軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

214 七つの顔の女だぜ! 3

「ハンターじゃなくても、買い取りはして貰えるのよね?」

ギルド職員に対する身分詐称は、処罰の対象となる。しかし、レーナは別に嘘は吐いていない。ただ、そういう質問をしただけであり、自分がハンターではないなどとはひと言も言っていないのだから。

「あ、ああ、そりゃ大丈夫だ」

買い取り受付の担当者は、普通はむさいおっさんであり、ここでもそれは例外ではなかった。

買い取り担当を他の窓口のように女性にすると、もっと高く買い取れと 凄(すご) む馬鹿が出るからである。なので大抵は、怪我や年齢のためハンターを引退した、少し 強面(こわもて) のおっさんの仕事と相場が決まっている。

そして、いくら怪我や年齢のために現場仕事は引退しても、短時間の戦闘力で若造に後れを取るような者はいない。というか、そういう者は買い取り受付としては雇われない。なので、買い取り担当者に逆らったり、無礼を働くハンターはいなかった。

それに、そもそも、ハンター達は自分もいつ怪我をするか分からず、そしていつかは歳を取る。その場合の再就職先としては非常に魅力的なギルドの職員に対しては、荒くれ者でも結構礼儀正しく振る舞うのであった。とにかく、敵に回したり嫌われたりすれば、良いことは何もないのだから。

……しかし。

「おっさん、これ、いくらに……、うごご!」

「すみません、これを査定して戴けますか?」

いくら芝居とはいえ、あまりにぞんざいな口調のレーナを慌てて止め、その口を塞いだメーヴィス。

「おじさま、良い値をお願いしますね!」

あからさまな 媚(こ) びを売るポーリン。愛想笑いで貰えるカネが増えるなら、ポーリンはそれぐらい平気でやる。そして……。

「お、おじさま、お願い!」

そう言いながらウィンクをするが、慣れていないため両眼を瞑るマイル。そう、あの、雷撃魔法『天使の 瞬(まばた) きショット』の発射時と同じであった。

「……無理しなくていいぞ」

苦笑(にがわら) いの、買い取り担当のおやじ。

「しかし、凄いな。これだけの収納使いを 直(じか) に見るのは、初めてだ。それに、このオークも、首を一撃で落として、他には傷ひとつ 無(ね) ぇ……」

「あ、それは、3頭のオークを狩ったけれど運べなくて往生していたハンターさんから、格安価格で買ったんですよ」

慌てて、そうフォローするマイル。

オークの素材価格の大半は、狩った場所から町までの輸送の手間賃。そう言われるだけあって、その説明には説得力があった。少々、あり過ぎた。

それを聞いていたハンター達のほぼ全員が、マイルを手に入れた場合の自分達の収益増加を想像して、少し妄想に 耽(ふけ) っていた。これで、マイルが普通の新米ハンターとかであればともかく、いくら下級とはいえ貴族家のお嬢様とあっては、そんなことが実現できる可能性などありはしないのであるが、空想して楽しむのは、みんなの自由である。

「ほれ、査定結果は、こんだけだ。文句は 無(ね) ぇか?」

じゃらりとカウンターの上に置かれた 硬貨(コイン) は、まさに「状態の良いオーク2頭分」に対する適正値であった。なので、レーナが頷き、マイルが硬貨の上に手をかざして収納した。別にわざわざ手をかざす必要はないが、様式美、というやつである。収納持ちを見たことのない者が多いので、少しサービスしたのである。

「じゃ、宿を取りましょうか。明日は、朝2の鐘(午前9時)にはカルディルの町に向かって出発するわよ」

「「「お……、はい!」」」

レーナが、あからさまな説明台詞を大きな声で告げてから、皆は宿を取るためにギルドを出ていった。そして、4人がいなくなったギルドでは。

「「「「「…………」」」」」

何やら、呆気にとられた者、心配そうな者、……そして、不穏な様子の者達の姿があった。

「……あんな感じかしらね?」

「ちょっとやり過ぎじゃないのかい?」

「いえ、地方の貴族家の馬鹿娘一行としては、あれくらいで良いのではないですか?」

「誰が『馬鹿娘』ですか、誰があっ!」

皆は、和やかに歩いていた。裏通りを。

「宿も、重要なポイントだからね」

「そうですよね……」

レーナの呟きに、そう答えるマイル。

何も、情報が漏れるのはギルドだと決まったわけではない。旅人が狙われるなら、旅人が必ず利用するところ、つまり宿屋や食堂とかも、充分怪しいのだ。

どの宿屋も、怪しさではほぼ同じ。いくら高級な宿屋でも、末端の従業員ひとりひとりの交友関係まで完全に把握しているというわけではないだろう。では、なぜ裏通りの3流宿屋を選ぶかというと。

「なるべく安いところを探して下さいね」

ポーリンが、皆にそう告げた。

そう、ただ単に、経費を浮かせるためであった。

「できれば、ケモミミ付きの宿を……」

「あんたは黙ってなさい! 他のケモミミに浮気したら、ファリルに言いつけるわよ。あんたはケモミミさえ付いていれば 見境(みさかい) 無しで、誰でも構わないみたいだよ、って」

「ああっ、そんな!」

レーナに脅され、慌てるマイル。

そう、誘拐団から助け出した当日は、がっついたマイルの 稚拙(ちせつ) な行動で疑いを招いてしまったが、その後、ちゃんと大将夫妻が説明してくれて、ファリルちゃん救出作戦の主導者がマイルであることをちゃんと分かってくれたのだ。そしてレーナ達の説明により、マイルの大活躍についても知ったファリルちゃんは、以前にも増してマイルに 懐(なつ) いていた。

そして、『女神のしもべ』にべったりだったのは、久し振りに会えて嬉しかったからなのだ、と考えたマイルは、ますますファリルちゃんに 溺(おぼ) れたのである。

娘を助けて貰ったため強く出られない大将を言いくるめ、ファリルちゃんの独占時間を増やしたマイルは、この世の春を 謳歌(おうか) していた。そう、別れが近いことを忘れようとするが如く。

なのに、ファリルちゃんに余計なことを吹き込まれては堪らない。

……それに、そもそも、田舎町の宿屋にそんなに都合良くケモミミ少女がいるはずがない。

急にやる気を無くしたマイルは、ふて腐れて、宿の選択は他の3人に丸投げするのであった。

「ここでいいかしらね……」

レーナが、適当に選んだ宿屋の前で立ち止まった。

元々、大した数の宿屋があるわけでもなし、選択肢は少なかった。それに、今回は別に居心地の良い宿を探しているわけではない。どうせ1泊だけだし、「 胡散臭(うさんくさ) い店」の方が、受けた依頼的には良いのである。

「うん、こんなものだろうね」

「安そうで、胡散臭そうです。……丁度いいですね」

「どこだっておんなじですよ、ハンっ!」

そして、満場一致で、その宿に泊まることとなったのであった。

……胡散臭い、というのは、少し言い過ぎであった。別に、その宿屋は薄汚いわけでも、犯罪者っぽい連中が出入りしているわけでもない。ただ、今まで『赤き誓い』が選択していた、「小綺麗で、女性だけで泊まっても安全そうな、少し高めだけど居心地の良さそうな宿屋」に較べると、少し「雑っぽい」だけであり、普通の旅人が安く泊まろうとするなら、別に何の問題もない。

そして、そのフロントカウンターには。

「いらっしゃいませ。御宿泊でしょうか?」

7~8歳くらいの、可愛い男の子が座っていた。

「は、はいっ! 泊まります、泊まりますっっ!」

マイルが眼の色を変えてがっつき、男の子が引いていた。

そう、マイルは、前世から弟が欲しかったのである。

兄も欲しかったが、それは物理的に無理があった。

いや、両親が離婚して、子連れの人と再婚してくれたなら、ワンチャンあったかも知れない。しかし、あのラブラブ夫婦が離婚などするはずがないし、「兄が欲しいから離婚してくれないか」などと言えるわけもない。

なので弟1本に絞っていたのであるが、さすがに高校生になった頃には諦めていたのであった。

そう、マイルは、幼女だけでなく、幼い男の子にも弱かった。

そして、急に機嫌の良くなったマイルに、呆れた眼を向けるレーナ達であった……。