軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

302 強 化 1

「なに、隣国の行動が中止になっただと?」

マファンの街では、領軍やハンターギルド支部で様々な噂が飛び交っていた。

隣国の最寄りの街だけでなく、王都のハンターギルド支部、傭兵ギルド、その他一部の一般市民にも金を握らせて、情報収集に努めているのである。それに、中隊規模以上の軍を動かすのに、完全な情報管制が敷けるはずもなかった。

情報というものへの認識が薄い下級兵士やごろつき、村人達は、すぐにあちこちで喋りまくる。また、物資の流れ、部隊の移動等は目立ち、軍の移動より、情報を携えた報告者の馬による単独移動の方が遥かに速いのであるから、これだけ近い相手であれば、準備状況は筒抜けである。奇襲などということは、余程の 僥倖(ぎょうこう) か相手が間抜けでない限り、望むべくもなかった。

それでも、いつものように『魔物の押し出し』だと思い込んでいれば奇襲成功の目も無くはなかったが、軍の動員規模、農民兵の召集規模等から、マファン側は、今回は普通の嫌がらせ程度ではないことを把握していた。

しかし、王都軍や他領の領軍からの援軍が間に合わない、という意味においては、奇襲は成功、と言えるかも知れない。

「王都軍や他領の援軍が来るまで持ち堪えられるかと心配していたが……、って、それが本当なら、急いで使者を送らねばならん! 大規模な軍事行動を要請して、間違いでした、じゃ済まんぞ。実費と礼金、お詫び金を各領主軍に払ったら、我が領の財政に大打撃だ! 急いで、正確な情報を集めろ!」

実際に戦争になることに較べれば大助かりではあるが、誤報で大金を失うのは勘弁して欲しい。しかし、来ないと思って安心していたら、やっぱり来ました、では、領地が滅ぶ。ここは、安全、かつ無駄金を使わずに済むよう、うまく立ち回らねば。

そう考えた領主は、慌てて配下の者達に情報収集を命じるのであった。

* *

「王都からかなり離れたわね。そろそろ大丈夫かしら……」

「はい、これだけ離れれば大丈夫だと思います。マイルちゃんがやったことは、正式には情報が出回らないでしょうから……」

レーナの呟きに、そう返事するポーリン。

ここ数日、移動距離を稼ぐことを最優先にしていた『赤き誓い』は、野営ばかりで歩き続けていた。その甲斐あって、まだ国境は越えていないものの、王都からはかなり離れていた。国境線も、そう遠くはない。

そろそろギルド支部に立ち寄って情報収集を、と考えた『赤き誓い』は、次の街に立ち寄ることにした。

「……ないわね……」

面白い依頼も、荒稼ぎできそうな依頼も、良い経験が得られそうな依頼もなかった。

当たり前である。こんな小さな町でそんな依頼があれば、とっくに地元のパーティが受注しているだろう。

「1泊するだけで、次の街へ行こうか……」

しばらく腰を下ろすなら、もっと大きな街の方がいい。メーヴィスの提案に、こくこくと頷く3人であった。

「……え?」

宿を探すべく、ギルド支部を出て大通りを歩いていると、メーヴィスがとある看板に眼を留めた。

『剣術指南。見学可。短期集中訓練も引き受けます。元王宮近衛騎士、ラディマール』

「……」

「…………」

「………………」

「分かったわよ! 行けばいいんでしょ、行けば!!」

看板を見詰めたまま微動だにしないメーヴィスに、レーナが諦めたように叫んだ。

「うむむ……」

道場の隅っこに座り、剣術の指南を見学している『赤き誓い』の4人。

そして、唸り続けるメーヴィス。

「で、どうなのよ?」

そう問い掛けるレーナに、メーヴィスは感心したように言った。

「さすが、元王宮近衛騎士を名乗るだけのことはあります。実力も、そして指導の仕方も素晴らしい……。父上と兄様方もかなりの使い手なのだが、自分の強さを追求することを優先されていたため、教えることはあまり得手ではなかったのだ……。

それに、当時の私はお子様だったからね。今にして思えば、子供相手にお遊びの相手をしている程度のつもりだったのだろう。とても、『剣術を学んだ』と言えるようなものでは……」

マイル達はそうは思っていなかったが、元王宮近衛騎士の剣筋や、その指導の様子を見てしまったメーヴィスには、己の技術が素人に毛の生えた程度に思えてしまったようであった。

熱い眼で、元王宮近衛騎士の指導や模範演技を見詰めているメーヴィス。

(((あ~、嵌まっちゃったか……)))

やる気があり、そしてある程度の見る眼のある者であれば、絶対に指導を受けたくなる。そういう自信があるからこその『見学可』なのであろう。そして、長期間に亘って師事できない者のための、『短期集中訓練も引き受けます』の文言。

「指導料、馬鹿高いに決まってますよっっ!」

ポーリンがそう文句を溢すが、メーヴィスの強化は、パーティ全体にとって大きな利益となる。

「分かりましたよ! 授業料は、パーティ予算から出しますよっっ!!」

さすがのポーリンも、メーヴィスに自分の小遣いから出せ、と言うほどの鬼畜ではなかったようである。

そして、それを聞いてにんまりとしている、案内役の、上品そうな年配の女性。おそらく、道場主の奥さんなのであろう……。

「では、剣士のおふたりに、おひとり当たり1日小金貨3枚で……」

「「「「高いいいいぃ!!」」」」

思わず声が揃った4人であるが、女性から『正式な弟子でもないのに元王宮近衛騎士の指導が受けられるということを、お金に換算すればどれだけの価値があると考えるか』、『伝手やコネでそういう人物に指導をお願いするとしたら、どれだけの根回しや金銭を必要とするか、考えてみたか』と言われ、納得するしかなかった。

ポーリンですら、『もしかすると、すごくお得なのかも……』と言い出すくらいであるから、本当に良心的な価格なのであろう。確かに、貴族家の子弟の剣術教師として雇われてもおかしくないのに、こんなところで平民相手に小金貨3枚で教えているなど、お人好しで……。

「でも、一度に10人以上に指導してますよ! それに、生徒同士で模擬試合させてるから、結構楽をしてますよ! これで2、3時間ずつ、1日に2組指導すれば、小金貨60枚以上ですよ!!」

マイルの指摘に、すっと視線を逸らす女性。

「「「暴利だああああぁ!!」」」

そして道場に、模擬試合中の生徒が、ビクッとして動きを止めるくらいの叫び声が響いたのであった。

「そうだったのですか……」

その後女性に、道場の料金にはランクがあり、初心者と経験者ではかなり違うこと。そして更に、お金のない平民や孤児達からはほんの名目だけの、ただ同然のお金しか取っておらず、おまけに指導後には食事まで与えているとのことで、その分、余裕のある者からは多めに貰わないと経営が成り立たないのだと聞かされて、ならば仕方ないなと納得した『赤き誓い』一行。

しかし女性は、メーヴィスとマイルのふたりが受講するものと思っていたらしく、追加収入が半減したことに、少しがっかりしていた。

マイルさんも是非、と強く勧めてきたが、マイルがこんな恰好ではあるけれど本職は魔術師であること、剣は学園時代も含めると1年半以上学んでいるはずなのに基礎すら何もできていないので、今更数日間学んでも無駄であることを伝えると、残念そうな顔をしながらも、諦めてくれた様子であった。

「じゃ、私達はメーヴィスの短期集中訓練が終わるまでの間、3人で依頼を受けるか、ゆっくり休暇を取ろうかしら……」

レーナがそう言うと、案内役の女性が口を挟んだ。

「それでしたら、歩いて2日のところにある街に、元王宮魔術師だった人の魔術指南道場がありますよ。皆さんはそこで魔術の修行をなされては如何ですか? 見学可、短期集中訓練も引き受けていますよ」

「「「え?」」」

またまた、声が揃う3人。さすが、パーティ仲間である。

「それって、この道場と関係は……」

そう聞くマイルに、女性は悪びれた様子もなく答えた。

「直接の関係はありません。まぁ、うちの亭主が王宮勤めだった時の友人だそうですが。

そして、生徒を紹介すると、うちの紹介状を持っていった生徒は講習料が5分引き。講習料の1割5分がうちのものになります」

「「「そんなことだろうと思った!!」」」