軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

28 養殖

「そこで、ぎゅっと絞り込むんです。相手は小動物だから、大威力は必要ありません。却って素材の価値を下げるだけですから。

小さい弾で、速さを優先するイメージをして下さい!」

マイルのアドバイスに、レーナが真剣な眼で呪文を唱える。

「水よ集え、我が許へ! 水球生成! 氷結! 姿を変えて、尖れ氷柱に!

回れ回れよ、回転! 行け!」

水が集まり、凍り、圧縮成型されて氷柱状となり、回転しながら飛び去った。

マイルのように一挙動とは行かないが、遠くの目標を狙うならば問題はない。

そして飛んで行った氷柱は、見事に狙った木の枝に命中した。

「や、やった……」

成功に、笑みを溢すレーナ。

森の中で火魔法を使うわけには行かず、腐葉土の地面では石礫の生成もままならない。得意ではない水魔法での狩猟を強いられて思うように実力を発揮できなかったレーナは、弾となる氷弾の圧縮成型と高速化、そして狙撃位置を上方にずらす等のアドバイスを受け、次第に腕を上げていった。

いつも戦闘訓練で使う得意な火魔法は重力による影響をあまり受けないため、質量の大きい氷弾では弾道がずれること、その分修正が必要であること等をレーナがよく理解していない事に気付いたマイルが色々と教えた結果である。

また、呪文を追加させて、意識が自動的に現象をイメージして思念するように誘導した効果も大きかった。氷柱状の弾体を回転させるようにしたのも、そのひとつであった。

これで、火魔法が使えない場所での戦闘、そして狩りに、レーナの魔法が大きな力を発揮できるようになった。

その隣りでは、ポーリンが魔法の練習をしていた。

ポーリンはそこそこの魔力を持ってはいたが、その性格からか不器用だからか、連続した工程が必要な攻撃魔法は苦手であった。そのうちに護身用にひとつくらいは攻撃魔法を覚えて貰いたいが、今日のところはまだ早い。

そのポーリンに、マイルは便利魔法を授けたのである。

「水よ集え、我が許へ! 水球生成! 粒よ踊れ、熱くたぎる心のように!」

その呪文に応じて現れ、しだいに温度を上げてお湯となる水球。

「うん、いい調子ですね。これで、お風呂や炊事が楽になりますよ。水にファイアーボール叩き込むより魔力消費が少ないし、室内で少しの量だけ作れるから、紅茶を淹れるのにも使えますし、色々なお仕事で役立ちますよ」

「あ、ありがとう、マイルちゃん!」

「いえいえ。これから、もっと色々お教えしますから!」

マイルは、思念放射やナノマシンを効率的に利用するための根本的な知識を教えることはせず、呪文を変えさせたり物理的な変化、化学的な変化を少しだけ教えることにより、その魔法ひとつひとつを効率化させ、進化させるよう指導した。決してマイルが教えた以上に自分で改良できるようにはならないように細心の注意を払って。

それでも進歩は目覚ましく、レーナとポーリンは大興奮で練習に励んでいた。

「あの………」

後ろから掛けられた声にマイルが振り返ると、悲しそうな顔をしたメーヴィスの姿があった。

「あの、私にも何かないだろうか? ほら、必殺技とか、何か……」

「あ~……」

マイルはメーヴィスのためにも一応考えてみたが、なかなか良い案が浮かばない。

(居合いは、西洋剣には向かないよねぇ……。アニメやゲームに出て来た必殺技はさすがに無理だろうし。魔法が使えれば何か考えられるかも知れないけど、メーヴィスは魔法は全く使えないし……)

「……素振り、とか?」

「………」

メーヴィスは地面に両手をついた。

別に、何かの技を出すためではない。

「あ、あの、私が練習のお相手をしますよ! 私、技術はないから剣筋とかサッパリですけど、速さと力には自信があるんです! 私の速さに慣れたら、きっと他の人の打ち込みを見切れるようになりますから!」

「……本当か?」

疑わしそうなメーヴィスの声。

かなり拗ねている。

「本当! 本当ですから! ……多分」

最後のひと言は小さく口の中で呟くだけにしたマイルの返答に、ようやくメーヴィスは機嫌を直してくれた。

そろそろ陽も傾き、もうすぐ王都に戻る時間となった。

「今日はあまり稼げなかったけど、有意義な一日だったわ! マイル、ありがとう!」

「ありがとうございます、マイルちゃん!」

「嫌だなぁ、仲間じゃないですか!」

「私も仲間だよな? 忘れてないよな?」

メーヴィスは、まだ少し拗ねていた。

「あ、そうだ!」

マイルは、思い出した、という感じで唐突に声をあげた。

「このままギルドに戻って、獲物が少ないと男子達に馬鹿にされるのは癪に障るから、ちょっと私が獲ってみますね!」

そう言って、ポケットから小石を取り出すマイル。

「えっと、少し静かにしていて下さいね……」

ばしゅっ!

すたすたと歩いて行き、ホーンラビットを持って戻るマイル。

びしゅっ!

木の上から落ちてくる、大きめの鳥。

ぶしゅっ!

ぴちゅん!

ぱしゅん!

「あ、あんた………」

口をぱくぱくさせているレーナ。

「え? 圧縮した空気で小石を飛ばしているだけですよ? ただの風魔法ですけど……」

勿論、使っているのはただの指の力だけで、魔法ではなかった。

「い、いや、それもアレなんだけど、どうしてそんなに簡単に獲物が見つけられるのよ!」

「………カン?」

マイルの言葉に、メーヴィスとポーリンは肩を竦めた。

そして、ふたりの顔が語っていた。

『マイルのことは、もう突っ込むだけ無駄だろう』と。

ギルドで収納から出した鳥やホーンラビットを納品し、眼を剥いた男子学生達の前で銀貨24枚を受け取るマイル達4人。

「悪いわね。本当にいいの?」

「はい、パーティで行った狩りですから!」

「あんたは……。

まぁいいわ、ここはありがたく戴いておくわ。また、いつかこの借りは返すからね!」

「はい、期待してます!」

銀貨6枚ずつを分配し、笑いながらギルドから出る4人に、男子達の視線が注がれる。

「「「やっぱり、欲しいなぁ……」」」

それから、マイルによるレーナ、ポーリンに対する魔法のレクチャーが続けられた。

他の者には知られないよう、教えた事は誰にも話さないよう口止めし、寮の部屋で呪文や魔法の効果、物理的、化学的な知識等を教え込み、実践は休養日の狩りの時にのみ行うこととした。

レーナは得意な火魔法の威力も上がり、ポーリンも攻撃魔法を覚えた。

更にポーリンには人体の構造や骨、内臓、血管、神経、細胞等について教え、治癒魔法や回復魔法を効果的に使用できるように仕込んだ。

ふたりともどんどん上達し、狩りにおいても狙いを外すことが少なくなってマイルの助けなしでも順調に稼げるようになって行った。

めでたし、めでたし……。

「マイルぅ~……」

メーヴィスのことをすっかり忘れていたマイルであった。

メーヴィスとの訓練は、多少見られたところで大きな問題はないので、昼休みや夕食後等の空き時間に、グラウンドか屋内訓練場で手合わせを行っている。

「じゃ、同期生の中で一番速い人の、1.2倍の速度で行ってみるね」

かんかんかんかんかんかんかんかんかん!

「じゃ、次、1.3倍ね」

かんかんかんかんかんかんかんかんかん!

「じゃ、次、1.4倍ね」

かんかんかんかんかんかんかんかんかん!

「じゃ、次……」

「ま、待って! ちょっと待ってぇ~~!」

「え? 少しずつ速くすれば、慣れてついて行けるようになるんじゃあ?

忍者がやってたという、麻の種を植えて、その上を毎日飛び越える訓練ってのを参考にしたんだけど……」

「忍者が何かは知らないけれど、無理! 無理だから!」

お金に余裕がないため、夜はあまり長時間灯りを灯さない。

自室の灯りは自腹なのである。

しかし、そんなに早くは眠れないので、寝る前はベッドにはいったまましばらくみんなで話をしている。

訓練のこと、他の同期生のこと、噂話等色々な話をするが、基本的にいつも一緒である4人は見聞きすることもほぼ同じであり、そのうち話のネタが尽きてしまう。

自分達のことを話すにも、実家のことや昔の話をするのに何の抵抗もないのはメーヴィスだけであり、初の女の子であるメーヴィスに甘々であった両親や、異常な程のシスコン振りを発揮する3人の兄達のエピソードを、それが少々異常であることに欠片も気付いていないメーヴィスが毎夜赤裸々に語りまくってくれた。

(((うへぇ……)))

3人は、メーヴィスの家族達本人を除けば、恐らく世界中の誰よりもメーヴィスの家族について詳しい人間となった。

そんな事は全然望んでいなかったにも拘わらず。

あまりメーヴィスの話ばかり聞くのもアレなので、そのうちマイルも話し手に加わった。

マイルの話は、家族や自分のことではなく、魔法のための参考になる話や、そればかりではメーヴィスがむくれるので、地球の童話や昔話、冒険譚やアニメ、ゲームの話をこの世界用にアレンジして話したりしていた。

……ハマった。

レーナは魔術師無双話と魔法少女物に。

ポーリンは立身出世物に。

そしてメーヴィスは英雄譚や勇者冒険物に。

強請られるままに毎夜話し続けるマイルは、彼女達が病気にかかっていることに気付いていなかった。

そう、十三歳前後の子供がかかると言われているあの病気。

人、それを『厨二病』と呼ぶ。