軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

204 取り調べ

犯人護送の一団は、王都へ戻ると、そのまま王宮へと向かった。

ハンターギルドは、依頼の仲介や犯罪者の捕縛等を行うが、別に司法権を持っているわけではない。捕らえた犯人を取り調べ、裁くのは、王宮や警備隊の役目である。

普通は、事件の大半は警備隊の管轄であるが、政治的な要素があるもの、重大な案件等は、王宮が直接取り調べる。今回はそれに該当するらしい。

当然であろう。誘拐、被害者が獣人、邪教、犯人が多数で、金持ちや下級貴族が含まれている可能性がある。そして、現場にはいなかった仲間がいる可能性も……。到底、ただの盗賊やチンピラ等を機械的に処罰するだけの警備兵に任せられる案件ではなかった。

そしてファリルちゃんは、当然ながら昨夜のうちにメーヴィスが大将夫婦に連絡していたため、護送隊が出発するのを見送り、そのまま街門で待っていた大将夫婦に引き渡された。結局、マイルには何の役得もないまま終わってしまったわけである。

「では、事件の詳細を説明して貰おう」

王宮での取り調べと言っても、別に国王陛下がお出ましになるわけではない。事件のレベルに応じた役職の者達が取り調べるのであるが、その中では比較的位階の高い者が担当しているようであった。

勿論、事前に事件の概要は伝えてある。でないと、担当者のレベルを決めることなどできるはずがない。夜中に叩き起こされたギルドマスターと仮眠中であった宿直の職員には、夜明けまでたっぷりと時間があったため、夜明け後に王宮に報告するための書状の準備には困らなかったのである。

そして『赤き誓い』と『女神のしもべ』の説明と証言を元に取り調べが行われ、犯人達もこれだけの証人と現行犯逮捕ということで事実を否認することは始めから諦め、自分達は穏健な宗教の教徒であり少女を傷付けるつもりはなかったこと、儀式のため獣人の少女の同席が必要だっただけで、用件が終われば送り届けるつもりだった等の、どうも信用できない言い訳をするのみであった。

まぁ、勿論それをそのまま信じる者など居ようはずもなく、後で個別に厳しい取り調べが行われるであろうが……。

しかし、最大の問題は、そこではなかった。

この怪しい教団の規模、設立の経緯、他の仲間の存在、そしてその最終目的は何か。それを解明することが、最も重要なのである。でないと、いつ第2、第3の事件が起こるか分からない。

いや、そもそも、これが第1の事件だとは限らない。王都で行方不明になった者など、いくらでもいるのであるから。勿論、その中には、ただの夜逃げや駆け落ち等も含んで、のことではあるが。

『赤き誓い』と『女神のしもべ』の出番は、ここまでであった。

皆が関わった部分の証言は全て終わり、犯人達がその部分の事実関係は認めた時点で、皆がこの場にいるべき理由はなくなったのである。後は、犯人達の証言が真実かどうかを警吏達が 取り調べ(ごうもんし) て吐かせるだけであった。

そしてふたつのパーティは、ハンターギルドへと向かう。もうギルドの皆が知ってはいるけれど、緊急依頼の成功報告を行い、自分達にとっては金貨1000枚にも等しい価値のある、銀貨1枚の報酬を受け取るために。

「取り調べの結果って、私達にも教えて貰えるんですか?」

マイルの疑問に、テリュシアが答えてくれた。

「王宮の者が、ハンター風情にそんなことしてくれるわけがないでしょ。それに、厄介な話になったら、 秘匿(ひとく) されるかもしれないしね」

「ええっ……」

それは困る。マイルは、あの連中の情報、特に、人間の間では失伝したはずの神話を、かなり歪んだ形とはいえ、なぜ知っており、そしてなぜ信仰するまでに至ったのか。更に、到底偶然とは思えない、あの、実際に発動した次元連結魔法。それらの根源を突き止めないと、いつまた、どこかで誰かがあの魔法を使わないとも限らない。

これは、古竜の件よりもずっと重要、かつ緊急度の高い案件であった。

「まぁ、少しくらいならギルマスに教えて貰えるかも知れないけれど、そもそもギルマスが王宮から教えて貰える情報そのものが、大したものじゃないでしょうからねぇ……」

そう、テリュシアが言う通り、事件通報の責任者であり、再び同種の事件が起きた時に初動対処する可能性が高いギルドには、一応の説明がなされるであろう。しかし、それはあくまでも相手の規模や危険性等の必要な情報だけであり、経緯の詳細や彼らの身許については教えて貰えないであろう。

(困ったなぁ……。まぁいいや、また、何かいい案を考えよう!)

マイルは、怒っている時はかなりネガティヴな考えになるが、そうでない時は、結構アバウトで楽天的であった。その結果、どんな案を思い付くかは、保証の限りではない。

そしてギルドで、一足先に戻っていたフェリシアからそれぞれ銀貨1枚ずつの報酬を受け取った『赤き誓い』と『女神のしもべ』は、別れてそれぞれのねぐらへと引き揚げることにした。『女神のしもべ』は、みんなで借りている一軒家へ、『赤き誓い』は、勿論、ファリルちゃんの宿屋へ、である。何せ、徹夜明けである。食事をして、その後は寝る予定であった。

そして、今日受け取ったのは大将からの報酬だけであるが、後日、ギルドと国からの報酬が貰える。まだ決定ではないが、多分。

(よし、宿に戻れば、『女神のしもべ』の皆さんに邪魔されることなく、ファリルちゃんを我が物に! ちゃんと、今回の最大の功労者は私だということをファリルちゃんに説明して……。

ふへ。ふへへへへへへ!)

何やら、皮算用をしているらしきマイル。

「じゃ、またね。お疲れさん!」

「お、お疲れ様でした……」

テリュシアに、少し赤い、神妙な面持ちでそう答えるレーナ。

(((あんた、誰ですかあああぁ!)))

心の中で叫ぶ、マイル達3人であった。

「戻りました~!」

「あ、お帰りなさ~い!」

いつものように、扉を開けながら声を掛けたマイルを、ファリルちゃんが受付カウンターで迎えてくれた。街門で別れてから既にかなりの時間が経っているので、親子の感激の再会で大騒ぎしていた余韻も収まったのか、ファリルちゃんは平常運転であった。

いや、大騒ぎしていたのは大将夫婦であり、ファリルちゃんは元々あまり動じていなかった。

ずっと心配していた大将夫婦とは違い、攫われてすぐに薬か何かで眠らされていたらしいファリルちゃんには攫われた直後から目覚めるまでの記憶が無く、そして目覚めは、安心できる『女神のしもべ』のみんなに囲まれての目覚めであったため、それ程の恐怖は感じていなかったのである。

攫われた時の若干の恐怖と混乱はあったものの、フィリーの肩車での帰路、久し振りに『女神のしもべ』のみんなとお話ができたことで、それも完全に忘れてしまっていたのである。ファリルちゃんの 心的外傷(トラウマ) になることはなさそうであり、ひと安心であった。

そして、食事の時間帯からは外れていたが、勿論そんなことは関係なく、喜んで4人の食事の注文を受けてくれた大将夫婦が料理を作っている間に、マイルはファリルちゃんに必死で説明していた。

「だから、攫われたファリルちゃんの跡を追跡して見つけたのは、この私なんですよ!」

そう主張するマイルであるが、ファリルちゃんには、それは『女神のしもべ』のみんなの功績を横取りしようとしている、 狡(ずる) い人にしか見えなかった。

(『女神のしもべ』のお姉さん達は、功績を誇るようなことはせず、ただ、私の無事を喜んでくれていた。それに較べると、マイルお姉さんは、何か、 胡散臭(うさんくさ) い……)

ファリルちゃんの反応が、 芳(かんば) しくない。それに気付いたマイルは、焦った。

「ほ、本当ですよ! ファリルちゃんの臭いを 辿(たど) って……」

「え? レーナお姉さんが?」

「え?」

そこで、マイルは思い出した。あの、初めてこの宿に泊まった翌朝のことを。あの、ファリルちゃんが宿帳の余白に書いていた、覚え書き。

メーヴィス せがたかくてむねがない。たぶんえるふ。

レーナ きばがある。たぶんじゅうじんのちがまじってる。わたしとおんなじ。

ポーリン じゃあくなけはいをかんじる。たぶんまぞく。

マイル ちんちくりん。たぶんどわーふ。

(ま、まずい! 私ではなく、レーナさんを仲間だと思って、親近感を感じています!)

そう思ったマイルは、ますます焦った。

「ち、違います! 違いますううぅ~!」

マイルの必死の悪あがきを、冷ややかな眼、気の毒そうな眼、そして呆れ果てた眼で眺める、レーナ達3人であった……。