軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

209 リートリア 4

「皆さん、ちょっとお話が……」

席を立ち、『女神のしもべ』の方へと駆け寄ると、彼女達を引っ張って飲食コーナーから離れた場所へと連れていくマイル。

「あ、こら、そんなに引っ張らないでよ! 分かったから! ちゃんとついていくから!」

「……ちょっとこちらへ」

そう言って、バンダインを引っ張っていくメーヴィス。

「え? あれ? 何を……」

状況が分かっていないらしきリートリアには、レーナとポーリンが話し相手を務め、時間を稼ぐ。

新米ハンターの心構え、とかいう話を始めると、リートリアは眼をキラキラさせてレーナとポーリンの話に聞き入った。チョロい。

「……で、何よ?」

不審そうに、マイルにそう尋ねるテリュシア。

「実は、耳寄りなお話が……。

あの、『女神のしもべ』は、魔術師がラセリナさんだけで、後衛、というか、魔術師面では少々手薄ですよね?」

「……ま、まぁ、そうよね……」

マイルの言葉に、ちらりとラセリナの方を見て、少し口籠もりながらそう答えるテリュシア。

5人パーティで、魔術師がひとり。

いや、魔術師がひとりもいないパーティも多いのだ、ひとりでもいるだけで、文句を言っては罰が当たる。4人中3人が魔術師である『赤き誓い』が異常なのであり、こっちは前衛不足でバランスが悪過ぎる。……普通であれば。

しかし、ラセリナはそう強力な魔術師というわけではなく、ランクもまだDである。攻撃に、支援にと器用によくやってくれており、非常に助かってはいるが、正直言って「器用貧乏」であるラセリナには強力な打撃力というものがなかった。また、あまりにも器用に支援してくれるものだからその出番も多く、魔力切れの危険が付きまとう。

便利なラセリナの支援が途絶えると、個々の武力は大したことのない『女神のしもべ』の総合力は、ガタ落ちとなるのであった。その弱点に気付いていない者はいなかった。

しかし、あまりはっきりとそれを認めると、ラセリナが力不足だと責めているように聞こえるのではないかと心配し、テリュシアは言葉を濁すのであったが……。

「14歳の美少女魔術師、ハンターになったばかりなのでスキップ申請でDランクですが、複数属性の攻撃魔法が使え、実力的には充分Cランクハンター並みです。魔術師にしては体力もあり、ポーター役も、近接戦闘もある程度こなせるようです。この街に実家があり、御家族もハンターになることを承認済み。

……どうです、その子、要りませんか?」

「「「「「貰ったああああァ!!」」」」」

一方バンダインは、メーヴィスから『女神のしもべ』についての説明を受けていた。

女性だけのパーティであり、Eランクからの叩き上げであるが、今までにひとりの死亡者も重傷者も出しておらず、離脱者ゼロ。

リートリアと年齢が近いと思われるDランク魔術師がおり、他の者達も年齢がそう離れておらず、良き仲間となれるであろうこと。

自分達『赤き誓い』と違い、正統派の地道で堅実なパーティであり、『赤き誓い』についてくるよりはずっと安全で、リートリアの成長に繋がること。

そして何より、彼女達はこの街を根城として定住していること、等々……。

バンダインは、『赤き誓い』の能力を高く買っていたが、魔族や誘拐団のことは、まだギルド界隈にしか知られていなかったし、その戦闘力を目にしたわけではない。そのため、彼女達の知識や機転、正義感やその考え方を非常に好ましく思ってはいたが、その本当の規格外さが知識面ではなく戦闘力にあることは知らなかったのである。

また、たとえそれを知ったとしても、バンダインにとってのリートリアは、どうしても「病弱でひ弱なお嬢様」というイメージであり、あまりにも強い者達に囲まれてはリートリアが無力感で潰れてしまうのでは、と心配したであろう。

それに対して、同じようなレベルの魔術師を擁しており、仲間を確実に守れる、女性ばかりの経験豊富なパーティ、しかもこの街に定住、というのは、バンダインにとって、いや、オーラ男爵家の者達全員にとって、魅力的な条件であった。

リートリアが男女混合のパーティにはいり、野外で男達と雑魚寝、などということが、オーラ男爵に許容できるわけがない。なので、男爵もバンダインも、信頼の置ける『赤き誓い』なら、と考えたのであるが、移動することを考えれば、どうも『女神のしもべ』とやらの方が良いのでは、と思えてきたのである。『赤き誓い』の皆が推薦するならば、信用できるパーティであろうし。

「いい人達ですよ。何しろ、幼い子供を助けるために銀貨1枚で仕事を受けたり、うちのレーナを守るためにリーダーが敵の魔法攻撃の前に立ち塞がったりしてくれたんですから」

メーヴィスの説明に驚く、バンダイン。

それは、お人好しではなく、「馬鹿」である。

しかし、それでも、死者や怪我人を出していない。

『赤き誓い』がこの街に来たのはつい先日なのであるから、その出来事もほんの数日前のことなのであろう。そして、怪我人らしき者もいない。つまり無傷。それは、魔法攻撃をものともしない実力がある、ということであった。

『赤き誓い』の危機を余裕で救う実力派パーティ!

「お願いできるのでしたら、是非!」

「……で、命を助けて貰ったのよ。大人で、素敵な人よ、リーダーのテリュシアさんって。

魔術師のラセリナは、リートリアと同い歳くらいかしらね。Dランクらしいから、そっちもリートリアと同じね。 尤(もっと) も、あっちは下からの叩き上げらしいけど。

あれ、魔術師ならスキップ申請で、Dランクとは言わなくても、Eランクくらいから始まったのかしら?」

先日の一件を、『女神のしもべ』ヨイショで、嘘ではない範囲でリートリアに語るレーナ。勿論ポーリンも、それに合わせて補足している。

「うわぁ、素敵なパーティですねぇ!」

感嘆の声を上げるリートリアに、微笑むレーナとポーリン。

……にやり。

そして、マイルとメーヴィスが、それぞれ『女神のしもべ』とバンダインを連れて戻り、隣のテーブルと椅子を移動させてくっつけ、全員での話が始まった。

隣のテーブルは、空気を読んだその席の者達が、さっと空けてくれたのであった。

「あなたがリートリアちゃんね。私が、このCランクパーティ『女神のしもべ』のリーダーのテリュシアよ。よろしくね」

「は、はい! よろしくお願いします!」

レーナとポーリンによって持ち上げられていた、大先輩のハンター、しかもパーティリーダーに微笑まれ、緊張して声を上ずらせるリートリア。

テリュシア達には、マイルから色々とリートリアの攻略法を説明してあった。

まだリートリアには『女神のしもべ』への加入を勧める話はしていないこと、なので勧誘は自然な形で自分達からして欲しいこと、そしてリートリアの言いくるめ方等を、詳しくレクチャーしておいたのである。

勿論、リートリアが『赤き誓い』に入りたがっているということも、ちゃんと説明してある。

「でも、うち、前衛がメーヴィスさんひとりで、魔術師が3人ですから……」

「「「「「あ~……」」」」」

さすがに、前衛ひとり、後衛の魔術師4人というパーティは、聞いたこともない。

いや、前衛ひとり、魔術師3人、というのも、前代未聞であるが。

とにかく、有望な新人なのに『赤き誓い』が受け入れられない、という理由は、疑問の余地もなく理解されたのであった。

そして、『赤き誓い』と『女神のしもべ』の未来と、オーラ男爵家の安寧を懸けた戦いが開始されたのであった。