軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

231 故 郷

「大失敗でした……」

そろそろ日が落ちて薄暗くなり始めた街道を、まだ移動し続けている『赤き誓い』の面々。

そう、最初から正体がバレバレで、恥ずかしくてとてもあの町には滞在できなかったため、そのまま再び出発したのであった。

「大恥よ!」

まだ、顔の赤みが完全には取れていないレーナ。

そしてメーヴィスの腰では、出番がなかった短剣のナノマシン達が、がっかりしていた。

「まぁ、当たり前ですよね。ギルドにとっては大事件だったのですから、再発防止のための警告の意味も込めて、近隣のギルドにはすぐに情報が回ったに決まっています。

で、警告のためにはギルド職員やハンター達に周知させないと意味がないわけで、当然、ギルドに出入りする関係者達は全員が知っている、ということで……。

女性だけのハンターパーティならば、まぁ、数はそう多くはないけれど、そう珍しいという程じゃありません。でも、ギルドに立ち寄る若い女性4人のお嬢様御一行となると、ちょっと……」

ポーリンが、やれやれ、といった様子で、そう呟いた。

「あ、あああ、あんた、気付いていたなら、最初からそう言いなさいよ! どうして黙っていたのよ!」

「……面白そうだったから?」

「なぜ疑問形なのよっっ!」

ポーリンは、やはりポーリンであった……。

そしてその日は、町から少し離れたところで野営する『赤き誓い』の一行であった。

数日後、そこそこの規模の街に着いた『赤き誓い』一行。まだ国境は越えておらず、このあたりにも『お嬢様一行には手を出すな』情報は回っていると思われた。そして勿論、皆の服装はいつもの通り、通常のハンター装備である。

「もう、おかしな小芝居はうんざりよ。私達は、新進気鋭の若手Cランクハンター、『赤き誓い』。それ以上でも、それ以下でもないわ。正々堂々と、真っ向勝負でランクを上げるわよ!」

「「「おお!」」」

そしていつものようにギルド支部にはいり、いつものように皆の視線を集め、いつものように情報ボードを確認し、

「「「「え?」」」」

そこで、動きを止めた。

『B級要注意情報 アルバーン帝国がブランデル王国に侵攻。その方面へ向かう者は注意のこと』

「「「「えええええ~っっ!」」」」

ブランデル王国。そこは、しばらく前に立ち寄り、そして後にした国である。そして……。

「マイル、あんたの母国よね……」

「……はい。そして、アルバーン帝国に接する南側は、アスカム領が国境近くにある側です……」

自分を捨て、そして自分が捨てた領地。もう二度と関わることはないと、後にした国。既に自分とは関係のない国。

しかし、マイルの顔色は悪かった。

「ついて来なさい!」

レーナは、そう言うと、皆を連れて窓口へと向かった。

「帝国の侵攻について、詳しく聞きたいんだけど」

そう尋ねるレーナに、受付嬢は笑顔で答えた。

「一般情報は無料、詳細情報は小金貨1枚になりますが……」

「詳細の方をお願い」

「では、あちらへどうぞ。ウェリス、お願い!」

受付嬢は、説明担当らしい女性職員を呼び、別室へ行くよう指示してくれた。……当然であろう、有料の情報を、周りに大勢がいる窓口で喋るわけがない。

「では、状況を御説明致します」

別室で、料金の小金貨1枚を前払いで受け取った後、ウェリスという女性職員が詳細情報を教えてくれた。

それによると、数日前にアルバーン帝国が北方に接するブランデル王国に宣戦布告をすることなく突如侵攻、現在、国境に面した王国側の領地で戦闘中らしい。アスカム領は国境には面していないが、その領地が落ちれば、次はアスカム領の番である。

「帝国は、まだ、本格的に全面戦争を行う気はないようです。これは、侵攻している軍の兵力、兵站物資、他の軍の配備状況等からの専門家による分析ですので、間違いなく保証する、というものではありませんが……。

おそらく、後に本格的に侵攻する時のために、攻撃発起点として地理的に優位な場所を押さえておきたいがための、『領地の切り取り』が目的と思われます。

王国側は、勿論怒り心頭ではあるでしょうが、帝国とは国力の差があり、また、戦争の準備を整えていたわけでもなく、今から泥縄式に慌てて準備を始めたり、掻き集めた兵力を逐次投入したりするのも愚策です。おそらくは、国境近くの 僻地(へきち) はいったん見捨て、じっくりと準備を整えてから反攻作戦に出るかと……。

勿論、大義は王国側にありますが、どうやら帝国側は、領主が不在のアスカム領の正統な後継者とやらをでっち上げ、その要請による出撃である、とか言い張っているそうです。勿論、そんなのを信じる国なんかありませんが、ま、一応の名分を立てている、というだけのことですね」

「……どうしてそんなに詳しいことを知ってるのよ!」

驚きである。小金貨1枚など、安いものであった。

「そ、その情報は、いったいどこから……」

レーナに続き、メーヴィスも驚きの声を上げた。

しかし、ウェリスとかいうその女性職員は、 悪戯(いたずら) っぽい笑顔で言った。

「それは、秘密です!」

(よっきゅん!)

落ち込んでいても、反射的に心の中で突っ込みを入れずにはいられないマイル。業の深い少女であった……。

女性職員が説明を終えて部屋から退出した後、『赤き誓い』の面々は、その部屋に残った。情報料として小金貨1枚を支払ったので、少し位ならこのまま部屋を使ってもいい、と了承を得たのである。

「どうやら、帝国の目的地は、アスカム領らしいわね。……で、どうするのよ?」

マイルに向かって、そう尋ねるレーナ。

「ど、どうもしませんよ? もう、私には関係のない国、関係のない領地ですから。

私は、Cランクハンターパーティ『赤き誓い』の魔法剣士、マイルですから!」

平気そうな顔を装ってそう言うマイルであるが、ぷるぷると震える身体と蒼い顔、そして引き攣った表情が、それを裏切っていた。

「それでも、マイルが生まれ、育った場所なのだろう? 知った者達、世話になった者達がいるのではないのか?」

「……」

「名目上とはいえ、マイルちゃんの領地であり、マイルちゃんの領民の皆さんなのではないのですか?」

「…………」

メーヴィスとポーリンの言葉に、 俯(うつむ) いて黙り込むマイル。

「じゃ、私が依頼するわ」

「え?」

唐突なレーナの言葉に、意味が分からず疑問の声を上げるマイル。

「どうせ、自分の個人的なことに私達を巻き込めない、とか考えているんでしょ、あんたのことだから。だから、私が『赤き誓い』に自由依頼で仕事を頼むのよ、アスカム子爵領に出向いて、やらかしてくれってね!」

「え……」

自由依頼。それは、ハンターギルドを通さず、依頼人とハンターが直接交渉して仕事を依頼することである。利点は、ギルドに手数料を取られないこと。ギルドが難色を示すような依頼内容であっても問題ないこと。そして欠点は、ギルドの功績ポイントが貰えないこと。依頼人、受けたハンターのどちらか、あるいは双方が嘘を 吐(つ) いていたり、契約条項の未遂行、つまり報酬の不払いや成果の虚偽報告等に対して何の保証もされないこと。また、依頼人やハンターが、本当に本人達が名乗っている通りの者達なのかの保証がないこと、等である。

早い話が、護衛依頼を受けた者達が、実はハンター資格のない盗賊達本人だった、とかいうことが起こり得るわけである。

知らない相手、信用のない相手と交わすには危険が大きい自由依頼の契約であるが、互いに知り合い同士とか、信頼する相手であれば問題ない。

「Cランクハンターパーティ『赤き誓い』に対して、私から自由依頼による契約をお願いするわ。

依頼内容は、『アスカム子爵領へ出向き、我が友の関係者達を助けること』。依頼料は、銀貨1枚。受けて戴けるかしら、パーティリーダーさん?」

「 謹(つつし) んでお受け致します、美しき依頼主のお嬢様……」

「ばっ……」

自分が始めた『ごっこ遊び』のくせに、メーヴィスの真剣な顔での返しに顔を赤くするレーナ。 粋(いき) がって見せても、まだまだ修行が足りないレーナであった。

「そ、そんな……」

涙目のマイルに、ポーリンが優しく言った。

「私達は、マイルちゃんに何度も助けられました。そしてその中には、私や家族の個人的なこと、メーヴィスの個人的なこと等も含まれていましたよね? そして、もしそれらのことがなかったとしても、やはり私達がこの依頼を受けることには変わりはありません。なぜなら……」

そして、マイル以外の3人の声が揃った。

「「「この身体に赤い血が流れている限り、我らの友情は不滅なり!!」」」

レーナにしがみついて泣きじゃくるマイルと、どうしていつも自分には抱きついてくれないのかと肩を落とすメーヴィス、そして、それを見て肩を 竦(すく) めるポーリンであった……。