軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

265 ドワーフの村 6

(おかしいです。わざわざ、そんな自殺行為をするはずが……)

当然のことながら、疑問に思ったマイルがリーダーに質問した。

「明らかに、変ですよね。急にそんなことを言い出すなんて。きっと、何か事情が……」

「ええ、あるでしょうね。製品の数が揃えられなかった理由が。さすがに、何も理由がないのにあんなことを言い出すとは思えません。しかし……」

「しかし?」

マイルの合いの手に、リーダーが言葉を続けた。

「何かがあったとしても、それを我々に相談する気もなく、『半分しか出来なかったのなら、それを渡して、いつもと同じ金額を要求すればいい。だから、何の問題もない』と考えるのが、ここの者達なんです。……つまり、馬鹿にされているわけですね、我々が」

(あ……)

マイルは、ようやく自分が抱いていた違和感の正体に気付いた。

商人達が、村を目前にしてわざわざ手前での野営を選んだこと。

今も、村長の要求に驚いてはいるが、混乱したり焦ったりしている様子はあまりないこと。

そして、村に何があったのかと心配している様子が殆どないこと。

(みんな、元々、この村があまり好きじゃないんだ……)

マイルは、直球、ど真ん中を投げ込んだ。思い切り。

「皆さん、この村の人達が嫌いなんですか?」

「マ、マイル、いきなり何を!」

慌てているのは、メーヴィスただひとり。

どうやら、ポーリンとレーナも気付いたようである。

「……その通りです。商売なので笑顔で対応していますが、この村は最初から我々を馬鹿にしていました。だから、我々もこの村は『利益をあげるための取引相手』としてはきちんと対処しますが、それ以上、つまり『大切なお客様』とは思っていません。なので、取引相手としての意味がなくなれば、手を引きます。ただ、それだけのことです。

往路で、危険を承知で必需品を運び、利益を考えない値段で売っていたのも、別に我々の意思ではありません。金属製品を買いたいならばそうしろ、と要求されたから、やむなく行っていただけです。

しかし、肝心の金属製品が採算割れするならば、我々がわざわざこの村に来る意味も、その必要もありません。我々は商人であって、馬鹿でも聖人君子でもないのですからね」

商人達の顔からは、いつものお愛想笑いが消えていた。余程腹に据えかねていたらしい。

そして今、この村を見捨てる、いや、取引を打ち切る決心をしたのであろう。

当たり前だ。商人が、危険で、1回の行き来に8日間もかかる、態度の悪い顧客との赤字になる取引を続ける理由など、何一つ思い付かない。

しかし、それでも、マイルにはまだ疑問に思えることがあった。

「あの、先程まで見ていた限りでは、村の皆さんはそう悪い人達には見えなかったのですが……」

そう、笑顔で買い物をする村人達は、マイルには、気のいいドワーフの人達だとしか思えなかったのである。

「ええ、彼らは、悪い人達ではありませんよ」

「「「え?」」」

商人の思いがけぬ返答に、ポーリン以外の3人が驚きの声を漏らした。慌てて周囲を伺ったが、まだ広場にいた村人達は、特に気にした様子もない。小声での話は聞こえていないであろうし、商隊の内輪話などには興味がないのであろう。そして、先程から黙って話を聞いている『邪神の理想郷』と『炎の友情』の面々は、気にしたふうもなく携帯食を囓っている。

……そんなことは、最初から知っていた。そういう態度であった。

「この村の者達は、基本的に、職人です。

勿論、農業や林業等に携わる者達も大勢いますが、私達が取引する相手は鍛冶師達ですし、それが村の中心産業ですから、まぁ、そう言っても構わないでしょう。そして彼らは自らの技を、技術を誇り、高い矜持を持っています。

こと鍛冶技術に関しては、ヒト族より優れている。だから、自分達が作ったものを『売ってやっている』、『買わせてやっている』、『使わせてやっている』。そう思っているのですよ。本当に、心の底から。

なので、別に、悪意があるとか、我々を嫌っているとか、腹黒いとか、そういうことはありません。酒好きの、人の好い、優れた職人達です。ただ、矜持が高く、鍛冶方面ではヒト族を見下し、自分達の製品を欲しがる者は無条件で自分達に頭を下げ、自分達の言うことを聞くのが当然、と思っているだけなんです。つまり、『悪い人達ではない』、ということですね」

「「「「充分、悪いわ!!」」」」

4人の声が揃った。いつものように……。

「というわけで、皆は、午後も予定通り商品を販売して下さい。私は鍛冶師のところを廻り、情報収集に努めます。それで、何とかなるようであれば、いつものように明日買い付けて、明後日の朝に出発します。駄目なようなら、場合によっては明日のうちに出発するかも知れません。

また、いつもの価格で買えるものがあれば、それらのみを買う、という可能性もあります。それで異存はありませんか?」

リーダーの説明に、ふたりの商人が、こくりと頷いた。あとのひとりはリーダーの店の従業員なので、その意思を確認する必要はない。本人もそれが分かっているので、あえて意思表示はしなかったのである。

「「「「…………」」」」

思いがけぬ結果となり、黙り込んでいる『赤き誓い』の面々。他の2パーティも、村人の態度については知っていたものの、この事態には、少し戸惑っている様子。

ちなみに、後で『どうして村人について教えてくれなかったのか』とレーナが尋ねたところ、『まだ会ってもいない連中に対する否定的な情報をわざわざ事前に聞かせて、余計な先入観を抱かせる必要はないだろう。それは、自分達で直接確かめればいいのだから』と言われ、納得するしかなかった。

「では、そろそろ販売を再開して下さい。私は商隊の全権代表として、鍛冶師のところを廻ります。村長とは、話すだけ無駄ですからね」

どうやら、リーダーが村長のところへ挨拶に行ったままなかなか戻ってこなかったのは、何とか事情を聞き出すべく頑張っていたためらしいが、全く成果がなかったようである。

そして、リーダーが立ち上がった時。

「私達も、ついて行きます!」

「え?」

マイルが、自分も立ち上がりながら、そう宣言した。そして、やれやれ、という顔で立ち上がる、『赤き誓い』の面々。

リーダーは一瞬躊躇ったが、マイルの収納魔法のことを考え、頷いた。別に『赤き誓い』を連れていくことにデメリットはないし、もし収納魔法による協力を得られたならば、取引条件が少し楽になるかも、と期待したのである。

そして、水と堅パンという粗末な昼食を終えた皆は、商売に、そして交渉にと散っていった。

「ここが、取引している鍛冶工房のひとつです」

リーダーに案内されて、鍛冶場へとやってきた『赤き誓い』一行。他の護衛達は、自由行動であり、ついてきてはいない。来ても何の役にも立たないし、 強面(こわもて) のハンターが大人数で押し掛けたりすれば、取引や交渉どころか、脅しになってしまう。『赤き誓い』の4人だけであれば、その外見も相まって、特に問題はない。

「工房主はおられますかな」

リーダーが作業場の入り口から中に声を掛けると、従業員というか弟子というか、ともかく『若いの』が、奥の方へと工房主を呼びに行ってくれた。……髭面で、あまり若くは見えない『若いの』であるが……。

今朝、商隊が到着したことは村中の者が知っているから、名を聞かれることもなかった。いや、そもそも、ここの連中もマイルの酒を買いに来ていたに違いない。工房主も含めて。

そして、すぐに奥から工房主らしきおやじが出てきた。赤ら顔なのは、毎日炎に 炙(あぶ) られているからなのであろうか……。

「酒屋の嬢ちゃんが来たというのは本当か! 売れ残りがあるなら、あるだけ全部買うぞ!!」

どうやら、顔が赤いのは、真っ昼間から飲んでいたかららしかった……。