軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

380 帝国での依頼 1

「ふむふむ、護衛対象は商家の家族、と……」

「まぁ、貴族とかだと、家臣や領軍の兵士とかがいますし、ハンターを護衛に雇ったりはしませんよねぇ。そして普通の平民は、身辺警護のために護衛を雇うような理由も、そんなお金もないですから……」

「必然的に、金持ちの平民、つまり商家や街の有力者、ということになるか……」

マイルに続き、ポーリンとメーヴィスがそんなことを言っているが、勿論、貴族が護衛にハンターを雇うこともある。出先で急に危険に遭遇したとか、追加の護衛を一時的に必要とする事態となったとか、護衛が必要であるが娘に男を近付けたくないとか、護衛には見えない者を隠れ護衛として付けておきたいとか。

……そう、『ワンダースリー』が請け負っていたような需要である。

しかし、今回の依頼人は貴族ではないようなので、そんなことは関係ない。

「はい。相手の名や詳細は、予備説明を聞いて乗り気になられた場合にのみお教えいたします。そして依頼内容の詳細については、直接依頼主からお聞きいただくことになっております」

受付嬢がそう説明してくれたが、当たり前であろう。依頼を受けるかどうか分からない者に、商家の事情や行動予定をぺらぺらと喋るはずがない。下手をすると、それが襲撃を招くことになりかねないのだから……。

「分かったわ。今聞いた依頼の概要で問題はないから、乗り気、ということで話を通して頂戴」

レーナの返事に、受付嬢が、ほっとしたような表情を見せた。

対象となるパーティの条件が非常に限られ、そう大した報酬額でもなく、商隊の護衛ならばともかく、商家の家族の警護をするという退屈な仕事。

……襲撃でもあれば退屈はしないであろうが、それはそれで、ひとり当たり僅か小金貨2枚半で、護衛付きの者を襲うような連中と戦うのは、割が合わない。これはあくまでも、何かが起こる可能性は殆どない、という場合の報酬額である。

なので残ってしまった依頼なのであろうが、その期日が迫っており、このままであれば、受注者なしとして『流される』こととなる。それは、依頼主にとっては大問題であるし、ギルドにとっても好ましいことではない。

商人からの採取依頼とかであれば、それが急ぎで、かつ人命に関わるような特殊な薬草とかである場合を除けば、受ける者がいなくて依頼が流れても、大したことはない。

しかし護衛依頼であれば、受ける者がいなかった場合、その依頼主が行動できなくなったり、護衛なしでの危険な行動を強いられることとなり、人命に関わることとなる。受け手が現れたことを、受付嬢が喜ぶわけである。

しかし、『赤き誓い』は、まだ依頼を受けたわけではない。情報が不十分である予備説明を聞いた段階においては受けることに問題がないと判断しただけである。なので、これから聞く詳細説明によっては、断る可能性も充分にあった。

しかし、予備説明をクリアして依頼主のところへ送り込めた時点で、ギルドとしては一応の面目は立つのであろう。詳細説明で断られた場合、それは、依頼主の自己責任である。説明の仕方が悪かったか、断られるような条件を提示したわけであるから、それは、ギルドのせいではない。

* *

あの後、ギルドから依頼主へとメッセンジャーが走り、顔合わせの場所と時間が知らされた。

そして、この場所へとやってきた『赤き誓い』であるが……。

「ようこそお越しくださいました、私がこの依頼を出しました、ヴォレル商会のヴェブデルと申します。よろしくお願いいたします」

「Cランクパーティ、『赤き誓い』です。詳細説明を伺いに来ました」

中年の、まだそれほど腹が出ていない商人に、型どおりの挨拶をするメーヴィス。パーティの『誠実さ』を強調したい時の交渉役は、勿論メーヴィスである。

……それ以前に、『パーティリーダーである』ということもあるが……。

商人の説明によると、他の商家の家族と一緒に、親睦のために交遊会を行うらしいのである。

場所は、帝都の街門から出てすぐの場所にある、川のほとり。そこで、川辺で水遊びをしたり、一緒に野外での食事会をして両家が家族ぐるみで交流を深めるというイベントらしい。

帝都の店で食事をするだけ、というのではなく、家族ぐるみで一緒に遊び、日常から離れた場所で共通の経験をすることが、互いの繋がりに、そして子供達の良き経験になると考えたらしい。おそらく、友人家族との合同キャンプ、とかいうノリなのであろう。

わざわざ護衛を雇ってまで、と思わないでもないが、お金に困っていないならば、友人家族との交流や子供達の情操教育のためにお金を使うのは、悪いことではあるまい。

「両家は、扱っている品目が似通っておりまして、まぁ、言うならばライバル同士なのですが、仕事とプライベートは別ですからね。商売では敵同士でも、別に人間として憎しみあっているわけではありません。仕事を離れれば、同じような苦労や悩みを抱えている、同業者同士ですからね」

なかなか、人のできた商人達のようである。

そして依頼内容は、いくら帝都の近くとはいえ街門を出た場所では多少の危険があるかもしれないからと、交遊会の間の警護を頼みたい、とのことであった。

向こうの家族も警護の者を雇うことになっているが、『あまり 強面(こわもて) のむさいハンターに囲まれていては、女子供が怯えてしまう』とのことで、雇うハンターは女性にしよう、との提案が先方からなされたらしい。

確かにそのとおりであるため、ヴェブデル氏もそれに同意し、こういうことになったとのこと。

何のおかしなところもなく、納得できる説明である。ハンターの多くは粗野で下品、かつ少々不衛生で臭い。そういう催しにおいて、近くにいて欲しいと思えるようなものではなかった。

また、護衛はどちらかが雇うのではなく、それぞれで雇うというのも、勿論何のおかしなところもない。金銭負担という点においても、『そこまで相手を信用しているわけではない』という点においても……。

いくら友好関係にあっても、やはり商売敵は商売敵である。自分だけであればともかく、妻や子供達の安全がかかっているとなれば、やはり護衛は自前で用意するのが当然であった。

「……問題はないわね。それで、ちゃんと警護任務を果たしていれば、私達も料理を食べてもいいかしら? 勿論、そっちの料理を食べさせろ、って言うんじゃなくて、こっちで勝手に料理して食べるから。食材や調理器具なんかも全部自前で用意するわよ。

別に、護衛のハンター達は周囲にずらりと並んで、剣や杖を構えてずっと立ちっぱなし、とかいうわけじゃないんでしょう?」

「勿論です。万一魔物や賊が現れた時に対処していただければ、それで充分です。……尤も、そんな可能性は殆どありませんけれど……」

確かに、帝都を囲む城塞の外であれば、危険が皆無、というわけではない。しかし、こんなに帝都のすぐ側で、賊や魔物がそうそう現れるとは思えない。ハンターを雇うのは、あくまでも、保険代わりのようなものである。

それと、護衛が全くいない場合、賊とまではいかなくとも、4~5人のならず者がちょっかいを掛けてくる可能性はある。そういう場合、数人の護衛がいれば、そういうのが寄ってくることを防ぐことができる。……まぁ、『虫除け』代わりである。

レーナの質問に対する答えを聞いて、マイル達はにんまりと笑った。

そう、仕事とレクリエーションを兼ねた、一石二鳥である。

「「「「この依頼、お受けします!!」」」」

それ以外の返事は、あるはずがなかった。

そして翌日の昼前。

ヴォレル商会の前で依頼主一家と落ち合った『赤き誓い』は、交遊会の現場である川辺へと向かった。

商会側は、商会主夫妻、全員がまだ未成年である息子ふたりと娘が3人、そして使用人が数名ついている。

当然ながら、いくら商人家族の交流会とは言っても、両家の家族と護衛だけ、というわけではない。羽振りの良い商家の商会主一家が、自分達で食材や調理器具を運んだり、現地で調理をしたりするはずがない。なので、商家の使用人やメイド達がついている。

馬車3台に分乗し、正門ではなく、裏門から帝都を囲む城塞を出て、少し行ったところにある川辺に到着。既に相手側は先に到着しており、同じく3台の馬車が駐めてあり、荷を降ろしていた。

「お待たせしてすみません、ガレイダルさん!」

「いえいえ、私共も今来たばかりですよ。それに、まだ約束の刻限にはなっておりませんから」

駐めた馬車から降りたヴェブデルに声を掛けられ、そう返事する相手側の商人、ガレイダル。

向こう側も、妻子と護衛のハンター、そして使用人達を連れている。

向こうの護衛ハンターも、約束通り皆女性であり、5人パーティのようであった。年齢は『赤き誓い』より上であり、20代後半から30代前半であろうか……。

尤も、護衛依頼は普通はCランク以上指定であり、『赤き誓い』より年下のCランクパーティなど、そうそうあるものではないので、これは当然のことであるが。

そして商人の家族同士が挨拶をしていると、向こうの護衛ハンター達が『赤き誓い』のところへやってきた。

「あなた達がそちらの商人の護衛ね。若いし、見ない顔だということは、修行の旅の途中かしら?

ま、今日はよろしくね。こういう形だから、合同受注した仲間、ってわけじゃないけど、ま、仲良くやりましょ!」

「は、はい、よろしくお願いします!」

パーティリーダーらしき女性にそう挨拶され、慌ててそう返すメーヴィスと、それに合わせて頭を下げる3人。ハンターとして、そして女性パーティとしての先輩に対して、当然の礼儀である。

しかし、共同受注というわけではないので、互いの戦闘スタイルを教え合ったりはしない。

……それどころか、パーティ名も名乗らずに、さっさと引き揚げるリーダーの女性。そんな必要はない、と判断されたのであろう。

まぁ、メーヴィスも、わざわざ説明する必要はないと判断して、自分達が修行の旅の途中だとの相手の勘違いを、訂正することなくスルーしたのであるが。

両家の使用人達が、野外用のテーブルや椅子を準備し、屋敷で作ってきた料理を並べ始めた。

どうやら、最初に食事をして、その後子供達は周辺で遊び、大人達は料理をつまみながら酒を飲み、歓談するつもりのようであった。

勿論、子供達を視界内に収めておくし、子供達の見張りを担当している使用人もいるのであろう。

そして『赤き誓い』の面々は、何をするでもなく、ただ周囲の状況を確認していた。戦いになった場合、こういう事前確認の有無がものを言う。

食事の準備をするには、まだ、少し早かった。

『赤き誓い』の食事の準備はすぐ終わる。さすがに、雇い主達より早く食べ始めるわけにはいかないであろう……。