軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

356 リターンホーム

あの後、子供達のところへ戻り、自分達は引き揚げるということを伝えた、『赤き誓い』。

ゴーレムが危害を加える心配はあまりないということを、わざわざ伝えたりはしない。

子供達が調子に乗って、ゴーレムに攻撃と判定されるようなことをしでかしたり、ゴーレムが自分達を守ってくれると思って危険なことに手を出そうとする可能性があるし、他の地域のゴーレムは管理システムの指揮下にはいっているわけではなく、文字通り、機械的に侵入者を排除しようとするかもしれないのだから。

危険度は、高めに認識させておくに越したことはない。

そして、案の定、子供達に全力で引き留められた、『赤き誓い』の面々。

それはそうである。

美味しい御飯自動製造器。

全自動剣術訓練装置。

魔法教授装置。

住居製造機。

鍋焦がし穴開け器。

……それらの便利道具が、一挙に失われるのである。

人間というものは、一度味わった贅沢というものは、手放すことができないものなのである。

最後のやつは、多分、手放したいと思っているであろうが……。

「そんなことを言ったって、私達がずっとここに住むわけにはいかないことくらい、あんた達にも分かるでしょうが!」

子供達に強く出られないマイルやメーヴィスに代わって、そう怒鳴りつけるレーナ。

「……だって……。だってぇ……」

「うっ……」

さすがのレーナも、涙を浮かべた幼い子供達は苦手のようであった。

しかし……。

「さ、村へ戻りますよ!」

ポーリンは、泣き顔の子供達を完全にスルー。

「え? だって、お姉ちゃんたちがいなくなったら、ぼくたちの生活が……」

子供の訴えに、ポーリンは、すっと子供達の後方を指差した。

そこにあるのは……。

安全な樹上に作られた、ツリーハウス。

洗い場や水浴場が作られた、水場。

その隣に作られた、3基のかまど。側には、鍋が数個。

大幅に面積が広がった、山菜畑。

竹槍や木剣に加え、鉄剣や手製の弓矢が並んだ武器置き場。

鉄の鍬1本と、多数の木製農具。

その他諸々……。

「どこまで贅沢を抜かすかあぁ!!」

「「「「「ひいいいぃ~~!」」」」」

……贅沢過ぎであった。

マイルが、暇に飽かして、待機時間であった数日間のうちに自分の趣味で色々と作ってみたのであるが……。

やり過ぎであった。

街の浮浪児どころか、そのあたりの村人と大して変わらない生活レベルである。

危険な魔物が殆どおらず、人間が滅多に来ないため子供達の獲物となる小動物が多いことを考えると、拡張した畑から作物が収穫できるようになった時点で、食生活においては都市部の貧困層を 凌駕(りょうが) しそうで……、いや、確実に凌駕する。

* *

「さて、では、これからの行動ですが……」

村に戻り、遺跡関連のことは丸々カットして、ゴーレムは縄張りに侵入しなければ大した危険はないこと、怪しい男達はゴーレムと戦いに来ているだけであり子供達には結構親切であること等を伝え、無事依頼任務を終え報酬を受け取った『赤き誓い』は、とりあえずの目的地であった次の町に到着し、宿でこれからのことについて話し合っていた。

「反転、ということでいいんじゃないの?」

「そうだね。異議なし!」

「私も、同じです」

どこに行こうが関係ないマイルやレーナとは違い、メーヴィスとポーリンには、ティルス王国に実家があり、家族がいる。どうしても、ティルス王国が自分の国であり居場所である、という考えが頭から消えることはない。

……それは当たり前のことである。天涯孤独であり、自分の両親の出身国すら知らない、完全な根無し草であるレーナや、貴族としてこれ以上ないほど国に縛られているくせに、自分では根無し草の自由人のつもりでいるマイルが、ちょっと特殊なのである。

そしてレーナとマイルにしても、他に住み着きたい場所があるわけではない。そこそこ知り合いもでき、メーヴィスとポーリンの母国であるティルス王国を本拠地にすることに、何の異存もなかった。

「例の宗教も、このあたりが発祥の地だというのは間違いなさそうですしね。そして、教祖と共に情報源は失われ、残った連中は、……まぁ、大した脅威ではない、と……。

では、戻りますか、ティルス王国へ!」

「「「おお!」」」

斯くして、『赤き誓い』は進路を西へと変え、帰途に就くこととなった。

「……で、最初に着くのは、ここになるんですよね……」

そう、当然の事ながら、お嬢様一行が亡命し、古竜やらウロコやら色々あった、トリスト王国である。

「先日発ったばかりだから、お嬢様の方はまだ変化はないでしょ。金貸し一味に会っても、別にどうということはないし、商人達に出会ったら、またウロコを売れと 煩(うるさ) いだろうし……」

「「「「通過しましょう!」」」」

ということで、ここには泊まらず、そのまま突っ切って次の街へと向かう『赤き誓い』一行。

勿論、今夜は野営である。風呂にシャワー、携帯式トイレ(個室型。携帯できるのは、マイルのアイテムボックスに入れてあるから)があり、宿屋に泊まるよりも快適で、宿屋に泊まるよりも美味しい食事が食べられる、野営。

「……ねぇ、私達、宿屋に泊まらなきゃならない理由、あるのかい?」

「「「…………」」」

「メーヴィス、あんた……」

「みんな、分かってはいたけれど、決して口にしなかったことなのに……」

「遂に、言ってしまいましたね、メーヴィスさん……」

「え? そんなに重大なことだったの? 言っちゃ駄目だったの? え? えええええ?」

『みんな、薄々気付いてはいたけれど、敢えて口にしなかったこと』をズバリと言ってしまったメーヴィスのせいで、微妙な空気になってしまった、『赤き誓い』。

焦るメーヴィス。

「まぁ、ギルドに顔を出さなきゃならないし、街に寄らないわけにはいかないでしょ、修業の旅なんだから……。街中で野営するわけにもいかないわよ。

そしてそれは、ティルス王国の王都に戻ってからも、同じよ」

「残念です……」

レーナの言葉に、力なく同意するポーリン。

「……ホーム、ってのは?」

「「「あ……」」」

マイルが呟いた、『ホーム』。正しくは、『パーティホーム』である。

小金を貯めたパーティが、みんなで借りて住む、一軒家。

ある程度成功したパーティの証である。

……そして、宿屋の娘であるレニーちゃんが敵視する、『ホーム』。

いったん寄ったティルス王国の王都を出発する時にも、その話題が出て、レニーちゃんが少し動揺していた。

「家を借りれば、裏庭にお風呂やちゃんとしたトイレを作って、料理も台所で、いつでも好きなだけ作れます!」

「「「おおおおお!」」」

マイルの言葉に、喜びの声を上げるレーナ達。

「……まぁ、毎回マイルに料理させるのも悪いから、勿論、たまには外食もして、あとはみんなで交代制ね。勿論、私もちゃんと作るわよ!」

珍しく、レーナがまともなことを言った。しかし……。

「まだ、ホームは少し早いかもしれないな」

「そうですね! もっとお金を貯めてからでないと……」

「はい、まだまだ新米の私達には、分不相応ですよっ!」

みんなの急な心変わりにきょとんとしながらも、パーティの意思は多数決で決めることを遵守しているレーナは素直にそれを受け入れた。

「……そう? まぁ、みんながそう言うなら……」

(((セーフ! セエェェェ~フっっ!!)))

……どうやら、レニーちゃんの宿屋は、今しばらく4人分の宿泊費とお風呂の給湯要員を確保できそうであった。レーナの料理の腕前のおかげで……。

* *

「しばらく期間が空いたから、ガキ共、身体を壊してなきゃいいが……。いくら山菜が採れるとはいっても、碌な調理も出来ずにそんなのばかり齧ってたんじゃあ、腹壊しちまうからなぁ。

小動物とかも、ガキ共じゃあ、数日に1匹獲れりゃあいい方だろうし。たまにゃあ、ちゃんとパンやスープを食わしてやらねぇと……」

そう呟きながら、いつもより多めの『焼きすぎたパン』や『作りすぎたスープの素』とかを『捨てるために』、わざわざ数時間かけてやってきた、少々人が 好(よ) すぎる村人。

……勿論、この男がひとりで用意したものではなく、他の村人達が『作りすぎて、一緒に捨ててくるよう男に頼んだもの』も含まれている。

貧乏な村には、余所者にくれてやるような食料はない。そんなことをすれば、まだまだ余裕があるのだと思われて、領主が税率を引き上げる口実にされるだけである。

しかし、不要となったものを『捨てる』のならば、何の問題もない。

「そろそろ……、って、何じゃ、こりゃあああああ!!」

子供達の生活環境のあまりの激変振りに、目を剥く村人Aであった……。