軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

366 休 暇 1

休暇である。

と言っても、メーヴィスやポーリンが帰省するには、1週間(6日間)は短すぎて、往復の日数にも足りない。なので、必然的に、王都でゴロゴロするだけであった。

マイルは、図書館に通ったり、孤児院にオーク肉を1頭分寄付したり、河原の、掘っ立て小屋と呼ぶのもおこがましい、まぁ、『風雨避け』……あまり避けられていないが……とでもいうようなものに寝泊まりしている孤児達に『新作料理の試食会』と称して腹一杯食べさせてやったり、色々と。

そして夜は、遅くまで何やら書き物をしている。翌朝は寝過ごしても問題ないので、明け方まで起きていても安心である。

メーヴィスは、剣術道場に出稽古に行ったり、たまにマイルにくっついて孤児院や河原へ行き、子供達に剣術の真似事を教えてやったりしている。

……それが、いつの日か孤児達がEランクのハンターになってゴブリンやオークと戦う時に、少しでも彼らの命を守る役に立つと信じて……。

レーナは、図書館通い。

色々な文献を読み 漁(あさ) って魔法の研究をしたり、若くしてAランクになったハンターの伝記を読んだり、娯楽小説を読んだり……。

そういえば、レーナは以前、図書館で本を借りていた。決して安くはない料金を払い、馬鹿高い保証金を預託してまで。

どうやら、マイル、いや、ミアマ・サトデイル先生のように自分で執筆活動をするほどではないが、読むのは結構好きなようであった。

そしてポーリンは。

……金貨を数えていた。

「ふふ。うふふ。うふふふふふふ……」

…………金貨を数えていた……。

「見つけた! 見つけたわよっっっ!!」

「はぁ? 誰……、って、いつぞやのファザコンエルフの……」

休暇中のある日、宿に戻ってきたマイルに突然掴み掛かってきたのは、あの、獣人と古竜事件の時に会ったエルフの学者、クーレレイア博士であった。そう、マイルとレーナが、胸のあたりに親近感を覚える……。

人の顔をなかなか覚えられないマイルであるが、さすがに博士の顔は覚えていたらしい。エルフだからなのか、貧乳仲間だからなのかは分からないが……。

マイルはひとりで行動していたため、今、レーナやポーリンの援護はない。

「ふぁざこん?」

「あ、知的で素晴らしい、という意味の言葉です!」

「……そ、そう? まぁ、間違っちゃいないわよね……」

マイルの誤魔化しに、簡単に騙されたクーレレイア博士。

……チョロい。チョロすぎる……。

「と、とにかく、やっと見つけたわよ! あなた達を追って西のヴァノラーク王国まで行って、ついでに里帰りしてとうさまに会って、ぐりぐりして、ぐりぐりして、ぐりぐりして、一緒に寝て、ぐりぐりして、『とうさま成分』をたっぷり補充して、ぐりぐりして、反転したあなた達を追って王都に戻ったらもぬけの殻で、仕方なく戻ってくるのを待ち続けた、長い日々……。どうしてくれるのよ!」

「い、いや、どうしてくれる、と言われても……」

殆ど、言い掛かりである。

……いや、『殆ど』ではなく、全部、言い掛かりであった。

そして、『ぐりぐり』し過ぎである。

「……で、何の御用でしょうか?」

そう、自分達を捜していたということは、何かの用がある、ということである。まずは、それを聞かないことには話が始まらない。『赤き誓い』に対する指名依頼なのか、前回の件で何か確認したいことでもあるのか……。

そして、マイルの問いに対するクーレレイア博士の答えは……。

「あなた、私のものになりなさい!」

「百合展開、キタアアアアアアァ~~!!」

実はマイル、前世において、そういう知識もちょっぴり持っていた。……両親の書庫には、母親の蔵書も保管されていたのである。

但し、ソフトなやつである。スールとか、スールとか、スールとかいうやつ……。

そしてマイルの前世である 海里(みさと) は、それらをスルーしなかった……。

「……百合? 何それ?」

「あ、ここの言葉でとある植物の名前を言っても通じないか……。ええと、何て言えばいいのかな、えっと、その……」

「まぁ、そんなことはどうでもいいわ」

マイルが説明に困っていると、クーレレイア博士が話を進めた。

「あなたは、私の研究対象として、しばらく私の側にいなさい。私が飽きるまで……、そうね、大体、100年くらいかしらね……」

「死んじゃいますよっ! その前に、私、寿命で死んじゃいますよっっ!!」

「あ……」

忘れてた、というような顔の、クーレレイア博士。

「あなた、エルフみたいな匂いをしているから、つい……」

中世ヨーロッパでの、成人を迎えた者の平均余命は、40代くらいらしい。平均寿命は20代~30代くらいらしいが、それは乳幼児の死亡率が非常に高かったからであり、また、出産時に命を落とす母親の数は、当時の戦争による死者の数より多かったからであろう。

そして、現代日本では簡単に治せるような病気で、人々は簡単に死ぬ。怪我は治癒魔法で簡単に治せても、病気はそうはいかないのである。この世界では、人間は、盲腸程度で簡単に死ぬのであった。

そして更に、この世界には、多くの魔物が生息している。なので当然、更に平均寿命は短くなる。

100歳など、村の長老と呼ばれる者達ですら到底到達することのできない、殆ど神仙の域であろう。……そう、『人間であれば』。

しかし、病気に 罹(かか) りにくく、治癒魔法が得意であり、森の奥で静かに暮らす長命のエルフにとっては、100歳など、まだ子供か若造に過ぎなかった。

それは、エルフと人間との、越えることのできない感覚の違いである。

……しかし、マイルは今、それどころではなかった。

「に、匂い? 臭(くさ) いんですか! 私、やっぱり臭いんですかああああぁっっ!!」

以前の獣人に続き、匂いに特徴があると言われたのは、これで二度目である。

人間にとって、『変わった匂いがする』というのは、それ即ち、『臭い』という意味である。香水とかがあまり進歩しておらず、また、香水とは『 微(かす) かにいい匂いを漂わせるもの』とかではなく、どぎつい匂いで悪臭を圧倒して抑え込むという、現代日本の感覚とは少し異なる用途に使われているこの世界においては、特に……。

「あああ! あああああああ!!」

突然、頭を押さえてしゃがみ込んでしまったマイルに、ようやく自分の失言に気付いたらしきクーレレイア博士。

「あ、いや、違う! 違うわよ! 別に、おかしな匂いってわけじゃあ……、って、『エルフみたいな匂い』って言われてそんなに落ち込むってことは、あなた、『エルフは臭い』って思ってる、ってことじゃないの! なんて侮辱! 許せないわよっっっ!!」

……もう、ぐだぐだであった。

そしてこの状態は、宿の前で大騒ぎをされて大迷惑を被ったレニーちゃんが、既に宿に戻っていたレーナとメーヴィスを呼んできて介入させるまで続いたのであった……。

* *

「……で、マイルちゃんが私の専属になる件だけど、明日からうちに住み込みで来られるかしら?」

「そんな話、初耳ですよっ!」

やむなく自分達の部屋へ連れ込んだマイル達に、クーレレイア博士が当然のことのようにその話を蒸し返した。それも、既に決定事項であるかの如く。

そして、いつの間にか勝手に自分の移籍が決められており、憤慨するマイル。

あれからポーリンも戻り、現在は『赤き誓い』フルメンバーが揃っている。そして、ポーリンが前回と同じ手段に出た。

「相手の都合も考えず、了承も得ず、自分勝手に決めつけて、強要する。エートゥルーさんとシャラリルさんのやり方と、全く同じですね。エルフというのは、皆、そういう常識のない人達ばかりなんですねぇ。これじゃあ、悪評が流れるのも無理ないですよねぇ……」

「な、なっ! エートゥルーとシャラリル!! あんた達、あの年増女達に会ったの! で、まさか、何か約束をしたりしていないでしょうね! 私が先よ! マイルちゃんは私が先に見つけたの、だから私のものよっっ!!」

エートゥルーとシャラリルの名前を聞くや否や、血相を変えて 喚(わめ) きだしたクーレレイア博士。どうやら、あのふたりと同様、敵対心バリバリのようである。

「あいつらが何を言ったか知らないけれど、私はあんなのとは違うからね! 私の研究に協力すれば、後で絶対に私に感謝することに……」

「さっさと追い出しなさい!」

「はっ!」

「はっ!」

何やら勝手なことを喚いているクーレレイア博士を追い出すよう指示するレーナと、『にほんフカシ話』に出てきたご隠居の護衛達のような返事をしてそれに従う、メーヴィスとポーリン。

力加減を誤ると大惨事になってしまうため、こういう場合には、マイルは直接の手出しはしないのが通例である。

「こら、何をするの、放しなさい! マイルちゃん、私の許に、ああ、マイルちゃ~ん!!」

抵抗しつつも、メーヴィスとポーリンに部屋から押し出され、そのままずんずんと階下へと追い払われる、クーレレイア博士。

レーナと共に、それを眺めるマイル。

「あのエルフが最後の一匹だとは思えない。あのエルフの同類が、また世界のどこかへ現れてくるかもしれない……」

そして、マイルの口から不気味な予言が語られるのであった……。