、気を取り直して、3人に衣服の清浄魔法と身体の清浄魔法をレクチャーする、マイル。

そのふたつの魔法は、同じ『清浄魔法』であっても、微妙に異なるのである。

身体の方は、衣服と違って除去するものと除去してはいけないものの境目が微妙であり、『身体以外の余計なものを全て分解消去する』ということにすると、体表に付着している善玉菌やら皮膚を守るための脂、皮脂膜、角質等、残すべきものも全部、綺麗さっぱり消去されてしまう可能性があるからである。

但し、急ぎの時や適当でいい時は、微妙な『清浄魔法による、汚れの分解消去』ではなく、ただの洗浄魔法として、身体も衣服も同時に泡に包まれてしゃわしゃわと洗ってから水で流して乾燥させる、という荒技もあるが……。

マルセラ達は3年前、マイルと出会ってすぐに『魔法の真髄』を教わっており、その後の1年2カ月はマイルと共に、そしてその後は3人で様々な研究と研鑽を重ねてきたのである。マイルからひととおりの説明を聞いただけで、すぐに『清浄魔法』と『洗浄魔法』を修得した。

「こ、こんなに簡単に……」

「わ、私達の、旅の間の、あの苦しみは……」

「…………」

再び、ギロリと睨まれて、思わず首を竦めるマイル。

「ご、ごめんなさいぃ……」

そして、お風呂である。

いくら魔法で身体が綺麗になっても、お風呂は、また別である。

お湯を被り、湯船に 浸(つ) かる。

そう、お風呂は、別に身体の汚れを落とすだけのために入るものではない。

体を洗うことの他に、リラックスする、癒されたい、心も身体も温まりたいという、様々な目的がある。

身体を洗うのにしても、発汗により毛穴の中の汚れや老廃物を流すとかの、水で洗ったり魔法で洗浄したり、そして洗面器のお湯とタオルで擦ったりするのとは違った効果があり、お風呂にしかない良さがあるのである。

「ふあぁ~、気持ちいいですわぁ~~……」

練習を兼ねて清浄魔法で身体を綺麗にしたものの、一応のマナーとして、ちゃんとかけ湯をしてから湯船に入った、4人。今は『赤き誓い』が滞在しているため、仕切り板は外して浴槽全てを開放しているため、4人くらいは楽々入れる。

そして、かけ湯は、体の汚れを落としてから入浴するというマナーだけの問題だと思われがちであるが、実は、風呂の温度や刺激に体を慣らすためという大切な意味がある。これで、入浴中の脳卒中や心臓発作が防げるのである。いくらみんなまだ若いとはいえ、身体に余計な負担は掛けない方が良いであろう。

4人一緒にお風呂に入るのは、学園の大浴場以来である。

……そう、マルセラ達3人はともかく、マイルとは2年振りである。

じ~っ。

じ~~っ。

「「「「…………」」」」

ふっ、とマイルから眼を逸らす、マルセラ達。

「何ですか! その、憐れみの眼は、何ですかああああぁ~~っっ!!」

マイル、激おこ。

しかし、仕方ない。

マルセラ達は、3人共、この2年間の成長が如実に表れていた。

……特にその、胸部に。

そして、マイルは……。

「……」

「「…………」」

「「「………………」」」

「うがああああああぁ~~!!」

浴室に、マイルの悲痛な叫びが響くのであった……。

* *

「どうして、あんただけそんなにげっそりしてるのよ……」

お風呂から戻ってきた4人のうち、マイルの様子に、怪訝そうにそう尋ねるレーナ。

「レーナさん、一緒にお風呂に入りましょう……」

「え? あんた今、その子達と一緒に入ってきたばかりじゃ……」

……そして、マイルの顔、マルセラ達の顔を見て、そしてその視線を辿り……。

「あ、あんた、ま、まさか……」

そして、全てを察したレーナ。

「私を見て、気を取り直そうってつもりかああぁ! アンタより大きいわよ、ふざけんなアアアァ!」

醜い争いが始まってしまった……。

困惑するマルセラ達であるが、メーヴィスとポーリンは慣れたものであり、動じた様子もない。

そして、メーヴィスがポツリと呟いた。

「争いは、同じレベルの者同士でしか発生しない……」

そう、それは、ミアマ・サトデイルの小説によく出てくる一節であった……。