軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

312 命の輝き 6

翌朝、朝食の後、真っ直ぐ馬車屋へ。

皆がゆっくり朝食を摂っている間に、護衛のひとりが馬車を借りるべく先行してくれていた。その護衛は、あとで馬車の中で保存食を囓るそうなので、マイルがアイテムボックスのサンドウィッチを出してあげようと考えている。

「二頭立てね。なかなかいい馬車じゃない」

レーナが言う通り、軽快な感じの造りであり、普通の馬車より速度が出せそうであった。馬も、毛づやが良く、しっかり手入れされているようである。おそらく、金に糸目を付けず、一番良い馬車と馬を選んだのであろう。

「ぐぬぬ……」

お金には全然困っていないらしきその様子に、ポーリンが歯噛みして悔しがるが、さすがに自分から言い出した依頼料を、相手が金を持っていると知って後から値上げするような恥知らずではなかったらしく、言葉には出さなかった。

多分それは、商人としてのポーリンの矜持に反する行為なのであろう。……勿論、商人でなくとも、普通の人間であれば、恥ずかしくてとてもできない行為であるが。

そして、お嬢様一行と『赤き誓い』、総勢8人プラス御者1名で、二頭立ての馬車が出発した。

追っ手の連中は、もう追ってこないと思われるが、たとえ追ってきたとしても、武装して水や食料を携行しての徒歩移動では、この馬車には追いつけまい。そして馬車を借りるにしても、武装したゴツい男達を満載した馬車では、やはりこの馬車には追いつけまい。

また、いくら治癒魔術師を雇ったとしても、あれだけの人数の怪我人がそうそうすぐに全員治癒できるとは思えないし、骨折とかは、マイルやポーリン以外では、瞬時に戦闘行動が可能な程の治癒ができるわけがない。

そして、他の部隊が来るには、連絡にかかる時間、準備にかかる時間、そして移動にかかる時間で、到底国境を越えるまでに追いつけるとは思えない。つまり……。

「逃げ切れそうですな、何とか……」

そういうことであった。

国軍兵士の一団が国境を越えて他国に侵入すれば、それ即ち、開戦である。さすがに、それはできないであろう。

「国境を越えれば、隣国の兵士達が護衛してくれる手筈になっています。そこまで行ければ、まず、安全圏かと……」

他国の庇護下にはいる。それは、大きなメリットがあり、また、大きなデメリットもあった。

メリットとしては、暗殺者の侵入を除き、身の安全が図れる。そして、反撃に出る時に、兵を出して貰える可能性がある。

デメリットとしては、国として大きな借りができることである。

もし政権奪回に成功したとしても、この巨大な借りの存在は、長期に亘って外交上の大きな制約となるであろう。勿論、金銭的なこともあるが、下手をすると、王家に入り婿を押し付けられるとか、不平等な条約の締結を求められるとか、色々と悪い事態が予想される。

「亡命政権ですか……」

マイルが呟くが、皆、大きな反応をすることはない。

護衛達も、一応は隠している体裁ではあるが、バレバレであることは承知しているし、マイル達も、相手がバレバレであることを承知していることを知っている。

「そういえば、あの、マーレイン王国への侵略って……」

「ああ、多分、そうだろうなぁ……」

マイルの言葉に、そう言って頷くメーヴィス。

「何、ふたりで納得してんのよ!」

話が見えないらしいレーナがプンプンしているので、メーヴィスが説明してやった。

「いや、あの、急で強引な侵略だけどね。あれ、多分、この件絡みじゃないかと思うんだよね。

簒奪とかやらかすと、反対勢力やら悪口やら、色々と大変だからね。そういう時に一番簡単で便利なのが……」

「戦争ですか……」

どうやら、ポーリンも理解したようである。

「そうだ。外に敵を作れば、国内で争っている余裕はなくなる。そして、戦争は一部の者達には歓迎される。軍の上層部、大商人、そして有力貴族とかにね。一般兵や零細商人、その他の平民達にとっちゃあ、堪ったもんじゃないけどね」

「でも、『味方につけたい層』は、全部、戦争を歓迎する側ですよね」

マイルが、メーヴィスの説明をフォローする。

「そうだ。そして、自分に敵対する派閥の者達を、最も危険な場所に割り当てればいい。戦死して良し、失敗して責任を取らせるのも良し。何なら、どさくさに紛れて味方の兵士に殺させても良し。

そして、もし手柄を立てられても、それならば多めの褒賞を与えれば、『新しい王は、敵対派閥の者にも差別無く褒賞を与える』という宣伝になるし、手柄を立てた者も悪い気はしない。そして新たな領地と領民と略奪物を手に入れた王は、貴族や軍部、そして民衆の支持を得る。

とにかく、国内問題で困ったら、他国へ戦争を吹っ掛ける。定番中の定番だ」

「あ~、それをマイルちゃんが潰しちゃったから、焦って危険因子を潰しにきたんですね……」

「「「「え?」」」」

ポーリンの言葉に、お嬢様一行が眼を剥いた。

「あ、あああ、あの、それはいったい……」

お嬢様にそう尋ねられ、しまった、という顔をするポーリンであるが、もう遅い。

困った顔のポーリンに、マイルが横から助け船を出した。

「あ、あの、マーレイン王国への侵略をやめるよう、ちょっと知り合いに説得を頼みまして……」

「「「どんな知り合いだよっっっ!!」」」

護衛の皆さんから、総突っ込みがはいってしまった。

そして結局、『とあるお友達』に『強く、……強く説得して貰った』と言い張って、何とか逃げ切ったマイル。

護衛達の眼は、完全に死んでいた。

「あ……。ということは、軟禁状態だった私が急に殺されそうになって、脱出計画を 急遽(きゅうきょ) 前倒しにしたため碌な準備ができず、気付かれるのが早くて追っ手に追いつかれ、散々な目に遭ったのって……」

ぎくり。

たらり。

何だか、顔色が悪い『赤き誓い』の面々。

「「「お前達のせいかああああぁ~~!!」」」

* *

「……いや、別に問題はないんですけどね、勿論……」

しばらく経って落ち着いた護衛リーダーが、そう言ってくれた。

「どうせ、時間の問題でした。すぐにひ……お嬢様を殺害してはさすがに 拙(まず) かろうと思ったのか、軟禁状態が続いていましたが、もし完全に王族と貴族、そして軍部を掌握すれば、念の為に確保しておいたお嬢様の利用価値も無くなり、後顧の憂いを絶つためにも、おそらく、お嬢様に対して暴挙に出たのは間違いないでしょう。

そして逆に、各部の掌握が思うように進まず、お嬢様を旗印にして反乱勢力が行動を起こす危険を感じた場合もまた、同様に……。そして、まさに、今回がそれだったわけですが……」

結局、『赤き誓い』のせいだと言われているのは変わらなかった。

そして、話の内容から、わざわざ『お嬢様』と言い直した意味が殆どなかった。

「なので、どうせ脱出するのであれば、無事国外へ逃げおおせたかどうか分からない決行予定日よりも、『赤き誓い』の皆さんにお助け戴いた今回の方が良かったわけです。……結果的には。

あくまでも、『結果的には』、ですが……」

((((怒ってる! 温厚に喋ってるように見えるけど、怒ってるううぅ!!))))

そして、お嬢様の『隣国との戦争を未然に防いで戴けたことに較べれば、私如きの命など……』という言葉によって、ようやく、何とか機嫌を直してくれた護衛の皆さんであった……。