軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

286 エルフの護衛 3

皆と荷物を降ろし、馬車は街へと戻っていった。あとは、2日後にここへ迎えに来てくれる。

そして皆は、食事の準備を始めた。もうすぐ昼であるし、わざわざ危険な森にはいってすぐに食事の準備を始めるくらいなら、少し早いがその前にここで済ませておいた方がいい。

尻の痛みだけでなく、はらわたを掻き回されるような苦行の数時間が続くと分かっていて、馬車に乗る前に腹一杯朝食を食べてくるような馬鹿はいないので、当然、皆は朝食抜きであったのも、早めに昼食を摂ることにした理由のひとつではあったが。

ある程度道が整備されている主要街道ならばまだしも、地方都市から森への道がそう整備されているわけがなく、ただ馬車に乗っているだけでもかなり疲れる。なので、この食事時間は体力回復のための休憩も兼ねており、急ぐ必要はない。そのため、保存食を囓るだけ、というようなものではなく、火を熾して、本格的な食事が作られた。

……但し、あくまでも、『野外食における、本格的』という意味であり、お湯を沸かしてスープの素と乾燥クズ野菜による簡易スープが提供されたり、肉やパンが火で 炙(あぶ) られる、という程度のものであるが、それでも野外行動中の者にとっては充分豪華な食事である。

今回は、馬車がずっと同行しているわけではないため、雇用主達には雇ったハンターの食料まで提供するだけの余裕がない。ハンター達の食料を運ぶためにハンターを大勢雇う、というのは馬鹿馬鹿しいからである。なので、この手の依頼では、ハンターの食事は各自で用意する、という契約である場合が多い。

今回は、雇用主を含め魔術師が多いため、水の心配をせずに済むのがありがたい。そのため、スープは雇用主が全員分を提供してくれたのである。そして食事そのものは、雇用主、『赤き誓い』、『青い流星』と、3グループに分かれてそれぞれ自前で用意する。

「エートゥルーさん、シャラリルさん、おひとつ 如何(いかが) ですか?」

マイルが収納から出した簡易 竈(かまど) とフライパン、そして 予(あらかじ) めブロック状にしてあったオーク肉でささっと作った肉サンドイッチと付け合わせのピクルスを皿に入れて差し出すと、ふたりは喜んで受け取ってくれた。

クーレレイア博士と同じく、別にエルフだからといって菜食主義者だというわけではないらしい。ガッツリ派の、肉食系女子のようであった。

「美味しい!」

「何これ、何か辛いのが塗ってあって、それがオーク肉の脂っぽさを抑えて、肉の旨味が……。そして、肉汁を吸ったパンのしっとりとした触感が舌と歯茎を優しく刺激して……」

「どこの美食レポーターですかっ!」

エートゥルーとシャラリルのコメントに、思わず突っ込んでしまうマイル。

「おう、俺のは肉を多めにしてくれ」

「俺は、ふたつ」

「俺もだ!」

「俺は3つ」

「俺はひとつでいいや。肉多めで!」

「「「「…………」」」」

「え?」

「どうして鍋や竈を片付けて……」

「え? あれ?」

騒ぐ『青い流星』の面々に、ポーリンが無慈悲な宣告を行った。

「食事の準備は、各パーティがそれぞれ自前で、というお話でしたよね? 顔合わせの時に、そう聞きましたけど?」

「「「「「え……」」」」」

確かに、そういう契約内容であった。そして勿論、『青い流星』も食料は用意している。堅パン、干し肉、ドライフルーツの、携帯保存食3種の神器を。

しかし、それは万一の場合に備えてのものであった。収納持ちの者が魔物に殺されたり、生きたまま連れ去られたりする可能性もゼロではないのだから。

だが、そういう事態にならない限りは、収納持ちの少女が大量の食料を持っており、また、簡単に獲物を狩ってくる。そしてそれらを格安で、もしくは無料で振る舞ってくれる。

……それが、『青い流星』が領軍の兵士や商人達から聞き出した情報であった。

『赤き誓い』は収納については隠していないため、酒を奢られた者達は、それくらいのことは喋っても問題ないと判断したのである。そして『青い流星』も、それは『赤き誓い』が知っても別に問題だとは思わないであろうと判断したのであった。

「……いくらだ?」

小銀貨数枚くらいならば支払う。そう思ったグラフが尋ねると……。

「いえ、まだ2泊3日が始まったばかりですから、食材は節約して、自分達の分が足りなくならないようにしないと……。食事は、他のパーティが用意したものを奪うことなど考えず、御自分達で用意されたものを食べて下さい」

そう言って、マイルに拒否された。

「あなた達、どこまでこの子達を利用しようとしてるのよ……」

「全く、呆れ果てた人達ですね……」

エートゥルーとシャラリルから、『青い流星』に対して蔑みの視線が注がれた。

マイルの収納の容量を知らないふたりから見れば、少女達が自分達の為に用意した食料を奪おうとする、とんでもない悪党である。

……エートゥルーとシャラリルのふたりは、自分達が貰った分はひとつずつであったし、多めに焼いてしまった余りを分けてくれただけだと思っているので、それは問題だとは考えていない。それに、もしそのせいで少女達の食料が足りなくなった場合には、自分達の分を分けてやるつもりであった。

エルフは新陳代謝が遅いせいか、その気になれば水だけで数日間過ごすことはそう苦痛とは感じない。魔法が得意なエルフの例に漏れず、そこそこの魔法が使えるエートゥルーとシャラリルは水には困ることがないため、彼女達は用意した飲食物を全て失っても、1週間やそこらは全く問題ないのであった。

「マジかよ……。というか、もしかして俺達、嫌われてるのか?」

「「「「「「…………」」」」」」

無言の、『赤き誓い』と依頼主達。

「「「「「マジかよ!!」」」」」

本当に驚いたような様子の『青い流星』に、これまた心底驚いた様子のレーナが尋ねた。

「あんた達、あんな言動をしておいて、どうして嫌われてることがそんなに不思議なのよ! あれで嫌われなかったら、その方がよっぽど不思議でしょうが!」

そして、その言葉にこくこくと頷く5人の女性達であった……。

「で、でも、奢っただろ! あんなにバクバク喰いまくってたじゃねぇか、俺達の奢りで!」

「それは、奢るから、と言ってそちらから誘ったからでは?」

グラフの叫びは、メーヴィスによって斬って捨てられた。

「だが、あれだけ喰わせたんだ、少し位はちゃんとした料理を分けてくれても……。代わりに、俺達が用意している携行保存食を渡してもいい!」

「街の中と森の中では、まともな食事の 交換比率(レート) が違います。この場合、野外レートが適用されますので、約100対1の比率となります」

マイルにバッサリと斬り捨てられたカラック。

「一応、合同受注した仲間ですから、水はいくらでも提供しますよ。だから、マレイウェンさんは魔力を戦闘用に温存して戴いて結構ですから。特別大サービスです」

そう言って、にっこりと微笑むポーリン。

「とにかく、あんた達は私達を舐めてかかり、ふざけた態度をとってくれた。でも、まぁ、裏切りとか犯罪行為とかいうわけじゃなくて、ただ新米だからと馬鹿にして利用しようとしただけよね。

だから、合同受注パーティとしての義務はちゃんと果たすし、戦闘支援も治癒魔法も、依頼任務遂行に関することは全部きちんとやるわよ。……ただ、厚意による特別サービスは無し!」

そう言って、総括を述べるレーナ。

「えええ……、って、『邪神の理想郷』や『炎の友情』の奴らと待遇が違いすぎないか! あいつらは手柄も獲物も報酬も譲って貰って、メシも喰わせて貰ったんだろ? 領軍の奴らや商人がそう言って……」

「ああ、それは勿論、あの人達は私達を対等の……、いえ、自分達が盾になってでも私達を守ろうとして下さいましたからね。それに、最初の魔物押し返しの件は、割が合わないから受ける気がなかったのに、私達が心配だからと受けて下さいましたから。

その彼らと、マイルちゃんの収納目当てで、乗っかって利用しようとしただけのあなた方を同等に扱えと? ハッ!」

歯に衣着せぬポーリンの口撃を受け、5人の男達はガックリと地に沈んだ。

「……しかし、マファンの街には、口の軽い領軍兵士や商人がいるようですねぇ。これは、街に戻ったら、ひとつ……。

ねぇ、グラフさん。あなた達に余計なことをペラペラと喋った兵士と商人の名前、教えて下さいますよねぇ……」

ぞくり

……怖かった。

今回の一行の中で唯一の胸の大きい少女の不気味な笑みが、怖かった。

しかし、自分達にもハンターとしての矜持がある。

「 情報源(ニュース・ソース) は明かせねぇよ!」

「ほほぅ……」

「ほほぅ……」

「ほほぅ……」

「ほほほっ、ほほほほほー!」

「怖いわ、お前ら! そして、最後のは何なんだよ!!」