軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

308 命の輝き 2

「「「…………」」」

街道を進む5人。

そのうち3人は黙り込み、ひとりは饒舌で、最後のひとりは困惑していた。

「メーヴィス様、あの技は、どのような技ですの?」

「メーヴィス様、御実家はお兄様がお継ぎになられるのですよね? ならば、メーヴィス様は御自由なのですよね?」

「メーヴィス様、騎士志望、ということは、まだどこにも仕官されていないのですよね? それならば……」

(助けて……)

必死で、助けを求めるべく護衛達に眼で合図するメーヴィスであったが……。

(((済みませぬ……)))

すっ、と視線を逸らせる、3人の護衛達であった。

あの後、倒した6人の敵は、死なない程度に止血等の応急処置を施し、縛り上げて街道脇に転がしておいた。負傷の度合いが少ない者には、更に足や腕を折って、少なくともしばらくは戦力にならないようにしておいた。

殺すより、その方が、その者達を街へ運ぶために人手を取られ、それだけ敵の戦力が減る。敵は、殺すより、重傷にして生かしておいた方が、敵の負担となり、我に利する。

そして、彼らもまた 主(あるじ) の命に従っているだけであり、彼ら自身が極悪非道な犯罪者であるというわけではない。自分達の身を護るためであれば倒すことに躊躇する必要は全くないが、自分達が圧倒的に優位であり充分な余裕がある場合や、戦いが終わった後においては、個人的な憎しみにより無意味に命を奪う必要はない。

メーヴィスのその主張に、少女と護衛達だけでなく、倒され縛り上げられた敵達ですら感じ入った様子であり、黙って項垂れていた。おそらく、自分達の任務が、そう褒められたものではないことは自覚しているのであろう。

しかし、その敵達も、『すぐに戦線に復帰されないよう、軽傷の者は手足を折っておきましょう』というメーヴィスの主張にはドン引きであったが、自分達を殺そうとした相手に対しては充分な温情であるため、泣きそうな顔でそれを受け入れた。……というか、必死で抵抗したが、折られた。ポッキリと。

そして、そう主張しながらも自分で手を下すのを躊躇うメーヴィスに代わり、骨折り仕事は、護衛の3人が引き受けてくれたのであった。

まだまだ甘さが抜けないメーヴィスであった。

まぁ、街へ連れ戻り、腕の良い治癒魔術師に大金を払えば、完治するであろう。護衛達も、なるべく綺麗に折れるよう気を使ったようであるし……。

「盗賊達ですら、無意味に仲間を見捨てることはないのです。正規の兵士達であれば、重傷の仲間を放置することはないでしょう。これで、数人は敵の数が減らせるはずです」

そう言って、敵のために自分の水筒を置いていってやるメーヴィスを見る少女の眼がキラキラと輝いており、少女の性格を知っている護衛達は、何だか少し不安を覚えていたのであるが……。

(やはり、こうなったか……)

(やはり、こうなりましたな……)

(うむ、やはりな……)

なるべくして、なった。どうやら、そういうことであったらしい。

「ちっ、違いますわよっ! 私は、勇者様や白馬の騎士様に憧れているだけであって、別に、女性が好きだというわけではありませんわよっっ!」

あからさまに自分を避けるメーヴィスを不審に思い、問い詰めた結果、メーヴィスがとんでもない思い違いをしているらしきことに気付き、顔を真っ赤にしてそれを否定するお嬢様。そして、それを聞き、安心したような顔の、メーヴィスと護衛達。

「……大好きになった命の恩人の勇者様が、たまたま女性だったというだけで……」

「それ、安心できないよっ! 全っ然、安心できないよっっ!!」

メーヴィスの叫びが、 虚(むな) しく響くのであった……。

そして更に、メーヴィスの実力を知った護衛達と剣術談義で話が弾み、話に割り込めなくなった少女が機嫌を損ねたり、騎士として召し抱えてあげるから自分のところに仕官しないかとしつこく勧誘したりして、メーヴィスを困らせるのであった。

もう、この時点で、少女はかなりボロを出していた。

しかし、それに気付かないはずもないのに平然として顔色も変えないメーヴィスに、護衛達も、肩を竦めて諦めたような顔をするのみであった。

* *

あれから2日後の、朝2の鐘(午前9時)の頃。2度の野営を経て、メーヴィス達は、特に何事もないまま街への街道を順調に進んでいた。

「済みませんな。本来であれば、メーヴィス殿は昨日の夕刻前には街に着いて、お仲間達と合流できていたはずなのに……」

そう、メーヴィスひとりであれば、とっくに着いているはずであったが、メーヴィスの処置によって一応傷口は塞がり出血も止まったものの、大量の血を失った上に体内の傷は完治には程遠い状態であり、まだとても本調子とは言えない少女の足は遅く、丸々1日分の遅れを出していたのである。

それでも、護衛が少女を背負ってもそう速度が上がるわけではなく、そして何よりも、背負うことによる圧迫が少女の傷に悪影響を与え、下手をすると傷口が開き再出血のおそれもあることから、少女が自分で歩くしかなかったのである。

馬車に乗せてくれぬ商人達を怨んでみても始まらない。あと半日、頑張るしかなかった。

このまま進めば、夕刻前には街に到着できる。街にさえ着けば、馬車を雇うことも、何ならば買い取ることも可能である。そしてその前に、少女を治癒魔術師に診せることも。

(マイル達に宛てた手紙を、馬車で通りがかった者に託すべきだったか? それくらいであれば、私が銀貨5枚、そして受取人が更に銀貨5枚を支払う、とでも言えば、引き受けて貰えただろう。

……いや、これは私が自分の意思で受けた、採算度外視の依頼だ。皆を巻き込むわけにはいかない。それも、道を引き返させてまで。

街に着いてから、改めて、相場に沿った正規の料金で、ギルドを通して指名依頼を受ける、という形であれば、『赤き誓い』として、国境を越えるまでの護衛依頼を受けることも可能なのだが……)

メーヴィスがそんなことを考えていると、『それ』がやってきた。

そう、あれだけの兵力を投入しておいて、そのまま逃げ切らせてくれるはずがなかった。

おそらく、分散して各方面へ出していた捜索部隊が戻るのを待ち、先回りし、襲撃に適した場所で待っていたのであろう。

その数、およそ30。

「ふむ、1個小隊40人から6人引いて、怪我人の護衛にふたり、街に馬車を雇いに行かせたのがひとりとして、残り31人、といったところかな?」

前回と同じく、前方に敵らしき姿を確認した時点で、近くの大木を背にした守備隊形に移行した一行。そして、予想通り後方と街道の左右の草むらから現れて包囲してきた敵に向かって、メーヴィスが落ち着いた声でそう判定した。

「……おぬしが、捜索に出した6人を倒したという女性剣士か。まだ若いのに、大した腕だ。

そして、そちらにも思惑があったのであろうが、部下の命を奪わずに見逃してくれたことには、感謝する」

そう言って、年配の兵士が軽く頭を下げた。おそらく、この部隊の指揮官、小隊長あたりであろう。

「しかし、それはそれ、これはこれ。すまぬが、我らの任務を遂行させて戴く。それは、分かって戴けよう」

敵の指揮官の言葉に、黙って、こくりと頷くメーヴィス。

そしてそこに、後ろから声が掛けられた。

「ハンター、メーヴィス殿。たまたま出会い、ひ……お嬢様の治療のためお雇いしたが、もはやこれまで。今、現時点において契約は終了と致します。どうか、このまま立ち去り、修行の旅を続けられよ……」

予想を超えたこの人数差では、いくら個人の腕が少々優れていようが、勝つことは不可能である。

金貨5枚は、金貨1枚の5倍の価値がある。しかし、5人の熟練兵士は、ひとりの熟練兵士の5倍の戦力ではない。仲間達と協力して戦う訓練を積んだ兵士5人は、ひとりの兵士の5倍ではなく、10倍、20倍の戦力となるのである。そしてそれが、30人となれば……。

護衛のリーダーは、到底勝ち目がないためここを自分達の死に場所と定め、メーヴィスを巻き込むことなく逃がすために、敢えてただの雇い人のハンターに過ぎないこと、そして事情は教えていないことをあの言葉の中で示したのであろう。

「…………」

敵の指揮官は、メーヴィスの言葉を待ってくれている。おそらく、本来は無関係であり、将来性のある若き女性剣士を無為に死なせることもあるまい、とでも考えているのであろう。

それに、戦えば、いくら勝利は確実だとはいえ、余計な死者や怪我人を出す可能性がある。また、雇われの若い女性ハンターをひとり倒したからといって、手柄が上乗せされるとも思えない。

厄介な凄腕剣士と戦わずに済むなら、重畳であろう。

「…………分かりました。では、護衛の契約はこれまで、ということで……」

「うむ、世話になった。では、壮健であられるよう……」

護衛リーダーの言葉を遮って、メーヴィスの言葉が続けられた。

「そして、メーヴィス・フォン・オースティン、賊に襲われ危機に陥った少女を見つけたため、義によって、助太刀致す!」

「「「「「な、なんじゃそりゃああああぁ~~!!」」」」」

敵味方の声がハモった。

「な、なぜ……」

護衛リーダーの震える声に、メーヴィスは平然と答えた。

「簡単なことです。それは、私が騎士を目指す者であり、『メーヴィス・フォン・オースティン』という人間であり、ハンターパーティ『赤き誓い』の一員だからです。それに、姫様を救うのは、勇者の務めでしょう? そして……」

「そして?」

護衛リーダーの相づちに、メーヴィスは胸を張って答えた。

「とても、カッコいいからだ!!」