軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

313 別 れ

一行は、あれから何事もなく、無事、国境に到達した。

そして、別に国境警備員とかがいるわけでもなく、ただ街道脇に目印の石碑が建てられているだけの国境線を越えた途端、街道脇の草地で野営していたらしき兵士達がやってきた。

「お待ちしておりました、ひ……」

慌てて護衛リーダーが手を振り回し、他のふたりが口を塞ぐ仕草をしたため、兵士達の指揮官らしき者は、言いかけた言葉を飲み込んだ。

……今更ではあるが、待ち受けていた兵士達には、途中で雇ったらしいハンター達が詳細説明を受けているかどうかなど分からないため、不用意なことを言いそうになったのは明らかに自分のミスであると、少し焦っている様子であった。

ハンターを雇うのに、仕事の内容や条件に関して虚偽の申告をするのは 御法度(ごはっと) であるが、別に、『自分達の身元は聞かないでくれ』というのは、全然問題はないのである。……追っ手の人数や技量等の、重要情報さえ偽らなければ……。

全て教えないと依頼を受けない、というのはハンター側の自由であるし、ならばこの条件で受けてくれる別のハンターを探す、というのも、依頼者側の自由である。

護衛リーダーが最初から警戒した様子がなかったこと、そして向こうの指揮官が、迷った様子もなく声を掛けてきたことから、おそらく面識があるのだろう。そう思った『赤き誓い』の面々も、緊張した様子はなかった。

それに、いざとなれば、お嬢様の斜め前方に位置しているマイルが超高速度で相手の剣を弾けるし、それ以前に、『格子力バリア』を展開できる。何の問題もなかった。

そもそも、あれだけお嬢様を必死で護ろうとしていた護衛達が、信用できない相手に自分達の、いや、お嬢様の身を 委(ゆだ) ねる訳がなかった。

「小隊長!」

向こうの指揮官の後ろから、他の者達とは服装が違い、傭兵の様な恰好をした者が駆け寄ってきた。

「クリウェン、よくぞ危険な単独任務を果たし、護衛の方々をお連れしてくれた!」

護衛リーダーが、その男に 労(ねぎら) いの言葉を掛けた。どうやら、連絡員として前もって派遣していた者らしかった。

「で、他の者達は? 攪乱のために、分散して別行動を?」

「「「…………」」」

黙り込み、俯く3人の護衛達。そして……。

「奴らは、ここにいる。そしてこれからもずっと、我らと共に在り!」

そう言って、自分の左胸に手を遣る護衛リーダー。

それを聞いていた迎えの兵士達が一斉に剣を抜き、身体の前で垂直に立てた。

それは、戦いで倒れし勇敢な兵士を称え、 戦士達の楽園(ヴァルハラ) へと向かう彼らを見送るための礼であった……。

「では、私達は、ここで……」

もう、『赤き誓い』の役割は終わった。他国に兵士達を送り込み、相手国の兵士と戦わせる国王はいないだろう。……全面戦争の引き金を、自分達が完全な悪役として引く覚悟がある場合を除いて。そして後方、反対側の国に戦争を吹っ掛ける寸前まで行き、下手をすれば後方からも襲い掛かられる可能性がある状態で。

これでもう、お嬢様の立場は安泰であろう。この国が、政治的な取引の駒として利用しようと考えて、隣国に差し出しでもしない限り……。

「色々とお助け戴き、かたじけない。この御恩は、いつか必ず……。

お嬢様は、この国に嫁がれた叔母上であらせられる、王妃……おうひん、おうひれ、おうひひ……」

何とか強引に別の言葉にすり替えようとしたけれど、いい言葉が思い浮かばなかったらしい。

(ふっ、駄洒落の道は、そう簡単じゃありませんよ!)

何故か、上から目線でドヤ顔のマイル。

「お、王妃様付きの女官をされております方のところへ身を寄せられます……」

王妃、という言葉を誤魔化すのは断念して、そういう方向で誤魔化した、護衛リーダー。

どうやら、他国に売られるという確率は低そうであった。

「では、御壮健で!」

「あ、あの……」

皆を代表して別れの言葉を告げ、その場を後にしようとしたメーヴィスをお嬢様が引き留めた。

「何でしょうか?」

立ち止まって振り返り、微笑むメーヴィス。

「あ、あの、あの……」

言いたいが、口に出すことはできない言葉。

自国の護衛達だけであればまだしも、ここには他国の兵士達がいる。

「……エ、エルトレイアです、私の名は……」

おそらく、本当に言いたかった言葉とは違う言葉なのであろう。しかし、これもまた、伝えたかった言葉であることは間違いなかった。

そして、お嬢様はメーヴィスの耳にそっと顔を近付けると、他の者達には聞こえないよう、小さな声で囁いた。

「次にお会いした時には、エル、とお呼び下さい……」

今ここでその名を呼んではいけないことくらいは、さすがにメーヴィスにも理解できた。なので、メーヴィスは黙って頷いた。

「では、 神の(GOD) 祝福が(BLESS) ありますように(Y O U) ……」

そう言って、メーヴィスは人差し指で、ちょん、とお嬢様の鼻の頭を突っついた。

ぶわっ、と顔を赤くしたお嬢様を残し、『赤き誓い』はその場を後にした。

そして『赤き誓い』は進む。新たな国の王都へ。新たな冒険の場を求めて……。

「……で、メーヴィス様、御婚約などはされていないのですよね! ならば、是非我が国で……」

そう、お嬢様一行の行き先が、王都以外にあるはずがなかった。

そして、行き先が同じであることに気付いたお嬢様が、用意されていた馬車に飛び乗って大急ぎで出発し、すぐに『赤き誓い』に追いついたのは言うまでもない。

勿論、『一緒に乗って行かれませんか? というか、それ以外の選択肢はありませんが……』というお嬢様の言葉と、乗って貰わねば自分達の命がない、とでも言わんばかりの、護衛の皆さんの 縋(すが) るような眼を無視できるようなメーヴィスではなかった。

それに、たとえ断ったとしても、馬車の速度をメーヴィス達に合わせて、ぴったりとくっついてくるに違いない。それならば、まだ同乗した方がマシである。

そう思ったのであるが……。

「メーヴィス様、何だか胸が少し痛むような気がするのです。もう一度、あの秘伝をお使い戴くわけには……」

(助けて……)

しかし、必死に眼で助けを求めるメーヴィスに対して、知らん振りをするレーナ、微笑みながら生暖かく見守っているポーリン、そしてなぜか眼をキラキラさせながら『星組です、ツレちゃんです!!』と謎の呟きを漏らしているマイル達が介入することはなかった。

* *

「酷い! 酷いぞ、みんな!!」

休憩で、お嬢様が『お花摘み』に行っている間に、仲間達に苦情を申し立てるメーヴィス。

「知らないわよ」

「知りませんよ」

「へへへ、ごっつぁんです!」

そして、全く取り合わないレーナとポーリン、何を考えているのかよく分からないマイル。

「あの子が慕っているのはあんたなんだから、私達にはどうしようもないでしょ。というか、私達に、いったいどうしろって言うのよ?」

「うっ……」

完全に参っているメーヴィスに、さすがに少し哀れに思ったのか、ポーリンが慰めの言葉を掛けた。

「大丈夫です、あと少しの 辛抱(しんぼう) ですよ。いくら互いにバレバレであると分かってはいても、表向きは身分を明かせないのですから、王都に着けばそれまでですよ。

まさか私達を王宮に連れ込むわけにはいかないでしょうし、すぐに暗殺者がやってくるであろう姫様に街中を出歩かせるわけがありません。さすがに本人も、この状況で王宮を抜け出す程の馬鹿ではないでしょうし。

何しろ、あの子の命には、多くの人々の希望と、そしてその希望のために捧げられた、何人もの人間の命が込められているのです。あの子も、それくらいのことは理解しているでしょう。自分の個人的な欲望やお遊びで危険に晒してもよい命ではないということは……」

少し重苦しい表情になったポーリン、メーヴィス、そしてレーナであったが、マイルは少し首を捻っていた。

(そうかなぁ……。何か、あの子には、私と通ずるものがあるような気がするんだけどなぁ……)

もし、マイルのその心の声を聞いていたならば、メーヴィス達3人は顔を引き攣らせたことであろう。

マイルは、楽しいことのためならば、無茶をしでかす。

そして、ネタと受けのためならば、努力を惜しまない。

そう。マイルは、そういうヤツであった。