軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

347 山に潜むもの 3

「……というわけで、問題の山に到着したわけなんですが……」

「あ、あれじゃないの、村の人が『古着や失敗作のパンを捨てていく場所』って……」

マイルの説明台詞に続いてレーナが指差したのは、岩の一部が平らになっていて、台かテーブルのように見える場所であった。

碌に人も来ない場所であり、山道どころか獣道らしきものさえ見当たらないが、教えられていた特徴のある大岩や偶然綺麗に並んだ3本の大木等の目立つ目標物と、ここに来る村人が通った跡……折れた草木や、 鉈(なた) のようなもので邪魔な木の枝を払ったらしき形跡……のおかげで、どうやらそれらしき場所を見つけることができたらしい。

「とにかく、3つの勢力のうちのいずれかから情報を得なければならないんですけど、ゴーレム、怪しい男達、浮浪児達のうち、誰から話を聞けばいいかというと……」

「ゴーレムは喋らないわよ!」

「最初に怪しい男達から話を聞くのは、気が進まないなぁ。またここにやってくるかどうかも分からないし……」

「……考えるまでもないですよね?」

マイルの振りに、適切な返しを行うレーナ、メーヴィス、ポーリンの3人。

「では……」

ピイイイィ~~!

マイルの指笛が響き渡った。

前世で、近くに住むアメリカ人のおじさんに頼み込んで特訓して貰い、ようやく吹けるようになった海里の得意技であり、勿論、転生後もその技は引き継いでいる。……そんな大層なものではないが。

親指と人差し指を曲げて口に入れ、思い切り息を吹き出すだけの簡単なお仕事であるが、会得するのにはかなり苦労したものである。なぜかアメリカ人は大半の者が会得しているのに、日本人は吹けない者が大半である、指笛。

しかし、口笛と違って大きな音を出せる指笛は、非常時には役に立つ。そして、こういう場合の合図としても。

そう、これは、『古着や食べ物を捨てにきた村人』が、『物を捨てに来たぞ』という合図のために鳴らすものらしい。そのように、村長から聞いている。

そしてしばらく経つと、木々の間から4人の子供達が姿を見せた。

「……誰だ、お前達……」

いつもの村人が来てくれたものと思ってやってきたら、武装した、見知らぬ4人組が。それは、警戒して当然であろう。

しかし、武装しているとはいえ、未成年から17~18歳くらいまでの女性達であるため、そこまで強い警戒心を抱いているわけではなさそうであった。違法奴隷にするために捕らえるなら、屈強な男を使うのが普通であるし、それ以外に、子供達が金になる方法はないからであろう。

「ハンターです。村長さんからの依頼を受けてやってきました。……何か、お困りのことはありませんか?」

ここは、見た目の印象が一番『抜けていて安全パイっぽい』、マイルの出番である。

……ポーリンも、一応は優しそうではあるが、もし子供特有のカンで、その『黒さ』を察知された場合、一挙に信用をなくしそうなので、念の為に外された。

それに、よく分からないことに関しての質問役にはマイルが一番適任であるということは、皆が承知している。

「村長? おっちゃんは?」

子供達を代表して喋っている、リーダーらしい12~13歳の少年が、よく分かっていないらしき顔で、そう尋ねてきた。どうやら、よく分からないなりにも、マイル達が自分達に危害を加えるつもりがないらしきことは理解したようであった。

「おっちゃん? あぁ、『村で要らなくなった古着やパンを捨てにくる人』のことかな?」

「……捨てに? あ、ああ、多分そうだと思う……」

首を傾げながら、そう言う少年。どうやら、村の不要物……ということになっているもの……を纏めて、ここへ『捨てにくる』担当である、その『おっちゃん』とやらは、子供達の前では『建前的な言い方』はしていなかったらしい。

「今はここの危険度が分からないので、安全のため、村人がこのあたりに来ることは村長が禁止しているらしいです。その代わり……」

「その代わり?」

「村の皆さんがお金を出し合って、私達をお雇いになりました」

「「「「…………」」」」

無表情で黙り込む、4人の子供達。

こんな山奥で、大勢の孤児が自然発生するわけがない。

どこかの街で暮らしていた孤児達が、誰にも助けて貰えず、いや、それどころか、迫害され、 搾取(さくしゅ) され、お遊びや 鬱憤(うっぷん) 晴らしに狩られ、捕らえられて違法奴隷として売られる危険に晒され、逃げ出して安住の地を求め 彷徨(さまよ) った挙げ句に辿り着いたのが、ここなのであろう。

残飯は無いし巾着袋を 掏(す) る相手もいないが、山菜や小動物、そしてごく稀には罠を使って大物を仕留めることもあり、街に住んでいた時よりもずっと充実した食生活を送れる、山暮らし。水は、湧き水があるらしい。

……しかし、普通であれば、そう簡単にはいかない。

当たり前である。もしそう簡単にいくなら、街の孤児達は全員が山に移住するだろう。

普通であれば、数人で狩りに行くだけならばともかく、山に住むなど、たとえ大人であっても自殺行為である。

野獣、猛獣、……そして魔物。

それに、人目のない山奥であれば、『人間狩り』を楽しみたい貴族や金持ちの餌食になる可能性もある。

なので、普通であれば、子供達が山奥で暮らすことなど、不可能である。

それが、なぜここでは可能であるかというと……。

ゴーレム。

このあたりに出没するロックゴーレムのため、オーガやオーク等の凶暴な魔物は近寄らず、比較的危険度の低いトカゲ系やウサギ系、蛇系の魔物が出るくらいであり、常に竹槍や棍棒で武装して数人で行動し、そして万一の場合に備えて木登りの腕を磨いておけば、何とかなるらしい。

なぜゴーレムがオークやオーガは追い払うのに他の魔物や動物は追い払わないのか。そして、なぜ子供達も追い払われることなく見逃して貰えているのか。

村長の話では、その理由は分からない、とのことであった。

ただ、子供達がここでなら生きていける。それが全てであった。

そして、他所から流れてきただけであり、このあたりの村とは関係がないのに、なぜか『不要品を捨てる』という名目で衣服や食料を持ってやってくる、村人。

孤児達は、今までそのようなことをされたことなど一度もなかった。このあたりの村より遥かに人口が多く、裕福な者達が住んでいる街々においても。

そして今、わざわざお金を出し合ってまで、自分達のために人を雇う。

……分からない。

村の人達が、何を考えてそんな無駄なことにお金を使うのか、全く理解できない。

なので、ただ沈黙を続けるだけの、4人の子供達であった。

しかし、それでは話が続かない。

なので、マイルが話を進めた。

「え~と、他の子たちは?」

「…………」

リーダー役の子供は、胡散臭そうな顔でマイルを見詰め、返事をしようとはしない。

そして、マイルはその理由に思い当たった。

(あ~、敵に自分達の人数を把握されるというのは、すごく不利になるもんね。つまり、まだ信用されていない、ってことか……)

そう、いくら村の者達に雇われたとはいえ、そう簡単に人を信用するには、今まで彼らが受けてきた仕打ちは、些か酷すぎた。そして、そう簡単に人を信じるようでは、とっくに死ぬか違法奴隷として売られていたことであろう。

(よし、それじゃあ……)

どん!

テーブル状の岩の上に置かれた、大きな肉塊。

「「「「え……」」」」

どん、どん、どんっっ!

野菜、パン、大鍋、簡易かまど、注ぎ口付きの水樽。

いきなり何もない空中から現れたそれらのものを見て、絶句して固まる子供達。

「人数が分からないと、何人分の料理を作ればいいのか、分からないなぁ……。4人分だけでいいのかな?」

「じゅ、16人!」

「こら、馬鹿!!」

リーダーの少年が止める間もなく、10歳くらいの男の子がそう叫んでしまった。