軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

296 移 動 3

「なる程、それで、村の人達はみんな無事だったけど、兵隊さん達とハンターの一部の人達は怪我をして、畑も一部が被害を受けた、ってわけなんですね?」

「うん……。だから、僕たちも少しでも稼ぎに協力しなきゃ、って思って、森で食べられるものや売り物になりそうなものを採りに行ってるんだ……」

ポーリンがうまく説明したため、ようやく安心してくれた子供達が、色々と村のことを教えてくれた。別に秘密にするようなことでもないし、ハンター達や街の人達も皆知っていることばかりである。

「で、でも、危ないですよっ! いくら外縁部とはいっても、森は森ですよ、魔物が出るんですよ!

この子達だけだと、ゴブリンどころか、コボルト数頭が出ただけでお 終(しま) いですよ!」

マイルが顔色を変えて怒鳴るが、子供達は涼しい顔。

「普通ならそうなんだけど、今は外縁部には魔物はいないよ。いつもなら絶対に僕たちだけで森に行くことなんか許して貰えないんだけど、猟師のおじさん達が魔物が戻ってきたことを確認するまでは、特別に許可が出てるんだよ」

「え……」

どうやら、マイルのせいで起きた 集団暴走(スタンピード) と、それを押し戻すための攻防戦があまりにも激烈であったため、外縁部にいた魔物達が『押し戻され過ぎた』らしい。

ゴブリンやオーガ等の『素材価値があまりなく、害が大きい魔物』は勿論、肉や皮、角や牙等が素材となる『美味しい獲物』である角ウサギやオークを始め、鹿や猪等の普通の獣に至るまで、そのことごとくが。

なので、猟師達は仕方なく少し奥の方まで踏み込んでおり、そのあたりに魔物が戻ってくるまでは子供達による外縁部での採取を許可しているらしい。

(((…………)))

「な、何ですか、皆さん、その眼は!」

ジト眼で自分を見るレーナ達の視線に、文句を言うマイル。

確かに、あれはみんなに相談して行った作戦なのだから、みんなに非難される 謂(い) われはなかった。ここは、マイルが文句を言っても構わないであろう。

……しかし。

「マイル、『限度』!」

「常識!」

「手加減!」

「ううううう……」

そして子供達に銀貨数枚分になりそうな採取物を分けてやり、飛び跳ねて喜ぶ子供達を後に、街へ向かう道を進む『赤き誓い』の面々。

村には用がないが、近くの街には、次の滞在先として数泊するつもりであった。王都へ行く前に、地方都市からの視点で見たこの国の情報を仕入れておくのは、悪いことではない。

* *

ちりりん

「「「「え?」」」」

街のギルド支部にはいった瞬間、驚いて立ち止まる『赤き誓い』の4人。

「「「「音が違う?」」」」

そう、いつもは『かららん』という音色であるギルドのドアベルの音が、ここのは『ちりりん』であった。固まった4人を見て、苦笑するハンター達とギルド職員。どうやら、他所から来たハンターは、皆、同じような反応をするらしい。

「この前、喧嘩のとばっちりでギルド標準のドアベルが壊されちまったんだよ。今、新しいのを取り寄せ中だ」

近くにいた中年のハンターが、そう教えてくれた。

「あ、ありがとうございます……」

メーヴィスがお礼を言い、そしてマイルは思っていた。

(やっぱり、標準仕様だったんだ、アレ……。どこの街へ行っても、同じ音色だと思ってた……)

皆も同じように思っていたのか、うんうんと納得したような顔で頷いている。

そして、改めて、パーティリーダーであるメーヴィスが部屋全体に対して挨拶の口上を述べた。

「ティルス王国王都支部所属、Cランクパーティ、『赤き誓い』です! 修行の旅の途上です、どうぞ、よろしくお願い致します!」

「「「よろしくお願い致します!!」」」

メーヴィスに続き、3人も声を揃えて挨拶した。

それに対して、部屋のあちこちから、おぅ、とか、頑張りな、とかの声が掛かる。結構気のいい連中のようで、ひと安心のマイル達。

次は、お馴染み、情報ボードと依頼ボードの確認であった。

「……国境の森の外縁部に魔物と動物の姿なし、狩猟依頼は少し奥へはいる必要があるため初心者は注意のこと、か……」

「「「…………」」」

ボードの情報を読み上げたメーヴィスの言葉に、少し顔を 顰(しか) める3人。

どうやら、新人ハンター達に少し迷惑をかけてしまったらしい。

いや、それを言うならば、村人や兵士達にも迷惑が、と言えるが、マイル達は、そちらはあまり気にしていない。先にちょっかいを掛けてきたのはこっちの国なのだから、反撃されても文句など言う資格はない。今まで毎回、マイル達が滞在していた国、マーレイン王国の住民に迷惑を掛け、領軍の兵士やハンター達に怪我人や死者を出させていたのだから。それも、『嫌がらせ』という目的のために、故意に。

まだ、こちらの国の国軍兵士に死者が出ないように配慮しただけ、ありがたいと思って貰いたいところであった。

農民にしても、自国のしでかしたことの報いであるし、マーレイン王国の農民達も迷惑を受けていたのだから、文句はこの国の上層部に言って貰うのが筋であろう。……勿論、実際にはそんなことが言えるはずがないのは承知であるが。

とにかく、それはギルド経由で受けた正式な依頼任務をこなしただけの、一介のハンターが気に病むようなことではない。……ハンターの常識としては。

ただ、新人ハンター達はあの仕事を受けてはいないだろうし、この街のCランク未満の新人にとってあの森は大事な稼ぎ場所であろうから、ちょっぴり、ほんのちょっぴりだけ、申し訳ないな、と思っただけである。ハンター養成学校の時の、最初の資金稼ぎの狩りを思い出した4人としては。

森から溢れる魔物を阻止するために国軍に雇われて怪我をしたハンター達は、……自分の技量を考えた上で、報酬目当てで受けた仕事なので、自己責任である。中には、以前魔物の押し付けの依頼を受けた者達もいたであろうし。

傭兵が、敵側の傭兵に殺されても文句は言えない。そういうことであった。

情報ボードには、他には大した情報は書かれていなかった。なので、次は依頼ボードの確認である。

……が、行く先々で、そうそう面白い依頼や珍しい依頼があるわけもない。もしあったとしても、とっくに地元のパーティが掻っ攫っている。そういう依頼を受けたいと思っているのが『赤き誓い』だけであるはずがない。というか、ハンターの大半が、そういう依頼に餓えているのである。

「面白いのがないわね……」

「稼げるのがないですね……」

「良き鍛錬、良き経験となりそうなものがないな……」

レーナとポーリン、そしてメーヴィスが贅沢なことを言っているが、若者が修行の旅に出るのは、そういったものを求めてであるから、身に覚えのある年配の者達は、それを聞いても苦笑するだけであった。

(……ん?)

マイルがふと気が付くと、飲食コーナーで食事をしているハンター達のうちのひとりが、じっと自分を見詰めている。

(何だろう?)

ここでマイルには、『モテているのかも!』というような考えは一切浮かばないのであった。

……事実、その通りなのであるが。

(初めて来た街だし、私と会ったことのある人なんか……、って、ああっ!)

人の顔をなかなか覚えられないマイルには信じられないことであるが、世の中には、一度会っただけで相手の顔を覚えるという超絶チート能力を持っている人がいるらしいのである。

初めてそれを知った時には到底信じられなかったのであるが、どうやら世の中にはそういう超人が存在するらしいのである。

しかし、マイルは自分が数回会った程度では相手の顔を覚えられないため、他の者も大半の者はそうであるのだと思い込んでいた。自分と同じように、数回しか会っていない人の判別は、相手の服装や会話の中身、相手と会った場所等で行っているのだろう、と。

(ま、ままま、まさか。まさか、私の『 女神化現象(ゴッデス・フェノメノン) 』を見た? あの時の魔物押し出し部隊の中にいた、雇われハンターだということは……。そして、あの伝説のチート能力、『1回見ただけで相手の顔を覚えるスキル』の持ち主である、などということは……)

たらり。

コメカミのあたりから汗を流すマイル。

そして、マイルが自分の視線に気付き、自分を見詰め返していること。更に、酷く動揺しているらしきことに気付き、マイル以上に焦り、動揺している20代後半くらいのハンターの男。

「「…………」」

「あんた、何、男と見詰め合ってんのよ!」

「あ、いえ、そんなんじゃ……」

焦るマイル。

そして、近くの席のハンターにからかわれている、焦った様子の男性。

胡散臭そうな顔のレーナ達3人。

((あああああああああ~~!!))

マイルと見知らぬ男の、心の声がシンクロしていた。

本人達は、そんなことには全然気付いてはいなかったが。