軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

267 ドワーフの村 8

「お前達、何を聞いていやがった! だから、この村の戦力はガタガタで、そして人間達の街に救援要請なんか出せない、って言っただろうが!」

自分達の立場も忘れて怒鳴る工房主に、マイルがきょとんとした顔で言った。

「え? 別に、街に討伐依頼を出す必要はありませんよね? 村の人達が第2次降下作せ……奪回作戦を行い、『たまたま居合わせた商隊の護衛が、報酬目当てに参加させて貰う』だけですよ? ただの金目当て、賑やかしのオマケに過ぎません。それが、何かドワーフの皆さんの矜持に関係ありますか?」

「え……」

……ない。

それならば、対外的に、村の名誉は守られる。

自分達の心の中の名誉にはいささか傷が付くが、そこまで贅沢を言っていられる状況ではない。

しかし……。

「だ、大丈夫なのか? 魔物達は強いぞ! 俺達も、伊達に何百年もここで暮らしているわけじゃねぇ。たかがオークやオーガ程度に後れを取るとは思ってもいなかったんだ。それが、どうしてこんなことになっちまったのか……。

この国では、人間の成人年齢は、確か15歳だったな。他のハンター達はともかく、未成年や成人したばかりのお前達では、大怪我どころか、生きて戻ることも難しいだろう。命を粗末にするんじゃねぇ!」

途中で考え直したのか、『赤き誓い』の提案を蹴ろうとする工房主。しかし……。

「ハン!」

それを、レーナが、鼻で嗤った。

「Cランクハンターの魔術師を舐めるんじゃないわよ!」

「同じく、Cランクハンターの剣士もね」

「「「「そして、人間を舐めるな!」」」」

絶句した工房主を無視して、マイルが商人に尋ねた。

「護衛は、往復の間だけ。この村に滞在中は、私達は自由時間であり、その間に何をしようが、雇用主の管轄外である。契約内容は、それで間違いないですよね?」

「……ええ、その通りです。ただ……」

「ただ?」

「帰りの護衛任務に支障のない身体で帰ってきて下さらないと、契約不履行になりますよ?」

商人のその言葉は、別に嫌みではない。『必ず無事に帰ってきて下さいね』という意味の、商人らしい祈念の言葉である。

商人にとって、契約は絶対。契約を破ってしまいそうな危機に陥った時の商人の底力は、文字通りの、一騎当千である。なので、この言葉を掛けられた商人は、死力を尽くすのである。

「……必ず、無事に戻ります。商売の神の名に懸けて」

商人としてのポーリンの返しに、驚いた顔のリーダー。

そして、それに続く3人。

「騎士を目指す者としての、名誉と誇りに懸けて」

「Cランクハンターの名誉に懸けて」

「駄菓子屋のお種ばぁちゃんの名に懸けて!」

「「「「「誰だよ、それ!!」」」」」

「……しかし、俺の一存では……。

最低でも、村長を説得して、更に工房主の3分の2は賛同して貰わねぇとな……。

今のこの村が再び討伐隊を出せば、もし次も被害が大きかった場合、それこそ村の存続に関わるだろう。工房主達は、大体の者が俺と同じような考えだろうから、俺が説得すれば賛成してくれるかも知れねぇ。しかし、村長がどう言うか……。

村長も、決して頭が固いとか意固地だとかいうわけじゃねぇが、村を背負っているという重圧から、どうしても無難な策を選ばざるを得ない立場だからな。ひとりの工房主としてならば賛成する案件でも、村長としては反対せざるを得ない場合もあるだろう。

俺達もそれはよく分かっているから、それを無下にするわけにもいかねぇ。だから、村長の家に押し掛けて直談判、というのは、正直、気が進まねぇよ……」

「「「「「…………」」」」」

工房主の言うことは、理解できる。

理解できるがために、今から村長のところへ行って説得してくれ、とは頼みづらく、困った顔の『赤き誓い』の面々。

そしてそこへ……。

「くぉらあああぁ~~! 儂にだけ高級蒸留酒を売らないとは、いったいどういう了見だあぁ!

てめぇら、ふざけんなよ、ゴラアァァ!!」

「「あ、村長……」」

マイルがお酒を売っていた時間帯は商人リーダーと話していたため、蒸留酒販売のことを知らず、たっぷりと買い込んだ連中から後でそれを聞き、ほんの少量を試飲させて貰った村長が、血相を変えて怒鳴り込んできたのであった。どうやら、他の商人達から居場所を聞いたらしかった。

「出せ! 今すぐ、酒を出せ!!」

マイルは、一見、考え無しの馬鹿のようであり、そして実はその通りなのであるが、意外と心配性で、安全第一という考え方をする。なので、 予備(バックアップ) 、第2案、念の為、そして『こんなこともあろうかと』という言葉には拘る。ポーリンは、マイルのいつもの言動や、あの『にほんフカシ話』の数々から、そのことをよぅく知っていた。なので、そっとマイルの顔を伺うと……。

こくこく

いい笑顔で頷く、マイル。

そして、それを見たポーリンも、 黒(い) い笑顔で、にっこりと微笑んだ。

* *

「そういうわけで、明日は魔物討伐に行くことになりました」

「「「「「おいおいおいおいおいおいおいおいおい!!」」」」」

お約束として、一応驚いてはいるが、本当はそんなにびっくりしているわけでもない『邪神の理想郷』と『炎の友情』の面々。

まぁ、『赤き誓い』と自分達、合計15人のCランク上位のハンターがいれば、オークやオーガの10頭や20頭、大した脅威ではない。そこに屈強なドワーフ達が加わるとなれば、危険はそう大きくはないだろう。そう考えると、どうということはない。

商人達も、馬鹿容量の収納持ちでありながらハンターをやっているマイル、『薪割り剣』の使い手であるメーヴィス、湯沸かし魔法の名手レーナ達の実力は、野営で、他の2パーティの者達からの話で、そしてオーガの殲滅で、充分に知っている。今更、驚くほどのことでもなかった。

「しょーがねーなー。分かったよ、付き合うよ。で、いつ出発だ?」

諦めたような顔でそう言う『邪神の理想郷』リーダーのウォルフと、その言葉に頷く『炎の友情』リーダーのベガス。

「え?」

しかし、それを聞いたマイルは、きょとんとした顔で言った。

「いえ、村の人達と一緒に討伐に行くのは、私達『赤き誓い』だけですよ? 皆さんには、その間、万一に備えて村にいて戴きます。ドワーフの皆さんは総力戦で、オーガと戦える人達は全員討伐に参加しますから、万一その間を狙って魔物達が村を襲ったりしたら、本当に、文字通りの『村の壊滅』になってしまいますからね」

「「「「「え……」」」」」

しかし、考えてみれば、住み着いたばかりのオークやオーガの一団など、そう大した数とは思えない。ならば、『赤き誓い』であれば一蹴できるであろう。しかも、それにドワーフの集団が加わるとなると、何の問題もない。そう考えて、それならば確かに、万一を考えて村を護るために残った方が良いかと、納得するふたつのパーティのメンバー達。

何しろ、『村を護る』ということの中には、『商隊を護る』ということも含まれているのである。なので、これも依頼任務のうちである。

「あ、ちゃんと『村の護衛』として、村から依頼料が出ますからね」

そのあたりは、忘れずにきちんと話を付けているマイルとポーリンであった。

村長は、別に、酒が欲しくて方針を変えたわけではない。

現在の苦境を脱するためには、多くの怪我人を抱えた自分達だけでは力不足だという認識はしていたのである。ただ、人間に助けを求めるという決心が付かなかったことと、今度また大きな被害を受けた場合、取り返しのつかないことになるため、それを危惧していたのである。

しかし、マイルのひと言が、状況を変えたのであった。

「討伐依頼を受けた場合、現在怪我をされている皆さんを治癒しますよ。せっかく凄腕の治癒魔術師がふたりもいるんですからね。一晩寝れば、魔力は回復しますし。

明日の戦いのための戦力増強、つまり戦闘準備の一環なので、別料金は必要ありません。勿論、明日の戦いで負傷された場合も、同じです」

村長が初めて知った、治癒魔術師の存在。しかも、ふたりも。

ならば、死んだり、部位欠損等がない限り、治癒魔法で回復できる。

そして、相手が刃物や魔法を使う対人戦でなければ、手足がスッパリと斬り落とされる、というような怪我はそう多くはない。勿論、それでも四肢や指が完全に潰されたり吹き飛んだりして治癒不能になったり、頭を潰されたり骨や内臓をぐちゃぐちゃにされて死ぬことはあるが、それは仕方ない。

とにかく、凄腕の治癒魔術師と攻撃戦力、村を護る防衛戦力、そして今現在の怪我人達を治癒する機会を逃すのは、馬鹿のやることである。村長がそう判断するのは、当然であった。

お金を払って、治癒だけ依頼する?

討伐依頼をすれば、討伐後の治癒も含めて、治癒関連は全て無料になるのに、わざわざお金を払って、治癒だけ? しかも、どうせ魔物討伐はやらねばならないのである。この村を存続させたければ。

そう、話を聞きさえすれば、村長には選択肢などなかったのである。

そしてマイルが『こんなこともあろうかと』、念の為にアイテムボックスに残していた数本の蒸留酒は、村長に話を聞かせるためのアイテムとしては、充分なものであった。

自分達だけになると、マイルがレーナ達に言った。

「皆さん、決して油断はしないで下さいね。

本来であれば、前回の村の人達による討伐で駆逐できたはずなのに、それが失敗して大被害を受けたということは、そうなった理由というものが存在するはずです。村の人達は『ヘマをしでかした』、『運が悪かった』としか思っていないようですが、その程度のことでそんな被害を受けるなら、今までこの村が何百年も存続できたわけがありません。

物事には、考え得る限り最悪の事態を想定すること。そして現実は、その3倍くらいの規模で、斜め上の方向からやってくる。それが、現実というものです」

マイルの警告に、黙って頷くレーナ達3人であった。