軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

303 強 化 2

結局、『赤き誓い』の面々は、メーヴィスを残してその街を出発した。何だかんだ言っても、皆、やはり『元宮廷魔術師』とやらの力と教え方には興味があったようである。

出発する時に、マイルはメーヴィスに『もし何かあったら、すぐに呼んで下さいよ!』としつこく念を押していたが、この街の治安は悪くないし、ハンターであり剣で武装したメーヴィスにちょっかいを掛ける者がいるとは思えない。それは、下手をすれば命の遣り取りになるということであり、ハンターギルドを敵に回すということである。

それに、この街とマイル達が向かう町の間は1泊2日の距離であり、盗賊が出たという噂は、少なくともここ数年は流れていなかった。

メーヴィスの短期集中訓練の契約は、5日間。あまり長くしても切りがないし、それだけあれば、メーヴィスが自分の今の実力と、自分に足りない部分を自覚するには十分だと思われたからである。

そしてその部分は、またゆっくりと鍛錬し身に付けていけばいい。マイルと共に……。

道場主は、大喜びであった。

お金が稼げる客である上、少し試し稽古をしてみるとかなりの実力があり、その素直な剣筋は、短期の客相手では我流の汚い剣筋の者にばかり教えている身としては、久々に教え甲斐のある生徒であった。

そして、若く、きりりと引き締まった表情の美人となれば、客寄せ効果が抜群である。

しかも、先に旅立ったあの3人が魔術師道場へ行けば、小金貨3枚かける1割5分かける3人かける数日間。うまくすれば、小金貨6~7枚、いや、10枚くらいいけるかも知れない。

道場主夫妻がホクホク顔になるのも、無理はなかった。

* *

「神速剣!」

ばしぃっ!

「ぐうっ!」

「それまで!」

兄弟子との模擬試合を終え、下がるメーヴィス。

この道場では、正式な弟子と、短期訓練の『お客様』ははっきりと区別されており、後者は『生徒』と呼ばれ、訓練の終了後はこの道場とは何の関係もなく、弟子と名乗ることはできない。なので、道場主のことは『師匠』、正式な弟子達のことは『先生』と呼び、同じ生徒である仲間達とは別物であった。そのため、弟子達のことを『兄弟子』などと呼ぶことはない。

しかし、なぜかメーヴィスだけは初日の訓練が終了した時点で弟子扱いとなり、彼らのことを『兄弟子』と呼ぶことを許された。

弟子達もそれを不快に思う様子はなく、妹弟子として可愛がってくれた。

そしてメーヴィスは、初めて経験するそういう世界に、大喜びであった。

(兄弟子! 共に剣の道を歩む、同門の仲間達!!)

そう、メーヴィスが好きそうなシチュエーションである。そして……。

(若くて美人の女の子! 気品があり、世間話や剣術談義の内容から見て、明らかに裕福な貴族家のお嬢様で、素直で性格もいい。逆玉のチャンス!!)

(弟子達のやる気上昇、短期訓練の希望者増加! しかも、真面目で努力家、筋もいい。更に、短時間のみしか集中力が続かないとはいえ、『神速剣』とかいう驚くべき速度での連撃技。

短期間しか在籍しないというのが惜しい! しかし、仲間達と共に旅の途中とあれば、仕方ないか……。

騎士道精神に溢れており、悪事に手を染めるようなことはあり得ないであろうし、将来、必ずや立派な人物となり、最終的には大貴族の妻となるに違いない。せめて、うちの弟子だということにして、その時には宣伝に利用させて貰えれば……)

皆、それぞれ勝手なことを考えていた。

しかし、誰に迷惑をかけるわけでもなく、皆が幸せなので、問題ない。

「お師匠様、私の強さは、ハンターの中ではどれくらいなのでしょうか?」

鍛錬の後の、メーヴィスのあまりにもどストレートな質問に、道場主であるラディマール師匠は髭をしごきながら、しばらく考え込んだ後に答えた。

「う~む……。通常ならば、Cランクハンターの、上から2割くらいのところじゃろうか。父親や兄から学んだと言っておったが、癖のない、素直で良い剣筋じゃ。大半が我流で無駄が多い、『汚い剣筋』であるハンターの中では、かなり良い方じゃろう。そして、剣速も速い。

じゃが、女としては筋力も体力もある方だとはいえ、所詮は女の骨格じゃし、女盗賊のような筋肉がついているわけではない。それらのマイナス分を考えると、速度だけであればともかく、総合力ではBランクとまでは行かんじゃろうな……。

但し、あの『神速剣』を使っている間は、十分Bランクハンターに匹敵すると思うぞ。うまく相手の動揺を誘うとか、油断を衝けば、Aランク下位の者に一矢報いることも可能かも知れん。

あまり長時間は続けられないのは惜しいが、なに、1対1での戦いがそう長引くことは、あまりないからのぅ」

メーヴィスは、まだ、ここでは『神速剣』までしか披露していないが、ただひたすらに鍛錬を重ねた成果である『神速剣』と、己の精神力で使いこなす『真・神速剣』までは、自分自身の実力として堂々と使えると考えていた。……さすがに、『EX・真・神速剣』は、実戦での命の遣り取り以外では使うつもりはなかった。そしてそれは、自分自身の力ではない。

「そうですか……」

おそらく、レーナとポーリンの魔法は、Aランクハンター並みであろう。そして、マイルに至っては……。

それに較べて、自分は、ミクロスを飲むというズルをして、ようやくAランクあたりの力に。

ごく短時間しか保たず、身体に大きな損傷が出て、しかも他力本願の薬頼みで、やっとのことでそのレベルである。

そう考えると、己の、あまりの不甲斐なさに心が沈む。

それに、多人数を同時に相手にして戦える魔術師組に対して、自分は目の前の敵をひとりずつ倒すことしかできない。……いや、剣士なのだからそういうものであり、それは役割が違うのだから、ということくらいはよく分かっている。しかし、それでも、何か無力感に囚われてしまうメーヴィスであった。

「……お師匠様、総掛かりの訓練をさせては戴けないでしょうか」

「何?」

総掛かりとは、全軍一斉攻撃のことである。

つまり、メーヴィスは、今ここにいる弟子達全員を相手に、一度に自分と戦って欲しい、と言っているわけである。

既に午後の部の『お客様』、短期集中訓練の生徒達は帰っており、今はメーヴィスが特別に参加を許されている、正規の弟子達が鍛錬をしている時間帯である。なので、かなりの実力である兄弟子達が、12人。たとえBランクハンターであろうとも、勝てる相手ではなかった。ミクロスを飲んで短期勝負に出れば勝てる可能性はあるが、勿論、そんなことをしても鍛錬の意味がない。

「……自分が何を言っているか、分かっておるのか?」

「はい」

「兄弟子達を侮辱していると取られてもいいのか?」

「侮辱ではありません」

「勝てるとでも思っているのか?」

「いいえ。……でも、勝てるようになるための鍛錬です。そして、仲間達に少しでも追いつくための……」

「…………」

黙って考え込む、師匠、ラディマール。

「……そんなに強いのか?」

「はい。あの3人のうちで一番攻撃力が弱い治癒魔術師で、Aランクの剣士数人くらいであれば瞬殺かと……」

「何じゃと!」

後ろで、話を聞いていた弟子達が凍り付いていた。

「お願いです! 足を引っ張りたく……、お荷物になりたくないのです! そのためには、壁を越えねば! 壁を越えねばならないのですっっ!!」

ツゥ、とメーヴィスの頬を流れる、ひと筋の涙。

ここにいるのは、皆、武人である。

強さの壁に突き当たり、苦しみ悶える日々。友に遥か先へと行かれ、悔しさと羨望に 塗(まみ) れ、そんな自分の俗物さに、自己嫌悪で死にたくなった日々。そして、自分の力不足のせいで護るべきものを護れなかったことを後悔し、壁に頭を叩き付け続けた日。

そういう経験が皆無の者など、いるはずがない。

「……魔術師3人と一緒で、我がラディマール剣術道場の門下生が、いや、剣士が馬鹿にされるなど、あってはならぬ。……思い通りの鍛錬をするがよい。1日当たり小金貨3枚分、しっかりと身に付けてゆくがよい!」

「はい!」

「お前達、可愛い妹弟子のため、我がラディマール剣術道場の名誉のため、そして剣士としての意地のため、協力してやれ。決して手を抜くでないぞ。それは侮辱であり、同門の仲間に対する裏切り行為であると思い知れ!」

「「「「「「ははっ!!」」」」」」

そして、メーヴィスの特訓が始まった。

それは、メーヴィスにとって地獄であり、そしてまた、自分の望みを叶えるための、ある意味では、楽園でもあった……。