軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

300 警 告

「じゃ、行ってきます」

「気を付けて行きなさいよ!」

「油断大敵、だぞ、マイル」

「金目の物があれば、持って帰って下さいよ!」

皆から注意喚起の言葉……一部、少し違うものもあったが……を掛けられて、マイルが夜中に出撃した。

……そう、『出撃』である。

よかれと思ってやったことではあるが、『赤き誓い』が雇用主の指示ではないのに 行(おこな) った追撃のせいで、本来ならば数カ月の間隔を置いて行われるはずの『魔物の押し出し』が、すぐに実施されることとなってしまったらしい。それでは、マファンの人達や軍人達に申し訳がない。

また、この国の兵士達も、別に悪人だというわけではない。ただ上官の命令に従っているだけの、公務員なのである。だから、敵として向かってくるなら容赦する必要はないが、そうでないなら、意味もなく死傷させる必要はない。

なのでマイル達は、魔物押し出しのための軍事行動自体を開始前に止めようとしていたのである。今回も、そして以後も、ずっとその効果が続くような方法で……。

今回は、今までのような嫌がらせではなく、軍の国境線越境、つまり本格的な軍事行動であることは、まだ公表されていない。なので、マイル達は今回も普通の押し出しのみだと思っていた。

そして、軍事行動には、準備にも実際の行動にも時間がかかる。今、ハンターや傭兵を募集している時期であるならば、実際の行動はまだしばらく先のことであろう。そう考えて、マイル達は特に急いでいるわけではなかったが、面倒事はさっさと終わらせるに限る。農民達も、無駄に召集されるのは面倒であろうし。

「よし、ここが王宮ですね……」

王宮の場所など、誰かに聞くまでもないし、一番偉い人がいそうな場所も、建物の構造から、大体見当がつく。そして、警備が厳重そうな方へと進んでいけばいいだろう。

というわけで……。

「こんばんは……」

「な、何者だ! 衛兵! 衛兵は何をしておる!!」

夜勤の警備兵以外は大半の者が寝静まっている時間であるが、意外にも国王はまだ起きており、ランプの灯りで、何やら資料のようなものを読んでいたらしい。

そして国王は大声で護衛の兵士を呼ぼうとしたが、マイルが声を掛ける前に防音・防振結界を張っていたため、その声が部屋の外側に立っている兵士達に届くことはなかった。

「……って、え……」

あまり驚かさないよう、声を掛けた後に光学迷彩魔法を解除し姿を現したマイルを見て、言葉を詰まらせた国王。

それも、無理はない。何しろ、姿を現したマイルの恰好は……。

派手ではないが、清楚で上品な白い衣装。ギリシャ神話とかで女神様が着ているような、イオニア式キトン、とかいうやつに似たタイプである。

古代ギリシャでの典型的な服装であり、あれは一見複雑そうな造りに見えるが、実は貫頭衣の形式の 寛裕(かんゆう) 服で、長方形の一枚の布からなり、裁断しないのが特徴である。……つまり、作りはかなり単純なのである。

婦人用はくるぶしまであり、男子用、子供や軍人用は裾がもっと短い。マイルは動きやすいように、かなり短くしていた。

そして、いつもお馴染み、氷晶で出来た翼を背負い、頭上には、同じく氷晶製の輪っかを浮かべている。この世界の神様や天使がみんな頭上に輪っかを浮かべているのかどうかは知らないが、何となく『神様には、輪っか!』という、マイルの拘りであった。

更に、氷晶の粒を舞わせたり、魔法(ナノマシンにお願い)でキラキラと光を散乱させたりして、それらしい 効果(エフェクト) を加え、『めがみエル、 Mk(マーク) - Ⅱ(ツー) 』の出来上がりであった。

もちろん、怪しい 仮面(マスク) とかは着けていない。

女神がそんなモノを着けているというのは不自然である。顔を隠さねばならない女神、というのは、ちょっと、ありそうにない。

そして、今後どこかで会ったり、捜されたりしても困るので、髪の毛と瞳の色を金色にして、少し変装している。

写真があるわけでなし、この王様に似顔絵が描けるとも思えない。なので、人捜しの時にかなり大きなウエイトを占める項目である『髪の色』と『瞳の色』が異なっていれば、大丈夫! マイルの灰色の脳細胞が、そう考えたのであった。

(……ちなみに、『灰色の脳細胞』というのは誤訳ではないか、という説があるんだよね。

確かに、原作では『little grey cells』であり、『grey cells』というのが『脳細胞』とか『脳の組織である、「灰白質細胞」』を指したり、『極めて頭がいい』という意味だったりするから、「私の脳みそが」、とか、「私の優れた頭脳が」、とか、逆に『little』を重視して、謙遜で「ちょっぴりしかない私の脳みそが」とするとか、とにかく『灰色の』を付けると二重になるんだよねぇ……)

そして相変わらず、マイルの『灰色の脳細胞』は、どうでもいいことを考えていた。

「ま、まさか……、そんな馬鹿な! 偽物だ! 騙されんぞ!!」

必死の表情でそう叫ぶ国王であったが、『それ』はにっこりと微笑んで言った。

「え? 偽物も何も、私はまだ何も言っていませんし、名乗ってもいませんよ? いったい、何の偽物だと?

私は、あなたが今、見ていらっしゃる通りの者に過ぎませんよ。警備の兵士に気付かれることなく王宮の最奥部に楽々侵入できて、声を掛けるまであなたに気付かれることなくその背後に忍び寄れて、また誰にも気付かれることなく出ていけるというだけの……」

国王の顔色は悪かった。

それはつまり、いつでも好きな時に国王を暗殺できる、という意味に他ならないのであるから。

そして国王は、そっと右手を机の下面に這わせた。万一の場合に備えてそこに貼り付けてある、ナイフケースへと……。

しゅっ!

国王は、躊躇う様子もなく右手で2本の投擲用ナイフを同時に投げた。こういう事態に備え、それくらいの練習はしている。なにせ、敵は多く、そして自分の命がかかっているのであるから、真剣に、かなり真面目に練習したのである。

その成果があって、投擲用ナイフは、2本共、見事に目標に命中した。怪しい生物の胸と腹に、1本ずつ……。

「やった! ははは、馬鹿者めが。国王は武芸を嗜まないとでも思っていたか? 暗殺に備え、これくらいの備えは……」

そして、得意そうな台詞を中断させて、信じられない、というような顔をして凍り付いた。

「……ただの美少女に過ぎない……、って、あれ?」

自分で自分の事を『美少女』と言うところがアレであるが、日本ではそう自称する者が多かったので、仕方ない。セーラー服を着た戦士だとか、仮面の少女とか……。

そして、言葉を途切れさせたマイルが視線を下げると、ナイフが刺さっていた。胸と腹部に。

「ああっ、せっかくポーリンさんが作ってくれた服に、穴が! 怒られる! 怒られますよおおおおっっ! いくら手作りとはいえ、布地もタダじゃないんですよ、タダじゃあ!!」

自分が女神様だという設定を忘れ果てた大失言であるが、国王も動転しているため、その台詞は不審に思われることなくスルーされた。

そう、投擲用ナイフは一見マイルの胸と腹に刺さったように見えたが、実は服に刺さっているだけであった。だぶだぶの貫頭衣を身体に巻き付け、たくさんの留め金で留め、ウェストをベルトで締めたマイルの『女神様っぽい服』は、マイルの胸の大きさも関係して、ゆったりとしており、刺さったナイフを落下させずに保持できるくらいの余地があったのである。

面倒だったのと、割と高価そうなナイフであったため、マイルは手を使うことなくそのナイフを魔法で収納した。

「なっ……」

このあたりで、ようやく国王も現実を認めたようであった。

……この、自分の目の前に立っている生物が、どうやら普通の小娘ではないらしいということを。

「忠告……、いえ、警告しておいたはずですが。『次はない』、と……。伝言を頼んだあの指揮官はどうしましたか?」

「う……、証拠もなく責任逃れの妄言を吐き、軍の士気を低下させた 咎(とが) で、中隊長の職を解き、牢に入れてある……」

何故か、素直にそう答えてくれた国王。

それは、ポーリンやメーヴィスが想定していたパターンのうちのひとつであった。ちょっと指揮官が気の毒になったので、マイルは少しフォローしてあげる気になった。

「牢から出してあげなさい。証拠が見たければ、今、私が見せてあげます。この王宮を吹き飛ばせばいいですか? それとも、この国を焼け野原にすれば?」

「…………」

勿論、ハッタリに過ぎない。しかし、国王の顔は真っ青であった。