軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

210 リートリア 5

「リートリアちゃん、ハンター登録したばかりなんだって?」

「は、はい! スキップで、Dランクになれました!

検定官の方には、魔術師としての腕はCランク並み、金砕棒での近接戦闘でもCランクくらい、って言って戴けたんですけど、ハンターとしての知識や常識的なことを全く知らないし、魔物との実戦も本当の対人戦闘も経験していないから、最初はDランクから始めなさい、って……」

『女神のしもべ』の5人の眼が、キラリ~ン、と輝いた。マイルから聞いた通りである。

美味しい。あまりにも美味しい獲物……、いや、パーティ仲間候補であった。

「懐かしいわねぇ。私達が、この『女神のしもべ』を結成して、ハンター登録をした頃を思い出すわ……」

テリュシアが、うまく話題を自分達の紹介へと繋げた。そしてそのまま、様々なエピソードを通じて、自分達の特徴や、パーティとしての魅力を自然に伝えていく。

(((さすが、年の功!)))

マイル、メーヴィス、ポーリンの3人は、そう思って感心していた。

そしてレーナは、小さな声で、ポツリと呟いた。

「さすがはお姉様です!」

(((あんた、誰ですかっっっ!!)))

そして、頃合いを見て、遂に放たれる、決定的な言葉。

「リートリアちゃん、 貴女(あなた) 、私達『女神のしもべ』にはいらない?」

((((キ、キタ~~!!))))

緊張し、手に汗握る、『赤き誓い』の4人。

そして、思いも寄らぬ急な誘いに、ぽかんとするリートリア。

「え? あ、お誘いは嬉しいですけれど、私はお友達の『赤き誓い』の皆さんと……」

我に返り、慌ててそう言うリートリアであるが、勿論テリュシアはその返事を予想していた。なので、マイル達の方を向いて、にこやかに尋ねた。

「リートリアちゃん、うちが貰っていいかな?」

「「「「どうぞどうぞ!」」」」

「え……」

マイル達の返事に、ショックを受けた様子のリートリア。

それを見て、慌ててメーヴィスがフォローを入れる。

「あ、いや、うちは、ほら、4人中、3人が魔術師だろう? これで、4人が魔術師で、前衛の剣士が私ひとり、というのは、ちょっと……」

「う……」

マイルが前衛もこなせることを知らず、また、自分も打撃武器使いとして前衛をこなせるということをあまり認識しておらず、あくまでも自分は「少し打撃武器が使えるが、本職は魔術師」と思っているリートリアは、それに反論できなかった。

何しろ、リートリアの金砕棒の腕は、その破壊力のみで評価されたものであり、技術など 欠片(かけら) もなかったのである。

受けた相手の模擬剣をへし折って、そのまま叩き付ける。

構えた盾ごと相手を吹き飛ばし、壁に叩き付ける。

勝つには勝つが、とても自分のことを「使い手」などと思えるものではなかったのである。なので、リートリアは、金砕棒はあくまでも自衛の手段としか認識していなかった。

そして更に、レーナとポーリンが、自分達はこれから各地を放浪するが、『女神のしもべ』はこの街を本拠地にしていること、家族とはなるべく離ればなれにならない方がいいこと等を説明し、そして最後に、テリュシアから 止(とど) めの言葉が放たれた。

「リートリアちゃん、お友達が欲しいから、『赤き誓い』にはいりたいの?」

「は、はい、私の、初めてのお友達で……」

リートリアの言葉に、テリュシアがにっこりと微笑んだ。

「確かに、『赤き誓い』にはいれば、4人のお友達と一緒にいられるわね。でも、私達『女神のしもべ』にはいれば、新しくできる5人の友達と、ずっと一緒にいられるのよ? その前にできた、4人の友達とは、そのままでね。そして、いつでもおうちに顔を出せるのよ?」

「あ……」

ぽかんとして、口を開けたまま固まるリートリア。

((((( 上手(うま) いいいいぃ!!)))))

テリュシアの手腕に舌を巻く、『赤き誓い』の4人と、執事のバンダイン。

リートリアにとり、『赤き誓い』は、病気を治してくれた恩人ではあるが、会ってまだほんの数日であり、話をしたのは全部で数時間に過ぎない。それも、一緒に何かをしたわけではなく、ただベッドや椅子に座ったままで会話しただけである。

そう、「初めての、対等に話をしてくれた同年代の女の子」というに過ぎず、「初めてできたお友達」として執着しているだけであって、どうしても『赤き誓い』の4人でないと駄目、というわけではなかったのである。

そして、そっと手を伸ばし、リートリアの手を握るラセリナ。

微笑むタシア。

「私達には、あなたが必要なの、リートリアちゃん……」

殺し文句を囁くウィリーヌ。

そして、ぐっ、とサムズアップするフィリー。

「わ、私、私……」

((((行け! 行けええぇ!))))

彼女達の意図を察している周囲の者達には、『赤き誓い』と『女神のしもべ』の皆の心の声が聞こえるようであった。

「は、はいります! 『女神のしもべ』に、はいります!」

「「「「「ようこそ、我が『女神のしもべ』へ! 歓迎するわ!!」」」」」

「「「「やったあああぁ!」」」」

「「「「「おおおおお!」」」」」

『女神のしもべ』、『赤き誓い』、そして周りで聞き耳を立てていたハンター達やギルド職員達からも、歓声が上がった。ギルド職員達は、貴族のお嬢様が、新人が死亡する確率が最も低く、そして男女関係の問題もない『女神のしもべ』に加入することになってくれて、本当に喜んでいた。主に、自分達の安寧のために。バンダインも、後ろで、うんうんと頷いていた。

(やった、 堕(お) ちたあぁ!)

ちょっと、違う意味の文字で考えてしまっているマイル。

(よし、逃げ切ったあぁ!)

酷いことを考えているメーヴィス。

( 金蔓(かねづる) を逃したかも。ちょっと 勿体(もったい) なかったですかね……)

相変わらずのポーリン。

(リートリアのためには、うちよりも『女神のしもべ』の方がいいわよね。テリュシアさんがいれば、間違いはないだろうし……)

そしてなぜか、まともなことを考えているレーナ。

うまく収まった。

みんなにとって最も良い結果であり、割を食う者は誰もいない。物事全てがこのように収まればいいのになぁ、とマイルが考えていると。

「そうそう、伝えるのを忘れておりました! リートリア様の快気祝いを行いますので、『赤き誓い』の皆様、そしてリートリア様のお仲間となられました『女神のしもべ』の皆様も、是非、御参加下さいますよう……」

唐突に、バンダインがそんなことを言い出した。

いや、確かに金貨を貸してくれた人達との約束であるし、これからリートリアの元気な姿が街中で見られるようになるのだ。そして、ハンターとして活動を始めると、貴族家令嬢との二足のわらじを履くリートリアは、少し忙しくなる。やるなら、今しかないだろう。

貴族家令嬢、というのも、病弱で寝たきり、とかいうのでなければ、それはそれで結構多忙であり、ひとつの職業と言っても良いくらいなのである。様々な習い事、国中の貴族家の歴史や紋章その他の暗記、全ての貴族と王族の名前と系譜と上下関係の暗記、一般的な勉学、芸術に関する造詣、その他諸々を、全て完璧にマスターしなければならないのだから……。

幸いにも、と言って良いかどうかは分からないが、病弱で自室から殆ど出られなかったリートリアには、勉強する時間だけは充分にあった。なので、歳相応以上に勉学は進んでいたが、貴族としての勉学には終わりというものはないのであった。

「え? リートリアちゃん、病気だったの?」

心配そうな顔のテリュシアに、リートリアは、慌てて顔の前で手を左右に振った。

「いえいえ、もう、完治しましたから! 原因が分かったので、もう再発の心配もありません。完全な健康体です! これも、『赤き誓い』の皆さんのおかげなんです!」

「あ、そうなの? それは良かっ……た……」

語尾が小さくなり、少し顔色が悪くなったテリュシア。

「『赤き誓い』のおかげで、病気が、なお……、った……」

そう、そういう話を聞いた覚えがあった。それも、ごく最近。

「ま、ままま、まさか……」

バレた。そう思ったマイルは、もはやこれまで、と、種明かしした。

「はい、この子が、リートリア・フォン・オーラ男爵令嬢です」

「「「「「ええええええええぇ~~っっ!!」」」」」

そう、『女神のしもべ』の面々は、リートリアが貴族家令嬢だなどとは思ってもいなかったのである。あのメイドとはすれ違いであったし、見た目が明らかにお嬢さんっぽいリートリアのことは、多分中堅商家の娘あたりであろう、くらいに考えていたのであった。それも、優先度の低い三女以下か、妾の子、くらいに。でないと、娘がハンターになるなどと言い出して、止めないわけがない。なので、すなわち「あまり惜しくない子」なのだろう、と。

そして、確かに美少女ではあるが、それを補って余りある、というか、帳消しにして更にマイナスになる要素があるのかな、と思ったりもしていた。たとえば、少々おつむが弱い、とか……。

ハンターにとっては、それは他の者がカバーしてやれるので、優れた戦闘能力があるならば、あまり問題はない。限度を超えてさえいなければ。しかし、商家の嫁としては、それはちょっと問題がある、というか、致命傷であろうから。

それに、そもそも、全金属製の金砕棒を振り回せる貴族家令嬢など、いるはずがなかった。そしてバンダインのことは、お付きの者か、番頭のひとりが付き添ってきた、程度に考えていた。

それが、まさかの貴族家令嬢、つまり、正妻の娘。

「は、 謀(はか) ったわね……」

当然知っていた情報を 敢(あ) えて提供しなかったマイルを睨む、テリュシア。

しかし、何も嘘は 吐(つ) いていないし、『女神のしもべ』が期待していたメリットが得られないというわけではない。なので、マイル達には何も 疾(やま) しいことはないのである。

それにマイルは、もし最初からリートリアが貴族家の娘だと教えていたとしても、『女神のしもべ』は、多分リートリアを受け入れただろうと思っている。『女神のしもべ』は、そういうパーティなのであるから。

そして、睨むテリュシアから視線を外し、口笛を吹く真似をするマイルであった……。