軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

257 辺境の都市 7

「我を怒らせるでないぞ? 見逃すのは一度だけじゃからな? まぁ、大陸を沈めるのは可哀想じゃから、国を滅ぼす程度で我慢してやるつもりではあるがな……」

((((((ぎゃああああああぁ!))))))

兵士達は、ガクブル状態であった。

しかし、目が見え……めがみエルお方は、考えた。

この兵士達は信じても、報告を受けた上の者達が信じなければ意味はない、と。

そして兵士達に歩み寄ると、硬直しているひとりの兵士の腰から剣を抜いた。

「うりゃ!」

そして、ぐねぐねと指で 捏(こ) ねられ、ぐるぐると渦巻き状になった剣。

(((((なぜ折れないぃ!!)))))

そう、折れるはずである。あんな変形などするわけがない。

そして次に、その隣の兵士のブレストアーマーに、指で穴を開けた。ごく軽い感じで。

すぽん。すぽん。すぽん。

人差し指で3つ開けた後は、4本の指で、一度に4つの穴を。

「ぎゃあああああ!」

別に身体にまで穴を開けたわけではないのに、大袈裟な兵士である。

最後に、少し離れたところにある岩に向けて指を指し……。

どごん!

精強な国軍のはずであるが、何人かの兵士はへたり込んでいる。いや、数名しかへたり込んでいないということが、精強の証であるのかも知れない。

だが、立っているだけである。

へたり込んでいない者達も、ただ、立っているというだけであり、到底動けるような状態ではなかった。完全な、硬直状態である。

「……行け。そして、伝えるがよい。我が 命(めい) に逆らった者が、どうなるかを……」

そして、下方の重力を遮断してふよふよと空へと昇り、そのまま飛び去っていった。

「「「「「「「…………」」」」」」」

たっぷり1分は経った後、ようやく兵士達が動きを取り戻した。

こんなところで突っ立っていたら、魔物の奇襲を受けて壊滅である。……普通であれば。

今だけは、その心配はないであろう。魔物は全部、全速力で走り去っていったばかりである。

そして、比較的頭の回る兵士が叫んだ。

「いかん、暴走した魔物が、森から溢れる!」

しかし、皆を安心させるため、中隊長がそれを否定した。

「大丈夫だ。そういう時に備えて、残りの2個小隊、我が中隊の半数を森の外縁部に残しておいたのだ。奴らが必ず食い止めてくれる! それに、ここの領主軍も、遊んでいるわけではなかろう。我々が作戦中は、奴らも念の為にと控えているはずだ。

それに、魔物の暴走も、外縁部に着く頃には体力を使い果たして弱まっているだろうし、足の速さの差でバラけているはずだ。大した脅威ではない。

それより、我々は、彼らが追い返して再び反転した魔物の群れと衝突することになるかも知れんのだから、それに備えることだけを考えろ。……そして、女神のことは、お前達は考えなくていい。それを考え、上奏し、正気を疑われ、食い下がり、何とかするのは、俺の仕事だ」

げんなりした顔でそう言う中隊長に、ようやく皆の顔に余裕が戻った。

そう、女神の件を報告するのは、自分達ではない。自分達はただ、他の兵士や酒場の女給達に話して聞かせるだけで良いのだ。それが、下級兵士の特権である。

「よし、移動を再開する! 隊列を整えろ!」

そして、2個小隊と傭兵、ハンター達の混成団は進む。足取りも重く……。

* *

「収納少女がいないだと? なぜだ? どこへ行った!」

怒鳴る小隊長と、困った顔の『赤き誓い』の3人。

「え~と、そのぉ、二度とちょっかいを出す気にならないようにと、少しばかり、追撃などを……」

「ばっ! ひとりで、夜間、国境を越えて敵地に侵入したと言うのか! 絶対に国境を越えるなと、あれ程念を押したというのに、いったい何を聞いていた!」

夜が明けて、朝食後、野営を撤収しようとした時点で、当然の事ながらマイルの不在がバレた。

朝食は、皆で昨夜の肉の残りを焼いて食べたため、マイルが置いていったタレや塩胡椒、飲み物を売ることができた。飲み物の樽は捨てていくことになるが、樽は例の徴発品がたくさん残っているので、別に惜しくはない。

そしてその後、兵士達は肉の残りを今夜また食べるため、マイルに収納して貰おうと思っていたのだから、バレないわけがない。

「いえ、兵士ではなく、ただのハンターが依頼とは関係なく自分の食料を狩るために行動しているだけなので、国境は関係ありませんから」

メーヴィスが、打ち合わせ通りの説明をする。そして、それを聞いて『あ!』というような顔をする小隊長。

確かに、言われてみれば、その通りである。そして昨日の『赤き誓い』の活躍は第2分隊長から報告を受けているので、マイルが見かけによらず普通の兵士以上の戦闘力を持っていることは分かっている。

しかし、いくら少々強くても、ひとりで魔物の群れを追撃するのは、あまりにも無謀であった。それに、この部隊に追いつくまではずっと単独行動を続けることになり、その間、何があるか分からない。せめて、この『赤き誓い』のリーダーである剣士や、あの攻撃魔法の使い手くらいの実力があるならばともかく……。

そう言って、無謀な行為を許したことを非難する小隊長であったが……。

「え? マイルは私より剣技が優れていますし、レーナより攻撃魔法が強力ですし、ポーリンより治癒魔法や支援魔法が得意ですよ? そもそも、私達3人の剣術や魔法の師匠なのですから」

「え?」

「「「「「えええええ?」」」」」

小隊長だけでなく、聞いていた兵士達も驚愕の声を上げた。

「ほ、本当か?」

「本当です」

「彼女をここで待たなくてもいいのか?」

「必要ありません。多分、我々よりもマイルの方が安全です」

「…………」

もう、何も考えたくない。そう思った小隊長は、皆に指示を出した。

「撤収! 直ちに帰途に就く!」

マイルのせいで、携帯糧食も水も、あまり減っていない。残るはあと1日半の行程であるが、何が起こるか分からない森の中の行軍を控えて、いくら余りそうだとはいえ、水や携帯糧食を捨てるようなことはしない。

しかし、自分達が食べる分の肉を運ぶくらいの余力は充分にあるため、今夜と明朝に食べる分の肉を分担して運ぶ兵士達であった。……勿論、時間がかかるため、昼食を摂る予定はない。

そして、昼頃。

「すみません、遅くなりました~!」

「どうしてそんなに早く追いつけるんだよ!!」

疲れた様子もなく、平然とした顔で皆に追いついたマイルに、もう、全てを諦めたような顔の小隊長。

「あ、野営地のところで、樽や残してあった肉とかも回収してきました。すみません、朝食分を残して、その他の肉は収納に入れておくべきでした。気が利かなくて、本当にすみません……。

皆さんの荷物、全部収納に入れますから!」

(もう、どうでもいい。疲れた。すごく疲れた……)

そして、小隊長は皆に指示を出した。

「大休止! 肉や荷物は、収納少女に入れて貰え!」

ぶふぅ!

「な、何ですか、その『収納少女』って!」

「あ、すまん……」

あんまりな呼び名に、思わず噴き出すマイルと、ついうっかり脳内呼称を口に出してしまい、謝る小隊長であった。

そして、夜。

「え~、焼肉のタレに、塩と胡椒。氷入りのレモン果汁水は如何ですか~。お口直しのリンゴもありますよ~。それと、酒精を全部飛ばした、酔わない『エールもどき』、キンキンに冷えて、1杯小銀貨5枚です!」

「「「「「……くっそ! くっそおおぉ! 今回の特別手当があああああぁっっ!!」」」」」