軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

314 ……られなかった。〇| ̄|_

「ところで、マイル。魔術指南道場はどうだったんだい?」

なんとかお嬢様の攻撃から逃れるべく、メーヴィスがマイル達に話を振った。

無理に振ったわけではなく、本当に気になっていたのである。自分がせっかく特訓により新しい技を身に付けたというのに、その間に、みんなにもっと先へと進まれていては意味がない。

いや、意味がない、と言っては 語弊(ごへい) がある。

ひとりひとりの能力が上がり、その結果、パーティとしての能力が、足し算ではなく掛け算で上昇する。それは、歓迎すべき素晴らしいことである。

……ただ、それだとメーヴィスが困るだけで……。

メーヴィスは、あくまでも、自分とみんなの距離を詰めたいのである。なのに、みんなに更に先に行かれて、どうするというのだ……。

不安そうにそう尋ねたメーヴィスに、勿論そんなことは知らないマイルは、自分達がどれだけ成長したかをメーヴィスが楽しみにしているのだと思った。そして、しょんぼりした顔で答えた。

「そ、それが……」

「期待外れもいいとこよっ!」

「危うく、お金をドブに捨てるところでしたよ!」

マイルはがっかり、レーナはプンプン、そしてポーリンがムカついたような感じでの、罵倒の嵐。どうやら、期待外れのようであった。

「元宮廷魔術士、という触れ込みでしたから、期待していたんですけど……。

私、学園と養成学校で教師から少し教わっただけの自己流ですから、一度正規の勉強と訓練をした一流の魔術師さんの教えを受けてみたかったんですけど……」

エクランド学園でも、ハンター養成学校でも、マイルは魔法に関しては 実力を隠し(しゃみせんをひい) ていたため、本当の指導を受けたとは言えなかった。

「駄目だったのかい?」

「はい……。見学させて戴いて、模範演武を見せて戴き、少し御指導戴いたのですが……」

「私達より遅い無詠唱魔法、私達より威力が小さい攻撃魔法、そして私達の防壁を貫くどころか、傷ひとつ、揺らぎひとつ与えられない防壁貫通攻撃……」

横から、レーナが口を挟んだ。それに続いてポーリンも……。

「その挙げ句、『どこの回し者だ、さっさと出て行け!』って怒鳴られて、砂を撒かれましたよっ!

撒くなら、普通、塩でしょうが! 塩代すらケチって砂を撒くとか、恥というものを知らないのですか、恥というものを!!」

ポーリンは、おかしなところに食い付いていた。おそらく、しきたりに使う消耗品を 無料(ただ) で手に入るもので代用されたりすると商売人は商売上がったりだから、そういうのは許せないのであろう。自分自身は、よく代用品を使うくせに……。『こんなの、形だけ真似してりゃいいんですよ!』とか言って……。

(……よかった、マイル達は、新しい魔法を身に付けたわけではなさそう……、って、私は何という浅ましいことを!)

思わず頭を 過(よ) ぎった、その、騎士志望者としてはあまりにも下劣で浅ましい考えに、頭を抱えて背を丸めたメーヴィス。

しかし、その時、ある考えが浮かんでしまった。

(え? でも、それって、この3人の実力が元宮廷魔術師以上で、その人からは何も学ぶものが無かった、という……、こと……、に……)

メーヴィス、呆然。呆然、サラダ油セット。

マイルお気に入りの、メーヴィス達には意味が分からないフレーズが頭に浮かぶくらい、呆然自失のメーヴィス。

そんなメーヴィスに、心配そうな顔でお嬢様が声を掛けた。

「あのぉ、メーヴィス様、あの街で指南道場を開いている元宮廷魔術師と言いますと、ジラルリック師のことでしょうか……」

「あ、はい、そうですけど?」

とても返事ができる状態ではないメーヴィスに代わって、マイルが答えた。それに、元々、メーヴィスは魔術指南道場については何も知らないので、答えようがなかった。

「「「「「え……」」」」」

お嬢様と、同乗しているけれど今まで空気のようであった護衛3人組プラス1(先行していた仲間)が、驚きの声を上げた。

「ジラルリック師より、強いだと? 冗談を……、言っている様子はないよなぁ……」

もう、おうちに帰りたい。

そう思いながら、頭を抱えてメーヴィスと同じ姿勢になった、4人の護衛達であった。

そして、夜営である。

お嬢様がいるのだから街の最上級の宿屋で、などと言い出す者はいない。

まだ、この亡命については極秘であるし、国からの正式な発表、そしてお嬢様からの宣言がなされるまでは、情報を漏らすわけにはいかない。それに、宿屋では、万一の時に兵士達を効率的に動かすことができず、暗殺に対しても 脆弱(ぜいじゃく) となる。

そして、そもそも、既にお嬢様は今回の逃避行において、もっと劣悪な環境での夜営を何度も経験しているので、今更であろう。

また、高貴な女性は、 下賤(げせん) の者に寝顔や裸を見られても、全く気にはしない。犬や猿に裸を見られても、それを気にする女性がいないのと同じように……。

「そんなわけないでしょう! 気にしますよ! メッチャ、気にしますよっっ!!」

マイルがそう言ったら、お嬢様にマジ切れされた。

あれだけ感謝していたマイルに対してのマジ切れであるから、余程気分を害したに違いない。

「……全く、人を何だと……」

かなりお怒りのお嬢様を 宥(なだ) めるため、慌ててアイテムボックスからテントを出すマイル。

「「「「「「なっ……」」」」」」

例によって、驚愕に眼を見開き、声を漏らす出迎えの兵士達。

「「「…………」」」

そして、全てを諦めたような顔の、4人の護衛のうちの3人。

あの宿屋から国境を越えるまで、数回の夜営があったのである。マイル達が、お嬢様のために予備ベッドの提供や食事の提供をしなかったわけがない。……ポーリンの指示により、かなり吹っ掛けた別料金で……。

なので、同行していた3人の護衛達は、もう、とっくに考えることをやめていた。

「う……、うぐ、うぐぐ……」

このような重要な任務を与えられた部隊の指揮官や兵士達が、馬鹿であるはずがない。当然、皆、ハンターの禁忌くらいは知っている。

なので、『聞きたい!』、『言いたい!』、『突っ込みたい!!』という心の叫びを押し殺し、必死に耐えるのであった……。

どん! どん! どん!!

「オーク肉ステーキ、銀貨1枚。岩トカゲステーキ、銀貨3枚。肉野菜スープは、小銀貨8枚です!」

「「「「「何じゃ、そりゃあああああ!!」」」」」

マイルが出した竈や食材の山を見て、耐えきれずに叫ぶ兵士達。

そして、何がそこまで守銭奴の道に駆り立てるのか、ポーリン……。

この人数程度であれば、あの、帝国兵相手に荒稼ぎした時に較べれば、微々たるものである。余程、お嬢様達から依頼料を巻き上げ損なったことが悔しかったのか……。

「違いますよっっ!」

マイルが、どストレートにそう言ったところ、ポーリンが青筋を立てて怒鳴りつけた。

「ちゃんとした理由も無しに無料サービスをするのは、商売の神に対する冒涜ですよっ! それに、一部の人達にサービスすれば、他の人達が『どうして自分達にはサービスしないんだ!』って文句を言うようになります。

なので、サービスするのは、それが自分達の利益に繋がる場合と、感謝を込めたお礼の場合だけですよ!」

「あ、なる程……」

素直に納得するマイル。

……しかし、何やら兵士達の様子がおかしかった。

「どうして、誰も買わないんですかあああぁっっ!」

そう、最初から準備ができている状態で出された竈に、レーナが火魔法で点火。肉は、予めカットしてあり、香辛料がまぶしてあった。なので、既に最初の肉は焼き上がっている。

温めるだけでいい状態であったスープは、レーナが超小型のファイアーボールをそっと沈めることにより、既に沸騰。……ポーリンの分子振動加熱魔法は、秘匿のため使わなかった。

なのに、兵士達が、誰も買おうとしないのである。

買いたくないわけではなさそうである。そわそわして、竈で焼ける肉やスープの鍋を見ているし、任務行動中の小規模の部隊が、ろくな携行食を持っているはずがない。

ならば、いったい、どうして……。

「あ~、悪いな、嬢ちゃん。俺達は今、任務行動レベル3で動いてるんだ。だから、毒を盛られたり食中毒になったり腹を下したりしないように、任務が完了するまでは、自前の携行食以外は口にすることが許されていない。だから、いくら食いたくても、その料理は食えないんだよ。悪いな」

「え……」

呆然と立ち尽くし、そしてその場に崩れ落ちるポーリンであった……。