軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

333 Bランクパーティ 6

「Aランクパーティ、『ミスリルの咆哮』だ。うちと合同なら、こいつらと一緒に受注できるか?」

「は、はい、勿論です!」

ほっとした様子の、受付嬢。

別に、『赤き誓い』と揉めるのが嫌だったというわけではあるまい。ギルドの受付嬢であれば、鼻っ柱が強い新人パーティをあしらうことくらい、慣れたものであろう。

安心した様子なのは、ここにはいないはずのAランクパーティの登場が、古竜、地竜と立て続けに現れた竜種のために大きな被害が発生しそうな今、腰抜けのBランクパーティ達のせいでこのギルド支部の名と信用が地に落ちようとしている苦境を救ってくれる救世主の登場にでも思えたのであろう。

Aランクパーティの6人。それに、アシストとしてCランクの2~3パーティを付けるなら、地竜の討伐とまでは行かずとも、制圧程度であれば、充分に可能。

古竜のせいで 住処(すみか) から這い出て人里に現れただけであれば、制圧し追い返すだけで、一応の危機は脱することができる。そして古竜と地竜の同時出現を僅かな被害で 凌(しの) いだとなれば、このギルド支部の名と信用は、落ちるどころか、大幅に上昇するだろう。受付嬢が安心するのも、無理はない。

「私達に負けて、Aランクが遠のいたんじゃなかったの?」

レーナの指摘に、苦笑いのグレン。

「いや、ありゃ、右手縛って戦うみたいなもんだ。学生に怪我をさせないように、そして学生の力を充分引き出して見せ場を作ってやるようにして、しかし調子に乗らせないように最後は圧倒的な力量差で叩き伏せる、っていう、ま、一種の『筋書きのある演劇』みたいなもんだ。役者の片方は、そんなことは知りゃしないがな。

なのに、お前らときたら……」

そう言って、仲間達の方を睨む、グレン。

そして、がっくりと項垂れる、ふたりの魔術師と、若手の剣士。

……相手を怪我させたり、殺しかけたり、そして最終的には、敗北。

いくら手抜き……というか、縛りプレイだったとはいえ、Aランク間近の大先輩として、あれは 些(いささ) か、みっともなかった。

「グレン、お前も、勝ちを譲られただけじゃろうが! 偉そうなことを言うな! しかも、次の相手にあっさりと負けおったくせに……」

「うっ……」

卒業検定では戦わなかったふたりのメンバーのうちのひとり、初老の魔術師にそう指摘され、言葉に詰まるグレン。

「……ま、まぁ、あれは一種の見世物みたいなもんだ。だから、それを知っている見物客達には、思った以上に頑張った期待の新人に対する特別サービス、くらいに思われている。まさか、俺達が本当に負けたなどと思ってる奴ぁいねぇよ……、ハァ……」

自分で言っていて情けなくなったのか、がっくりと肩を落とすグレン。

「とにかく、そういうわけで、あの後しばらくしてAランクになったんだよ。それで、『お礼参りの旅』に出たわけだ。……お前達にしてやられたことに対する反省で、初心に返り、自分達を鍛え直す意味も込めてな……」

『お礼参りの旅』というのは、別に、仕返しをするというような、悪い意味のものではない。文字通り、本当にお礼をするための旅である。

それは、駆け出しの頃に廻った『修行の旅』において世話になった人達、知り合いになった人達に、Aランクという事実上の頂点に立てたことの報告とお礼のための旅である。……勿論、『修行の旅』と同じく、自分達の鍛錬の旅でもある。

駆け出しだった前回とは違い、今度は難度の高い依頼、地元のハンターだけでは手に負えず困っている地方都市や小さな村々での依頼を格安の報酬で片付けて廻るその旅は、訪れた街や村で大歓迎される。Aランクパーティはお金には困らないし、『お礼の旅』なのであるから、儲けなどは度外視なのである。……勿論、この旅の間だけは、という、期間限定のサービスであるが。

しかし、『修行の旅』に出る者達に較べ、『お礼参りの旅』に出ることのできる者達が、如何に少ないことか。

殆どのハンターは、Aランクになる前に怪我や病気、高齢等の理由により引退するか、……死ぬ。

ハンターの頂点はSランクではないのか?

Sランクなど、あまりにも少なすぎて、いないも同然である。なので、実質的なハンターの頂点は、Aランクだと看做されている。

「ま、とにかく、あんた達と合同なら受注できるってことよね」

レーナ、少しは大先輩に対する言葉使いを考えるべきである。

「は、はい、Aランクパーティと一緒に受注され、そしてAランクパーティの方がそれを了承されるのであれば……」

「問題ない」

グレンのひと言で、地竜討伐の受注が決定した。

……尤も、『討伐』とはいえ、依頼内容は『追い払うだけでも可』であった。しかし、それだと素材の売却益が出ないため、金貨20枚では稼ぎにならない。ひとり当たりではなく、報酬総額が金貨20枚では、数パーティで分けて、しかも武器防具の破損、負傷、その他のデメリットを考えれば、地道にオーク討伐でもやっていた方が、余程安全で実入りも多い。

なので、あくまでもこれは『討伐』を前提とした報酬額であり、もし失敗して逃げられた場合のための、「残念賞」というか、救済措置の「ご苦労さん賃」である。

「では、あと2~3パーティ、募集しましょう。Aランクパーティが一緒となれば、ベテランCランクパーティが喜んで参加してくれるでしょう!」

そう、素材売却益が大きいので、Aランクパーティが主力となってくれて自分達はサポート程度で済むとなれば、腕に覚えのあるCランクパーティならば飛び付いても全然おかしくない案件である。

そして事実、テーブル席で飲食したり時間潰しをしたりしていたいくつかのパーティが席を立っていた。こんな時間にのんびりしているのは、食うのが精一杯のパーティではなく、余裕のあるところである。……つまり、Cランクパーティの中でも、腕に自信のある連中、ということだ。

そう、地竜討伐に参加すべく、名乗りを上げるつもりなのであろう。

しかし……。

「…… 要(い) らん」

「は?」

グレンの簡潔な言葉に、呆気にとられたような顔の受付嬢。

「俺達と、この嬢ちゃん達だけで充分だ。足手纏いは要らん。余計な護衛対象が増えると、そっちに人手を取られて攻撃力が低下する」

「え……」

受付嬢は、ぽかんとするだけで済む。しかし、他のハンター達はそういうわけにはいかなかった。

「おい、それはないだろう! 確かに、あんた達Aランクパーティの実力に文句を言うつもりはないし、デカいツラをされても仕方ねぇ。Aランクまで登り詰めた連中に、今の俺達が何を言っても、それはただの『よく吠える犬』に過ぎねぇからな。

しかし、俺達がそこの駆け出しの小娘達以下、ってのは、聞き捨てならねぇ!」

居合わせたハンター達の内のひとりがそう言って気を吐くが、『ミスリルの咆哮』の6人は、それを聞いても、苦笑いをするのみであった。

そして、グレンが言った。

「でも、お前達、俺達が参加すると聞くまでは受注するつもりが全くなかったじゃねぇか。嬢ちゃん達は、自分達だけでやるつもりだったというのに……。

これは、俺達が、嬢ちゃん達に便乗しようとしてるんだよ。嬢ちゃん達がこの依頼を受けようとしてるのを知ってな。

で、お前達は、俺達が参加しようとしているのを見て便乗しようとしているくせに、大元の嬢ちゃん達のことを自分達より下だと言うのか?

それに、嬢ちゃん達は強いぞ? 最低年限の規則のせいでまだCランクだが、とっくにBランクパーティ並みの実力はあるぞ、間違いなくな……」

「う……」

Aランクパーティにそこまで断言されては、それ以上反論することはできない。もし反論するとなれば、それは、『赤き誓い』に模擬戦を挑むことくらいしかないし、さすがにそこまでいくと、もしもの時には、面子丸潰れである。

そうなると、もうこの街でハンターを続けることはできまい。この街を離れ、どこか他国でパーティ名を変えてやり直すしかなくなるであろう。

「……しょうがねぇなぁ。おい、何か芸を見せてやれねぇか? どうせ、こういう時に相手を黙らせるための芸のひとつやふたつ、用意してあるんだろ?」

「敵わないなぁ、グレンさんには……。メーヴィスさん、銅貨斬りです!」

「了解だ!」

グレンの言葉を受け、マイルが、久し振りの『銅貨斬り』を披露するようメーヴィスに指示した。

「ちょっと場所を空けて……、はい、それくらいでいいです。じゃ、グレンさん、銅貨を1枚、軽く山なりに投げて下さい」

そして、いつものように行われる、十文字斬りのパフォーマンス。

「「「「「え……」」」」」

そして固まる、地元のハンター達。

「銅貨をもう1枚出して貰えませんか?」

今度はメーヴィスからのリクエストで、再び巾着袋から銅貨を取り出して、メーヴィスに手渡すグレン。

そして、その銅貨を縦にして左手の親指と人差し指に挟み、皆に向かって突き出すメーヴィス。

「よっ、と」

力を入れた様子もなく、くにゃり、と二つ折りになった銅貨。

「「「「「なっ……」」」」」

更に、その二つ折りになった銅貨を再び立てて指に挟み……。

「ほいっ、と」

四つ折りに。

「「「「「…………」」」」」

怪力であれば。

あるいは、何らかの達人だとか、コツを知っていれば。

二つ折りくらいは、できる者がいてもそうおかしくはないかも知れない。

しかし、四つ折り。それはない。絶対にない。

そして、先程の、空中で支えのない銅貨を、それも二閃で4つに。

……あり得ない。

「相変わらず、人間離れした芸を見せやがる……。そして、お前がこの中で最弱なんだったよな、確か……」

グレンの言葉に、少し 萎(しお) れた顔で、こくりと頷くメーヴィス。

「「「「「あり得ねぇ……」」」」」

それ以外の言葉が出せようはずもない、地元のベテランCランクハンター達であった。