軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

288 エルフの護衛 5

「そ、その、『探索魔法』というのは……」

勿論、エートゥルーとシャラリルも、探索魔法くらいは知っている。

しかしそれは、マイルが今言ったようなことができるものではなかった。

それは、何か違う。

「……探索魔法よ」

「ハンターの特技や能力を詮索しないで下さい」

マイルに任せていたら、何を言うか分からない。そう思ったレーナとポーリンが横から口を出し、そう言われては何も言えないエートゥルーとシャラリル。自分達も、初対面の相手から『今までの研究成果を全部教えろ』、などと言われて従えるわけがない。それを考えれば、ハンターが自分の飯の種であり命綱である自分の能力をペラペラと喋るわけがない。

「「…………」」

「あの、この探索魔法の使い方はですね……」

むにゅ!

「何、ぺらぺらと喋ろうとしてんのよ! 私とポーリンの言葉を聞いてなかったの!」

そう言って、レーナに両頬を引っ張られるマイル。

マイルにとって、この程度の探索魔法など、飯の種でも命綱でもなかった。全然。

攻撃魔法というわけでもないし、皆の役に立つなら、別に隠すようなことでも、と思っていたのであるが、そんなものを公表すれば、とんでもないことになるのは自明であった。マイル本人も、そして世界中も……。

「マイル、世間の常識というものをだな……」

「マイルちゃん、『ハンターは馬鹿だから、しつこく聞けば秘術だろうが秘伝だろうが、何でも喋る』なんて噂が広まったら、他のハンターの皆さんに迷惑がかかるでしょう?」

「あ……」

どうやら、メーヴィスの抽象的な言い方より、ポーリンの具体的な言い方の方がピンと来たのか、理解した様子のマイル。

マイルはどうやら『探索魔法は攻撃魔法ではないから、殺人や戦争で使われる心配はない』と簡単に考えているようであるが、使い方によっては、戦況をひっくり返せるだけの力を秘めた、とんでもない魔法なのであった。

そして、マイル式探索魔法の秘密を聞き損なった雇い主ふたりは、諦めきれない、というような眼でマイルを見詰めているのであった。

「リイレン草、ありました!」

更に何種類かの植物を採取した後、マイルがまたリイレン草を発見した。

そしてエートゥルーとシャラリルがその周囲を確認すると、確かにすぐ側にタフィナの大木が生えており、ヨツメ草が一緒に生えていた。

「……銅の鉱石は?」

「これです」

そうエートゥルーに答え、近くの岩を指差すマイル。

「「…………」」

それは、見ただけでは銅の鉱石かどうかが分かるような状態ではなかった。そしていくら研究者だとはいえ、エートゥルーとシャラリルの専門は動植物であり、別に鉱物の専門家というわけではない。なので、それが本当に銅の鉱石なのかどうかなど判別のしようがなかった。

「……持って帰りますか?」

「え、ええ、お願い」

そう答えられたので、マイルはアイテムボックスに収納した。……その岩塊を。

「「え?」」

「え?」

「「ええ?」」

「「「えええええ?」」」

エートゥルーは、マイルが『このリイレン草を採取するか、このあたりのものを根こそぎにしないようそっとしておくか』と尋ねたのだと思い、採取する、と答えたつもりであった。しかしマイルは、ふたりがこの岩が銅の鉱石であるかどうかが判定できず困っていると考え、『後で分析するために、この岩を持ち帰るかどうか』と尋ねたのであった。

そして、地上に露出していたのはせいぜい2~3立方メートルくらいであったが、その岩が消えた後には、巨大な穴ができていた。どうやら、岩の大部分は地中に埋まっていたようである。

「「「「「「「…………」」」」」」」

固まる、雇い主と『青い流星』。

そして、あ~、という顔で、もうどうでも良さそうなレーナ達3人であった……。

「あ、ちょっと狩りをしていいですか?」

「え? ま、まぁ、そろそろ休憩してもいい頃だから……」

「あ、休憩の必要はありません。皆さんは、このまま調査を続けて戴ければ」

マイルはエートゥルーの許可を取ると、そう言って10時方向へと姿を消した。

そして、ものの数分もしないうちに戻ってきたマイル。

手ぶらであったが、それを不思議に思う者はいない。そして、そのあまりにも早い帰還のことも。

(((((((ああ、収納魔法か……。それと、探索魔法ね)))))))

大分、『マイル』という生物に慣れてきた。

ただ、それだけのことである。

* *

そして、野営。

「エートゥルーさん、シャラリルさん、御一緒にどうぞ!」

マイルに誘われ、『赤き誓い』が設置した簡易竈の側にやってきた雇い主のふたり。

「勤務時間中に狩った獲物ですから、雇用主であるおふたりにも権利がありますから!」

マイルのいつもの説明に、それもそうかと納得し、ふたりは遠慮なく 御相伴(ごしょうばん) に与ることにした。

そして、マイルの収納から出され、メーヴィスが大雑把に解体し、ポーリンが切り分けた鹿肉が次々と炙られた。

「「美味しい!」」

アメリカ人が、牛肉以上に喜ぶ鹿肉である。そして、鹿や猪、牛等の肉がいつでも食べられるのは、この世界では金持ちだけ。庶民が日常において食べられるのは、安価な魔物の肉だけである。特に鹿肉など、何か余程のお祝い事でもない限り、食べられるものではない。

『赤き誓い』のみんなが割としょっちゅうそれらの肉を食べているのは、『マイルがいるから』であり、普通のハンターであれば、たとえ狩れても、自分達で食べたりせずに全部売る。狩った現場で、持ち帰れない分や内臓を食べるのは別にして。

「「「「「…………」」」」」

そして、それを恨めしそうに見詰める、5対の眼。

「……何か、食べづらいわね。あの人達にも、少し分けてあげて貰っていいかしら?」

「勤務中に狩らせて戴いたものですから、雇い主であるおふたりがそう言われるのであれば。その分は、雇い主からの特別支給品、ということになりますから、問題ありません」

『青い流星』からの視線に耐えられなくなったらしいエートゥルーの頼みを、そう言って了承するマイル。

「ありがてえ!」

「す、すまんな……」

どうやら、『青い流星』の連中も、少しは身の程を弁えたようであった。

「アパラパー!」

どんっ!

マイルの怪しい呪文と共に出現した、大型テント。

「「「「「「「…………」」」」」」」

もう、どうでもいい。

そんな、どんよりとした諦めの眼をした7人であった。

「あの、おふたりもテントの中へどうぞ」

雇い主は、身の安全を考えて3人以上の女性ハンターを指定したのである。ここで『赤き誓い』だけが全員テントにはいり、雇い主の女性ふたりを5人の男性、それもあまり信用できなさそうな連中と一緒に外に、というのでは、自分達に期待された任務を果たしたとは言えない。ここは、女性全員がテントの中、とするしかない。『赤き誓い』の皆がそう考えるのは当たり前であった。

そして入り口の布を捲ってテントにはいったエートゥルーとシャラリルは、見てしまった。

「ベッド……」

「チェスト……」

「「テーブルセット……」」

もう、何も考えたくない。

ふたりの眼が、そう物語っていた。