軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

254 辺境の都市 4

「何なんだよ、アレは……」

「いや、たまげたなぁ……」

賑やかだった食事が終わり、『赤き誓い』の面々がテントに引き揚げた後、『邪神の理想郷』と『炎の友情』の面々はひとかたまりになって話し込んでいた。

「そもそも、あの馬鹿げた容量の収納は何だよ! 貴族や大商人どころか、王宮からお声が掛かるだろうが! どうしてハンターなんかやってるんだよ!」

「まぁ、百歩譲って、宮仕えが性に合わないからハンターに、ってのはまぁ、分からんでもない。俺達も、人のことは言えんからな……。

しかし、アレなら、Aランクどころか、Sランクのパーティからでもお声が掛かるだろ! どうしてCランクパーティなんだよ!!」

宝の持ち腐れ。豚に真珠。猫に小判。それらに相当する言い回しが、この世界にもあった。

「しかし、これで他のメンバーが凄腕揃いの理由が分かったな……」

「うむ。あの、一瞬で枯れ木を切断した剣士。絶妙な火魔法の制御を行う攻撃魔術師。そして楽々と治癒魔法の連続使用をこなす治癒魔術師。彼女達は皆、あの収納使いの少女を護り、万一の時には治癒魔法でその命を助けるべく誰かによって用意された護衛なのだろう。でないと、たまたま若い美少女ばかりであのような凄腕の者が偶然揃うわけがない」

「どこかの間者か?」

「それはない。使い捨てにするには勿体なさ過ぎるし、もしそうならばこんな依頼を受けるはずがないだろう。そもそも、あの間抜けづ……げふんげふん、素朴で純情そうな顔つきからは、とてもそうは思えん」

「「「「「確かに……」」」」」

失礼な連中であった。

しかし、収納魔法以外はあまり派手なことをしなかったにも拘わらず、しっかりとメーヴィスの剣技やレーナとポーリンの魔法の技量を推し量っているところは、さすがにベテランハンター達であった。

そして勿論、領軍の者達も、馬鹿ばかりではなかった。

「何なんだ、あの化け物染みた収納魔法の容量は……」

副官はマイルの収納能力のみに驚いているようであるが、指揮官である小隊長はそうではなかった。

「それもあるが、あの剣士の技を見たか! 空中に放りあげた木材を、剣の3閃で薪にしやがった……。お前ら、支えのない空中の薪を剣で縦に切断できるか?」

そう話を振られた周囲の兵士達は、ふるふると頭を横に振った。

「そして、ファイアーボールを完全に静止した状態で発動させ、しかもぎりぎり水が沸騰する威力に調節して、ゆっくりと鍋の水に沈める、あの制御能力。誰か、そんな魔法を使う魔術師を見たことのある者はいるか?」

再び、ふるふると横に振られる兵士達の頭。

「更に、言うまでもない、あの治癒魔法……。いくら小さな傷ばかりとはいえ、殆ど全員が列を作ったというのに、顔色ひとつ変えずに全員に治癒魔法を掛けやがった……。

野外で魔力を枯渇させる魔術師なんかいやしない。それも、戦闘や緊急事態でもない、掠り傷如きのために……。つまり、あれは彼女の魔力量の半分、いや、おそらく3分の1も使っていないのだろうな、常識で考えると。

いや、自分で言っていて、『常識』という言葉の意味がよく分からなくなってきたが……」

小隊長は、少し混乱していた。

しかし、お荷物だと思っていた少女達の予想外の能力に、ハンター達に対する認識を新たにするのであった。

そして翌日。

兵士やハンター達が目覚めると、いい匂いが鼻腔をくすぐった。

「これは……」

兵士達が起き出すと、そこには湯気をたてた大鍋とパンの山、そして野菜サラダの姿があった。

「朝食セット、一人前小銀貨5枚です」

今日は戦いの本番である。そして、昼食を摂る余裕はない。

堅パンとひとかけらの干し肉、そして水だけの朝食と、この温かくて栄養があり、腹に溜まりそうな朝食、どちらを選ぶか。

そこで迷うような者がいるはずがない。

小銀貨5枚を惜しんで、大事な一日の体調を軽視するような兵士がいるはずがない。

「く、くれ!」

「俺も!」

「2人前でもいいか?」

殺到する兵士達。

「はいはい、充分ありますから、慌てないで! 特別に、おかわりはサービスしますよ」

「「「「「おおおおお!!」」」」」

本当は、戦いの前に満腹になったり、腹に食べ物がはいった状態というのはあまり良くないのであるが、対人戦ならばともかく、魔物相手だと腹に剣や槍、矢等が突き刺さることはない。なので、長丁場となる今回は、疲労や空腹に備える方がずっと重要だと判断したのであろう。

それでも腹八分目に抑えた兵士達は充分に満足し、意気揚々と出発したのであった。

(この任務で、こんなに士気が高いのは初めてだ。感謝するぞ、『赤き誓い』とやら……)

小隊長は、『赤き誓い』の後ろ姿に向けて、そっと頭を下げていた。

野営地を出発して約2時間。

小隊長が大声で全軍に対して指示を出した。

「迎撃地点だ。散開して、哨戒線を張れ!」

そう、ここは森の中央である国境線と、森の自国側外縁部との丁度中間あたりで、左右を山に挟まれて森の幅が一番狭くなっている部分であり、移動してくる魔物を迎え撃ち、追い返すには最も適した場所なのであった。

ここで塞き止め、後方には通さない。それが、この部隊の任務であった。

指揮官である小隊長は、4つに分けたチームを、それぞれ間隔を空けて左右に長く展開させた。これで、両端を山に塞がれた森の狭窄部に阻止ラインが形成された。

いったん塞き止めて追い返しが始まれば、広いところに出ても魔物はそのまま反対側へと追われ続け、反転して分隊の間をすり抜けるようなことはしない。この場所で、とにかく魔物の移動方向を反転させることにさえ成功すれば、あとは、 勢子(せこ) というか、追い子というか、大声を出しながら国境まで進むだけである。

その時には、元々国境のこちら側にいたオーガやゴブリン等も追い払う。向こうから来たものか元々いたものかを見分けられるはずもなく、そして向こうが厄介者をこちらに追いやるなら、こちらも同じことをして、何が悪いというのか。と、まぁ、そういうわけであった。

この時、オークや角ウサギ、鹿や猪等の、猟師が獲物として狩るものは、なるべく追い払わない。このあたりの食用の魔物や獣を減らすことは、自国の猟師の生活や、それらの獲物に頼る近隣都市の食生活に影響を及ぼすからであった。

隣国はそういうところにはあまり気を配っていないらしく、猟師であれば比較的容易に狩れる食用の魔物や獣も、気にせず全てを追ってくる。なので、それらの食用のものは追わず、塞き止める時にもそれらには手を出さずに後方へと通すのであった。

皆が散開して配置に就き、2時間少々経った頃。マイルの人間の域を超えた聴覚と気配察知能力が、それを察知した。

「……来ます、大量の魔物や獣の集団です! でも、ひとかたまりではなく、分散しています」

それを聞き、黙って頷く『赤き誓い』の3人と、え、という顔の兵士達。

「マイルは、耳とカンがいいんです。マイルが『来る』と言うなら、来ます。準備を!」

メーヴィスの言葉に、半信半疑ではあるが、昨日から見せられている人間離れした技量の数々を思い出し、黙って頷くと剣を抜く兵士達。どうやら、それなりの信用を得られたようである。

「……来た!」

しばらくして、兵士達にも魔物が接近する音や気配が感じられたようである。

レーナが、にやりと 牙(やえば) を剥いて笑った。

「やるわよ!」

「「「おお!!」」」