軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

389 防衛戦 3

「何、嗜好品の販売だと? 勿論、構わないとも! 兵士達の良い気分晴らしになるだろう。

……但し、あまりボッたくってやらんでくれよ。

で、酒とつまみはあるか? 先に、旨そうなやつを少し売ってくれ!」

こういう世界の最前線の兵隊など、こんなものである。

いや、悪い意味ではなく、危険度が小さい時には兵士に息抜きをさせてやるのは大事なことであり、現代地球においても、軍の基地や艦艇においては、酒保やら基地内の 売店(Exchange) で嗜好品を販売しているところは多い。

なので、わざわざこんな危険な僻地までそれらを運んできてくれたとなると、軍の士官としてはありがたく、感謝してしかるべきものであった。……あまり暴利価格にされなければ。

そういうわけで、上級士官からの許可は簡単に取れ、早速店開きをする商人達。

『 偉い人達(うえのほう) 』の話は、別のチームの担当である。このチームは、あくまでも『 市井(しせい) の噂』を集めるのが担当任務なのである。

軍人は 市井の人(しょみん) ではないかもしれないが、下っ端の兵隊など庶民と大して変わらないから、問題ない。

敵の数はそう多くないとはいえ、魔族と獣人は、個人の戦闘力としては一般的な人間の兵士を大きく上回る。数と武器の力で押し潰せるであろうと信じてはいても、それなりの被害が出ることは確実であり、その『被害』というのが自分の命である確率はそう低いわけではない。そう、文字通り、『明日をも知れぬ身』なのである。

そんなところへ持ち込まれた、最前線で手に入るとは思えない上等な酒とつまみ、その他の嗜好品。そして、若い成人女性ふたりと、自分の娘や妹達を思わせる未成年(と思われる)の少女ふたり。

……飲食物を買って、そして話し掛けるに決まっている。

「おじさま、国民のために、お仕事御苦労様です!」

「おにいちゃん、お仕事頑張ってね!」

マイルの指導の下、レニーちゃんの宿で鍛えた、日本式接客術は無敵であった。

そして自分達から商人に『販売を手伝う』と言い出したマイル達は、着実に情報を収集するのであった。

* *

夕食を食べながら、検討会を行っている『赤き誓い』の4人。

雇い主の商人や御者達も、マイルが作った料理を食べながら話を聞いている。勿論、御者達も商人と同様『その方面の者達』なので、話を聞かれても問題ない。

「ふむふむ、やはり状況が少し違うようね……」

「ああ、前のパターンだと、人が立ち入らない僻地の遺跡を調査、という感じだったから、こっそりとやるものだと思っていたのに……」

「はい、ヴェブデルさんのお話は、歪んで尾ひれが付いた、不正確なものとして話半分に聞いていましたけど、結構正確な情報でした……」

そう、『亜人達が自分達の居住地域ではない場所を突然占拠した』、『そのあたりに住んでいたヒト種を強制的に追い出した』という話。特に後半の方は、 偽情報(ガセネタ) だと思っていたレーナ達であるが、兵士達から聞いた話では、どうやらその通りらしいのである。

兵士達は、自分達が国民のために正しいことをしていると思っているから、民間人であるレーナ達に隠すどころか、少女達の歓心を買うためにどんどん積極的に話してくれたのであった。

士官達にしても、国民を護るための正義の戦いであり、他国に対する『正当な防衛行動である』というアピールのためには、事実を拡散することは何の問題もないどころか、大歓迎であったのだ。

他国への奇襲とか、通商破壊のために民間人を襲うとかいう汚い任務に較べて、それは何と心躍る、意義のある任務であろうか。たとえ死の危険が何倍も高い任務だとしても、軍人として、何とやり甲斐のある、命を懸けるにふさわしい名誉ある任務であることか!

……というわけで、一般兵達と話しているポーリンとメーヴィスのところへ割り込んで、鼻息も荒く熱弁を振るう下士官や初級士官達も多かったのである。

なぜポーリンとメーヴィスのところなのか。

それは勿論、成人していると思われるのがこのふたりだけであり、大きさが許容範囲内であるのもまた、このふたりだけであったからである。

……レーナとマイルの機嫌が悪かったのは、言うまでもない。

「で、このあとは……」

「勿論、先へと進んで、亜人達に会うわよ」

そう、元々、そのつもりであった。わざわざここまで来て、兵士達の話を聞いただけで帰ったのでは、意味がない。それくらいの情報であれば、他のチーム達が集めているだろう。帝国側が公表している、一方的な言い分だけであれば。

マイル達がここへ立ち寄ったのは、馬車だと街道から外れて走るわけにはいかないためどうしても軍の駐留場所を通らねばならないことと、そこを突っ切って『問題の場所』へ向かおうとすれば必ず止められて取り調べを受けるであろうと思われたからであった。

……まぁ、前方に位置する敵のところへ物資を積んだ馬車が向かうとなれば、そりゃ止めて調べるであろう。馬鹿でなければ。

そういうわけで、ここにいる軍隊に顔を出して軽く 挨拶(しょうばい) をして、『帝国の兵士達がどういうふうに説明されているか』を確認した後、するりと先へ進むつもりであったのだ。

今ここにいるのは、軍隊とはいってもたかが数十~数百の亜人相手の兵力なので、そう大規模なものではない。

一応、帝都では万一の場合、つまりこれが引き金となって帝国中の亜人との対立や他国に住む亜人達、更には亜人との全面対立を危惧した他国のヒト種との戦いとなることを危惧しての準備が進められているらしいが、今現在、実際にここへ派出されている兵力は大したことはなかった。

なので、割と簡単に考えているマイル達であった。

「しかし、私達が報告した古竜や魔族、獣人達のことは、この国の上層部には伝わっていないのでしょうか?」

「敵国にわざわざ役に立つ情報を教えてやる馬鹿はいないわよ」

「あるいは、知らせたけれど信用されなかった、という可能性もあるしね。何らかの 欺瞞(ぎまん) 情報、 攪乱(かくらん) 情報だと思って……」

「あ~……」

レーナとメーヴィスの答えに、納得するマイル。

「でも、ギルド支部は……」

「ギルドは国のやることには口出しできないわよ。ま、もしアドバイスしたとしても、他国が流した欺瞞情報だ、のひと言で終わるかもしれないし」

ポーリンの疑問も、レーナのひと言で終わった。敵対国から意図的に流された裏の取れない情報など、どう判断すれば良いか分からず混乱を招くだけ、として完全に無視されるのは、別におかしくはない。事実、わざとそういうことをする国は結構あるのだから。なので、さすがにそこは責められない。

「じゃあ、とにかく、明日は先へと進むわよ」

「「「おお!」」」

レーナの言葉に、いつものように声を揃えて返事する3人。

……実は、商人達には、帝都を出発する前に了承を得ている。

商人達は、勿論『赤き誓い』が古竜と初めて会った事件、つまり『古竜が獣人達との和解の仲立ちをしてくれた件』についての話をギルドマスターから聞かされていたため、マイル達の『どうも、この件はあの事件と同じもののような気がする』という話を素直に信じてくれた。

そのため、本来であれば帝国軍の兵士達から『一般兵は上の者からどのように聞かされており、それをどう思っているか』という調査だけで引き揚げ帰国するところを、『赤き誓い』がやりたいようにやらせてくれる、ということとなったのであった。

そして翌朝。

「では、私達はこれにて失礼致します」

商人達が士官に挨拶し、馬車に乗って、出発……

「待て! 待て待て待て待て待てええぇっっ!!」

動き始めた馬車の前に全速で回り込み、馬車の行く手を塞いだ士官と、慌ててそれに追従した数名の兵士達。

「どっちへ行こうとしている、どっちへ! そっちは亜人達が占拠している方だ、帝都は反対だぞ!!」

「あ、ハァ、それが何か?」

血相変えてそう怒鳴る士官に、商人が済ました顔で答える。ここで護衛のハンターが答えるのはおかしいので、受け答えは商人達にお願いしてある。

「何かも何も、民間人が敵地に行ってどうする!」

「いえ、軍人さん達にとっては敵かもしれませんけど、私達は別に誰とも敵対していませんし……。別に、盗賊というわけではないのでしょう、この先にいる方々は。

私共はただ、この山間部を抜けて大回りして海岸部へ出て、そこで海産物を仕入れて国に戻ろうと考えているだけですので……」

うっ、と言葉に詰まる士官。

確かに、亜人達は別に盗賊行為を行っているわけではない。ただ、一定区域を占拠しているだけであり、そのためにこうして軍を張り付けているものの、政治的な配慮から手を出しかねており、上層部の判断待ちの状態なのである。

しかし、だからといって、民間人が危険な場所へ行こうとしているのを看過することはできない。それも、若い女性や少女達がいるというのに……。

「積み荷も、『盗賊の取り分』(盗賊に襲われた時に空荷だと、いくら多少のお金があっても腹を立てた盗賊に馬車を壊されたり殺されたりする場合があるため、機嫌取り用に盗賊の獲物用として積んであるお酒と食べ物)が少しあるだけなので、万一亜人達に襲われて奪われたとしても、利敵行為になるほどのこともありませんし……」

「いや、しかしだな!」

そういって揉めていると、何やら少し偉そうな階級章を付けた士官がやってきた。

「何だ! 朝っぱらから、一体何を騒いでおる!」

商人と揉めている士官が少尉か中尉くらいだとすると、その士官は少佐くらいの階級に当たるようであった。

「お前達、せっかくこんなところまで来てくれたという商人に、何を……、って、ああっ、聖女さまっっ!」

レーナ達を見た士官が、突然大声で叫んだ。

「「「「……誰?」」」」

そして、怪訝そうな顔でそう聞く、『赤き誓い』。

「わ、私は、ブランデル王国からの死の撤退戦で聖女様方にお助けいただいた……、って、その少女は?」

そう言って、マイルの方を見る士官。

「「「ロバよ」」」

「あ~……」

確かに、マイルはあの時、ロバの姿しか見せていなかった……。