軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

309 命の輝き 3

「な、な、な……」

言葉に詰まる、護衛リーダー。

敵側も、固まっている。

そしてメーヴィスは、護衛達に向かって告げた。

「私が死んだ時は、仲間達に連絡を。そうすれば、私の家族に伝えてくれますので。そしてできれば、メーヴィスは立派に戦った、と……」

実は、野営の時に、次の街でギルドに伝言を頼めば仲間達と連絡が取れるであろうこと、そして彼女達に指名依頼すれば国境まで逃げられるであろうことは伝えてある。

そして、メーヴィスの言葉が続いた。

「私が、半数以上を倒し、残りの者達にも手傷を負わせて戦闘能力を低下させます。その後、姫様を連れて、脱出を。おひとりが最後まで姫様と共に。そしておふたりは、捨て石となって、遅滞防御を!」

マイルから教わった、『遅滞防御』という概念は、同じく野営の時に説明してある。

作戦計画が敵に丸聞こえであるが、問題はない。聞こえていようがいまいが、やることは同じである。こちらも、そして向こうも。

「吹きおるわ! 若い女ひとりで、我ら30人をボロボロにすると抜かすか!」

敵の指揮官は、そう機嫌を損ねた風でもなく、そう叫んだ。……おそらく、死を覚悟したメーヴィスが、己を 鼓舞(こぶ) するために大言を吐いているとでも思っているのであろう。

しかし、メーヴィスは大真面目であり、本気であった。

「アイリメイン殿、しばしお時間を戴けまいか!」

メーヴィスが少女のことを『姫』と呼んでしまい、どうやらバレているらしいと悟った護衛リーダーは、敵の指揮官の名を呼んだ。どうやら、知り合いであるらしい。

そして指揮官は、相手の意図が分からないため、肯定も否定もしなかった。それを勝手に肯定の意思表示と決めつけて、護衛リーダーがメーヴィスに向かって言った。

「……戦地における、臨時叙勲を受けては戴けないだろうか……」

「え?」

臨時叙勲。それは、戦地において、その戦いの間のみ臨時に騎士に任命することである。大被害を受けて騎士の数が足りなくなった時や、生還がほぼ見込めない任務に就く者に対し、現地で3人の上級騎士の推挙があり、そして更に男爵以上の貴族が立ち会い、見届け人となった場合に認められる。

もし任務を終えて無事生還した場合には、その時点において無効となるが、その場合でも、普通はあとで追認として正規の叙勲が行われる場合が多かった。そして、戦死した場合には。

……その場合は、騎士として死に、死んだ後も、騎士として扱われる。言わば、死にゆく者への最大限の贈り物であった。

「う……」

それは、軽々しく行使されることのない制度である。少なくとも、身元も知らない行きずりのハンターに対して与えるようなものではなかった。あまりのことに、言葉に詰まったメーヴィスであるが……。

「み、見届け人がおりませんから……」

やっとのことでそう言ったところ、護衛リーダーは、あろうことか、敵の指揮官に向かって頭を下げた。

「アイリメイン男爵、見届け役をお願い致す」

「…………良かろう」

「えええええええっっ!」

「こういう場であり、我らが名を名乗るのも 憚(はばか) られる 故(ゆえ) 、簡略化して行うことをお許し下さい。我ら3名の上級騎士が、メーヴィス殿を戦地における臨時叙勲に推挙する。異議ある者はおるか!」

誰からも、言葉はない。

「アイリメイン男爵、お願い致す!」

「何とまぁ、略しに略しおって……。しかし、まぁ、最低限の要件は満たしておる。我、アイリメイン男爵家当主、ガルラット・フォン・アイリメイン、戦地における臨時叙勲、確かに見届けたり!

無事に生き延びるまでは、その者が騎士であることをここに宣言する!」

……騎士。

あれ程憧れ、なりたかった騎士。

騎士として死ねる。

メーヴィスは、満面の笑みを浮かべた。そして……。

「いや、嬉しいですけど! ありがたいですけど! でも、私は、自分の実力で騎士になりますから!! ……まぁ、ほんのひとときではありますが、騎士の気分を味わわせて戴きますけれど……」

先程、死を覚悟したようなことを言っておきながら、死ぬつもり、皆無であった。

いや、実際にはそれは難しいであろうが、最初から勝利を諦め、戦いを投げるようなメーヴィスではなかった。

そして、ポケットから、残り4本のミクロスのうち、3本を掴み出した。

いくら新しい技である『メーヴィス・ 円環結界(リング) 』を使おうとも、真・神速剣で何とかなるような相手でも、そして人数でもなかった。それらを使っても、勝てる確率は低かった。

しかし、諦めれば、確率はゼロになる。諦めさえしなければ、如何に低い確率ではあっても、それはゼロではない。マイルがよく言っていた。『メーヴィスさん、諦めたら、そこで戦いは終了ですよ』と……。

そして、3本の蓋を開け、一気に飲み干した。

「頼んだぞ、ミクロス!」

これで、重傷は確実である。たとえ、敵の剣に当たらなくとも。

「すまん、死ぬ気は 更々(さらさら) 無いが、もしかすると、先にいかせて貰うことになるかも知れん、レーナ、ポーリン、……そして、マイル!」

小声でそう呟いた後、気を練り、剣を経由して放出し、 円環結界(リング) を形成したメーヴィスは、敵に向かって大声で名乗りを上げた。

「メーヴィス・フォン・オースティン、参る! 我が命の、輝きを見よ!!」

きぃん、どしゅっ! ずど、カカカン、ざしゅ!

「ぐあっ!」

「は、速い……」

「何をしている、押さえろ! 点ではなく、面で制圧……」

ぎぃん、ドス!

「馬鹿な、小娘ひとりに……」

数人の兵士が護衛と姫様の方へ向かおうとしたが、その背に向けて振るわれたメーヴィスの剣。

「ぎゃあああ!」

後ろに敵がいるのに、そちらに背を向けて別の敵と戦おうとするとは、自殺願望でもあるのであろうか……。

慌ててメーヴィスの方に向き直った敵には、護衛が瞬間的に飛び出て背後から斬りつけ、またすぐに元の位置へと戻る。

「そっちは放置しておけ、逃げられぬよう見張っておくだけでいい! まずは、この女を……、ぐわっ!」

部下に指示を出していた、分隊長あたりと思われる兵士が地に倒れ伏した。

メーヴィスが縦横無尽に暴れ回り、急速に戦闘能力が低下していく敵の兵士達。

……しかしそれも、結果的には、短い時間に過ぎなかった。

「はあっ、はあっ、はあっ……」

いくらミクロスの力で加速していても、これだけの数の熟練兵士相手で、無傷で済むはずがなかった。避けられぬ斬撃は防具で受けるようにはしていても、防具の上からのダメージ、そして防具で充分に護られていない部分へのダメージ等が重なり、そして更に、無茶な機動を続けたためにミクロスの反動で骨が折れ、腱が切れ、筋肉が裂ける。

いつの間にかメーヴィスの動きが止まり、そしてそれを囲む敵側も動きを止めていた。

「……これまでのようだな。己の肉体の限界を越えた力を振り絞る技には驚かされたが、所詮は小娘の身体、肉体の強度が追いつかなかったか……。鍛錬不足、だな……」

敵の指揮官の指摘に、悔しそうに唇を噛むメーヴィス。

「しかし、敵ながら、天晴れな戦い振り。我ら近衛第一小隊31人を相手にして、半数近くを戦闘不能にし、残りの大半にも手傷を負わせるか……。しかも、この期に及んでまでも、致命傷を与えぬように配慮するとは……。もし違う形で出会っていたならば、我が息子の嫁に、と願ったかも知れぬな。

しかし、もう動けまい。どうだ、降伏せぬか? もう、充分に義理は果たしたであろう」

自らが率いる部隊の正体を明かしてまでのそれは、本当に厚意での申し出だったのだろう。

しかし、メーヴィスは黙って首を横に振った。

「私はただ、この命の輝きをもって、我が信念と、そして正義を示すのみ!」

そこには、一片の迷いもなかった。

「そうか……。では、せめて一撃で……。

最後に、もう一度名を名乗ってはくれぬか。息子や孫、そして部下達に、偉大な剣士の名を伝えたい」

それは、剣士として最大限の賛辞であろう。メーヴィスは、それに応えて、名乗った。

「メーヴィス・フォン・オースティン……、いや、」

そして、頭を振って、名乗り直す。

「ハンターパーティ、『赤き誓い』所属、剣士メーヴィス!」

「ほぅ、最後に名乗る名は、貴族としての名ではなく、ひとりの剣士、そしてひとりのハンターとしての名か!

惜しい、惜しいぞ、メーヴィスとやら!

しかし、その名、俺が覚えておこう。そして、家族や部下達にもその名を伝えよう。お前の親元にも、必ずやその立派な最期を伝えよう。だから、安心して、誇りを持って……」

「その必要はありません!」

「誰だ!」

指揮官や兵士達が 辺(あた) りを見回すが、人の姿はない。

しかし、その時。

ズババババ~ッ!

メーヴィスの右横、2メートルあたりの空間が、縦に裂けた。

そしてその空間の裂け目から、ずんっ、と踏み出された、1本の足。

「『赤き誓い』所属、」

そして、続いてにゅっと出てくる、頭と胴体。

「マイル!!」

そして反対側、メーヴィスの左横2メートル付近の、高さ1メートル半あたりの空間が水平方向に渦を巻き、その渦がしだいに下へと下がっていった。そして、それにつれて現れる、赤い髪、キツい顔立ち、……そして貧乳。

「同じく、赤のレーナ!」

更にその赤髪の少女の横の空間がポンっと弾け、姿を現した巨乳少女。

「同じく、ポーリン!」

そして、3人の眼が、メーヴィスの方を向いた。

ボロボロになり、刀傷と吐血で血塗れで、左腕と右足をぷらんぷらんとさせた、大切な仲間の方を……。

「「「ほほぅ」」」

ぞくり。

歴戦の兵士であるはずの者達が、なぜか、寒気を感じていた。

「「「ほほぅ……」」」