軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

36 ワンダーでミラクルなマジック少女達

「見つからぬか……」

「は、まことに申し訳なく……」

王の執務室では、恐縮した様子で報告する護衛隊長のバーグル、渋い表情の国王、そして第三王女のモレーナの姿があった。

子爵家令嬢、いや、今ではアスカム子爵家の当主であるアデル・フォン・アスカム子爵が行方不明となってから、既に1カ月近くが経過していた。

「幼い少女の足、半日差程度すぐに追いつけると思っていたのですが、全ての街道に出した捜索隊は街道上でも途中の村や町でも発見できず……。

数名の者を先行させて、絶対に少女の足や馬車等では到達できない地点から逆向きに捜索させても発見できませんでした。これはもう、街道を使わずに森や山中に分け入ったか、少女の一人旅、あるいは既に盗賊かタチの悪い旅人に……」

「それはあるまい。危機に陥ったらアレが出るだろう」

「あ……」

女神様をアレ呼ばわりとは、王様も良い度胸をしている。

「その後、友人達への手紙にありました『どこかの田舎町で幸せに暮らすから心配しないでくれ』という記述を頼りに田舎の町や村をしらみ潰しに捜索しましたが、発見に至らず……。

どこかの森か山中でひとりで暮らしているのか、あるいは既に国外へ出た可能性が……」

国外に出られれば、兵を使って捜索するどころか、自国の者が他の国で捜索活動をしていると知られることすら問題である。また、たとえ少女を発見しても、無理に連れ帰ろうとすればその国と外交問題となる可能性がある。

かといって、密かに拉致するなど論外である。女神様が出現されれば国が滅びる。

「あのお方は、実家の問題が片付いたことを御存知ないから逃げられたのでしょう? 事実をお伝えすればよろしいのでは?

国中に触れを出せばよろしいでしょう、悪人は捕らえたから安心して戻るように、と」

王女がそう言うと、国王とバーグルは苦い顔をした。

「そうも行かぬのだ……。この度のことは、国の恥。噂が広まるのは仕方ないが、わざわざ国としてそれを認めるようなことをするわけには行かん」

王の言葉に続き、バーグルが説明を続けた。

「実は、彼女の行き先を知る手がかりになるかと、学院の、彼女のクラスメイト達から色々と話を聞いたのですが、その結果が……」

「どうだったのですか?」

「はぁ、これがその聞き取りの記録なのですが……」

王女はバーグルが鞄から取り出した紙束を受け取り目を通した。

『あの子はどこででも生きていける』

『あの子の得意なこと? 男の子の心を折ること、かなぁ?』

『行きそうなところ? 客としてなら天国、運営側としてなら地獄、かな……』

『俺が聞きたいわ!』

『あの子は私が面倒をみてあげる予定だったのに!』

『ようやく自由を手に入れたのよ。逃げた小鳥が自分から鳥籠に戻るもんですか』

『逃げまくるよね~。多分、絶対捕まんない』

『平民の中に完全に溶け込む子。本当に貴族なのかしら、あの子……』

「な、何ですかこれは……」

「いったい、どんな子なんだ……」

王女と王様、父娘揃って呆然。

しばらくしてから、王女が突然叫んだ。

「私、あの方の親友だったという方達とお会いしたいです! そして、あの方がどのような方なのか、色々とお話を聞いてみたいです!」

「う~む、それも良いかも知れぬな……。何か捜索のヒントが得られるかも知れぬし、モレーナも何か得るところがあるやも知れぬ」

少し考えた後に言われた王の言葉に、バーグルは黙って頷いた。

三日後、王宮内の小さな一室に、テーブルを囲んで座った11人の姿があった。

小さいとは言え、それは王宮の一室としては、であり、立派な調度品が備えられた豪華な会議室である。豪華な椅子や装飾品、そしてテーブルの上にはお菓子に果物、紅茶のカップ等が所狭しと並べられていた。

集まっている顔触れは、王宮側が、国王、十六歳になる第一王子アダルバート、十五歳の第三王女モレーナ、そしてモレーナの弟である十三歳の第二王子ヴィンスの、王族勢4人。それと、宰相、護衛隊長のバーグル、そして特別に呼ばれたボーナム伯爵夫妻の、計8名であった。ボーナム伯爵夫妻の同席は、伯爵があの謁見の時に果たした役割と、伯爵夫妻、特に夫人がアスカム家に詳しいこと、そして親友の忘れ形見であるアデルのことを知りたいだろうという国王の配慮もあった。

そして呼ばれたのは、最もアデルのことに詳しい者達。そう、言わずと知れた、ワンダーでミラクルなマジック少女3人組であった。

「あ、あの、本日はお、お招き戴き……」

「ああ、良い良い。今日は非公式な 茶話会(さわかい) だから作法も何も気にせんで良いぞ。娘が初めて招いた友人が気になって様子を見に来た、ただの父親。そんな感じで頼む」

「は、はぁ……」

3人を代表して挨拶をしようとした、下級貴族とは言え一応は貴族家の三女であるマルセラでさえガチガチなのだから、平民であるモニカとオリアーナに至っては、まだひと言も発していなかった。

そして、モニカとオリアーナが喋っていないのは、ただ緊張しているという理由だけではなかった。

3日前。

学園に王宮からの使いが来て、3人に王女からの茶話会の招待状を渡して帰った後。

「いい? これは多分、あの子の情報収集よ。絶対に秘密を漏らしちゃ駄目よ!」

マルセラの言葉に、こくこくと頷くモニカとオリアーナ。

「あくまでもあの子は、ちょっと才能に恵まれた女の子。へんな魔法は使わないし、荒唐無稽な『たとえばこんな世界があったら』とかいう話なんかしない、どこにでもいる平凡な普通の女の子よ。いつも本人がそう言っていたようにね。

本当に普通の女の子は毎日わざわざそんなことを主張したりはしない、というのは置いておいて」

こくこく

「今から、あの子の設定と、何を喋っていいか、何は喋っちゃ駄目かを徹底的に覚え込むわよ。そして、念のため、向こうの質問の大半には私が答えるわ。みんなで答えると矛盾が出たりうっかり言っては駄目なことを喋っちゃうかも知れないからね。いい?」

モニカとオリアーナは大きく頷いた。

そして迎えた、3日後の今日。

受け答えの中心はマルセラに任せ、モニカとオリアーナは相づちか自分がよく考えて吟味した発言のみで乗り切る予定であった。

国王を始め大人達はひとかたまりになって子供達から少し離れ、子供達だけで話をする、という体裁が取られたテーブルでは、マルセラ達と王女、王子達が正対していた。

ここに王子達がいるのは、3対1では王女が話し難いだろうから、という名目であったが、勿論大人達の思惑は違う。ふたりの王子達にアデルの人となりを理解させておき、アデル発見のあかつきにはそれとなく顔合わせをさせて、と、色々と先のことまで考えてのことであった。

王女は、姉ふたりを列席させることなく、当事者である第三王女のモレーナしかいないのに、王子の方はふたりとも列席。少しあからさま過ぎる。

「あの、私、第三王女のモレーナと申します……」

「第一王子のアダルバートだ」

「第二王子のヴィンスです」

王女達の次にマルセラ達の自己紹介が続いた。

「エクランド学園2年、マルセラと申します」

貴族家の一員ではあるが、今は貴族としてではなく学園の生徒として招かれているため、他のふたりに合わせて、家名は名乗らず名前だけを名乗るマルセラ。

「同じく、モニカです」

「オリアーナでございます……」

そして訪れる静寂。大人達は同席者に過ぎないので、自己紹介や口を挟むことはなかった。必要と判断するまでは。

「あの、今日みなさんをお招きしましたのは、アデルさんの事を色々とお聞きしたいと思いまして……」

(((やっぱり来たぁ!)))

まぁ、分かり切っていたことなので、別に驚くようなことではない。

この3人が王宮に招かれるなど、他に考えられる理由がなかった。

突然姿を消したクラスメイト、王宮関係者による執拗な聞き取り調査、王宮関係者が密かに誰かを捜しているらしいという噂、そしてとある子爵家の不祥事の噂……。

エクランド学園には、いくら下級とはいえ貴族家の者が多い。貴族家に関する噂話、それもスキャンダル系ならばある程度は流れてくる。そして今回は、貸した手紙の返却を受ける時にバーグルからある程度のことは聞いていた。手紙を貸す時の条件に『後で事情を教えること』という項目を付けていたためである。

女神様関連は抜きにしてではあるが、アスカム子爵家のお家騒動、という部分のみに限った話として概ね真実の話を聞いていた3人は、アデルから聞いていた話と合わせて、ほぼ正確に事情を把握していた。そして更に、マルセラは、とある噂を聞いていた。

それは、『第三王女様が、神の御使い様にお会いなされたらしい』、とか、『王都に女神様が御降臨なされたらしい』とかいう荒唐無稽な眉唾話であったが、複数のルートから同じような話が流れてきた。そして、その日はアデルがパン屋に仕事に行った休養日であり、時間はアデルがいつも帰ってくるような時間帯で、アデルの帰り道になる大通り。そして銀髪の幼い少女、神の御業。

(ああ、あの子の仕業か……)

その話を聞いた瞬間、マルセラはそう思ったのであった。そして、いつかはこういう時が来るかも知れない、と。

(全く、人にはあんなにうるさく口止めしておいて、自分がそれじゃあ意味ないでしょうに……)

そう思うマルセラであった。

「アデルさんって、どのような方で、普段はどういうお話をされているのですか?」

初っぱなからストレートに切り込むモレーナ。

モレーナも王女として様々な教育を受けており、真っ直ぐに育っているため一見単純に見えるが、決して馬鹿ではない。自分より3~4歳年下の少女達に対しても対等に丁寧な言葉で話すし、相手を軽く見た素振りもない。もっともそれは、モレーナにはマルセラ達がただの学園生ではなく『あの方の御親友』と見えている、ということも幾分作用しているかも知れないが。

そのモレーナの真剣な表情、きらきらとした眼を見て、マルセラは思った。

(アデルの秘密は守り抜く! そして、王女様をアデルにとって都合の良い存在とするため、全力を尽くす!)

いつの間にか、マルセラは自分の身体の小刻みな震えが止まり、いつもの落ち着きを取り戻していることに気づいた。

(第三王女モレーナ、いざ勝負!!)