軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

396 撤 収 1

「では、あの時の貸しを返していただきます」

『え?』

マイルの突然の言葉に、きょとんとした顔のケラゴン。

「いえ、前回、一方的に私達を殺そうとされたにも拘わらず、命を助けてあげて、しっぽまでくっつけてあげましたよね? まさか、それを『借り』だとは思っていないとか、そんな恥知らずな古竜がいるわけありませんよね、誇り高き古竜ともあろう者が……」

『うぐっ、も、も、勿論である! そのような者が、我ら古竜の中にいようはずがない!!』

それを聞いて、マイルがにやりと嗤った。

(計画通り……)

「あ、なら、私からもひとつ、お願いが……」

ポーリンが、マイルに便乗して、何やら企んでいる模様。

レーナとメーヴィスは、ただ、肩を竦めるだけであった。

* *

「あ、あれは何だ!」

「 飛竜(ワイバーン) ? ……い、いや、違う! あ、あれは……」

「「「「「古竜だああああぁ~~!!」」」」」

亜人達が占拠している地域を監視している帝国の兵士達の駐屯場所に、一頭の古竜がまっすぐに飛来してきた。

兵士達は、大騒ぎである。

何しろ、ずっと昔から国内に古竜の住処を抱えてきた国なのである、古竜の御機嫌を損ねて一個師団が壊滅したとか、ひとつの領地が無人の荒れ地になったとかいう逸話には事欠かない。

そして、知略を尽くし、多大な犠牲と引き替えに古竜を倒したとしても……。

『うちの子供を殺したのは、お前達か……』

とかいって多数の古竜がやってきて、全てが終わる。

そうして、王家が滅亡して支配者層がごっそりと入れ替わったことが何度かあるのである。なので、古竜に手出しする者など、この国にはひとりもいなかった。

……古竜が来たなら、土下座して謝り、それで駄目なら、他の者達に迷惑がかからないよう、黙って殺される。それが、この国に住む者達の義務なのであった。

そして今、古竜がやってきた。

兵士達には、硬直し、呆然と立ち尽くす以外に道はなかった。

古竜は、真っ直ぐに飛来し、……そして、兵士達のところへ到達する前に、少し手前で着陸した。

岩や木々に隠れて姿が見えなくなったが、どうやらこちらへ来る気配はないようであった。

「「「「「「…………助かった……、のか?」」」」」」

古竜が降りたのは、亜人達が占拠している区域であった。

そして、それからしばらく経って……。

「古竜、飛び立ちました!」

ずっと古竜が着陸したあたりを見張らせていた者が、叫ぶようにそう報告してきた。

よし、何事もなく帰ってくれる!

皆がそう思った時……。

どすん!

やってきた方向ではなく、こちらに向かって飛んだ古竜は、僅か数秒で兵士達の前へと降り立った。

『指揮官は誰だ?』

((((((終わった……))))))

皆がそう思ったが、もはやこうなっては、ここにいる者達全員の命を差し出して、帝国の臣民達への被害を食い止める以外に方法はない。古竜と関わってしまった時の、その自己犠牲の精神は、全ての帝国の民が、魂に刻み込んでいた。……それが、たとえどのような悪人であろうとも。

数人の人間を平気で殺す者は、いくらでもいる。

数十人を殺す者も。

そして、数百人を殺す者も。

しかし、数万、数十万の人々が自分のせいで死に、祖国が滅亡する。文字通り、死の荒野と化して。そして勿論、自分の家族も親族も、友も同僚も恩師も近所の人達も。自分が知っており、そして自分のことを知っている全ての人間、いや、全ての生物が、皆、死ぬ。『あいつのせいだ!』と、憎悪の全てを自分に向け、呪詛の言葉を喚き散らしながら……。

それに耐えられる者が、果たして何人いるというのか。

……なので、黙って死ぬ。抵抗すらすることなく。

それが、ここ、帝国に住む者達の常識なのであった。

「ここの責任者は、私でございます」

なので、指揮官はそう言って歩み出た。

既に心は、凪の日の、鏡のような水面の如く穏やかであった。

……おそらく、全てを諦め、悟りを開いたかのような状態なのであろう。うっすらと、笑みさえ浮かべている。そう、今まで古竜の怒りを 鎮(しず) めるための人身御供となった、大勢の 先達(せんだつ) たちと同じように……。

そして指揮官をじろりと見た古竜は、その言葉を告げた。

『この先の岩山に別荘を作ったから、近寄るな。岩山にさえ立ち入らなければ、この街道を使うこと等は問題ない。よいな?』

「……は、はぁ?」

『よ・い・な?』

「は、ははぁ~っ!」

良いも悪いもない。

そして、自分が独断でそれを了承しても、全く問題はない。

古竜とのトラブルを被害なしで収めるなど、勲章モノ、いや、叙勲どころか、叙爵、爵位の授与さえ夢ではない、救国の大英雄である。少なくとも、この行為が処罰や叱責の対象となることだけは、絶対にない。

『では、さらばじゃ!』

そう言って、南東、古竜の里がある方向へと飛び去っていったケラゴン。

「「「「「「た、たたた、助かったああああぁ~~!!」」」」」」

歓喜の声は上げたものの、飛び跳ねて喜ぶような気力は欠片も残っておらず、その場にへなへなと座り込んでしまった兵士達であった……。

そして、隠蔽魔法で姿を消してその様子を眺めていたマイルが、にやりと笑って呟いた。

(計画通り……)

* *

「ということで、帝国の兵士達がここに来る確率は、かなり低いのではないかと思います」

「絶対来ないわよ!」

「来ませんね」

「来ないだろうねぇ……」

マイルの報告に、呆れたような顔でそう言うレーナ達。

「「「「「…………」」」」」

そして勿論、呆れ果てて言葉もない亜人達であった。

「あとは、帝国兵達とぶつかって揉めないように、皆さんが少人数のグループに分かれて夜間にこっそりと撤収されれば、解決です。ゴーレム達も、帝国兵にちょっかいを出されることなく、平和に暮らせるでしょうし……」

「兵士どころか、誰ひとり来ないわよ! 周辺地域立ち入り禁止の命令が出るに決まってるでしょうが! 多分、一歩でも立ち入れば打ち首、とかいう強烈な命令が……」

「うん、まぁ、下手すれば国が滅ぶのだから、それくらいは当然だろうねぇ」

レーナとメーヴィスが、呆れたようにそう言って、肩を竦めた。

「……え? それじゃあ、古竜を二度も半殺しにしたマイルちゃんって、マズかったんじゃあ……」

「「…………」」

ポーリンの言葉に、今更それを言うか、と、がっくりと肩を落としたレーナとメーヴィスであった……。