軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30 パワーレベリング

レーナ、ポーリン、そしてオマケのメーヴィスのパワーレベリングは順調に進んでいた。

マイルは基本的なことは教えず、『その魔法の行使においてのみ、イメージができて自然に思念となるような教え方』をしているにも拘わらず、レーナとポーリンはどんどん腕を上げていった。

養成学校の訓練においては『上達した』というレベルに留め、格段の進歩を遂げていることは判らないようにしている……つもりであるが、同期生はともかく、ここの教官達の目を誤魔化せているかどうかは判らない。

メーヴィスは、剣技ということから、誤魔化すと訓練にならないため普通に全力でやっているが、あくまでも普通の人間であるメーヴィスが普通に特訓した成果なので、堂々とやって構わないだろう。訓練相手が非常に高速であるため、しだいに眼が慣れ、自分の動きもそれに応じてかなり速くなってはいるが、あくまでも普通の「非常に才能があり、練習熱心な学生」の範疇である。

その進歩、特に反応速度の向上にはエルバートも驚いているが、別にマイルとは関係ないので構わない。

そのエルバートは、マイルの心配をよそに、訓練初日以降は特にマイルに絡んでくるようなことはなかった。

学生にはそれぞれ事情があるし、無理に剣技の訓練をさせてもマイルはまともにはやらないだろう。それに、学生の将来の職種を教官が勝手に強制するわけにも行かないだろうから、当然と言えば当然なのかも知れないが。

それに、マイルは速度と力で剣での戦いも強いだけであって、剣筋とか先読みとか捌き方とかの『剣技』としての才能はなかった。これでは、剣技の教官としては教え甲斐がなくて面白くないだろう。ただ身体能力が優れているだけで剣の素質があるわけではないのだから。

それに、マイルの魔法の才能はかなり高いので、そちらで身を立てるというのは納得できることである。もしそれを邪魔したら、せっかく魔法の才能がある学生を潰されると心配したふたりの魔法担当教官から強烈なクレームが来るであろうことは容易に想像できる。

いくら学校長兼主任教官とは言え、所詮は雇われの身。雇い主に報告されては困るだろう。

「吐きなさい、マイル」

そんなある日、例によって自室でレーナに問い詰められるマイル。

「え、何を?」

「惚けないで! 調べはついているのよ、毎晩夕食後に男子と何やらやっているのは!」

「うっ………」

心当たりがありまくるため、口籠もるマイル。

「まさか、付き合っているとか、おかしな約束をしていたりは……」

「しないしない! あれは単なる身代わりじぞ……、あ、いや……」

「何それ? さっさと吐きなさい!」

………吐かされた。

「何よそれ! 自分が目立たないように弾避けにするって?

呆れた……」

心底呆れるレーナ。

((恐らく、その男子はマイルのことを……))

そしてその男子学生の冥福を祈るメーヴィスとポーリンであった。

「まぁ、あんたは国元にバレたら危ないかも知れないんだから、心配なのは分からないでもないわよ。私達も色々と教えて貰っているんだから、文句を言うのはお門違いだしね。

まぁ、程々にしときなさいよ」

「は~い……」

孤児の少年ベイルは、マイルの教えにより魔法の腕において長足の進歩を遂げていた。

マイルは、ベイルの魔力がそう多くなく複雑な連続詠唱も得意ではないことに気付くと、簡単な単工程でできるふたつの魔法を教えることにした。

ひとつは、空気弾。

魔力の少ないベイルでも、ひとりで小動物の狩りができるようにと考えたものである。

水を出して凍らせて成型して、というような複雑な工程を避け、また、石を造ったり取り寄せたりして射出、とかいう手間も省き、どこにでもあるものを使い単工程でできる狩猟用魔法。

ただ単に空気を圧縮して叩きつけるだけ、という単純さであるが、小動物相手ならば殺すか気絶させることは容易であるし、鳥も落とせる。

また、対人戦においても、相手の体勢を崩すとか吹き飛ばすとか、必殺ではないにしろ勝利の切っ掛けとするには充分である。何しろ、呪文詠唱が短く簡単であるため使いやすい。

この世界では、風を起こす、という魔法は普通に使われているが、気圧傾度とか熱膨張とか上昇気流とかコリオリの力による回転力だとかの知識がないためその威力には限界があり、また、『空気を圧縮して撃ち出す』というような概念には至っていなかったので、そこそこ役立つであろう。

そしてもうひとつは、大物の獲物や対人用の必殺技、魔力刃である。

魔力量の問題と秘匿性、そして『必殺技』という位置付けから常時展開は避け、斬撃を放つ直前に剣に魔力によるコーティングを行う。

剣を魔力で覆うことにより強度を増し、刃には魔力による極薄の前縁部が形成され、強い、固い、鋭い、という三拍子揃った剣士の夢の実現。安物のクズ剣が神剣に早変わり!

どちらも単工程なので、多少不器用であってもひとつの現象の発現に集中すれば良いので使いやすい。

そして発現時間が短いので魔力消費、実際には思念波放出による脳の一部の疲労であるが、それがかなり少なくて済む。

更に、単工程であるが故に、呪文詠唱が短い。剣による戦いの合間に放つことが充分に可能である。

剣と魔法の併用。そして魔力を纏わせた剣。

それは、まさしく『魔法剣士』であった。

マイルは、絶対に誰にも教えず自分限りの技とするよう何度も念を押し、もし誰かに教えた場合、ベイルと、教わった者全員を組織の者が消しに行く、と脅しておいた。

どこの、何と言う組織かは黙っていた。設定を考えるのが面倒だったので。

まぁ、空気弾は見れば分かるからそのうち真似されるかも知れないが、魔力刃の方は一度見た程度では分からないであろう。

それに、自分が色々な魔法を発明していると知られて大事になったり、自分が教えて広まった魔法で大勢の者が殺されたり世界情勢が変わったりするのが嫌なのでみんなには秘匿するようにと言っているが、自分の名が出ないのであれば多少は広まっても構わない。特に、治癒魔法とか、非殺傷的な使い方ができる空気弾とかは……。

世界に与える影響についても、別に神様から止められているわけではないし、神様達はここの管理を放棄しているらしかったので問題はないであろう。

ベイルは、夜にマイルから口頭で教わったことを次の休養日での狩りで試し、翌週にその結果を話して再び教えを受ける、ということを繰り返し、マイルのパーティメンバー達ほどではないが、成長を続けていた。

レーナ達にベイルに教えていることがバレてからは、メーヴィスと一緒に学校内で剣の訓練を行うようになり、メーヴィスは仲間が増えたこと、模擬戦ができるマイル以外の仲間ができたことに大喜びで、拗ねることが減ったのでマイル達も助かった。

「ところで、ふと気が付いたんだけど。ベイルって、マイルと名前が似てるわよね。何か関係があるの?」

「え? あ、そういえば……。いや、ただの偶然ですよ。3文字の名前なんて、みんな似たようなもんじゃないですか! レーナさんだって、同期生のニーナさんと関係があるのか、って言われても困惑するだけでしょう?」

「まぁ、そうよねぇ…」

レーナから思いがけない質問をされたが、偶然少し似ているだけなので本当に関係ない。

(あ、何かの時に、『実は、生き別れのお兄さん』とかいう設定で身代わりに差し出すことが……、いやいやいやいや、考えちゃ駄目だ考えちゃ駄目だ!)

そう思い、頭を振るマイルであった。

マイルの、平日は訓練と座学、休養日は資金稼ぎ兼魔法の自主訓練、そしてその合間のメーヴィスやベイルとの剣技訓練という日々が続いた。

学生として、同室の3人だけでなく他の同期生とも親交を深め、普通の学校ではないもののそれなりに『学生生活』を満喫するマイル。

他の学生達にとっては将来を左右する厳しい訓練漬けの日々も、マイルにとっては楽しい学生生活。そんな日々もあっという間に過ぎ、しだいに卒業の日が近付いていた。

「……修学旅行?」

「現地実習よ! 何よその『しゅーがくりょこー』とかいうのは……」

「ああ、キャンプ!」

「だから、どこの言葉よそれ!」

卒業の日が迫ったある日、現地実習の知らせがあった。

別にオーガと戦えというわけではない。ハンター経験のない者もいるので、一度人型であるゴブリンやオークと戦わせておいて『人型のものを殺す』という体験をさせるためである。これをやっておかないと、先輩ハンターが同行していない新米同士のパーティだと初戦で死ぬ確率が少し高くなる。

勿論、野営というものを経験させるという意味もあるが。

数日後、王都から半日の場所にある森に、養成学校の学生達の姿があった。現地実習である。

各班、つまりパーティごとに実習を行うのであるが、女子の班は職種のバランスが悪いため、班を組み直すこととなった。

班の再編成は全て学生達に任された。大規模討伐等で多くのパーティが参加する仕事ではこういう事もあるため、その体験も兼ねているとのことである。

班を組み直すと言っても、完全にバラバラにするとせっかく今まで培った連携が無駄になるため、女子の班をばらして男子の班に配分するという方向で男子学生達の意見は纏まった。

そして、男子は眼の色を変えて女子への勧誘に走った。

「ま、マイルちゃん、うちの班に来ない?」

「いや、うちにおいでよ!」

「いやいや、うちに決まってるだろうが! 4人纏めて面倒見てあげるからさ!」

「うるさ~い! うちはマイルも前衛ができるから、男子は要らないわ!」

「え、でも、マイルちゃんは一応魔術師だよね? それに、女の子4人ってのは、やっぱり人数が少ないよ」

しつこい男子に、レーナは少し考えてから、後方にいた男子学生に声を掛けた。

「ベイル! あんた、うちに来なさい! あんたの班には、B班の子に行って貰えば、剣士も補充されるから大丈夫でしょ。

B班、それでいい?」

「「「「いいよ~」」」」

自分達を無視してC班、マイル達のところへ殺到した1~3班の男子達に少しムッとしていたB班の4人の女の子達は、4班、6班と共にベイルの5班も泰然として動かなかったこと、そして5班に良い男がいることとを併せて、即答で了承した。

「よし、ベイル、行って良し!」

望み薄のマイルに食らい付くよりも、可能性のある4人の少女を取った5班の男子達。賢明な判断であった。

「じゃあ、私達は、二手に分かれて4班と6班に行くね!」

「「「え………」」」

残った、5人編成のA班の女子の言葉に凍り付く1、2、3班の男子達。

1班 男子5名

2班 男子5名

3班 男子5名

4班 男子4名女子2名

5班 男子3名女子4名

6班 男子4名女子3名

C班 男子1名女子4名

「「「どうしてこうなったあぁ~~!!」」」

血の叫びをあげる1~3班の男子達。

自業自得であるが、以後卒業まで、ベイルは同期生男子の半数から恨みがましい眼で見られ続けるのであった。

「何だ、7班になったのか? 女子が男子の班に散って6班になると思っていたから、応援のハンターをふたりしか雇ってないぞ……」

そう言って、困った顔をするエルバート。

エルバートを含めて教官4人、ハンター2人だと、確かに付き添いがひとり足りない。

「……ま、いいか。メーヴィス、お前のところは付き添いなしでいいよな?」

「は、はぁ……」

いつもレーナが仕切っているため、同期生からは『C班』か『レーナのところ』としか呼ばれないが、さすがに教官はちゃんとメーヴィスがリーダーだからと立ててくれる。

いや、そんなことはどうでも良かった。

「問題ありません」

「任せて下さい!」

その方が助かるので、喜んで了承するレーナとマイル。

「じゃ、それで頼むぞ」

全く、心配の素振りも見せないエルバートであった……。

ベースキャンプから離れた森の中。

「今日から、教えた魔法の人前での使用を解禁します。もう卒業まですぐだし、卒業後のハンター生活で使うための魔法なんですから、そろそろ頃合いでしょう。

卒業と同時に使い始めるのは不自然だから、今までの訓練の成果が現れてきた、ということにして少しずつみんなの前で使い始めて下さい。どうせ卒業検定で使わなきゃならないですしね。

但し! 魔法を見せるのはいいけれど、決して! 絶対に! 使い方や、私から教わったなどということは言ってはいけません!

あくまでも、自分が修練の果てに掴んだ極意である、として、門外不出の秘密の技、ということにして下さい。分かりましたね!」

いつになく真剣な表情のマイルに、こくこくと頷く4人であった。

ざしゅ!

ぶしゅっ!

「今度、私! 私の番!!」

「お前らなぁ………」

嬉々としてゴブリンを狩るレーナとポーリンに、どん引きのベイル。

レーナは、まだ分かる。いや、あまり分かりたくはないが。

だが、ポーリンは同期生の間では気弱で大人しい支援・治癒系魔術師で通っている。気が強くがさつな女子が多い中、マイルと並ぶ貴重な癒し要員。……のはずであった。それが。

「粒よ踊れ、滾る熱湯、うりゃ! 死ねえぇぇ!」

倒木に両手をついて項垂れるマイル。

メーヴィスは口から魂が出かかっていた。

メーヴィス達がベースキャンプに戻ると、他の班は既に全員戻っており夕食の準備にかかっていた。勿論、自分達で狩ったり採取したものを、自分達で調理するのである。他の班から分けて貰うのは禁止。獲物を取る能力がない者は空きっ腹を抱えて夜を過ごす。ハンターの常識であった。

慣れぬ調理に手間取る学生達。

「よいしょ!」

他の班の者達が、ゴブリン討伐の合間になんとか狩ったホーンラビットや、採取した木の実でささやかな食事を作っている横で、マイルが収納から1体のオークを取りだした。

すぱぱぱぱ!

凄まじい速さで肉を斬り裂くメーヴィス。

ごうっ!

火魔法で、こんがりと肉を焼くレーナ。

「スープ、できましたよ~」

4つのカップに魔法で出した水と採取したハーブ、オークの肉片や葉物を入れて熱したポーリンが声を掛けた。

「あれ、俺の分……」

「あ、ごめんなさい、ついいつもの癖で……」

情けなさそうなベイルの声に、ポーリンが慌ててもうひとつ追加した。

「うりゃ!」

ぐつぐつ……

それをぽかんと見ていたエルバートが、ぼそりと呟いた。

「………便利だなぁ、お前ら……」

マイルの楽しい学校生活も、いよいよ終わりを迎えようとしていた。