軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

337 地竜討伐 4

子供達にテントとベッドを提供し、久し振りに、草を刈って作った簡易寝床で寝ている『赤き誓い』一行。見張りは『ミスリルの咆哮』の6人がやってくれるとかで、『赤き誓い』はゆっくりと眠れる。そして、草の上に横になったマイルは、眼を 瞑(つむ) って寝たような体勢になり、ナノマシンと会話していた。

(……ナノちゃん、ひとつ確認しておきたいんだけど……)

『はい、何でしょうか?』

(さっき、確か「メーヴィス殿の全身強化」とか言ってたよね? あれって、どういうこと?)

メーヴィスが、とんでもない魔改造をされてしまったのでは。

マイルは、それを心配していたのである。

『あ、あれは、左腕に掛かった力を支え、分散させるための補助的な措置を講じただけです、骨格や腱、靱帯、筋肉等に……。力の大半は、他の手段、つまり 慣性中和装置(イナーシャル・キャンセラー) 、運動エネルギー相転移システム、エネルギー亜空間拡散システム等により対処されますので、あくまでも最終調整というようなレベルに過ぎません。

そして、これは過負荷がメーヴィス殿の身体を破壊しないようにするためのものですので、メーヴィス殿の力や身体能力が向上するようなものではありません。支えられるけれど、出力が上がったというわけではない、ということですね。ただ……』

(ただ?)

『今まで、メーヴィス殿がミクロスをお使いになる度に身体が過負荷で破壊されておりました件、あれもサポートの対象となりますので、今後はミクロスを使う度に重傷、ということは避けられるかと……』

(ええっ! ありがとう! あれが、いつも心配だったんだよ。いつか大変なことになっちゃうんじゃないかって……。

じゃあ、メーヴィスさんが人間離れした超人になっちゃったわけでもなく、私が渡したミクロスのせいで毎回死にそうになることもなくなるんだ。ありがとう、ナノちゃん!)

『いえ、マイル様の大切なお友達なのですから、当然のことをしただけです』

そう言って謙遜するナノマシンであるが、マイルに心の底から大喜びされたことがかなり嬉しかったらしく、少し声が 上(うわ) ずっている……ように感じる、マイル。

実際には、マイルの鼓膜を直接振動させて会話しているわけなので、それすらも『演出』として、意図的にやっている可能性が濃厚であるが……。

喜び、そしてそのまま眠りに就いたマイル。

確かに、ナノマシンは、メーヴィスのために良かれと思ってその処置をしてくれたのであろう。 しかし、その裏には、もうひとつの目的が隠されていたのである。

『よし、これで、メーヴィス殿のミクロス使用頻度が上昇する! そうなれば、ミクロス要員としての出番待ちの連中の順番消化速度が速まるだろう。まだかまだかと 煩(うるさ) いからなぁ、あいつら……』

そして、大喜びの、ミクロス役希望のナノマシン達。

ナノマシン達は、与えられた権限と命令の 範疇(はんちゅう) で、自分達の楽しみを最大限追及することに全く躊躇いがなかった。

そう、欠片程も……。

* *

「あんた達いいいいぃ!!」

翌日の昼頃、村に着いた途端、母親達に大目玉を食らう子供達。

昨日、4人の子供達がいなくなったことが分かってからの大騒ぎを思えば、どれだけ叱られても、叱られ足りないと思われた。

状況と、4人揃って消えたこと、揃いも揃って無謀なヤンチャ連中ばかりだったことから、ハンター達についていったことはほぼ確実と思われたが、だからといって安心できるわけがない。

地竜だけでなく、他の魔物、猛獣、盗賊、事故、迷子と、子供が二度と戻ってこない理由など、いくらでもある。ハンター達に存在を気付いて貰えることもなく死ぬ確率は、決してそう低くはなかったのである。

そして、無事目的を果たし、更に子供達も保護し、しかも子供達の話によると、命懸けで竜種から助けられたとのこと。『ミスリルの咆哮』と『赤き誓い』が村人達に熱狂的な歓待を受けたのは、当然のことであった。

普通のハンターであれば、無関係の村の子供のために命を懸けたりはしない。村人達ですら、自分の子供であればともかく、見知らぬ他人の子供のために竜種の前に立ち塞がる者など、いるはずがなかった。

それを、ハンター達が、子供達のために。

お礼のご馳走をと、お祝い事のために取っておいた高級食材や、秘蔵の酒を持ち出そうとした村人達を必死で止める『ミスリルの咆哮』と『赤き誓い』の面々。自分達は、それくらいいつでも食べられるので、申し訳なさの方が先に立ち、とてもじっくりと味わえるものではない。

なので、きちんと対象は地竜ではなく土竜であったこと、間違いについてはおそらく問題になることはないであろうことを村長に告げ、そそくさと引き揚げる一行であった。

* *

「グレンさん達は、これからどうされるんですか?」

「ああ、昨日この街に着いたばかりだからな。王都だし、しばらくは滞在する予定だ。その後は、修行の旅の時のルートをなぞっていくつもりだ。それが『お礼参りの旅』の定番だからな」

王都への帰り道で、マイルに今後の予定を尋ねられ、そう答えるグレン。

お礼参りの旅は、修行の旅に較べ、同じ街に滞在する期間が短く、さっさと廻るのが普通らしいが、王都とかの大きな街では、少し長めに滞在するらしい。

「私達は、そろそろ移動かなぁ。ご隠居さんののんびり旅と違って、若者は先を急ぎますからねぇ」

「誰が『ご隠居さん』だよっっ!」

マイルとグレンの掛け合いが続くうちに、王都へ到着し、一行はギルド支部へ。

「依頼は片付けたが、依頼内容に不備があった。討伐対象の種別間違いによる、危険度の見積もりミスだ。ギルマスと話をしたい」

「なっ! し、しばらくお待ちを!」

グレンからの報告を聞いた受付嬢が、血相を変えて立ち上がり、そのまま階段の方へと走り去った。周囲では、ギルド職員やハンター達がざわついている。

討伐対象の種別間違いは、依頼不備の中でもダントツの『最低最悪のミス』である。

もし、コボルトの群れだと聞いて行ってみれば、オークの集団だったら。

もし、オーク2~3頭、と聞いてCランクパーティが行ってみれば、オーガが3頭いたとしたら。

……致命傷である。

その、あってはならないミスを、他国のAランクパーティに対してやらかしてしまったとしたら。

ハンター達は、あちゃ~、という顔をするだけで済むかもしれないが、ギルド職員達の顔色は、かなり悪かった。

「……ギルマスがお会いになります。どうぞ、こちらへ」

そして、すぐに戻ってきた受付嬢に案内されて、2階のギルドマスター室へと向かう、一行。

「……話を聞こう」

皆が部屋に入るなり、いきなり本題にはいったギルドマスター。どうやら、かなり焦っているようであった。この状況では、無理もないことであるが。

そして、皆を代表して状況を説明するグレン。

「別に、大事にするつもりはねぇ。地竜ではなく土竜だったが依頼完遂として認めてくれるならな。

そりゃ、ギルドが斡旋する依頼は裏が取ってあり、手数料を取る代わりにギルドがその保証をしてくれるってことになっちゃあいるが、調査依頼の裏を取るためにギルド職員が現地へ行って調査してくる、ってわけにゃあいかねぇからなぁ。

今回も、村人から領主を経由して来た依頼だということでその信頼性を担保するしかなかったんだろう? 現地へ行って確認する暇なんかなかっただろうからな。

何、竜種を見たことのねぇ素人の、無理もない失敗だ。気にしちゃいねぇよ。ただ、別の種類の竜種の討伐で問題ねぇか、それだけはっきりしてくれりゃあいい」

あからさまに、ほっとした様子のギルドマスター。

さすがに、同じ場所に、同時に2種類の竜種が現れたとは考えづらい。そして、万一そうであれば、また依頼を出し直せば済むことである。素材の売却益目当ての者が受けてくれるので、依頼の報酬額はそう高くないため、2度払いになっても領主の懐は大して痛まないし、どうせ、両方討伐しなければならないのであるから、結果的には同じである。

「そうか。話の分かるパーティで、助かる。勿論、それが依頼間違いの討伐対象であろうが、確率は非常に低いが、偶然同じ場所にいた別の個体であろうが、金貨20枚を報酬とした竜種の討伐依頼の完遂、として扱わせて貰おう。よくやってくれた!」

斯くして、当初の予定とは違う対象ではあったが、一応は依頼任務を完遂し、『ドラゴンバスター』としての名を挙げた『赤き誓い』であったが……。

「竜殺し、って、今更よねぇ……」

「まあ、古竜も 飛龍(ワイバーン) も、殺してはいないからね。一応、今回が『初・竜種討伐』ってことになるんじゃないかな?」

レーナとメーヴィスの会話に、うんうんと頷く、マイルとポーリン。

そして、それを聞いて、『やはり、古竜との話はかなり過少申告だったか……』と、げんなりした顔の、『ミスリルの咆哮』一同であった……。