軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

294 移 動 1

「じゃ、ここに出して頂戴」

「分かりました!」

雇い主であるエートゥルーに指示されて、研究所のようなところの倉庫の片隅にアイテムボックスから採取物を出すマイル。

「「「「な、何じゃこりゃ~!!」」」」

そして、そのあまりの量に驚く、立ち会っていた老人達。……どうやら、ここの偉い人達らしい。

「エートゥルー殿、シャラリル殿、こ、これはいったい……」

驚いているのは、採取物の多さなのか、マイルの収納魔法の、あまりの馬鹿容量になのか……。

「それにつきましては、報告会で……」

そう言って流すエートゥルーであるが、『雇ったハンターが馬鹿容量の収納持ちだった』という以外、説明のしようがないであろう。

(あれ、エートゥルーさん達、ぺーぺーの下っ端みたいなこと言ってたのに、結構丁重に扱われているような……)

マイルが小声でそう囁くと、同じく小声でメーヴィスが教えてくれた。

(そりゃ、エルフがわざわざ森を出て、人間の研究組織にはいって協力してくれているんだから、特別待遇に決まってるよ。普通の人間の若手研究者と同じ扱いのわけがないだろう。それに、ふたりは多分、あの老人達よりもずっと年上だろうしね)

(あ、なる程……)

どうやら、『講師や准教授を目指している』と言っていたけれど、ふたりはエルフだから、そういう役職とは関係なく、特別扱いになっているようであった。そんな下位の役職を与えるのは失礼にあたる、とか考えて。

それに気付いていないふたりは、他の者達が次々と講師や准教授になるのに自分達がなれないものだから焦っており、人間側はそんなことには気付いていない、という……。

(あ~……)

何となく状況を察したマイルであるが、本当にそうかどうかは分からないし、無関係の者が余計な口を挟むのも失礼であろうと考えて、スルーするのであった。

「あ、銅の鉱石も、ここに出していいですか?」

「ま、待って! それは、鍛冶部の方で出して頂戴!」

慌てて、鉱石を出そうとする素振りのマイルを止めるエートゥルー。

「え? 採取物なら、ここに出して貰えばいいのではないかね?」

「床が抜けます! それに、屋内にあんなものを出されたら、ここから二度と動かせなくなりますよっ!」

血相を変えたエートゥルーとシャラリルに、目を白黒させる老人達。

確かに、アレは鍛冶師達に押し付けて銅を精錬させるしかないであろう。そうすれば、少し稼ぎにもなる。

そして、屋外の、エートゥルーに指示された場所に銅の鉱石を出し、これで、全ての契約事項が完了であった。

「御苦労様。じゃ、これ、依頼完了証明書ね。『赤き誓い』の分と、こっちが『青い流星』の分。どちらも、今回は本当によくやって下さいました。おかげさまで、数回分に相当する資料素材の採取と、かなり研究費の助けとなるだけの換金物を手に入れることができました。感謝致します……」

渡された依頼完了証明書を見ると、どちらもA評価となっていた。普通はC、良くてBが相場だから、これはありがたい……というか、『赤き誓い』の場合は、当然の評価であるが。

「「「「「ありがとうございました!」」」」」

儀式としての、受注者全員による一斉の礼。

そしてギルド支部へ行くべく踵を返した『赤き誓い』に、後ろから声が掛けられた。

「……で、マイルちゃん、ハンターを辞めてうちに来る気、ない? 何なら、ハンターの籍は残したままでもいいから……」

マイルへの執着が強く、全く諦めた様子のないエートゥルーとシャラリルのあまりのしつこさに、遂に腹に据えかねたポーリンが、必殺の攻撃呪文を唱えた。

「やっぱり、同じエルフだけあって、クーレレイア博士と同類なんですね……」

「ど、同類……。あのクーレレイアと、同類……」

愕然としていたふたりは、大声で叫んだ。

「「あんなのと一緒にしないでよおおおぉ~~!!」」

そして『赤き誓い』の4人は、雇い主ふたりがショックのあまり固まっている隙に、さっさとその場を後にしたのであった。

「では、お疲れ様でした!」

「「「「「お疲れ様でした~!!」」」」」

『赤き誓い』はギルドに依頼完了証明書を提出して報酬金を受け取り、そして更に素材買い取り窓口でオークを売ってそのお金を分配し、『青い流星』のみんなと別れた。

『青い流星』の皆は夕食に誘いたかったようであるが、今まで3日間も一緒に食事をしていたのに、どうして仕事が終わった後でまで一緒に食事をする必要があるのか分からない。そう言って断られ、がっくりと肩を落とし、他のハンター達に苦笑交じりで慰められていた。

* *

「『 東進(とうしん) 縁起(えんぎ) 』です!」

「また、わけのわからないことを……」

「先日は、『東方ぷろじぇくとです』、とか言ってなかったかい?」

マイルの奇行には慣れているため、そう言って軽く流すレーナとメーヴィス。しかし、ポーリンは違った。

「東へ進むと縁起がいい、ですか? そろそろ次の街に出発したい、ってことかな、マイルちゃん?」

さすがポーリンである。マイルの言動のパターンを読み切っている。しかし、『 封神(ほうしん) 演義(えんぎ) 』という元ネタを知らない以上、そこまでが限界であった。

「元々、今回の仕事をこの街での最後の仕事にするつもりで、短期間のを受けたんだしね。移動するのは予定通りでしょ。もう、この街では充分勉強したしね」

そう言って、ちらりとメーヴィスの方に目を遣るレーナ。

確かに、メーヴィスにとっては勉強になったこと、反省すべきことが多かったが、レーナも、あまり人のことは言えないはずである。

「じゃ、出発しますか!」

ポーリンの言葉に、皆が声を揃えた。

「「「おお!」」」

* *

「……で、どうしてこのルートなのよ……」

ぶつぶつと文句を言うレーナ。

「それは、もう何度も説明したじゃないですか! 気になるから、隣国へはこのルートで移動したい、って……。レーナさんも了承してくれたでしょう!」

「まぁ、それはそうなんだけど……。でも、街道を進むのに較べたら、面倒じゃないの」

まだ、マイルに向かって文句を言い続けているレーナ。

そう、『赤き誓い』は、現在、森の中を進んでいた。楽に歩ける街道ではなく。

そしてこの森を歩くのは、初めてではなかった。……ここは、この街に来て最初に受けた、魔物の押し戻しの依頼。あの依頼を受けた時の森であった。

「レーナ、文句ばかり言ってないで、ちゃんと素材採取に専念して下さいよ! このあたりには、割と高値で売れる薬草とか、高価な食材とかが色々とあるんですから! ほら、そこのキノコ、小銀貨3枚は固いですよ!」

皆の訓練のためと称して、今回、マイルは探索魔法を使っていない。ポーリンが少しゴネたが、さすがにマイルへの依存が高まり過ぎることに危機感を抱いていたレーナとメーヴィスがマイルを支持したため、マイルの提案が可決されたのである。

ポーリンもそれは認識してはいたのであるが、せっかくの森の深部縦断なので、金目の素材を根こそぎに、という誘惑に囚われたらしかった。

……いや、そもそも、素材となる動植物を根こそぎにするのは禁忌事項であり、猟師、その他の村人、そして勿論ハンター達も、決してやらない。いくらそのまま去る旅人だからといっても、そんなことをしたのがバレたら、 大事(おおごと) である。

勿論、ポーリンの 目論見(もくろみ) は他の3人によって却下され、せめて自力で採取できる分だけでも、と、皆の尻を叩くポーリンであった。

「せっかく森の深部を突っ切るのですから、素材採取を頑張って、宿代と食費くらいはそれで賄いますよ!」

「「「は~い……」」」

そう、今回のマイル発案の森林縦断を認めるにあたって、ポーリンが強硬に主張したのであった。『そのルートでの移動に賛成してやるから、その間、機会があればお金を稼ぐこと』と。

「マイルちゃん、オークが出たら、絶対に逃がしちゃダメですからね! メーヴィスは、カッコつけて斬って、消化器官の中身を体内にブチ撒けたり肝臓を潰したりして商品価値を下げないこと!」

「「はいはい……」」

「『はい』は一度!」

「「はいはい……」」

((( 面倒(めんど) 臭(くせ) ええぇ~~!!)))